勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
遥か昔、ホロ・デ・ソーセージ大陸南端の地に時の塔が建てられました。
ロボ子はその塔の守り手として作られたのでした。
塔の守り手はもちろんロボ子以外にもいましたが、地上の守り手は長い月日と限りある人の寿命に従い入れ代わり立ち代わり、やがてトワが加わりわためが加わり、まつりが加わるようになります。
しかし寿命の縛りがないロボ子だけは、塔建設時からずっと変わらず塔の守り手であり続けました。
そのため最上階で「あの方」と住まう数名を除き、現在塔の守り手として「あの方」もしくは「偉大な方」という敬称の女性を目にしたことがあるのは実のところロボ子ただ一人でした。
『ロボ子、今から私はあなたに特別な力を与えるわ』
そんなロボ子が最後に「あの方」と言葉を交わしたのは、ようやく時の塔が完成し、のちに人々から「偉大な方」と呼ばれる彼女が最上階へ上がろうとするその直前でした。
彼女はロボ子を呼び出しました。
『でもこれはとても危険な力よ。この力を向けられた相手にとっても、あなたにとっても。だから決して使用してはいけないわ』
『使用してはならない力を、授けられるのですか』
尋ねるロボ子に女性は微笑み返します。
『そうよ。私はあなたを信じているから』
◇ ◇ ◇
「ばいばい、このクソうざったいコウモリ女」
はあちゃまがトワにクリスタルサビロイを振り下ろそうとします。
それを見たロボ子は、痛む体に鞭を打って立ち上がりました。
「申し訳ありません、そら様」
彼女は懺悔するように俯きながら目をつむって呟きます。
「あなた様のお言葉に背くボクをお許しください」
口にしてから、彼女は顔を上げて目を見開きます。
その目は鉛色に染まっていました。
それからロボ子ははあちゃまめがけて走り出します。
その速さは凄まじく、先程までの彼女とはまるで別人です。
ロボ子は疾駆しながら地面に落ちているハムのフォークを拾い上げ、ソーセージを出します。
すると出現したソーセージは瞬く間に鉛色に変色し、ぴきぴきと音をたてながら凝結して、わずかに大きさを縮ませます。
ロボ子はそのハムを構えながらはあちゃまの背後にやってきました。
以上のことが起きたのはほんの一瞬です。
「!」
不意に背後に気配を感じたはあちゃまが、トワに振り下ろそうとした剣を寸前で止めて、後ろへ振り返ろうとします。
しかしそれより早くロボ子がハムを横なぎに振るい、はあちゃまの無防備な胴体に叩き込みました。
「……ッ」
バキボキバキッ! と、体内の骨という骨が折れる砕ける音をさせてはあちゃまが真横へ飛んでいきます。
そして勢いよく壁に衝突し、壁面に身体をめり込ませました。
直後はあちゃまは「血の涙」を発動し、受けた致命傷のダメージを軽傷にまで回復してから、めり込んだ身体を壁から外しロボ子の方を凝視します。
「バカな!」
はあちゃまは叫びました。
「その力は紛れもなくレジェンドソーセージ、マシーンヨーテボリのスキル『集結』! なぜレジェンド所有者でもないあなたがそれを発動できる!」
「……」
「いいえ、仮に何らかのカラクリがあって『集結』を発動できるのだとしても、発動条件が満たされていない! 『集結』は体力完全状態であることを条件に攻撃力を75%上昇させる初手バフスキル、なんでそんな傷ついた身体で発動できるのよ!」
「確かに、ボクは体力を完全状態にしていなくてもこの力を使用できる」
でも、とロボ子は続けます。
「ボクはおまえたちレジェンド所有者のような発動条件の縛りがない代わりに、大きな代償を払っている。ボクはこの力を使用するたびに膨大な体力を消耗するんだ」
そう口にするロボ子の目が元の金色に変わり、彼女の手にするハムも同様にスキル発動前の状態に戻ります。
