勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「久しぶりね三人とも」
まつりはスバルたちに微笑みかけます。
「えっと。そう、デスね。お久しぶりデス」
キアラが懐かしそうな顔をしているまつりに合わせて答えます。
「ふふ。ありがとう、でも無理して私に合わせなくてもいいわ。まつりにとって二年間でもあんたたちにとってはほんの数時間でしかないことはわかってるから」
言ってから「でも本当に長かったなあ」とまつりが続けます。
「数ヶ月くらいは待つことになるかもしれないって覚悟していたけど、まさか二年とは思わなかった」
「すいません」
るしあが謝ります。
「ああ、違うの違うの。別に愚痴るつもりはないのよ。ごめんなさい」
困ったように苦笑しながらまつりが失言を詫びます。
「つもりはなくても実際そう聞こえる。気を付けた方がいいよ」
そんなまつりの後ろから女性の声がしました。
「ロボ子先輩」
ロボ子です。
「二年なんてついさっきと同じようなものさ。もっと大らかな心でいなくちゃいけない」
「そりゃロボ子先輩にとってはそうでしょうけどまつり達にとっては十分長い月日なんですよ。ちょっと口が滑っただけなのに、そんなにいじめないでください」
まつりはロボ子に言ってからスバルたちに向き直りました。
「とにかくよく帰ってきたわ。さあ、お茶を出してあげるからこっちおいで」
まつりは子供にするように手招きします。
スバルたちは顔を見合わせてから苦笑して、まつりのあとについていきました。
◇ ◇ ◇
「さあ、どうぞ座って」
しばらく廊下を歩いて案内されたのは控室のような場所でした。
テーブルに椅子、水道に冷蔵庫、コンロまで設置された生活感溢れる部屋です。
ロボ子は冷蔵庫から人数分のコーラを取り出して、椅子に座るスバルたちの前に置いていきます。
「飲んで。おいしいから」
「あ。どうも」
なぜかドヤ顔をされて、るしあが軽く会釈します。
その間まつりは戸棚のなかを漁っていて、しばらくしてから未開封のポテトチップスを持って戻ってきました。
「あんたたちが塔に上ってからの二年間、こっちでは色んなことがあったのよ」
まつりはスバルたちと向き合いの席に腰を下ろしてから菓子袋をあけて、テーブルの中央に広げておきます。
「ほら食べて。結構いけるから」
「はい。ありがとうございマス」
キアラが一つ摘まんで口に入れます。
「それで、はあちゃまが塔に上ってから何があったのデスか?」
キアラはまつりに先程の含みある言葉の続きを促します。
「そこの窓から外を見てみて。そしたら大体わかるから」
カシュンと音をさせてコーラのプルタブを開けながらまつりが言います。
スバルたちは立ち上がって窓の前まで行き、そこから外を見てみました。
「シュ、シュバシュババ!」
(な、なんだあれ!)
