勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 ドアが足蹴りに開かれます。

 

「やっと見つけたわ」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは赤井はあとの別人格、はあちゃまです。

 

「噂に聞いた神様住まう塔の最上階、どんな場所かと思って来てみたら全くもって嫌なところね。着くなり急に具合が悪くなるし、部屋が多すぎてここに来るまで散々手こずらされるし。最悪の気分だわ」

 

「それはあなたが招かざる客だからです」

 

 唐突のはあちゃまの出現にスバルたち三人だけでなくアズキ、友人Aも驚きのあまり動けずにいる中で、そらだけが平然と返します。

 

「気分がすぐれないのなら、どうぞお帰りください」

 

「そうはいかないわ。あなたは私に用がないかもしれないけれど、私はあなたに用があって来たんだもの。帰るのはそれを済ませたあとよ」

 

「私に?」

 

 聞き返すそらに「ええ」とはあちゃまが頷きます。

 

「ちなみにあなただけじゃないわ。今回は隣で人間に戻ってる大空スバルにも付き合ってもらわなくちゃいけない」

 

「私だけでなく、スバルにも」

 

 そらはオウム返しに繰り返します。

 それから「一体どういったご用件でしょう?」とはあちゃまに尋ねました。

 

「はん。しらばっくれてんじゃないわよ」

 

 はあちゃまはレッグバッグに手を伸ばしフォークを取り出します。

 

「あなたなんでしょう? レジェンドソーセージ、『再来』バーニング・サラミの所有者は。早くソーセージを出しなさい」

 

「……何をおっしゃっているのかわかりません」

 

「まだしらを切るつもりなんて良い度胸じゃない」

 

 はあちゃまはブン! とフォークを振るってクリスタルサビロイのソーセージを取りつけました。

 

「おい! やめろ!」

 

 すかさずスバルもフォークを手に取ってライトニングウィンナーを出現させようとします。

 

「スバル」

 

 しかしそらがスバルに向かって手を伸ばし彼女を制止します。

 スバルはしぶしぶフォークを仕舞いました。

 それを認めたはあちゃまは「ふん」と鼻を鳴らしました。

 

「ちょっとくらい辛抱していなさいよ大空スバル。この女からスキルを奪ったらすぐにあなたの相手もしてあげるつもりだから」

 

 言ってからはあちゃまはそらに向き直ります。

 

「すいませんが」

 

 そんなはあちゃまにそらが話しかけます。

 

「私にはやはりあなたの言っていることがよくわかりません。なぜ私がバーニング・サラミの所有者となっているのか、説明していただけませんか」

 

「いいわよ」

 

 はあちゃまは頷きます。それから口を開きました。

 

「私は今までレジェンド所有者探しをする大空スバルを尾行しながら、高度な情報収集能力を持つハートンたちを駆使してありとあらゆるレジェンド所有者の情報を搔き集めていたの。ちなみにその中には剣士協会のデータバンクへハッキングして得た情報も含まれているわ」

 

「おま、怖い者知らずシュバな」

 

「でも、そうまでしても得られなかった情報が二つあった。それが『血の涙』ブラッディー・ブルートヴルストの所有者と『再来』バーニング・サラミの所有者よ。そして前者のブラッディー・ブルートヴルストの所有者はこの塔の入り口にいた守り手の夏色まつりだった。ねえ、ここまで説明したらもう十分かしら?」

 

 問いかけるはあちゃまに「何がですか?」とそらが聞き返します。

 

「ふん。つまりよ、不可侵の聖域とされているこの南端の塔にレジェンド所有者がいたから、さすがの剣士協会も把握できていなかったということよ」

 

「……」

 

「あとは消去法でバーニング・サラミの所有者を導いたというわけだけれど、私は最初からあなたが怪しいと踏んでいたわ。だってレジェンドソーセージなんてすごいもの、その製作者が易々と手放してしまうはずないもの。必ず一本は手元に残していると思っていたわ」

 

「いいえ、あなたは何か勘違いしています。そもそも私が造ったのははじまりの十二本であって、レジェンドソーセージではありません」

 

「同じでしょうが! 名前が変わっただけで!」

 

「わかりました。では仮に私がバーニング・サラミの所有者として」

 

 そらは聞く耳持たないはあちゃまにため息をつきます。

 

「それで、なぜ私だけでなくスバルにまで手をかけようとするのですか。あなたはバーニング・サラミとライトニングウィンナーのスキルを得たとしても、まだすべてのスキルを得たわけではない。それらをすべて獲得し終えるまで、スバルには手を出さずにいると思っていたのですが」

 

「よくわかってるじゃない」

 

 はあちゃまは笑いながら答えます。

 

「教えてあげるわ知りたがり屋さん。それはもう泳がせる必要がなくなったからよ。残りのレジェンド所有者はすべて把握しているし、それらをどう料理するかまで大体決めているの」

 

 はあちゃあまは喋りながらそらに向かっていきます。

 

「『大地』ストーンスンデの所有者桐生ココと『執着』スケルトン・ソーセージの所有者雪花ラミィ、彼女たちはそれぞれ『たつのこ』と『雪民』のチームリーダーだけれど、どちらもランキング上位にランクインしたこともない程度の中堅チーム。複数のスキルを持つ今の私が戦えば赤子の手を捻るように倒せる相手だわ。ただ、現在この二人はエルフの館に逗留していてね。あそこはレジェンドソーセージを使えないから私は入ることすらできないのだけれど、まあ館の周辺にはすでにハートンたちを忍ばせているから、ちょっとでも館を離れればすぐにでもワープしてぶちのめしてやるわ」

