勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
ラミィとはあちゃまの戦いが始まってから数分が経過します。
その間ですでに、彼女たちの優劣は目に見えて明らかとなっていました。
優勢なのがはあちゃま、敗色濃いのがラミィです。
そのことが顕著に表れるのが打ち合いで、ラミィははあちゃまに打ち負けるだけでなく二手三手先まで読まれてしまっているようで、打ち合いが始まれば必ず一撃打ち込まれるという具合なのです。
そんなラミィとはあちゃまの戦闘が今なお続いているのはひとえにラミィが打たれ強い剣士だからというだけで、一方的に傷を負っていくラミィが敗北するのは時間の問題に思われました。
「ズルい」
ラミィとはあちゃまの戦いを観戦するねねがボソリと呟きます。
「なにがズルいんだ」
二人の戦闘から目を離さずにフレアが聞きます。
「ズルいじゃん!」
ねねはフレアの方を振り向き、はあちゃまを指さしながら大声で言います。
「フレアさんもさっきはあちゃまが言ってたの聞いてただろ! スキルのエネルギーを使って強化してるって! 自分の身体を好き放題魔改造してんじゃん! そんなことされたら普通に戦って勝てるわけないし! だからあの卑怯なはあちゃまが一対一の勝負なんていうまともな条件を言ってきたんだよ!」
「違うだろ。一対一にしないと下手すれば五人のレジェンド所有者が一斉に襲いかかってくるかもしれないんだぞ。そうなればさすがのはあちゃまもお手上げ。だから真剣勝負という名目で一対一の形式を押し付けてきたんだ」
それに、とフレアは続けます。
「おまえがズルいと言う身体強化もな、確かにはあちゃまはスキルのエネルギーを使って身体を強化しているが、彼女自身が言ってたように強化しているのは衰弱した身体であって別にスーパーマンのような超人に肉体改造しているという意味じゃないぞ」
「え? なに? もう一回言って」
聞き返すねねにフレアはため息つきます。
「だからなねね、おまえもスバルたちと一緒に赤井はあとだった時の彼女に会って来たんだろう。その時の彼女の身体を覚えているか? 剣士現役時代の無理がたたって腰から下は神経不随、両腕の筋力も衰えて一人では居城で生活するのも難しい状態だったそうじゃないか」
「そうだけど」
当時の赤井はあとのことを思い出してでしょう、ねねは悲しそうに顔を俯かせます。
そんなねねに気づいて「ま。それはさておき」とフレアは声の調子をやや明るくして続けます。
「信じられないかもしれないが、スキル集め初期のはあちゃまはその身体を無理矢理動かして戦っていたんだ」
「えええ!」
予想通りの反応をするねねに「もちろん当時の赤井はあとそのままの状態というわけではない」と捕捉します。
「たとえばかつてノエルと戦っていた時、はあちゃまはクリスタルサビロイのスキルエネルギーをフル活用して脚の神経を繋げ、腕にもソーセージを振るえるだけの腕力をつけさせていた。しかし人間の身体、特に剣士の身体というのは凄まじい身体能力を有するだけあって繊細で複雑なんだ。すでに手遅れになっている肉体をスキル一つ分のエネルギーだけで現役時代同様に動かすなんてことできないんだよ。彼女の持つスキルがクリスタルサビロイの『生命』のみだった時、もしくは二つ三つ程度しか持っていなかった時、彼女の身体能力が赤井はあとの現役時代から程遠かったことは間違いない」
「でも今はめっちゃスキル持ってんじゃん!」
「話を最後まで聞け。確かにスキルのエネルギーを使えばどれだけでも強化できる。できるがな、人間の身体の方に限界がある。あたしの言っている意味がわかるか」
「わからん!」
「ソーセージ研究者間で有名な格言と言うか警句みたいなものがある。『ソーセージを改良することはできてもスキルを得ることはできない。得ることができないという教訓を得るのみである』ってな。一部の迷信深い連中はそれを『ソーセージの神のたたり』だとか『禁忌の領域に踏み込んだ天罰』だとか好き勝手言っているが、全くもってそうじゃない。もっと科学的な理由があって困難なんだ」
「あー。うん」
「どいつもこいつもスキルの力をバフだの向上効果だのと簡単に言うが、そもそもあれは人間の身体に特殊な刺激を与えて筋肉を一時的な膨張状態にさせることで強化しているんだ。それがバフだ。そうだからこそスキルを作り出すのは難しいんだ。さっきも言ったが人間の身体は繊細で複雑なんだよ。与える刺激が少なすぎれば筋肉は少しも膨張しないし、わずかでも多すぎれば破裂して使用者の剣士生命が終わる。ただでさえ難しいその匙加減が個人差によってまた変化する。スキルのバフっていうのは訳のわからないレベルのバランスでもって成り立っているんだよ。すべてのスキルに発動条件があるのも理由があるんだぞ、使用時間を何らかの形で限定しないと使用者の身体がもたずに壊れてしまうからな」
「なんか知らんがレジェンドソーセージすご」
「すごいのははじまりの十二本だよ。あれらはそらの魂が分け与えられた、言わばそらの分身だからな。一本一本が生きているんだ。だから己の所有者がスキルを発動する際にその身体が崩壊しないようにと慮って、絶妙なバランサーとしての役目を果たしているんだ」
