勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
作業場は魔王城から歩いて数分もかからないところに設けられていました。
そこではハートンたちに監視されながらムーナと野ウサギたちがせっせと働かされており、何やら仰々しい機械をいじっていました。
「あれはデーモン・みこ・ソウル! なに勝手にいじくってるにぇ!」
みこが思わず飛び出そうとします。
「落ち着け」
フレアがそれを押さえました。
「でも! でも! あれみこのなのに!」
「また作ってやるから」
なだめるフレアにみこは渋々頷いて大人しくなります。
「あれって確か、暗雲を作る機械でしたっけ」
るしあが尋ねます。
フレアは「ああ」と答えました。
「暗雲を作り出すがたった一時間で運動停止する。ちょっとした玩具だ」
「ですがそれにあえて手を加えさせているのが引っ掛かりますね」
るしあの言葉に皆が頷きます。
ちょうどその時です。
「ブブー!」
リーダー格らしいハートンが腕時計に目をやってから大声を出しました。
それを聞いたムーナと野ウサギたちは各々作業の手を止めて座り込んだりお喋りしたりし始めます。何人かのハートンはそんなムーナたちにお茶を配ったりし出します。
どうやら休憩時間に入ったようでした。
それからまた少しすると休憩するムーナたちに気を遣ってでしょう、ハートンたちが離れていきます。
それを認めて「ムーナ! ムーナ!」と物陰からみこが押し殺した声でムーナを呼びました。
「みこさん!」
声に気づいたムーナが驚いた顔をします。
彼女はハートンたちに気取られないよう注意しながら駆け寄ってきました。
「みこさん。シャチョーが。シャチョーが」
みこの元にたどり着いたムーナは急にぐすぐずと泣き出してしまいます。
「わかってるにぇ。わかってるにぇ」
みこはそれにいちいち頷いて慰めてあげました。
「ムーナさん。あれはいったい何をしているんデスか」
キアラが、さきほどまでムーナが何やら手を加えていたデーモン・みこ・ソウルを指さしながら尋ねます。
「あれはリミットヲ外しているところなんです」
「リミット?」
聞き返すキアラに「はい」とムーナが頷きます。
「私もあれがどういった機械なのかハ知りませんガ、稼働させても一時間デ強制停止するようニリミット設定されているようなんです。そのリミットヲ解除するようニ言われています」
「そんなことしちゃ駄目だにぇ!」
みこが声を張り上げました。
「ムーナ! あれは暗雲を作り出す機械だにぇ! 稼働させても一時間で止まって暗雲がすぐ霧散するからただの雰囲気づくりの道具として使えるけれど、それがずっと動き続けたら大陸を暗雲が覆いつくしてみんなに大迷惑かけることになるにぇ!」
「ムーナさん。今すぐ作業を中断してここから出ましょう」
るしあがムーナに手を伸ばします。
「無理です」
ムーナは首を振りました。
「野ウサギのみんなガ残っています。私だけ逃げだすわけにハいきません。それニ、あの機械はレジェンド所有者ヲおびき寄せるためニ使うのであって本格稼働させるつもりハない、トはあちゃまという人ガ言っていました」
「はあちゃまの言うことを鵜呑みにしては駄目ですよ!」
「でも」
「ではこうしマショウ。野ウサギたちみんな連れて逃げるんデス。私がハートンたちを片っ端に倒しマスので」
るしあ、キアラがムーナを説得して「さあ早く!」と促します。
「……」
しかしムーナはまた首を振りました。
「どうしてですか!」
るしあが声を荒らげます。
「シャチョーが」
ムーナが呟くように口にしました。
「シャチョーが人質ニなっているんです。だから私モ野ウサギたちモ命令ニ従っているんです。もし私たちガ逃げ出したら、シャチョーがどうなってしまうかわかりません」
ムーナの言葉にスバルたちは何も言えずに立ち尽くしてしまします。
「……。あるところニ、魔界からやってきた半神半人ノ月ノ女神ガいました」
そんな彼女たちに、ムーナが独り言のように喋り始めます。
「月ノ女神ハとても孤独でした。そんなある日、女神ニうさぎガ話しかけてくれました。うさぎハ『ラピスラズリちょうだい』ト言いました。女神ハ驚きましたガ、うさぎノためにラピスラズリヲ探すことニしました。うさぎト仲良くなりたかったからです。二人ハ仲良くなり、女神ハうさぎノ会社デ働くようニなりました。うさぎハいつも『へいムーナ!』ト呼びかけて、女神ニ大変な仕事ヲさせました。でもうさぎハ本当ハとても優しくて、女神ガ会社ニ入ってすぐノころ、女神ノためニ会社ロゴ入りノ白衣ヲ自作してくれました。女神ハとびきりノ笑顔デそれヲ受け取って、ずっとずっと大切ニ着続けました」
そこまで喋り終えてから、ムーナはポロポロと泣き出しました。
「皆さん。ごめんなさい。でも私ハ、シャチョーを危ない目ニ合わせるようなことできないんです」
「シュバルババ」
(そうだよな)
少ししてからスバルが頷きます。
「スバル先輩?」
「シュバ、シュバルシュバルバシュバルババ。シュバアバシュバルルバシュバルルシュバシュバシュバルシュバ」
(いや、だってムーナの立場じゃさ。ぺこらが人質になってるんじゃ仕方ないじゃん)
「そうですけど」
「シュバシュバシュバルシュババシュバルルバシュバシュバルバシュバルシュバシュババシュバルシュバシュババシュバ。シュバルバシュバルルシュバルババシュバルルバシュバルシュバルバシュバルシュバシュバシュバルシュバ。シュバルシュババシュバルバシュバシュババシュバシュバルルバシュバルルシュバルシュバシュバルルバ。シュバシュバルバシュバルルシュバルルシュバ」
(そもそもスバルたちの目的は魔王城に入る方法を探すことだったしさ。向こうがレジェンド所有者を城内に誘い出そうとしてるなら好都合シュバ。それにここで余計なことするとその計画を変更されるかもしれないし。そうなったら一番面倒シュバ)
「でも、本当にレジェンド所有者を誘き出すためだけにこんな大掛かりなことをしているのでしょうか。まるで三文芝居のような展開です」
「してるんだろうよ」
フレアが会話に入ってきます。
「おびき寄せるためだけにというが、はあちゃまにとってはスキルを奪うことが何にも増して優先されることだからな。それに彼女だって人格こそクリスタルサビロイで生み出された悪魔のような女だが、身体は生身の人間だ。食事を取らなくちゃ生きていけない。そんなやつがすべてを暗雲で覆いつくして作物も育たないような暗黒世界を作ろうとは考えないだろう」
「まあ、そうですね」
「え? なに? どういうふうに話がまとまってるにぇ?」
シュバル語がわからないみこがるしあに聞きます。
るしあは先の会話をキアラ、みこ、ポルカに伝えました。
「たしかにそうデスね」
キアラが納得したように頷きます。
みこはホッとしたような顔をして、ポルカはそんなみこを見て微笑みます。
「そういうことなら、もう用は済んだということで。ポルカたちはそろそろ館に帰るとしますか」
「ムーナ。みこたちがきっと兎田を助け出すから、おまえもあとちょっとだけ辛抱するにぇ」
「うん」
スバルたちはフレアの館に戻ることにしました。