 

 それから『集結』マシーンヨーテボリの所有者宝鐘マリン、と彼女は続けます。

 

「天音かなたに敗北してから二年間もソーセージを手放していた剣士なんてまさに問題外、勝負となればスキルを使わなくても十分勝てるくらいよ。でもこいつはこいつで別のことで煩わしくてね、しょっちゅう海に出てるからなかなか捕まらないんだわ。とは言ってもメードとかいう港町を寄港先に決めているのはわかっているし、その町を押さえとけば捕まるのも時間の問題でしょ。そして最後に一番鬱陶しい『毒牙』ポイズンチョリソーの所有者白上フブキ、この猫女も剣士としてはザコなんだけど、今現在北方の森林地帯で信じられないくらい巧妙に身を潜めて隠れているから腹立たしい。『毒牙』以外のスキルをすべて手に入れてからハートン全員駆り出して森林地帯をローラー作戦する。否が応でもあぶりだしてやるわ」

 

 そこまで気持ちよさげに喋ってから「わかった?」とはあちゃまはそらに話しかけます。

 

「もう狩りの準備は万全、アヒルを泳がせておく段階ではなくなったの。仕留める頃合いになったというわけよ」

 

 はあちゃまはクリスタルサビロイをそらの鼻先に突きつけます。

 

「さあこれで満足でしょう。さっさとバーニング・サラミを出しなさい」

 

「確かにあなたの説明には満足しました。しかし、ないものを出すことはできません。無茶を言うのはやめてください」

 

「まだ言うか! 言っておくけど私はソーセージ道とかいうくだらない精神論なんてクソ喰らえの現実主義者よ。どうしても出さないというなら容赦なく斬り捨てる!」

 

「そうですか」

 

「はん! まさか、できないとでも思ってるの? 確かにソーセージを出してもいない相手を打ち負かしたとしても、そのレジェンドソーセージスキルは手に入らないわ。でもね、あなたを殺してからバーニング・サラミのフォークを回収し、新たな所有者にそのフォークを与えてから私が改めて勝負して打ち負かすという選択肢もあるのよ」

 

「子供みたいなことを言うんですね。そんなふうにして作り出した傀儡の剣士にレジェンドソーセージのフォークを持たせたとしても、それはただの所持者であって所有者ではない。たとえレジェンドソーセージを出して振るうことができたとしても、フォークは己の主とは認めないでしょう。そしてそんな人物を倒したところであなたがスキルを得られるはずもない。こんな当たり前のこと、レジェンドソーセージ・クリスタルサビロイによって生み出されたあなたが知らないはずがないでしょうに」

 

「黙りなさい!」

 

 はあちゃまは怒鳴ってから、ソーセージを眉間すれすれまで突き出します。

 それでもそらは少しも怯む様子を見せません。

 

「ちっ」

 

 はあちゃまは不愉快そうに舌打ちしました。

 しかし決してクリスタルサビロイは下げません。

 

「やめてください!」

 

 そこへるしあが声を張り上げました。

 

「あなたの言っていることは間違っていますはあちゃま!」

 

「あ?」

 

 睨みを利かすはあちゃまに一瞬るしあはたじろぎます。

 しかしすぐに「間違っているんです!」と繰り返します。

 

「だってるしあたちも、そらさんからレジェンドソーセージの署名なんていただいてませんもん! もし本当にレジェンド所有者ならもらっているはずなのに!」

 

「何をバカなことを。大空スバルは人間に戻ってるじゃない」

 

「あなたも知っているでしょう、アヒルの呪いがかかっていても一日に三分間だけ人間の姿でいられることを。スバル先輩は今その三分間を使っているんです。待ってください、証拠のクソザコの書を見せてあげますから」

 

「結構よ。あなたたちの持ち物が証拠になり得るわけないでしょう。私を騙すためにどんな仕掛けがなされているかわかったもんじゃない」

 

「ひどい言いようデスね。自分のことを棚に上げて」

 

「それに」

 

 はあちゃまはそらに向き直ってから、フォークを握る手に力を込めます。

 

「よくよく考えてみれば、レジェンド所有者でなかったほうが好都合だわ。だってレジェンド所有者でなかったのなら、逆に殺していけない理由がないのだもの。殺してから持ち物を確認してみてレジェンドソーセージフォークが見つからなければ、『彼女がレジェンド所有者だったかもしれない』という私の心残りがなくなってくれるんだからありがたいわ。むしろそっちの方が喜ばしいくらいよ。万が一バーニング・サラミを所有していたとしても市場に流してまた一から探し直せばいいだけの話だしね」

 

「はあちゃま! おまえ、それ本気で言ってんのか!」

 

「ひどい!」

 

「最低デス!」

 

 スバル、るしあ、キアラがはあちゃまを非難します。

 はあちゃまはそれを澄ました顔で聞き流します。

 その一方で、

 

「ふん。何を言ってるんだか」

 

 そらが、呆れたように言って笑いました。

 


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