それから彼女は疲れたように大きく息を吐きました。
「ふん。なにが大きな代償よ」
はあちゃまが憎らしげに言います。
「私たちレジェンド所有者がそのスキル発動条件の縛りにどれだけ煩わされているかも知らずに。それを体力さえ消費すれば発動できるなんて、耳にするだけで腹立たしいわ」
「本当? 口に出してみてよかったよ」
「黙りなさい屑鉄が。どうせマシーンヨーテボリのスキル『集結』を羨んだ変態開発者が見よう見まねで埋め込んだなんちゃってオプションでしょうが。ホロ・デ・ソーセージ大陸の長い歴史の中で、レジェンドソーセージのスキルを羨みその力を我がものにしようとしたバカは星の数ほどいたわ。でもその全てが全て無残な失敗に終わりそんな彼らの人生さえろくな最期を迎えなかった。ふん。後々になって後悔するといいわ。甘い考えでスキルの力を得ようとしたあなたも彼らと同じ悲惨な末路を辿ることになるのだからね」
「どうやら、おまえは何か勘違いしているようだね」
呆れるようにロボ子は言います。
「ボクのこの力がレジェンドソーセージ、マシーンヨーテボリのスキル『集結』の見よう見まね? 違うよ。むしろマシーンヨーテボリのスキルの方がボクの力を模倣したものさ」
「なに?」
「ボクのこの力ははじまりのソーセージ十二本が武器として悪改造されるずっと以前に『あの方』から授かったもの、なのに何でボクの方が『集結』のスキルをパクったみたいに言われなくちゃいけないのか心外甚だしいよ」
「あなた、何を言っているの?」
「わからない? ボクとしてはこれ以上ないくらい懇切丁寧に説明しているつもりなんだけど、そんな感じだと何を言っても理解できないだろうね。申し訳ない、難しいことを急に話しだして悪かったよ」
「ぶっ殺すわよ屑鉄が」
「ああそうだね、戦闘を再開しよう。『あの方』のお言葉に背き力を使ってしまったからにはこの戦い、ボクは死んでも負けるわけにいかなくなった」
はあちゃまが駆け出してロボ子にクリスタルサビロイを振るいます。
ロボ子はその一刀にハムを振るって打ち合いますが、その際彼女は再び「集結」を使用しました。
「!」
本来ならばロボ子が打ち負けたでしょうクリスタルサビロイとハムの衝突は75%の攻撃力上昇バフがかかったハムが圧勝し、クリスタルサビロイは、そのソーセージを持つはあちゃまが身体を仰け反ってしまうほどに大きく上方に弾かれます。
ロボ子はその隙を見逃さず、続けざまに剣を振るいます。
ただし今度の一振りはスキルを使用しません。
ハムははあちゃまの左脇に命中し、彼女はわずかに顔を歪めました。
はあちゃまはロボ子に牽制で剣を横なぎに振るってから後ろへ跳んで距離を取ります。
「ふん。打ち合いにはスキルを出し惜しみせず使うのに、身体に直接ソーセージを入れられるとっておきのチャンスには使って来ないなんてさすが屑鉄ロボット。よくわからない戦い方をしてくるのね」
「おまえの方こそ、挑発が下手だね赤井はあと」
いや、はあちゃまだったっけ? と言い直してからロボ子が続けます。
「もし攻撃力バフをかけて身体に打ち込んだら、おまえはわざと致命傷を受けて『血の涙』を発動してくるでしょ。あまり自分で言いたくないけど、ボクの振るう素の攻撃だったらよっぽど上手く当たらない限りレジェンド所有者相手に致命傷になんてならないからね。ボクはこのままじりじりとおまえの体力を削って行くよ。高性能のボクにはおまえがそれを最も嫌っているということがわかっているのさ」
言い終えるロボ子にはあちゃまが「ちっ」と舌打ちします。
「いい気になってんじゃないわよ屑鉄。『集結』のスキルが使えるからと言ってもあなたの実力は所詮上級、伝説級である私にとってはちょうどいいハンデよ。格の違いを思い知らせてあげるわ!」
