勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「もう大丈夫?」

 

 アズキが横になっているるしあに尋ねます。

 

「はい。だいぶ良くなりました」

 

 身体を起こしながらるしあが答えます。

 ちなみにスバルとキアラは少し前に全快し、さっきまでるしあの回復を待ちながら友人Aやアズキと喋っていました。

 

「さて、じゃあ向かうとしますか。さすがにこれ以上そらちゃんを待たせるのも悪いしね」

 

「うう、すいませんるしあのせいで」

 

「気にしないで気にしないで。悪いのは前もって時間速差酔いを教えてなかったえーちゃんだから」

 

「うう、ごめんなさい私のせいで」

 

「えーちゃんまで暗いテンションで謝るのやめてよ! 収拾付かなくなるから!」

 

 それからスバルたちとアズキ、友人Aは廊下を進みます。

 しばらく歩くと両開きの扉が見えてきました。

 

「そら。大空スバルを連れてきました。入りますよ」

 

 一言断ってから友人Aが扉を開けます。

 中は少し広い円い部屋でした。

 その中央に女性が一人立っています。

 

「ありがとうえーちゃん」

 

 彼女は友人Aに微笑みかけながら礼を言います。

 済んだ青い目をした、栗色髪を腰元まで伸ばした女性です。

 ノースリーブの白色ブラウスを着て、その上から袖なしの藤色ブレザーを羽織っています。

 ブレザーと同色のミニスカートをはいており、スカートの左右には大きな白い羽のようなものがそれぞれ三枚ほど付いています。

 脚には紺色のニーソックスをはいており、その紺よりやや明るい色合いの靴を履いています。

 彼女はスバルたちの方に向いてから、またにこりと微笑みました。

 

「ようこそ大空スバル。それに潤羽るしあ、小鳥遊キアラ」

 

 順々に名前を呼んでから彼女は優雅に一礼しました。

 

「私の名前はときのそら。わざわざここまで呼び出してしまってごめんなさいね、本当は私の方から会いに行きたかったのだけれどここを離れるわけにいかなくて」

 

「いえそんな、るしあたちは全然構わないのです」

 

 ですよね、とるしあがスバルとキアラに確かめます。

 当然のように二人は頷きました。

 

「ありがとう」

 

 そらは礼を言ってから、嬉しそうにアズキの方を見ます。

 

「ほらねあずきち、やっぱりシオンちゃんに頼んでおいてよかったわね。あの子は普段素直じゃないけど任せたことはしっかり果たしてくれる。私の言った通りでしょ」

 

「本当に。そらちゃんの人を見る目は確かだよ」

 

「ふふん」

 

「ところでさ、今更だけどシオンちゃんもフレアちゃんも一体どれだけ長生きするつもりなんだろうね。この空間の中で過ごす私たちよりも生きるんじゃないかって本気で思っちゃうんだけど」

 

「嬉しいことじゃない」

 

「そうだけど。なんかなあ。まあフレアちゃんはいいよエルフだし、でもシオンちゃんは人間じゃん。普通に怖いんだけど」

 

「細かいことは考えない。昔馴染みの友が今もなお地上で生きていてくれる、これってすごく幸せなことよ。私たちはあの二人に感謝しなくちゃいけないわ」

 

 そらとアズキはスバルたちがいることを忘れてしまったかのように喋りだします。

 

「あ、あの……」

 

 それがまだまだ続きそうだったので、るしあが遠慮気味に声をかけました。

 

「あ。ごめんなさい、私としたことがなんて失礼を」

 

 そらがスバルたちに向き直って謝ります

 それから彼女は一息ついて、真剣な表情になりました。

 

「あなたたちにここまで来ていただいた理由なんですが、他でもありません、赤井はあとの別人格であるはあちゃまについてです」

 

「はあちゃま……」

 

 思わずオウム返しに呟くキアラに「ええ」とそらは頷きます。

 

「あなたたちも知っての通り、はあちゃまは多くのレジェンド所有者からスキルを奪い取りすでに強大な力を手にしています。しかし、現時点でさえ脅威的な存在となっているそんな彼女ですが、本当の意味で恐ろしいのは全てのレジェンドソーセージスキルを手に入れてしまった時なのです」

 

「すべてのスキルを手に入れた時?」

 

「はい。それは彼女が十二本分のスキルを得たというだけでなく、彼女以外のレジェンド所有者が地上からいなくなってしまったことを意味します。つまり彼女を止めることができる剣士がいなくなったということです。敵がいなくなった彼女は欲望のまま、今度はホロ・デ・ソーセージ大陸そのものを我が物にしようとするでしょう」

