勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
はあちゃまがロボ子、トワの二人と戦っていた頃、スバルたちはひたすら螺旋階段を上がっていました。
「ス、スバル先輩! 上が見えてきました!」
見上げたルシアが言います。
永遠に続くかと思われた階段の先に、天井らしき壁が見えてきたのです。
「シュバ。シュバシュバシュバルシュバ。シュバルバシュバア」
(よし。あともう少しシュバ。頑張れるしあ)
「はい!」
スバルとキアラは剣士であるためそれほど疲れを見せていませんが、ネクロマンサーであるるしあは額を汗でびっしょり濡らしながら肩で息をしていました。
そうして三人はさらに階段を上がり、とうとうるしあの言っていた天井手前までやってきます。
「や、やったあ……」
るしあはへたり込むように階段に腰を下ろして、ぜえぜえと荒い呼吸を整えます。
スバルは翼を羽ばたかせてそんなるしあを扇いでやり、キアラも水筒を取り出して彼女に手渡してあげました。
「お疲れ様デス。よく頑張りマシタねるしあさん」
「うう、なんか足手まといになってしまってごめんなさい」
「そんなことないデス。剣士でもないのにこんなに長い階段を休憩も挟まずに上り切るなんてすごいことデスよ」
「シュバシュバ。シュバア」
(そうシュバ。るしあ)
「ありがとうです。キアラ、スバル先輩」
るしあはキアラから受け取った水筒を両手で持ってくぴくぴと中身を飲み始めます。
しかし、
「待っていました。大空スバル」
「ぶーッ!」
いきなり階段裏の物陰から自分の目前に女性が現れて来たので、思わず口に含んでいた水を彼女に吹きだしてしましました。
「……」
女性は無言でハンカチを取り出して身体にかかった水を拭き出します。
「ご、ごめんなさい! びっくりしてしまって!」
「大丈夫デスか!」
るしあとキアラが慌てて彼女に駆け寄って、身体についた水を拭きとるのを手伝います。
「いえ。悪いのはいきなり出て来て話しかけた私の方です。驚かせてしまってすみません」
女性はそう言ってからメガネのブリッジをくいっと中指で押し上げて、位置を調整しました。
紫色の髪をボブにした、青色の目をした女性です。
黒地の長袖シャツにジーンズ、ローファーというラフな格好をしています。
またそのシャツにはhololiveという英字のロゴが水色で入っています。
黒縁メガネをはめて大人びた印象を与える一方、後ろ髪を大きなリボンで留めるなど幼げなかわいらしさも併せ持っているように見えました。
「私の名前は友人A。大空スバルとその御一行、お待ちしておりました」
「ゆ、友人A?」
頭を下げて名乗りだす友人Aに、るしあは自己紹介を返すのも忘れて彼女の名前をオウム返しに呟きます。
「それ、本名なのですか?」
「はい。正真正銘私の本名です。私の名前は友人A、それ以下でも以上でもありません」
「いや、でも友人Aって……」
「あなたもですか」
友人Aはため息をつきます。
「私の名前を聞いた人は皆が皆、うんざりするくらい同じ反応をする」
「シュバシュバルル」
(そりゃそうだろ)
「そこで皆は私のことを『えーちゃん』と愛称で呼びます。もしよろしければあなたもそう呼んでください」
「あ。それなら」
るしあは喜んでその提案を受け入れます。
それから彼女は友人Aに自分たちの紹介をしました。
「さて。早速ですが皆さん、そらから皆さんを連れてくるように言われています。どうぞこちらへ」
友人Aはそう言って行き止まりの階段を上がりはじめます。
「え。そこ、壁ですよ?」
キアラが困惑しながら聞きます。
「いえ、そのように見えるカモフラージュです。さあ皆さん、私に続いてください」
友人Aは天井に頭をぶつかりそうになるのも気にせずに階段を上がっていきます。
すると天井に接した彼女の身体がすうっとその壁をすり抜けました。
スバルとキアラは驚いて顔を見合わせます。
「大丈夫ですよ。よくある通路隠しの魔法です」
