勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
はあちゃまの通告から一週間が経ちました。
「久しぶり。業深き潤羽一族の娘とアヒル、そして愉快な仲間たち」
スバルにるしあ、キアラ、ホロファイブの四人とフレア、みこが魔王城に向かうための支度をしているところにシオンがやってきました。
「シュバ。シュバルババ」
(おう。久しぶり)
「おいシオン。おまえ今、一番付き合いの長いあたしを愉快な仲間って一括りにしたな」
「まあまあまあ。細かいこと気にしちゃ駄目だって」
納得できない顔のフレアにそう返して、シオンは「よいしょ」とフェニックスの背中に上がろうとします。
「シオンさんも一緒に来るんですか?」
「まね」
るしあの問いかけに彼女は当然とばかりに頷きます。
「複数のスキルを吸収したクリスタルサビロイの所有者VS残ったレジェンド所有者の大決戦、こんな面白そうなもの放っておくはずないじゃん」
「千里眼でも見れるんじゃないですか」
「わかんないかなあ。生で見たいんだって生で。シオンの千里眼も3Dの迫力には負けるからさ」
「もう勝手にしてください」
呆れたように言うるしあに「うん。勝手にする」とシオンが頷きます。
シオンはフェニックスの上に乗ってから彼の首の横に腰を下ろしました。
「あー!」
それを見たねねが叫びます。
「そこねねの特等席!」
「黙れチビ。あー、もしかして年功序列って言葉知らないのお? あんたは最後尾に座ってな」
「あんただってチビじゃん! 退けよそこ!」
「ちょ、帽子掴むな! あんたこれがどれだけレア度の高いアイテムかわかってんの!」
「知らねえよ! いいから退けよ!」
「やめろ! ああもうやめて!」
シオンとねねが掴み合いのキャットファイトを始めます。
「シュババシュバル」
(ガキが二人)
「ですね」
スバルとるしあが同時にため息をつきました。
◇ ◇ ◇
シオンとねねのごたごたがあったものの、スバルたちは魔王城に向かって出発します。
「スバル先輩! フレア! 皆さん!」
その道中、彼女たちは同じ方角へ向かうノエルと鉢合わせました。
「あ。ノエルさん」
挨拶するノエルにるしあが会釈を返します。
それからふと、るしあは彼女が乗っている動物の方へ目をやって、
「あの。なんなんですか、その動物」
と尋ねました。
「ああ。この子ですか」
ノエルが苦笑します。
彼女が騎乗しているのは馬ではありませんでした。
サイのような見た目をした大型動物です。
「団長の愛馬でありまっする。一般的な馬ではソセレ合金の重量に耐えられませんので、騎馬する際にはいつもこの子に走ってもらっているのです」
「はあ」
「ところでこの時刻にこの方角、るしあさんたちの向かう先も魔王城でありますか?」
「はい。もしかしてノエルさんも?」
聞き返するしあに「はい」とノエルが答えます。
「ご存知の通り、団長はすでにレジェンドソーセージ、マグマ・ホットドッグのスキル『断末魔』を奪われてしまったのですが、それでもレジェンド所有者であるからにははあちゃまと残ったレジェンド所有者たちの戦いを見届ける義務があるのではないかと思っていまっする」
「シュバ。シュバルババ」
(まあ。そうだよな)
「では一緒に行きましょう」
「はい」
◇ ◇ ◇
ノエルと合流してからしばらくフェニックスを走らせるスバルたちの視界に、魔王城が見えてきます。
「あれ? もうすでに誰か来てますね。まだ正午まで二時間近くあるのに」
「シュバルバ」
(そうだな)
魔王城の城門前には一つの人影がありました。
「来た来た。おーい! スバルー!」
その人物がフェニックスに気づき、スバルたちに向かって手を振ります。
「シュバ!」
(げえ!)
思わずスバルは苦虫を嚙み潰したような顔をしました。
「あ。すいせいさんデスね」
手を振っているのは星街すいせいでした。
魔王城の門前に到着したフェニックスからキアラ、るしあ、フレア、シオン、ホロファイブの四人が次々に地面に降ります。
しかしスバルはなかなか降りてきません。
「何やってんのよ」
すいせいが焦れたように言ってフェニックスの背中に両手を伸ばします。
「シュバア!」
(ひええ!)