「へー」
「すまん。あたしとしたことが話が脱線しすぎた。何が言いたかったかと言えばだな、スキルを使いこなすはあちゃまであってもそんな繊細で複雑な人間の身体を好き勝手強化することはできない、ということだ。個人には個人の器の限界というものがある。いくら栄養のある食べ物を摂取しても必要以上の養分は吸収されずに排斥されるだろ。そういうことだ。身体強化をギリギリのレベルまで施したとして、せいぜいたどり着くのは赤井はあと最盛期の状態まで。おそらく今がそうなんだろうよ。それ以上は彼女の身体がもたないんだ。だからほら、はあちゃまも他のレジェンド所有者と同じように発動条件のしばりがあるスキルをそのまま使って一定時間強化してるんだしな」
「ふうん」
わかったようなわからないような、そんな反応でねねが頷きます。
それから彼女はもうフレアには何も聞かず、大人しく観戦に戻りました。
フレアもラミィとはあちゃまの方に目を向けようとします。
「ちょっと」
するとそんな彼女に、誰かが声をかけてきました。
「さっきから黙って聞いてれば、半人前の剣士に適当なこと吹き込まないでよ」
「適当なことだと」
思わずムッとなったフレアが振り向きます。
「そうよ」
声の主は星街すいせいでした。
「今戦っているあの女が最盛期の赤井はあと? 剣士のことを何もわかってないくせにわかったようなこと言わないでちょうだい」
「なに」
「あなたは全然わかってないわ」
すいせいはフレアにそう言ってから、そばで観戦しているねねの頭を掴んで「あなたもよく聞いて」と無理矢理自分の方へ向かせます。
「いい? あなたたち。剣士の強さっていうのは身体能力だけで決まるものじゃないわ。もしそうならチームランキングの上位は獣人によって独占されてるはずでしょ。剣士として重要なのはそうした身体的側面よりもむしろ精神的側面の方なのよ」
「ねえ。この人なんか精神論持ち出してきたよ」
ねねがボソッとフレアに耳打ちします。
すいせいはそんな彼女を睨みつけて黙らせますが、少ししてから「はあ」と大きくため息つきました。
「まあ今のあなたにはわからないから仕方ないわよね。もう少ししたら見えるようになると思うけど、一定レベルを超えた剣士は各々のオーラを纏うようになるのよ。赤井はあとがあらゆる剣士から一目置かれたのは彼女の身体能力が優れていたからじゃない、彼女のオーラが異様な輝きを放っていたからよ。念のために言っておくとオーラは濃度や色合いで優劣が付けれるようなものじゃない。それでもあの輝きは皆の注目を独占したわ」
「へえ」
先のフレアの話よりも興味ありげにねねが相槌を打ちます。
「そんなにすごいんだ。はあと」
「ええ。実際の精神力ももちろん並外れていたわ。強豪ぞろいの剣士たちを全く寄せ付けないくらいにね。だからこそ激動期にトップランカーとして君臨したんだし、引退してからも歴代最強の剣士として一目置かれ続けたのよ。わかった? それなのに身体能力が同じというだけでさもあの下位互換人格が現役時代の赤井はあとと同格だのなんだの言ったら、赤井はあとがかわいそうでしょ」
「そうだね。ごめん。フレアが悪いや」
「おいコラ。あたしは客観的事実をそのまま教えてやっただけだろうが」
「わかればいいのよ」
すいせいはフレアを無視してねねの両肩に手を置き、膝を折って彼女の目線の高さに合わせます。
「忘れないで。剣士として大切なのは身体の強さより心の強さよ。どんなに優れた戦闘機でも操縦するパイロットが二流三流だったら十分に活かすことができないのと一緒。赤井はあとは敵味方問わず思いやることができるとても強い心の持ち主だった。だから最強の剣士だったの。あなたもそんな強い剣士になりなさいね」
「うん!」
すいせいの言葉にねねは力強く頷きました。
一方、
「くッ」
ラミィとはあちゃまの戦闘では、ラミィが苦しげに呻いて地面に片膝を付けたところでした。
「ようやく膝を付いたわね雪花ラミィ。その無意味に高い耐久力、顔が肝臓なだけのことはあるわ」
笑いながらはあちゃまが彼女を見下ろします。
「ぶっちゃけ今、あなたは自分の打たれ強さが恨めしくなっているんでしょう。倒れるまでずっとずっと痛い思いをし続けなくちゃいけないものね。でも安心しなさい。もう終わりにしてあげるから。ああそうそう私が次にソーセージを振るったら、わざと受けて死んだふりして密かに降参しても良いのよ。私はそれを知らないふりしてあげるし、外目にはクリティカルヒットさせたような演出をしてあげるから」
すでに勝利したつもりでいるのでしょう、はあちゃまはべらべらと話しかけます。
「ふん」
ラミィはそんな彼女を鼻で笑いました。
「何がおかしいのかしら」
気に入らないと言いたげな顔ではあちゃまが聞きます。
「おかしいよ。すごくおかしい」
ラミィはゆっくりと立ち上がります。
「終わりにする? それってつまりもう勝った気でいるってことでしょ。全然そんなことないのに」
「なに」
「まだ勝負は終わってないわ。むしろこれからが始まりなんじゃない!」
声を張り上げるラミィの目が灰色に染まりました。