勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「ふん。何を言ってるんだか」
そらが呆れたように笑います。
「なに?」
「私を殺したあとでフォークを持っているかどうかを確認する? できないわよそんなこと。仮に私がレジェンドソーセージのフォークを持っていたとしても、それは私の死と同時に消滅してしまうから」
「?」
「かつて私がフレアちゃんと共に作り出したはじまりの十二本、それらは私の魂を分け与えた言わば私の分身。私が死ねば当然私の分身も消滅する、つまりレジェンドソーセージとして作り替えられた十二本も消滅するのよ。この意味がわかるかしら? レジェンドソーセージの一本であるクリスタルサビロイのスキル『生命』によって生み出されたあなたも消えるのよ」
「ハッタリよ」
「じゃああなたに聞くけれど、私はアズキチに頼んでこの最上階の特殊空間をわざわざ作ってもらった。そして愛すべき多くの友人知人を地上に残しながら、何もないこの空間で一生を過ごすことを誓った。結果的にえーちゃんとアズキチがこうして一緒に暮らしてくれてるけれど、はじめ私はたった一人孤独にここで生涯を終えるつもりだったのよ。どうして私がそんなことをしようとしていたか、あなたにわかる?」
「……」
「かつて飢えで苦しむ子供たちを救おうと作り出したはじまりの十二本、しかしそれらは私が死ぬと消滅してしまう有限物、そして人間である私の寿命はそんなに長くもつものではない。だからこの特殊空間が必要だったの。ここの一時間は地上の一年、ここの千時間は地上の千年、ここで私が生きている限り地上ではずっとフォークが消えずに残ってくれるからね。こうでもしないとあの悪夢のような食糧問題は解決しないと思ったのよ。まあ私の予想に反して人々は数百年で取り敢えずであれその問題を解決し、ソーセージはソーセージで意外な結末を辿って行ったようだけれどね」
それでどうする? と今度はそらがはあちゃまに問いかけます。
「それでも試しに私を殺してみる? こんな形でソーセージの歴史を終わらせるのは正直やりきれないものがあるけれど、私は甘んじてそれを受け入れるわ」
「……」
はあちゃまはそらに剣を突きつけたまま、斬ることも引くこともできず困ったように固まってしまいます。
するとそのタイミングで、彼女のすぐ近くでボン! と音がしました。
はあちゃまが横目で見るとスバルがアヒルに戻っています。
どうやら人間に戻っていられる三分間が切れたようでした。
「これでわかったわね」
アズキが喋りだしました。
「アヒルの姿に戻ったということはまだ呪いを解いていない、と言うことは最後のレジェンド所有者を見つけていない。つまりそらちゃんがレジェンド所有者ではないことが確定された。そういうことで納得しとこうよ、招かざるお客さん」
「……そうね」
はあちゃまは頷いて剣を下げます。
それを認めた友人Aがすぐさまそらのところに駆け寄って彼女を引っ張っていき、はあちゃまから距離を取りました。
「無駄な時間を使ったわ」
言いながらはあちゃまはソーセージを消して、フォークをレッグバッグに仕舞います。
「ええ、本当に」
そらもため息をついて頷きます。
「あなたのおかげで随分と時間が経ってしまったわ」
「そら。なんでそんな挑発的なことを言うんですか」
はあちゃまに聞こえないようにでしょう、友人Aがそらに耳打ちで注意します。
「そうじゃないの」
そらは部屋に取り付けられた掛け時計の方に目をやってから続けます。
「時間が経ちすぎてしまいましたスバル、キアラ、るしあ。それにあなたもよはあちゃま。あなたたちがこの最上階の空間にやってきてから二時間が経過しようとしています。つまり地上では二年という月日が過ぎようとしているのです」
「シュバルバ」
(二年か)
「地上のみんな、私たちを心配しているデショウね」
「急いで地上に戻りましょう!」
スバルたち三人がドアに向かって駆けだそうとします。
「あ。ちょっと待って」
それをそらが呼び止めました。
「ごめんなさい。急かしておいてなんなのですが、伝言を頼まれてくれませんか」
「伝言? いいですよ」
るしあが頷きます。
「ありがとう。この塔の地上階にロボ子というロボットがいるんです。彼女に当てた伝言を」
「はい。どうぞ」
「『あなたを信じて良かった』」
「……。それだけですか?」
「ええ」
「わかりました。確かに伝えておきます」
答えるるしあにそらはもう一度「ありがとう」と礼を言いました。
「そらちゃん、もう案内していい?」
すでにドアを開けて待っているアズキがそらに呼びかけます。
「うん。ごめんアズキチ」
「スバル、るしあ、キアラ、はあちゃま。今から私とえーちゃんが地上に降りる階段の場所までの最短ルートを走って案内するから、遅れずについてきて」
スバルたち三人が頷きはちゃまがため息をつきます。
四人はアズキと友人Aのあとに続いて廊下を進みます。
そして約五分後に階段の場所に到着しました。
