勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「おい」

 

 るしあが船長たちと話している一方、フレアがアキロゼの前にずいっと立って声をかけます。

 

「なんだ」

 

「なんだ、じゃないだろう。さっきから見ていればずっと腕を組んで偉そうにすまし顔なんかして。この耳を見ろ、あたしはエルフだ。しかももう千年以上も生きている長寿のエルフだ。おまえ一見人間のようだがあたしにはわかるぞ、エルフと人間の混血だろ。ならばもっと同族の年長者に対して取るべき態度というものがあるだろう」

 

「取るべき態度?」

 

「そうだ。別にあたしだって敬語を使えとか礼儀を払えとか喧しいことをいちいち言うつもりはないし、心から敬えと言っているわけでもない。しかしその体を成すくらいはしろ。自分より何十倍も生きている同族に対して腕組みすら解かない無礼、ひと昔前だったら不敬罪で磔にされてもおかしくないんだからな」

 

 珍しくフレアがそんなことを言って突っかかります。

 

「ふん。バカバカしい」

 

 アキロゼは鼻で笑いました。

 

「種族、血統、生きた歳月、それらによる上下関係など他者にマウントを取りたいバカが勝手に考えて人に押し付けてるだけのタチの悪い妄想でしかない。なぜ私がそのくだらない形式に合わせてやらねばならないのだ」

 

「な、なにい」

 

「よく覚えておけ長寿のエルフ。重要なことはどれだけ生きてきたかではない。どのように生きてきて何を成してきたかだ。私が腕組みしているのを見て何もわからず浅はかに突っかかって来るおまえは、よほどつまらない人生をただただ無為に過ごしてきたのだろうな」

 

「なんだと!」

 

「シュバルシュババシュバア。シュバルバシュバルバシュバルシュババ」

(ムキになるなフレア。図星を突かれたからといって)

 

「やかましい!」

 

「おまえの方が余程やかましい。いいか。私が腕を組んでいるのはこの両拳を不用意に人に振るわないよう常日頃から心がけているからだ。私の拳は剣士のソーセージと同等の殺傷威力を持つ危険な武器、剣士が日頃からソーセージフォークをレッグバッグに納めているようにこうして拳を封印しているのだ」

 

「くそ! 中二病が! 格好つけやがって!」

 

「好きに吠えているといい」

 

 言ってアキロゼはまたそっぽを向きます。

 フレアは苛立ち気に顔を顰めました。

 

「まあまあお二人とも、仲良くしマショウよ」

 

 キアラがそんな二人の間に入って取りなします。

 

「アキロゼさんは相変わらずとして。どうしたんデスかフレアさん、いつもねねたちが小バカにしても笑って許してるじゃないデスか。らしくないデスよ」

 

「別に許してやってるわけじゃないけどな!」

 

 そう訂正してから「まあ、あたしも大人げないって自覚はあるんだけどさ」とフレアは続けます。

 

「こいつの素で人を見下すような態度、妙に身近の誰かに似ている気がして我慢ならない」

 

「シオンさんデショウか」

 

「かもしれん」

 

「おまえら聞こえてるからな!」

 

 シオンが二人の会話に割り込んで怒鳴ります。

 一方、

 

「今、フレアと言ったか?」

 

 アキロゼがやや驚いたようにキアラに尋ねます。

 

「はい。言いマシタが」

 

「まさか不知火フレアか」

 

「? はい」

 

 頷くキアラに、アキロゼは何か考えるように口元に手を添えます。

 それから品定めするような目でフレアをじろじろ見始めました。

 

「な、なんだ! やる気か! おお!」

 

 妙な威圧感にたじろぎながらも、フレアは虚勢を張って怒鳴ります。

 

「……」

 

 しかしアキロゼは無言です。

 かと思えば彼女は急にしゃがみ込んで自分の荷物のなかを探りだし、何かを手に持ち立ち上がります。

 それからフレアに向き直るのですが、すぐにぷいと顔を逸らし、誰かほかの人を探すように辺りを見回します。

 彼女はちょうどすぐそばにいたキアラを肘で軽く突きました。

 

「?」

 

 キアラは不思議そうに首を傾げてから突き返します。

 それがニ、三度繰り返されます。

 アキロゼは「ちっ」と舌打ちしました。

 直後、彼女は肘ではなく肩をキアラにぶつけます。

 その勢いはかなりのものだったようで、キアラは「いたあ!」と悲鳴を上げて尻もちつきました。

 

「あ」

 

