勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「終わり? 違うわ! これからが始まりなんじゃない!」
声を張り上げるラミィの目が金色から灰色に変わります。
その目の変色はスキル発動の証です。
しかし、
「あれ?」
観戦するるしあは目を瞬かせました。
ラミィの所有するレジェンドソーセージ、スケルトンソーセージのスキル「執着」が発動していないのです。
「執着」は残り体力が25%以下であることを条件に発動できる防御スキルであり、使用者に氷の鎧をまとわせ受けるダメージ60%軽減させます。
ですが「執着」を発動させたはずのラミィは氷の鎧を装着していません。
スケルトンソーセージの形状のみスキル発動時の骨だけ状態となり、当のラミィが発動前と一切変わらぬ姿形のままなのです。
「もしかして不発?」
るしあは首を傾げて呟きました。
それから「くしゅん!」とくしゃみをし、寒そうに身体を擦りだします。
「シュバルルシュバシュバア」
(大丈夫かるしあ)
「はい。こんなの全然。へっちゃらです」
しかし少ししてからまた「くしゅん!」とくしゃみをし、鼻をすすって身震いします。
「でも寒いですね。なんでしょう、急に気温がグッと下がったような。ああそっか、『執着』は氷属性のスキルですもんね。密閉された空間で発動するとこんなにも周囲に影響を与えるんですね」
るしあは自分の問いに自分で答えて「うんうん」と頷き納得します。
「シュバ」
(いや)
しかしスバルは首を振りました。
「シュバルルシュバルルシュバシュバルババシュバルルシュババシュバルバ。シュバルシュバルルバシュバルバシュバルバシュバルルバ」
(密閉空間でもここまでの気温変化は異常だ。スキル発動が不発であるなら尚更な)
「じゃあどうして」
スバルはラミィの方へ視線を向けます。
「シュバルバシュバシュババ」
(多分だけどこれは)
◇ ◇ ◇
「あきれて過ぎて開いた口が塞がらないわ雪花ラミィ」
はあちゃまが嘲るように笑います。
「スキル発動を失敗するレジェンド所有者なんて、私この目で初めて見たわ。残り体力の計算を間違えてしまったのかしらねおバカさん」
軽口を叩くはあちゃまですが対するラミィは無言です。
はあちゃまはつまらなそうに「ふん」と鼻を鳴らしました。
「雪花ラミィ、あなたには本当にがっかりよ。イキがるあなたの先の言葉を真に受けて、やっと勝負らしい勝負ができるのかしらと心躍らせた矢先にこれだもの。仲間たちからの心象も気にしておいた方が良いわよ。まだ潔く降参していたら負けるにしてもいくらか格好がついたでしょうに、こんなみっともない終わり方だと」
「ねえ」
はあちゃまの喋りを遮って、ようやくラミィが口を開きます。
「いつまで下らないことをベラベラと喋っているの。あなたの話なんてどうでもいいし、ラミィは早くかかって来てほしいんだけど」
「上等じゃない」
はあちゃまは作り笑みを浮かべながらブン! とクリスタルサビロイを一振りします。
「打ち合いでは一方的にボコられスキルを発動させようにもまさかの不発、そんな下らない剣士が私の話を遮って偉そうなこと言ってんじゃないわよ!」
はあちゃまがラミィに向かって駆けだします。
そうしてクリスタルサビロイを振りかざし、ラミィの身体を袈裟斬りに斬りかかろうとします。
「不発? 違うわよ」
ラミィは防ごうとも避けようともしません。
ただ立ったままではあちゃまを見返します。
「『執着』はとっくに発動しているわ。あなたにとって最悪の形でね」
ラミィがそう言い終わるや否やのタイミングで、それはつまりはあちゃまが彼女を斬りつけるまさに直前のタイミングで、ラミィの背後から何か棒状のものが凄まじい速度ではあちゃま目掛けて飛んできます。
はあちゃまはすかさず剣の振り下ろしを中断し、逆袈裟でもってそれを弾き飛ばしました。
クリスタルサビロイによって弾かれ軌道が直角に折れたそれは真っ直ぐ天井に突き刺さり、ガツン! と鋭い音を響かせます。
皆の視線が天井に突き刺さるそれに集まります。
それから一瞬遅れて、城内にどよめきが走りました。
「つらら?」
るしあがボソリと呟きます。
彼女の言うとおり、天井に突き刺さっているそれは1メートル弱はありましょう槍のように均整とれた形状をしたつららでした。
「すごい。あれラミィが出したんですよね。どうやって飛ばしたんでしょう」
「シュババシュバシュバシュバルルシュバルバ」
(そこじゃねえだろ驚くところは)
「え?」
振り向くるしあに、スバルは天井に突き刺さっているつららを見上げながら続けます。
「シュババシュバルシュババシュバ、シュバルババシュババシュバルシュバルババ」
(おまえ見てなかったのか、はあちゃまがあれを弾き返したのを)
「見ていましたが」
「シュバシュババ。シュバルルババシュババシュバルルシュバルバ。シュバシュバルバ」