スバルが思わず声を上げました。
ちょうどスバルたちが覗く窓の外側に大きなテントがいくつも隣接して張られています。
「あれは、ハートン?」
そのテントからハートンたちが出入りしているのでした。
「そう。ハートン」
まつりはコーラを飲んでから頷きます。
「はあちゃまから待機するように指示されていたのかしらね、彼女が塔に上がってから二年も経つっていうのに全く帰る気がないのよ。ああして駐在用のテントまで張って待ち続けてるというわけ」
「シュバシュババ」
(健気だな)
「ですよね。るしあだったらあんな女置き去りにして帰りたくなってしまいます」
「まつりたちもそうしてくれないかと思っていたのよ。最初は」
「最初は?」
聞き返するしあに「ええ」とまつりが頷きます。
「なにせここはあの方の住まう塔を守るための神聖な場所、あの方に呼ばれたあなたたちならともかく、招かざる客であるハートンたちが来るべきところではないし、まして長居していいところのはずがない。まつりもわためもトワもロボ子先輩も、ハートンたちに出ていくよう何度も警告したわ。時には武力行使にも及んだ。それでも彼らは根気強く居続けた」
「すごいデスね。まつりさんはレジェンド所有者でもあるのに」
「まあもうレジェンドソーセージは使えないけど、それでもボコボコにして追い払った。でも翌朝になると性懲りもなくあのテントが設置されていて、それをまた追い払うといった繰り返し。そんなのを何度も繰り返したある日、ハートンの代表が交渉しに来たの」
「あのブーブー喋る言葉でデスか?」
「いいえ、普通の人語だったわ。あの着ぐるみを脱げば普通に会話するみたい」
「それで、どういう交渉を?」
逸れた話の流れをるしあが戻します。
「『はあちゃまが帰ってくるまで自分たちをここにいさせてほしい。決して迷惑はかけないし、駐在させてもらっている代わりにそれ相応の対価も払うから』みたいな感じのこと。でしたよね? ロボ子先輩」
まつりがロボ子の方に振り返り確認します。
ちなみにロボ子はすでに椅子に座って菓子とコーラを飲み食いしており、まつりの問いかけに「うん」と答えます。
「それで、その対価っていうのがこれとこれなわけ」
言いながら、まつりがポテトチップスの菓子袋とコーラの缶をそれぞれ指さしました。
「びっくりしたわ。まつりたち守り人はこの塔周辺を離れられないから当然遠方に行くことなんてできないわけなんだけど、まさか外の世界にこんなおいしいものが存在するなんて。ねえ先輩」
「うん」
ロボ子がまた頷きます。
「それで?」
るしあがまつりに先を促しました。
「まつりたちもね、はじめは同情からその条件を呑んであげてたわけ。でもこのッポテトチップスって恐ろしいものでね、食べても食べても飽きないしむしろもっともっと欲しくなるのよ。気づけばまつりもわためもトワも先輩も、この菓子とコーラがなくちゃ生きていけれない身体になってしまっていた。ねえ先輩」
「うん」
「今じゃどうぞどうぞいてくれても構わないからこれからも物資よろしくねって仲よ。まさに生活の大革命が起きたってわけ」
「シュバルルバシュババ、シュバシュバルシュバシュバルルバ」
(ハートンのやつら、罪深いことしやがって)
「でも食べ過ぎると身体に毒デスよ」
キアラが心配そうに言います。
「大丈夫大丈夫。ほらここに野菜風味って書いてあるでしょ? 実質カロリーゼロ」
「いえ、それただの風味デスから。野菜の味に似せてるってだけデスから」
「まあ冗談はさて置き、ちゃんとお菓子として食べてるから心配ないよ。ご飯は毎日三食きっちり取ってるもの。まつりは」
「ボクも」
「なんですかその『自分はまだ……』みたいな含みのある言い方。誰か危うい人がいるんですか?」
尋ねるるしあに、まつりとロボ子は顔を見合わせます。
それから「まあね」とまつりが苦笑しながら答えました。
「わためが重症なのよね。食事の代わりにポテチで済ませることも結構あるみたいだし」
「それ、止めさせないと身体壊してしまいますよ」
「大丈夫でしょ獣人だし。羊だからちょっとくらいぷよっとしていた方が可愛いわよ」
「はあ」
るしあが頷いてからコーラを口に含ませます。
「シュバルバ、シュバルシュババシュバルルシュババシュバルルバシュババ……」
(ていうか、スバルたちはいったい何を聞かされてるんだ……)
今更のようにスバルがボソッと呟きます。
それを聞き取ったるしあが「あの」と、まつりとロボ子に話しかけました。
