勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「トワ。すぐにこの戦いを終わらせて、わためのところに連れて行ってあげるからね」
「私の聞き間違いかしら」
はあちゃまが嘲るように笑います。
「すぐに終わらせる、そう聞こえたんだけど」
「……」
「まあ間違ってはいないわ。この戦いはあっという間に終わってしまう、私の完勝という形でね」
言ってからはあちゃまがロボ子に向かって駆けだします。
ロボ子は剣を構えます。
はあちゃまはロボ子の構えているハムにクリスタルサビロイを打ち込みました。
「……ッ」
トワが戦線離脱したおかげで周囲を警戒する必要がなくなったはあちゃまの攻撃は、先程までのような小攻撃ではありません。彼女本来の伝説級の一振りです。
剣と剣が交わっただけなのに、ハムを持つロボ子の手に痺れが走ります。
ロボ子は続けざま斬りつけてこようとするはあちゃまに牽制として剣を振るいながら大きく後方に跳ねて、彼女との距離を取りました。
それから利き手を握り開きして握力を確かめます。
「一人だと本当に弱いのねあなた。別に根に持っているわけじゃないけれど、この程度でよく『すぐに終わらせる』なんて大口を叩けたものだわ」
「それを根に持ってるって言うんだよ」
軽口を返してから今度はロボ子がはあちゃまに突っ込みます。
はあちゃまはクリスタルサビロイを振るってロボ子の直進を阻もうとしますが、ロボ子はそれをハムの側面部分で受け止めました。
はあちゃまは受け止められたクリスタルサビロイをしならせて追撃を試みようとします。しかしすぐにそれを中断しました。
ハムの側面は広く平たく円い、円盤のような形状をしています。
ロボ子はそれを盾のようにして身を隠しながらクリスタルサビロイを防いだのです。
そのため、もともとしならせるつもりで大きく剣身を曲げていたならともかく、中途半端なしなりを入れたところでそのハムの盾の防御範囲を抜いて本体に当てることはできそうにない、はあちゃまはそう判断したのでした。
はあちゃまの前までやって来たロボ子はハムを袈裟斬りに振るいます。
はあちゃまはその一刀を左に避けながら、クリスタルサビロイを振りかざします。
ロボ子の振り終わりに合わせて斬りつけるためです。
ロボ子もそのことはわかっていました。
ロボ子は剣を振り下ろした直後、ぎゅっとフォークの柄を握り込んで目を見開きます。
するとその目の色がわずかに淀みます。
「!」
何かをしようとしている、はあちゃまは直感でそう感じ取りました。
彼女は一瞬だけ剣を振り下ろすのを止めます。
「……」
しかし何も起こりません。
ロボ子の目の淀みらしいものも、いつの間にかスッと引いてしまっています。
ロボ子は剣の柄を強く握ったままハムを逆袈裟に斬り上げました。
はあちゃまはそれに合わせてクリスタルサビロイを振り下ろします。
鋭い音を響かせて剣と剣が交わります。
その直後でした。
「あ」
金色のフォークが二人の真上に飛んでいきます。
しっかり握りしめていたつもりなのに、ロボ子はクリスタルサビロイとの衝突に耐えきれずにフォークを手放してしまったのです。
「あなた、さっき何かしようとしていたでしょう」
「……」
問いかけるはあちゃまにロボ子は無言です。
「まあいいわ」
はあちゃまはまたクリスタルサビロイを振りかざしました。
「今更どうでもいいことだから。待たせてしまって悪かったわね、でもようやくあなたのお望み通りこの戦いを終わらせてあげてよ」
皮肉っぽく言ってからはあちゃまは剣を振り下ろそうとします。
ロボ子はそんな彼女を上目に睨みつけます。
その時です。
「……ッ」
ロボ子は右手首にちくりとした痛みを覚えました。
彼女は思わずそこへ目をやります。
「!」
そして驚きの余りその目を見開きました。
一体いつからそこにいたのでしょう、ロボ子の右手首に、一匹のコウモリがしがみ付くようにして張り付いていたのです。
先の痛みはそのコウモリがロボ子の手首に爪を食い込ませたからでした。
コウモリは何かを咥えています。
「ト、トワ?」
困惑するロボ子をよそに、コウモリはロボ子の掌に向けてその咥えている何かをペッと吹き飛ばしました。
ロボ子は反射的にそれを掴み取ります。
金色の串でした。
トワの所有ソーセージ、上級剣キリタンポの串です。
はあちゃまへ致命傷を狙える距離にいるロボ子に、トワのコウモリがそれを渡したのです。
さらに言うならば、はあちゃまは未だロボ子がソーセージを持っていないと思い込んでいるため、全く油断している状態です。
「……」
この千載一遇の状況にロボ子は思わず唾を飲み込みました。
一方ロボ子が串を手にしたことを認めたコウモリは、いきなり羽ばたき出して剣を振り下ろそうとするはあちゃまの顔面めがけて突っ込みます。
「な、なによこれ」
はあちゃまは頭を勢いよく左右に振ってコウモリを振り払おうとしますが、コウモリは執拗に離れようとしません。
彼女は仕方なくロボ子に斬りかかろうとしていたのを中断して、左手でコウモリを叩き落とします。
それはソーセージを持つ敵の目前で決して晒してはならないような、明らかな隙でした。
――ロボ子先輩!