(なら気づけ。ソーセージによって弾かれてるんだ。あのつららは)
スバルに言われてから改めて、るしあは天井のつららを凝視し「あ!」と声を上げます。
「折れてない! ソーセージに打たれてるのに!」
「シュババ」
(そうだ)
スバルは頷きます。
「シュバルルシュバシュバルバシュバルルシュババ。シュバシュバル、シュバルルババシュバルルバシュバシュバルバシュバルルバシュバルバ」
(それどころかヒビすら入っていない。あのつらら、ソーセージと同等かそれ以上の硬度ってことだぞ)
「ど、どうしてラミィさんがそんなすごいのを」
「シュババ」
(さあな)
スバルは視線をラミィの方に向けます。
「シュババシュバルバシュバルルシュバシュバルルバシュバルバ」
(それを今から説明してくれるんじゃないのか)
◇ ◇ ◇
「バカな!」
天井に突き刺さったつららを見上げ、はあちゃまが愕然と声を上げます。
「この魔王城の壁は全面ソセレ合金によってコーティングされているのよ! 突き刺さるなんて! あのつらら一体どれだけ硬度があるのよ!」
「知らないわ」
ラミィが答えます。
「でもソーセージよりは確実に硬い。そうでなくちゃ実戦で役に立たないもの」
はあちゃまは視線をラミィに戻します。
ラミィの後方には天井に突き刺さっているものと全く同じ形状のつららが十数本、まるではあちゃまに標準を合わせる鉄砲のつつのようにして宙に浮いて展開しています。
「ラミィはずっと、この『執着』のスキルが好きじゃなかった」
ラミィは苦々しい顔をして語り始めます。
「度々起こる桐生会とのチーム抗争。攻撃バフスキルのかかった桐生ココの猛攻で次々倒れていく雪民たちを目の当たりにしながら、ラミィはただ自分を守ることしかできない『執着』のスキルをどれほど恨めしく思ったかわからない。一刻も早くこの保身的なスキルのソーセージを捨てて攻撃バフスキルのレジェンドソーセージに取り換える、そんなことばかり考えていた」
でも、と彼女は続けます。
「桐生会と休戦を結びホロファイブのみんなとのどかに過ごせたこの二年間という月日のおかげで、ラミィは頭を冷やしていろいろ考え直すことができたんだ。悪いのはスケルトンソーセージじゃなかった。最初からスケルトンソーセージを見限ってしまっていたラミィの方だったんだ。ラミィは『執着』の防御バフのことしか頭に入らず、スケルトンソーセージが持っている無限の可能性を信じてあげていなかった。ソーセージを信じる者は救われる、余裕のなさのあまりそんな当たり前のことすら忘れていたのさ。だからラミィは深く反省し、スケルトンソーセージのすべてを理解して共に強くなろうと決めた。そうして完成したのがこの必殺技だよ」
ラミィは改めてスケルトンソーセージを構えます。
「ラミィはエルフの血が濃いハーフエルフ、母方の家系を遡れば自然魔法を自在に操るエルフの名家にたどり着く。ラミィ自身は魔法使いじゃないけれど魔法力はそれなりに持ってるんだよ。そして雪国出身のラミィにとって氷属性のスケルトンソーセージは魔杖としてまさに相性抜群のソーセージだった。属性効果が最も高まるスキル発動状態時であれば、魔法使いでないラミィでもスケルトンソーセージに魔法力を送り込むことで氷属性の魔法が使えるんじゃないかと思ったわけよ」
「なるほどね」
「覚悟しなさいはあちゃま! あなたはラミィを怒らせた!」
「急に怒りださないでちょうだいよ」
「喰らいなさい! ラミィの超必殺技『受け継がれし金色の弓』!」
「シュバルシュバルルシュバルルバシュバルシュバシュバ! シュバシュバルシュバシュバシュバルバシュバルルバシュバ!」
(よくわからない技名を付けるのはよせ! なぜ自分から黒歴史を作ろうとする!)
ラミィの後方に展開されている氷の槍が次々はあちゃま目掛けて飛んでいきます。
はあちゃまは一本目と二本目をかわします。
しかし立て続けに飛んでくる三本目の回避は難しかったようで、クリスタルサビロイで弾きました。
するといつの間にか近接距離まで迫っていたラミィが彼女めがけてスケルトンソーセージを振り下ろします。
はあちゃまは急ぎクリスタルサビロイをしならせてその一撃を受け止めますが、すかさず氷の槍の四本目が放たれます。
しなりを直す暇もなく、はあちゃまは曲がったままの形状のクリスタルサビロイでどうにか打ち込み槍の軌道を逸らします。
「……ッ」
その直後、彼女の左脇下あたりに凄まじい衝撃が走りました。
追撃するラミィによるスケルトンソーセージの一撃です。
横なぎに振るわれたそれをまともに受けて、はあちゃまは真横に飛ばされ壁に激突します。
それを目で追いながら、ラミィはまたゆっくりとスケルトンソーセージを構え直しました。
そんなラミィの後方では消費した分のつららがあっという間に生成され補充され、また十数本の氷の槍がはあちゃまをロックオンした状態で展開されます。
「ちッ」
起き上がったはあちゃまは苦々しげに舌打ちしました。