 

「シュババシュバルルバ」

(洒落にならねえな)

 

「かつて私はホロ・デ・ソーセージ大陸の人々にソーセージを生み出す魔法の道具、始まりの十二本をもたらしたことで恐るべき戦争の道具を与えてしまいました。今ではそのソーセージと人々の行く末を見届けたいと思っているものの、私はもう二度と地上には干渉しないと決めていました。しかし今回ばかりは、この絶望的な未来だけはわずかながら手助けしなくてはいけないと思ったのです。それほどの脅威なのです彼女は」

 

 言ってから彼女は一息つきます。

 

「さて、ここまでが前置き。それでここから本題なんですけれど」

 

 そらは「大空スバル」とスバルに呼びかけます。

 

「私ができる手助けというのはささやかなものです。誰もが認める歴代最強のトップランカー赤井はあとによって希望を託されたあなたに、私も希望を託したくなった。そんな私の思いを受け取ってもらえますか」

 

 彼女はスバルのすぐ前まで歩み寄っていきます。

 

「潤羽一族秘術のアヒルの呪い、その呪いがかかっていては三分間しか人間の姿に戻れないのでしょう? しかしはあちゃまとの決戦にそんな少ない時間では心許ないはずです。手を出してください大空スバル。私がその呪いを解いてあげましょう」

 

 言って、スバルに手を伸ばします。

 

「え? 呪いを解くって、スバル先輩のアヒル化の呪いをですか!」

 

「ええ」

 

「クソザコの書を使わなくても!」

 

「そうです。ある日下界を見下ろしていた時、シオンちゃんがアヒル化を解く魔法を生み出したのを見ました。彼女は魔導書を作ってすぐその魔法を忘れてしまったようですが、一度あることは二度あるのがホロ・デ・ソーセージ大陸、もしまたアヒルにされてしまう不幸な人が出てしまった時のために私はその魔法を覚えておいたのです」

 

「ナイスデス!」

 

 キアラが思わず声を上げます。

 

「さあ、大空スバル」

 

 そらが再びスバルに手を差し出します。

 

「どうしたのですか? さあ私の手を取ってください。あなたを散々悩ましてきたアヒルの呪いが解けるのですよ」

 

「……」

 

 しかしスバルはそらの手を取ろうとしません。

 

「スバル先輩?」

 

 るしあが心配そうにスバルを見ます。

 

「シュバ、シュバルシュババ」

(あと、一人なんだ)

 

 スバルがボソッと呟きました。

 

「?」

 

 さすがのそらもシュバル語はわからないようで首を傾げます。

 スバルはそれを認めて静かに目を閉じました。

 スバルの身体が光り輝きます。

 光が収まってみると、先程までアヒルだったスバルの身体は人間に戻っていました。

 

「すいませんそらさん」

 

 スバルはそらに頭を下げます。

 

「スバルは最後のレジェンド所有者を見つけて、自分の力でこの呪いを解きたいシュバ」

 

「私のことが信用できないから、ということかな」

 

「違うシュバ!」

 

 スバルは首を振って否定します。

 

「そらさんはきっとアヒルの呪いを解除してくれる、そのことは少しも疑ってなんていないシュバ!」

 

「じゃあなんで断るの」

 

「あと一人なんだ。最初はこんなアヒルになっちまって十一人もレジェンド所有者の名前を書き込むなんて絶望的だと思っていたのに、それがあとたったの一人なんです」

 

「……」

 

「これがあと四人や三人だったら、もしかしたらスバルもこんな気持ちじゃなかったかもしれない。でも次の所有者が最後だと思うと、ここまで来たからには全部自分たちで成し遂げたいって欲が出てきちゃったんです。全部が全部終わったあとで無事人間の姿にも戻って、るしあやキアラとこの冒険を振り返った時に『あの頃は本当に大変だったけど、最後の最後まで力を合わせて全部やり切ったよね』『スバルたちの絆は本物だったね』って気持ちよく笑い合いたいんです。いずれ復活するチーム・スバ友のみんなにも、堂々とレジェンド所有者探しの結末を自慢して語れるような大冒険の思い出にしたいんです」

 

 それに、とスバルは続けます。

 