スバルは慌ててすいせいと反対側に飛び降りて駆けだしました。
「え、はあ? なんで逃げんのよ!」
すいせいが呼びかけますがスバルはお構いなしに駆けていきます。
そんなふうに逃げられて何となく癪に障ったのでしょう、すいせいはスバルを追いかけて走り出しました。
引退したとは言えすいせいはもともと俊足な部類に入る剣士です、人間のスバルであればともかくアヒル状態のスバルでは逃げ切れるはずがありません。
すぐに捕まってしまいました。
「シュ、シュバル! シュバルルシュバ!」
(は、放せ! 放してくれ!)
「シュバシュバシュバシュバうるさいわね。何言ってんのよ」
「あ、あの、放してほしいっておっしゃっています」
るしあが通訳すると、すいせいはスバルを地面に降ろしてやりました。
スバルはすぐにるしあの背後に隠れてすいせいから距離を取ります。
「ほんっと、失礼よね。二年前は瀕死の私をあんなに思いやってくれたのに。久しぶりに再会できて嬉しくないわけ?」
「そういうわけじゃないと思います。ただの照れ隠しなんですよ。許してあげてください」
るしあは苦笑いしながらフォローを入れました。
「それより、あの時のお怪我はもう大丈夫なんですか?」
「この通り」
言いながら、すいせいは右手を握り開きしてるしあに見せます。
それからるしあの目と鼻の先までやってきて、いきなり自分の服の胸元を開けました。
「胸の傷も綺麗に塞がってるでしょ。もう二年も経ってるからね」
小ぶりながら白く張りのある胸が不意に視界に飛び込んできて、るしあは思わず目を逸らします。
「さ、さすが元チームランキング二位ですね。すごい回復力です」
「まあね」
すいせいはさっさと胸元の乱れを戻して気さくに笑い返しました。
「すいせいさんも、はあちゃまと残りのレジェンド所有者の勝負が気になって来られたんですか」
「うん。まあそんなとこ。レジェンド所有者としてこの勝負は見届けなくちゃいけないと思ってさ」
「ノエルさんと同じこと言ってます」
「ノエル?」
すいせいが首を傾げます。
「だ、団長でありまっする!」
すると緊張した様子のノエルが横から会話に入ってきました。
「お会いできて光栄です星詠みの星街すいせいさん。団長、スバル先輩と同じころの世代でありまして白銀ノエルと申します。すいせいさんの現役時代のご活躍、幼き頃からずっと応援させていただいておりました。赤井はあと引退に続く星街すいせい引退のニュースを聞いた時は団長、本当にもう悲しくて悲しくて」
「え。もしかして私のファン?」
「いえ。団長はどちらかと言えば赤井はあと寄りで」
「だよね。わかってた」
「いえ、どちらかと言えばという話であって、もちろんすいせいさんのファンでもありまっする。それで今後もし機会があれば、ぜひ一度お手合わせなどしていただけると団長この上なく幸せなのでありますが」
「いや。それってファンとちょっと違うよね」
すいせいは苦笑いしながら返します。
それからるしあの方に向き直って「この子、強いの?」と聞きました。
「はい。ノエルさんは現在トップランカーのチーム『白銀聖騎士団』のチームリーダーです。はあちゃまに『断末魔』のスキルを取られてしまいましたが、マグマ・ホットドッグの所有者でもあります」
「めちゃくちゃ強いじゃん。ていうか今の私より全然強くない? 手合わせとか絶対嫌なんだけど」
「いえ。そこをなんとか」
ぐいぐいとノエルが前のめりに頼みます。
すいせいはどうにか断れないかと苦笑いを浮かべます。
スバルはそんな二人のやりとりを覗き見ながら、
「シュバ! シュバル、シュバルシュバシュバシュバ! シュバア!」
(やれ! ノエル、もっとぐいぐい行け! 行けえ!)
と、ひそかにノエルを応援します。
そんな時です。
「あ! ここだここだ! 魔王城!」
ちょうどスバルの後方から女性の大きな声が聞こえてきました。