ロボ子の耳にトワの声がした気がしました。
「……ッ」
ロボ子はコウモリから渡された串をブンと振るいます。
串の先にキリタンポが出現します。
「な、なに!」
中途半端に剣を振りかざした格好のはあちゃまが、思わず動揺を口にします。
「トワの痛み、思い知れ!」
ロボ子ははあちゃまめがけて、キリタンポを逆袈裟に斬り上げました。
目と鼻の先という至近距離での不意打ちです。
いくら超人的な瞬発力を持つはあちゃまであっても、避けることも防ぐこともままなりません。
「……ッ」
はあちゃまの左脇下から右肩にかけて身体の表面を赤子サイズの虫が食い進んだような深い円柱状の斬撃痕が開通し、一瞬遅れてそこから大量の血がほとばしります。
致命傷です。
「ぐ……ッ、う……ッ」
はあちゃまは一歩、二歩後ろに下がります。
「逃がすか!」
ロボ子は大きく一歩踏み込んでさらに斬りつけようとしました。
――ガキン!
「!」
しかし信じられないことにその一刀は、瀕死のはずのはあちゃまが振るうクリスタルサビロイによって弾かれてしまいます。
また衝突の衝撃でキリタンポの串はロボ子の手を離れて飛んでいき、ソーセージを消して床の上を滑っていきます。
もう何度目になるかわからないこの失態、ロボ子は己のポンコツに愕然としました。
しかしそんな彼女の目に、追い打ちをかけるような更なる光景が映ります。
先程ロボ子が逆袈裟に斬り上げたはあちゃまの傷が、動画で逆送り再生されているかのような凄まじい回復力で治癒されていくのです。
「危なかったわ」
はあちゃまが呟くように言います。
そんな彼女の目は血色に染まっていました。
「もし夏色まつりからブラッディー・ブルートヴルストのスキル『血の涙』を手に入れていなければ、私は今ので負けていたかもしれないわね」
はあちゃまはスキル「血の涙」を発動したのでした。
「血の涙」は致命傷を受けた際に発動可能のスキルであり、そのダメージを激減させて軽傷に済ませます。
ロボ子が先程はあちゃまに与えたダメージが致命傷だったがために、発動した「血の涙」によって彼女はほんの軽傷で立っているのでした。
「くッ!」
ちょうどその時、上空からロボ子のフォークが降ってきます。
とにかく武器がないロボ子はそれを掴み取ろうと跳び上がって手を伸ばします。
「だからそういうところよ屑鉄、実戦経験が浅いって言うのは。バカみたいに隙だらけだわ!」
言いながらはあちゃまが、跳び上がるロボ子めがけてクリスタルサビロイを横なぎに振るいます。
「……ッ」
その剣はロボ子の腹部を強かに打ちました。
彼女は真横へ飛ばされていき、遠く離れた壁に衝突します。壁に身体を打ち付けられてからガタンと地面に落ちました。
「うう……ッ」
彼女は剣で打たれた箇所を手で押さえながら呻きます。
「そこで大人しくしてなさい」
はあちゃまはロボ子に一瞥してからそう言いました。
それからその視線をトワの方へと向けます。
「そもそもよ、そもそも何でこの私が『血の涙』を発動せざるを得ないことになったのか、その原因はちゃんとわかっているわ」
はあちゃまは独りごとを言いながらトワに近づいて行きます。
一方トワは未だに寝息を立てています。
「やっぱりあなたを先に始末しておかなくちゃいけなかったのよコウモリ女。戦闘可能な状態じゃないからと思って放置していたのが駄目だったんだわ。人間なのかコウモリなのかわけのわからないようなこんな女、息の根をとめるまで警戒を解くべきじゃなかった」
「トワ! 起きてトワ!」
ロボ子がトワに向かって叫びます。
しかしトワは深い眠りに入っているようで、全く気付いた様子がありません。
「無駄のようね」
はあちゃまはロボ子を嘲笑いました。
それからトワに向き直ります。
「ばいばい、このクソうざったいコウモリ女」
はあちゃまは吐き捨てるように言ってから、トワめがけてクリスタルサビロイを振り下ろしました。