「クソザコの書に名前のあるレジェンド所有者のほとんどは、自分の意思で署名してくれたものなんです。こんなクソむかつく書に名前を書いてくれて本当に感謝しているし、桐生ココに至っては署名するためにわざわざ孤島からフレアの館まで足を運んでくれている。そうしたみんなの善意があってこそのクソザコの書に記された十一人の名前なんです。なのにそいつらの署名とは関係なしに人間の姿に戻るっていうのは、なんだか寂しくなっちゃって……」

 

 スバルは口ごもります。

 るしあとキアラはスバルに共感したように何度も頷きます。

 

「そっか」

 

 そらは一息ついてから「わかった」と言いました。

 

「じゃあ敵だね」

 

「「「え」」」

 

 スバルとキアラ、るしあの三人が同時に驚きを声に出します。

 

「そら」

 

 友人Aが呆れたようにため息をつきます。

 

「何度も何度も言いますが、あなたはもっと自分の立場をわかってください。冗談であっても、あなたが口にすればそれは冗談では済まされなくなるのですから」

 

「じょ、冗談……?」

 

 スバルがドキドキしながらアズキと友人Aの方を見ます。

 アズキが苦笑しながら頷いて、友人Aは「すいません」とスバルに頭を下げます。

 

「だ、だってさあ」

 

 そらは胸元に手をやりながらスバルを見つめだし、うんうんと噛み締めるように頷きだしました。

 

「すごいなあと思って。もしかしたらアヒルの呪いを解けないままではあちゃまと戦うことになるかもしれないのに、仲間との大切な思い出やそれまでのレジェンド所有者たちのことを考えて断るなんて、なかなかできることじゃないよ」

 

「素直にそう言えばいいんですよ」

 

「いやいや、折角かっこいいこと聞かせてもらったし私も負けてられないって対抗意識芽生えてくるじゃん。なんかびっくりさせてあげなくちゃっていう私の内なるサービス精神に火が付いちゃったのよ」

 

「やめてください。ただの迷惑です」

 

 そらはイタズラっぽく舌を出してから「はあい」と返事します。

 それからスバルに向き直って「ごめんなさい」と謝りました。

 

「いえ、スバルもそらさんの善意を無下にしてしまってすいません」

 

「ううん。そのことは本当にいいの。むしろそれを聞けて嬉しいくらいだから」

 

「?」

 

「大空スバル。あなたのような思いやりのある人がレジェンド所有者であってくれて、はじまりの十二本を造った者として本当に喜ばしいです。ライトニングウィンナーは幸せなフォークね、あなたのような所有者と巡り会えたのだから」

 

 それに、とそらは続けます。

 

「謝らなくちゃいけないのは一方的に私の方です。さっきの失言もそうですが、ここに呼び出してしまったことも。大空スバル、あなたはアヒルの呪いを解きたいと思うに違いないと勝手に決めつけて呼び出してしまった浅はかな私を許してください」

 

「と、とんでもないシュバ。それはスバルが気まぐれなだけで。だから頭を上げてください」

 

 スバルが恐縮して言います。

 

「それに、私たちはそらさんにお呼びされて本当に良かったデスよ」

 

 そんなスバルをキアラがフォローします。

 

「塔の入り口のところでブラッディー・ブルートヴルストの所有者であるまつりさんからサインをいただきマシタし、道中でも二人のレジェンド所有者に出会えマシタ。そのおかげで私たちの探すべきレジェンド所有者は残り一人となったのデスから」

 

「そ、そうシュバよ!」

 

 スバルがすかさず乗っかります。

 

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 そらはようやく頭を上げてキアラ、るしあ、スバルを順々に見ました。

 彼女は静かに口を開きます。

 

「まもなく最後の戦いが訪れます」

 

「最後の戦い?」

 

 オウム返しに聞き返すスバルに「ええ」とそらは頷きます。

 

「このホロ・デ・ソーセージ大陸の命運がかかった最後の戦い。スバル、どうかその時までにあなたの呪いが解かれていますように」

 

 言ってそらは目をつむり、祈るように手を合わせます。

 それから彼女はゆっくりと目を開けてスバルたちに微笑みかけました。

 

「がんばってくださいスバル。それにるしあ、キアラも。私はここからあなたたちの御武運を祈っています」

 

「シュバ」

 

 スバルが頷きます。

 

「はい」

 

「ありがとうございマス」

 

 るしあ、キアラも各々答えました。

 

「さて、ではそろそろここを発たれた方がいいでしょう。あずきち、えーちゃん、下界の入り口前まで私も一緒に見送りに行くわ」

 

 そう言ってそらが歩きだします。

 その時です。

 部屋のドアが外から足蹴りに開かれました。

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