勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
あやめやココたちが魔王城にやってきてからまた少し時間が経ちます。
「ブオオー! ブオオー!」
遠くから妙な音が響いてきました。
「シュ、シュババ!」
(な、なんだ!)
音のした方に目をやったスバルは、思わず「シュバルル」(マジかよ)と呟きます。
そこにあったのは駕籠を担いだ獣人たちが行列でもってこちらへ向かってくる光景だったのです。
「者ども控えろ控えろー!」
その行列の先頭はころねで、駕籠を担ぐ獣人たちを先導しています。
「我らがゲーマーズのリーダー、白上フブキ様のお通りである! 端に寄れー! 端に寄れーい!」
「ブオオー! ブオオー!」
ちなみにさっきからブオブオうるさいのは法螺貝の音で、ころねの後ろを歩くおかゆが吹き鳴らしているのでした。
威勢のいいころねの声とおかゆの法螺貝に、門前で立ち話をしていたスバルたちは皆門の横に移動します。
獣人たちが背負う駕籠はちょうど魔王城の門前でぴたりと止まり、慎重に地面に降ろされました。
「フブキ様! 魔王城についてございます!」
ころねが駕籠に向かって呼びかけます。
しかし何の返事もありません。
「フブキ様! どうしたのですかフブキ様!」
彼女がもう一度大声で呼びかけると、
「や、やめてよ……」
駕籠の中から、蚊の鳴くようなフブキの声が聞こえてきました。
「こんな登場の仕方、さ、さすがの白上も恥ずかしいよ……」
「何を仰いますやらフブキ様!」
相変わらずのイントネーションに加え何やら妙に敬語で喋るころねに、
「あの。ころねさん」
じっとしていられなくなったるしあが話しかけました。
「一体なんの茶番なんです、これ。あの駕籠のなかにいるのはフブキさんなんですよね」
「バカ者!」
ころねがるしあに一喝します。
「我らの偉大なるリーダー、白上フブキ様に向かって馴れ馴れしく『フブキさん』などと口にするでない! 無礼であるぞねくろまんさー!」
「はあ」
「今このかごの中におられる白上フブキ様を、貴様らが知っている二年前の白上フブキと同じと思うでない! あの憎き性悪のブタ女、はあちゃまに屈辱的な敗北を喫してから」
「ブオオー、ブオオー」
「屈辱的な敗北を喫してから、フブキ様はその悔しさをバネに地獄のような特訓を乗り越えられてだな」
「ブオオー、ブオオ―」
「おかゆんちょっとそれうるさい」
ころねが後ろのおかゆに振り向いて注意します。
「あ。はい」
おかゆは法螺貝を吹くのをやめました。
「えっと、どこまで話したっけ? ああそうそう、フブキ様は地獄のような特訓を乗り越えられ、スーパーサ〇ヤ人ならぬスーパーフブキ様となられたのだ。わかったら気安く『フブキさん』などと呼ぶでない」
「ではスーパーフブキ様とお呼びすればいいですか?」
尋ねるるしあに「ふむ」ところねが満足げに頷きます。
「やめて……」
すると駕籠の中から、またフブキの消え入りそうな声が聞こえてきました。
「スーパーフブキとかマジでやめて。せめてフブキングとかにして」
「だめだめフブキ様」
ころねが首を振ります。
「それだと言葉遊びの遊び心で名前付けてるみたいなんだよ。もっとこう、わからないかなあ。たとえ痛々しくても真剣にネーミングしました感が欲しいんだよ」
「おま、今痛々しいって言ったな! その自覚の上で言ってるって認めたな! ころね!」
騒ぎ出すフブキを無視して、ころねはるしあに向き直ります。
「まあつまりね、ころねたちのリーダーをどうしても名前で呼びたいと言うのであればフブキ様、スーパーフブキ、もしくは白上ver1.2。この三つの呼び方のいずれかにしてくれなくちゃ困るってことよ」
「シュバルババシュババシュバルシュバ。シュバルシュバルルシュバ」
(最後のは何か違うだろ。アプデ更新かよ)
「わかりました。要するにフブキさんをからかって遊んでいるんですね。かわいそうだからやめてあげてください」
るしあが呆れながら言います。
「まあまあ」
すると、獣人の行列の中から狼耳の女性が出てきました。
「ミオさん」
るしあは少しびっくりしたように女性の方を見ます。
彼女は大神ミオでした。
「意外です。ミオさんまでこれに加担しているんですか」
「加担していると言うかなんと言うか」
ミオは苦笑します。
「フブキはこの二年間本当に頑張ってすごい力をつけたんだよ。うちらゲーマーズのチームメンバーは、それが嬉しくて嬉しくて仕方ないんだ。確かにちょっと羽目を外しすぎてるところもあるけどさ、そんな生まれ変わったフブキの初めてのソーセージ戦、しかもそれがはあちゃまへのリベンジ戦ともなれば、とにかく華々しく着飾って最高の晴れ舞台を演出してあげたいっていうのがリーダーを想うメンバーの推し心ってやつじゃないかな」
「はあ」
「それにこういった趣向の行事やイベントがあるといつもサボタージュを決め込むフブキが、今回は恥ずかしいと言いながらも飼い猫みたいに大人しくしてくれてる。フブキもみんなの気持ちがわかるから、嫌よ嫌よと言いながらも満更でもなく付き合ってるんだよ」
「そういうことなら、いいのですが」
るしあは頷きました。
「フブキ様!」
一方、ころねは何度目になるでしょう駕籠のなかのフブキに呼びかけていました。
しかしフブキは出てきません。
「ええい! すだれを上げい!」
おかゆがカラカラと音をさせて、駕籠の戸代わりに取り付けられているすだれを巻き上げていきます。
駕籠のなかを見てみれば、フブキは角の隅のところで頭を抱えながら丸まっていました。
「フブキ様!」
「スーパーフブキ!」
「白上ver1.2!」
ころねだけでなく、おかゆやゲーマーズの獣人たちまで妙な名前でフブキを呼びます。
「……。わかったよ」
フブキは観念したように顔を上げました。
その顔は恥ずかしさのあまり真っ赤に染まっていました。
「ただし、もう変な名前で呼ぶのはやめて普通にフブキって言って。そうしてくれたら出る」
ころねが「そんなあ」と言って渋ります。
しかし、
「わかったー」
隣のおかゆが挙手をして勝手に許可を出しました。
「ふむ」
フブキは大きく頷いてから気合を入れるようにパチンパチンと頬を両手で叩きます。
それから外へ出るために駕籠から身体を乗り出しました。
「足場!」
ころねが声を張り上げます。
「は!」
すると獣人の一人が駕籠のすぐ下で四つん這いになり、その背中でもってフブキの足場代わりになります。
フブキはそれを苦笑してから跨いで地面に降りました。
「フブキさん。しばらく会わないうちにすごい剣士になってしまったのですね」
るしあがしみじみとした調子でフブキに話しかけます。
「やめてやめて。大袈裟だって」
フブキは顔の前で手を振って否定します。
「みんな白上を持ち上げすぎなんだよ。そりゃちょっとは成長したと思うけど、それでも白上なんて他のレジェンド所有者に比べたら全然大したことないんだからさ。大口叩いたあとで恥かくのはもう勘弁だからそろそろ本当にやめてよ」
「こんなに謙虚になられて。フブキさんとは一度会っただけなのに、るしあなんだか成長した我が子を見ているような気持ちになってしまいます」
「だからやめてって」
フブキは困ったように笑いました。