「では、そろそろるしあたちは失礼します」
るしあはそう言ってスバルを抱えて立ち上がってから、キアラに目配せします。
キアラもすぐに席を立ちました。
「あ。待って待って」
まつりがそんなるしあたちを呼び止めます。
「脱線しすぎてごめんって。ここに呼んだのはそんな話をするためじゃなくてね。ほら」
言って彼女は窓の方を顎でしゃくります。
「今塔から外に出ようと思ったら、ハートンたちに見つかるでしょ。そしたら面倒なことになりそうだから教えてあげようと思ってさ」
「どうもデス」
キアラが礼を言ってそのまま部屋を出ようとします。
「だからお待ちなさいって。私たちだってただただポテチを頬張ってこの二年間を過ごしてきたわけじゃないのよ」
まつりはそんな彼女たちを椅子に座り直させてから自分が廊下に向かっていきます。
そして頭だけ廊下に出して、
「わためー!」
と呼びかけました。
しばらくしてから「はーい!」と返事がします。
それからトコトコと足音がして誰かが部屋に入ってきました。
「みんな。久しぶり」
わためでした。
「わため。例のものを」
「はーい」
まつりの言葉にわためが頷いて、また忙しなく部屋を出ていきます。
「お待たせ」
わためは少ししてから戻ってきました。
その手には何やら大きな布らしきものを三つ抱えています。
「ありがとう」
まつりはわために礼を言ってからそれらを受け取りました。
そしてスバルたちに向き直ります。
「キアラ、るしあ。これを着て」
「これは?」
尋ねるキアラにまつりは「いいからいいから」と返し、キアラとるしあそれぞれにその布のようなものを渡します。
「はあ」
二人は言われるままに着始めます。
服というよりは大きな着ぐるみで、上部分と下部分を赤い紐で結って繋ぎ留めています。
るしあとキアラはお互いに渡されたものを着終えて顔を見合わせました。
同時に「「うわ!」」と声を出して驚きます。
二人が着被ったのはハートンの着ぐるみでした。
「びっくりしたようね」
まつりが微笑みます。
「わため力作のハートンの着ぐるみよ。よくできているでしょう」
「ええ。すごく」
「それを着ていれば外に出ても怪しまれないってことよ」
「なるほど」
るしあは頷いてから「でも」と続けます。
「スバル先輩の分は?」
「アヒルがこんなの着てれば逆にバレるでしょ。あんたたちのどっちかが着ぐるみのなかに入れていけばいいわよ。ダボついてるから、そうそう中にいるなんてわからないわ」
「確かにそうですね」
るしあはスバルを抱えて着ぐるみのなかに入れます。
「どうですかキアラ」
「はい。大丈夫デス」
確認するるしあにキアラが頷きました。
「では。ありがとうございました」
るしあはぺこりとお辞儀して、今度こそ部屋を出ていこうとします。
「だから。最後まで話を聞けというに」
しかし着ぐるみの首元をまつりに掴まれて引き戻されます。
「まだ自覚できてないみたいだけど、ここはあんたたちが塔に上ってから二年も経過してるのよ。あんたたちが乗ってきたダチョウだってこの二年間、わためがずっと世話してくれているのよ。そのダチョウを住まわせてる小屋の場所とかわかってるの?」
それを聞いたキアラがハッとなってわための方を見ます。
それから深くお辞儀して「ありがとうございマス」と礼を述べました。
「い、いいよいいよ。わためが好きでやってることだから」
やや赤面させながらわためが顔の前で手を振ります。
「でも、そういうわけだから案内役は必要なんだ。だから」
言いながら、わためが着ぐるみを被り始めます。
「わためも一緒に行くよ」
彼女はハートンの真似をして「ブブー!」とかけ声を上げました。
◇ ◇ ◇
スバルたちとわためが塔の外へ出るのを、まつりとロボ子が入り口まで見送りに出ます。
「あ。そうだ」
ハートンの着ぐるみを被ったるしあが、何かを思い出したようにそう言ってロボ子の方を見ました。
「そういえばロボ子さんに伝言をあずかってきたんです」
「ボクに?」
首を傾げるロボ子に「はい」と頷きます。
「そらさんからです」
「えッ」
ロボ子はドキリとした顔になりました。
「な、なんて?」
「えっとですね」
るしあは言伝を確認するような間を開けてから、続けます。
「『あなたを信じて良かった』と。この一言だけ伝えてほしいと頼まれました」
るしあの言葉を聞いて、ロボ子は驚いたように目を見開きます。
「……ありがとう」
それからその目を嬉しそうに細めて、はにかみました。