はあちゃまとロボ子が再び打ち合います。
しかしその戦況はと言えば大口を叩いたはあちゃまの劣勢、つまりロボ子の優勢でした。
もちろんそれはロボ子が「集結」を使用できるからですが、単純にそれだけであれば剣士として腕が勝るはあちゃまから優位を取ることはできません。
ロボ子は戦闘において、トワとの共闘で絶妙のフォローを見せたように、ある程度余裕がある状況下で本領を発揮すると言いますか、今のように相手と程々力が拮抗した状況下での駆け引きに秀でているようなのでした。
特に「集結」を使うタイミングが的確で、ロボ子が「集結」を使うたびにはあちゃまのクリスタルサビロイが弾かれて身体に剣を打ち込まれるといったことが続きます。
はあちゃまがどうにか状況を打開しようと、お得意のしなりをクリスタルサビロイに利かせて振るっても、ロボ子はその裏をかくようにしなったクリスタルサビロイの剣先に「集結」のかかったハムをぶつけて弾いていくという具合です。
またロボ子は「集結」を使うたびに代償として体力が減っていくというようなことを言っていたのですが、もう何度もその「集結」を発動させているにも関わらず、彼女の動きが鈍るような気配はまるでありません。
「集結」を使われ身体を打たれて体力が減っていくのは一方的にはあちゃまの方で、時間の経過とともにその顔に疲れも見え始めます。
「……ッ」
また一撃、はあちゃまにハムが打ち込まれます。
腹部に走る衝撃に彼女は目を見開きました。
「この、屑鉄の分際で……ッ」
その目がロボ子の方に向けられて、怒りに赤く燃え上がります。
「そろそろいい加減にしときなさいよ!」
はあちゃまのソーセージ、クリスタルサビロイの剣身が超高温の熱を帯びて周囲の気温を上昇させます。
スキル「断末魔」の発動です。
「断末魔」は体力が25%以下になることを条件に発動可能となり、使用者の攻撃力を75%上昇させます。
はあちゃまが「断末魔」を発動させたクリスタルサビロイを振るい、ロボ子も「集結」を使用したハムで迎え打ちます。
クリスタルサビロイとハムが衝突し、辺りに凄まじい轟音が響き渡ります。
その直後、
「!」
ロボ子のハムがクリスタルサビロイによって弾かれました。
「なにを驚いた顔してるのよ」
はあちゃまが鼻で笑いました。
「『断末魔』と『集結』の攻撃力上昇率はともに75%、つまりスキルをかけた状態で互いに剣を交わらせればその結果は所有者の実力差によって決する。私が打ち勝って当然でしょうが!」
彼女はクリスタルサビロイを構え直します。
「くたばりなさい屑鉄!」
はあちゃまは剣を横なぎに振るいました。
対するロボ子は相打ち覚悟ではあちゃまに斬りかかろうとします。
その時です。
ロボ子の足元あたりに何十というコウモリが集まりだしました。
コウモリたちが重なり合って人の形を成していきます。
トワです。
トワが左手で穴の開いた胸元を押さえ、右手で金色の串を持ちながら座り込んだ状態で現れたのです。
彼女は串の先にキリタンポを出してから、その剣を力いっぱい振り上げてクリスタルサビロイにぶつけました。
「なに!」
下から不意に衝撃を加えられ、クリスタルサビロイの軌道が上方に逸れます。
クリスタルサビロイはロボ子を紙一重で掠めてブン! と凄まじい風切り音を出しながら空振りました。
「ほらね」
トワがロボ子を見上げて、笑いかけます。
「やっぱり、トワがいて、よかったじゃん」
「本当だ」
ロボ子はそれに頷きました。
「本当にすごいな、トワは」
言ってからロボ子ははあちゃまに向き直り、目を見開きます。
その目が鉛色に染まります。
「集結」の発動です。
これまでロボ子は、はあちゃまの身体に打ち込む際には「集結」を使わないようにしてきました。