 それを見たアキロゼは我に返ったように呟きます。

 それから座ったままのキアラを起こしてあげようとしてでしょう、彼女に手を伸ばそうとします。

 しかし、その手は横から突き出された何かによって弾かれました。

 いつからそこにいたのでしょう、少し離れたところで待機していたはずのフェニックスの嘴です。

 彼は威嚇するようにカチカチと嘴をかち鳴らしながらアキロゼを睨みつけました。

 

「うう」

 

 フェニックスの威嚇に怯んだというよりは先程の肩あてが負い目にあるのでしょう、アキロゼは弱ったように一歩後退りします。

 

「フェニックス」

 

 キアラがゆっくりと腰を上げ、服に着いた砂埃を払いながらフェニックスに呼びかけました。

 

「おまえはどうして出てきているんだ。向こうで大人しくしていろと言っただろう」

 

 言ってフェニックスの尻をペチンと叩くと、彼はすごすごと歩いていきました。

 

「申し訳ありマセン。フェニックスが失礼をしてしまいマシて」

 

「いや。彼の行動は正しい。悪いのは私の方だ」

 

 アキロゼは「すまない」と言ってキアラに頭を下げます。

 

「別に大丈夫デスよ。私も剣士デスので。ただいきなりでびっくりしてしまいマシタ」

 

「私としたことが、じれったさのあまりつい。いや。本当に申し訳なかった」

 

「じれったさ?」

 

 首を傾げるキアラにアキロゼが何やら耳打ちします。

 すると少しして、キアラが「ああ。わかりマス。よくわかりマスよ」と笑いながら頷きだしました。

 それからキアラは先程からアキロゼが抱えるように持っているものをあずかって、フレアの前までやってきます。

 

「フレアさん」

 

 キアラはそれをフレアに差し出しました。

 

「彼女、フレアさんがソーセージについて綴った本の愛読者なのだそうデス。だからぜひその本の表紙にでもサインしてほしいのデスが、先に喧嘩腰で口を叩いてしまった手前決まりが悪く、私に代わりに頼んでもらえないかと思ってもじもじしていたそうなんデス」

 

「なんでそんな詳細に説明する! 私はもっとこう、『これにサインしてあげて』みたいなさりげないノリをおまえに期待していたのに!」

 

 アキロゼが赤面して怒鳴ります。

 キアラは首を傾げます。

 そんなやりとりを見ていたシオンが「スバ友にそんな機転利くわけないじゃん」と笑いました。

 

「なんだ。要するにおまえはあたしの著作を読んでファンになってしまったと。そういうことか」

 

 フレアは急にニヤニヤしはじめます。

 それから彼女はキアラから古風なブックカバーのなされた本を受け取って、パラパラとページをめくりだしました。

 

「うんうん。よく読み込んでいるじゃないか。紙のパサつき具合からちゃんとわかるぞ。感心感心」

 

「シュバルシュバルシュバルルシュバシュバルルシュバルバシュバルシュバルバシュバルシュバルシュババ」

(本の保存状態からそこまでわかってしまうおまえは気持ち悪いけどな)

 

「今のフレアさん、どことなくぺこら社長に似ていマス」

 

「黙れ黙れ。低IQのスバ友ども」

 

「シュバ、シュバルババシュババシュバルバ! シュバシュバルルバシュバルバシュババ!」

(おま、スバ友をバカと言ったな! その発言は物議を呼ぶぞ!)

 

「あの、スバル先輩が何を言ったのかわからないのデスが、私は褒めたつもりだったのデスけれど……」

 

 フレアはスバルとキアラを無視して本の表紙にさらさらとペンを走らせます。

 それから「ほら」とアキロゼに本を返しました。

 一方アキロゼは無言で、ひったくるように本を受け取ります。

 かと思えばそそくさと皆から距離を取りだし少し離れた場所まで荷物袋を持って早足に歩きだし、そこで本を袋の中に仕舞いだします。

 

「フレアさん。アキロゼさんがフレアさんにお礼を言わなかったのは当然フレアさんに対して失礼なことなのデスが、それだけ彼女のなかに嬉しさと照れ臭さがあるからなんだと思うんデス。どうか悪く思わないであげてください」

 

 キアラが念のためにフォローを入れます。

 

「わかってるわかってる。そんなこと言われるまでもない」

 

 フレアはまだニヤついていました。

 

「いや。なかなか素直に人と接しれないだけで可愛いヤツじゃないか。あんないじらしいヤツに腹を立てるような人間は心が狭すぎるんだよ。むしろかわいそうだと哀れんでやるべきだとあたしは思うね」

 

「シュバルバシュバシュバルバ」

(おまえのことだけどな)

 

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