「……」
着くや否や、はあちゃまが無言で階段を降りていこうとします。
「ちょっと待って」
アズキがそれを止めました。
「なに?」
「なに、じゃないわ。ここは私の作った特殊空間よ。勝手な行動をされたら困るわ。ここから地上へ無事に帰してあげるから、私の指示に従ってちょうだい」
「無事に帰す?」
はあちゃまが鼻で笑います。
「バカバカしい。私は普通にこの階に上がってきたのよ、誰の案内もなしに一人でね。それで無事に辿り着けたのに、帰りは無事に帰れないなんてことがある? どのタイミングでどうやって帰ろうが私の勝手よ。あなたの指図を受けるなんてごめんだわ」
「まあ無理にとは言わないわ。確かにあなたは無事この空間に入って来れたわけだし」
そう言ってから「でもね」とアズキは続けます。
「この最上階と下界との時間速差は8760倍、その膨大な時間速差をうまく保たせるために空間と空間の境であるこの階段にはかなり複雑な緩和魔法を施しているの。運よく入る時は何事もなかったようだけど出る時もそうだとは限らないわ。はい。私は忠告したからね。それでもなお勝手を通すというのなら好きにするといいわ」
「私を脅すつもり?」
「忠告だって言ってるでしょ。あなたひねくれ過ぎよ」
はあちゃまはしばらくアズキの目をじっと見ます。
それから「ふん」とそっぽを向いて引き下がりました。
アズキがスバルたちの方を振り返ります。
「まず下界に降りるのは最初に最上階に上がってきたスバルたち三人、それからえーちゃんよ。一人ずつ行こうとせずに四人同時に降りてね」
アズキの指示にスバルたちが頷きます。
それを認めてからアズキははあちゃまに向き直りました。
「あなたが降りるのはその後よ。私が一緒に行ってあげるわ」
「はいはい」
はあちゃまはうんざりした顔で頷きます。
そんな二人を残してスバルとキアラ、るしあ、えーちゃんは階段を降りていきました。
◇ ◇ ◇
「ほっ」
階段を降り終わるや否や、キアラが安堵のため息をつきました。
「良かったデス。無事に着けて」
「もしかして、アズキさんが言っていたことを心配していたのですか。複雑な緩和魔法を施しているから、指示通りにしないと無事に帰れないとかなんとか言っていたのを」
尋ねる友人Aに「当たり前デスよ」とキアラが答えます。
すると友人Aはおかしそうに笑いました。
「あれは嘘ですよ」
「「「!」」」
キアラとスバルだけでなく、魔法に詳しいはずのるしあまで驚いてように友人Aの方を見ます。
「空間の境目に複雑な魔法がかけられているというのは本当なんでしょうけど、ほら、私はこうして最上階と下界を行き来してそらの言葉を地上の守り人に伝えたり、逆に彼女たちから得た情報をそらに伝えたりといった仲介を度々しているのですが、アズキさんから先程のような注意を受けたことは一度もありませんでしたし、実際に今まで何かが起きたなんてことありませんでしたから」
「じゃあ何であんなこと言ったのデショウ」
「あなたたちのためですよ」
友人Aは続けます。
「私もアズキさんも、さきのはあちゃまの言動で彼女がどういう人間なのかよく理解しました。そのためアズキさんは、あの危険人物とあなたたちを同時に地上へ帰してしまうのはよろしくないと判断したのでしょう。かと言ってあなたたちよりも彼女を早く帰してしまえば、あなたたちが帰る際に不意打ちなどしかねませんし」
「シュバルバ」
(確かに)
「ナイス機転です」
「そういうことであれば、はあちゃまが来てしまわないうちに急ぎ降りきってしまいマショウ」
キアラが勇み階段を駆け下りようとします。
「まあそう慌てなくてもいいですよ」
そんな彼女に友人Aがやんわりと言います。
「アズキさんのことだから向こうの時間で数十秒、つまり地上の時間であと数日は時間を稼いでくれているはずです。この長い階段でもしも転げ落ちるようなことがあれば一大事ですから、足元に注意してゆっくり降りていってください」
「はい」
「ありがとうございマス」
友人Aに礼を言ってからスバルたちは螺旋階段を降りていきました。
◇ ◇ ◇
「や、やっと着きましたね」
最後の一段を降り終えたるしあが床に尻もちをついて行き絶え絶えに口にします。
「シュバ。シュバルババ!」
(ああ。本当に!)
その隣でスバルも床に俯せにべったりと身体を横たえました。
上りの際は余裕のあったスバルでしたが、下りではややもすればるしあ以上に疲れた様子です。
アヒルの身体の構造上、人にとってちょうどいい高さの段差は、スバルにとって特に下りが難儀であるようでした。
るしあとスバルが呼吸を整える横で、キアラも何となく床に腰を下ろして休憩します。
そうして数分が経った頃、
「あ。いたいた」
聞き覚えのある声がしました。
「えーちゃんからもうすぐ降りてくるって連絡もらって随分経ったから、もしかして何かあったんじゃないかと心配したわよ」
スバルたちは顔を上げて声の方を見ます。
「お帰り三人とも。二年ぶりね」
そこにいたのは夏色まつりでした。