それはロボ子が先に述べたように「集結」を使って致命傷を与えた場合、スキル「血の涙」を発動されてしまい、通常のダメージよりも軽傷に抑えられてしまうからです。
しかし実はもう一つ別の目的がありました。
それははあちゃまに「集結」をかけた状態で直接攻撃はしてこないという思い込みを刷り込むことです。
とは言うものの「集結」のバフがかかったハムをはあちゃまの身体に叩きつけたところで、はあちゃまはわざとそれをまともに受けるでしょうから「血の涙」が発動し、ダメージはかすり傷程度の軽傷に済まされてしまいます。
ロボ子の狙いはダメージを与えることではありませんでした。
はあちゃまの意識を刈り取ることです。
「集結」を発動した状態のハムを頭部に叩き込み、その一撃で気絶させてしまおうというのです。
ですがもちろんはあちゃまは伝説級の実力者です。通常状態の彼女であれば、たとえ75%の攻撃力バフがかかった剣を頭部に命中させたところで都合よく意識を刈り取ることなどできません。
しかし今の彼女はロボ子が「集結」を使って直接攻撃をしてくるはずがないと刷り込まれています。さらには「断末魔」を発動してきたことから、残り体力が25%以下であることも確定されています。
着々と打ち並べてきたロボ子の布石が、彼女に千載一遇の勝機をもたらしたのです。
もっと言うならば、はあちゃまに「血の涙」を発動されたのを目の当たりにした時から、ロボ子は自分が勝つにはこの方法以外にないと腹をくくっていました。
「はあ!」
ロボ子がはあちゃまの頭部めがけて「集結」を発動させたハムを振るいます。
その直後です。
バキン! と音がして、ロボ子の両腕が折れました。
左腕は肘部分が、右腕など肩から動かなくなって下にぶら下がってしまいます。
「……ッ」
「集結」の連続使用による両腕への過剰負荷、誤魔化し誤魔化してどうにかしてきたそれが、よりにもよって今この時に一気に襲い掛かってきたのです。
「『集結』を使用する代償として膨大の体力を消耗する、だったかしら」
はあちゃまがそんなロボ子の腕を冷ややかに見下ろしながら口にします。
「なるほどね。これは確かに大きな代償だわ」
他人事に言ってから、彼女は空振ったクリスタルサビロイを返し刀でロボ子に振るいます。
それを受けたロボ子は左腕を潰されて、勢いよく飛ばされます。
彼女はそのまま壁に激突し、首を項垂れて動かなくなりました。
直後、スキル「不死の魂」が発動します。
「不死の魂」は戦闘勝利時に発動できる盤外スキルであり、使用者の体力を回復できます。
はあちゃまはロボ子に勝利したとみなされて、スキル発動により体力が回復します。
それと同時に、残り体力が25%を超えたことにより「断末魔」の発動条件が満たせなくなり、「断末魔」のスキルが解除されて目の色が元に戻ります。
「ロボ子先輩!」
トワが叫びます。
「安心しなさい」
はあちゃまがトワに言います。
「あなたをこのままにしておくと碌なことにならないことは十分わからせてもらったからね。仲良くおねんねさせてあげるわ!」
はあちゃまはトワにクリスタルサビロイを叩き込みます。
すでに戦える状態でなかったトワはそれをまともに受けました。
トワはロボ子の方へ飛ばされていき、彼女とぶつかりそうになります。
「……ッ」
しかし寸前のところで地面をキリタンポで叩きつけ、飛ばされる軌道をやや上方に傾けます。
トワはロボ子のすぐ上の壁に身体を強かに打ち付けられ、それから地面に落ちました。
彼女もロボ子と同じように動かなくなります。
再度、はあちゃまに「不死の魂」が発動しました。
「これで体力は完全状態」
はあちゃまは螺旋階段のある廊下までやってきます。
それから遥かに続くと思われるような長い階段を見上げ、口角を上げました。
「待っていなさい大空スバル。そして十二本目のレジェンドソーセージ」