そんな二人にるしあが何でもないふうに言います。
「シュバア。シュバルシュバルルバシュバルバ」
(るしあ。おまえ気が付いていたのか)
「当然じゃないですか。るしあを何だと思っているんですか」
答えてから「でも」と彼女は続けます。
「あのカモフラージュの向こう側、なんだか妙な違和感を感じます。罠だとは思いませんが、用心した方がいいのではないかとるしあは思います」
るしあの言葉にスバルとキアラは頷きます。
そして彼女たちは友人Aに続き階段を上がりました。
◇ ◇ ◇
階段を上がり壁をすり抜けた瞬間、スバルたち三人はひどい眩暈に襲われました。
るしあはそのあまりに強い眩暈に耐えられなくなって尻もちをついてしまい、スバルは抗うように首をぐるんぐるんと回しだします。
キアラは耳鳴りもするようで、顔を顰めながら片手で耳を押さえます。
三人はそれでもどうにか残りの数段を上がり切り、薄暗い廊下に出ました。
「皆さん、大丈夫ですか?」
先に着いて三人を待っていた友人Aが話しかけます。
「ごめんなさい。言い忘れていました。この塔最上階は時間の流れる速さが地上とは全く異なります。今更ですが時間速差酔いにご注意ください」
「時間の流れる速さが違うって、一体どのくらい違うのですか?」
るしあが気分悪そうな顔をようやく上げて問いかけます。
「たしか地上の一年間がここの一時間と仰っていましたので、9000倍くらいですね」
「きゅ、9000倍!」
るしあが大声を出します。
「スバルババシュバシュバルルバシュバルルバシュババシュバシュバルシュバシュバルババ、シュバルルバシュバ?」
(スバルにはもうスケールがでかすぎて訳がわかんなくなってるんだが、すごいんだよな?)
「超のつくほどの大魔術です。そんな時空魔法を使える魔法使いなんて、たぶん大陸中を探しても見つかりませんよ」
説明するるしあにスバルが唾を飲み込みます。
「こらこら、あんまり誇張して今世代の子たちをビビらせちゃ駄目だよえーちゃん」
そんなスバルたちの元に、通路の奥から女性が一人やってきました。
薄紫色の目をした、肩まで届く黒紫のボブカットの女性です。
コルセットのような胸と腰を強調させたキャミソール、それからいくつかの布を重ね合わせたような赤紫色のミニスカートをしています。
「あなたは?」
キアラが女性に尋ねました。
「私はアズキ。そらちゃんに頼まれてこの塔を造った魔法使い」
彼女はニコリと微笑んで答えます。
それから「9000倍は盛りすぎだよ」と友人Aに苦笑しました。
「この空間と下界との時間速差は8760倍。9000代はいくら私でも無理だって」
「シュバア。シュバルバシュバルルシュバルルシュバルバシュバルルシュバルシュバシュバ?」
(るしあ。8760倍だとそんなにすごくないのか?)
「んなわけないでしょう、同じですよ8760も9000も。どちらにしてもバケモノです」
「バケモノかあ」
耳聡く聞き取ったアズキがまた苦笑いします。
「まあこれでも一応『時の魔女』の異名を持つ魔法使いだからね。大したことないって言われるのはさすがに嫌だけど、バケモノって言われるのもそれはそれで嫌だな」
「シュバルルシュバルシュバルバ」
(面倒くさいやつだな)
「ご、ごめんなさい!」
「ううん。いいのいいの、悪気ないのはわかってるから」
それよりさ、とアズキは話を変えます。
「そういうわけでここの1秒は下界の8760秒、つまり下界よりもずっと時間の流れが速いからさ、あまり長居せずにさっさと出ていかないと下界に降りた時に浦島太郎みたいなことになっちゃうんだけど」
言いながら、彼女は未だにぐったりしているスバルたちを順々に見ます。
「まあ初めての時間速差酔いはきついよね。言うて余程でないと何十年何百年も経っちゃうことなんてないからさ、とりあえず少し休憩しなよ」
「はい。お言葉に甘えて」
スバルたち三人は少し歩いた先にある控室のような場所で、しばらく横になることにしました。