勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
ラミィが氷の槍を使い始めてから、ラミィとはあちゃまの形勢はまさに逆転しました。
はあちゃまがラミィに圧倒され防戦一方に追い込まれているのです。
しかし誤解無きようこの場を借りて補足しておきますと、ラミィの氷の槍がまるで手の付けられないほど完成度の高いものであるというわけではありません。
例を一つ上げれば命中精度の低さで、先程はあちゃまがやや遠くに距離を取った折ラミィが例の槍を一本放ったのですが、それははあちゃまの約一メートル横を過ぎていってしまったのです。
また一度放った槍はコントロールが効かないようで、避けられた槍はズドンズドンと次から次に壁に突き刺さり、はあちゃま後方の壁一面は針山アートの様相を呈しています。
加えて槍の軌道は直線のみ、透明人間が槍を振り回すような動きは当然不可能として、ちょっとした変化球のような投擲すらできないのです。
つまりせっかく遠距離攻撃が可能そうなのにその真価を発揮するのは近距離戦のみであり、また単純な直線の動きしかないのです。
ですが、にもかかわらず未だにはあちゃまが劣勢に甘んじているのは氷の槍の硬度がソーセージ並であることに加え、投擲し消費した直後にはもう補充されているという驚異的な回転率を出しているからでした。
さらにはラミィが氷の槍を、相手に隙を作らすための補助攻撃としてのみ使用すると割り切っているようでして、たとえば槍でとどめを刺そうとしたり槍の投擲と同時に自分も斬りかかりに行ったりというような雑な使い方をせず、あくまでとどめは自身のソーセージで刺しに行き、なおかつ相手が隙を出すまでは頑なに動かないという具合であるのです。
要するに全く隙を見せないのでした。
「……」
しかし意外なことに、そんな断然優勢のはずのラミィは防戦一方のはあちゃまに不気味な静けさのような嫌な予感を感じていました。
特に気がかりであるのは彼女の視線で、自身に向かってくる氷の槍やラミィのスケルトンソーセージなどほとんど見ておらず、なぜかラミィの手やら足やら身体のあちこちを品定めしているかのようにジロジロ見てくるのです。
……もしかしてはあちゃまは攻撃できずに防戦一方になっているわけではなく、何か考えがあって攻撃して来ないだけなのではないか?
剣士としてのラミィの直感が、断然優勢のはずの彼女自身にひしひしとそんな警告信号を飛ばしてくるのでした。
「!」
そしてはあちゃまが動きます。
ラミィに向かって全力疾走と思われる速さで駆けだしてきたのです。
はあちゃまはとにかく距離を詰めたいと考えているようで、ラミィが迎撃に放つ氷の槍もほとんど相手にせずクリスタルサビロイで鬱陶しそうに振り払う程度、そのため何本かは腕や足に突き刺さります。
それでも彼女は速度を緩めることなく直進してきます。
そんな特攻じみた肉薄でしたので、はあちゃまはあっという間にラミィのすぐ前までやってきます。
しかし一方ラミィとしては、なぜそうまでして彼女が距離を詰めようとするのか今一わかりませんでした。
確かに何かしら動かなければ戦いの流れは変えることができませんが、だからと言って捨て身で突っ込み相当の傷を負ってまでそうする価値があるのでしょうか。流れが変わるどころかますます彼女の旗色が悪くなるだけではないでしょうか。
そもそも一気に距離を詰めたからと言って、はあちゃまに何ができるというのでしょう。
ラミィからすれば先程まではあちゃまがしていたような一定距離を保ちながら飛びかかりまた距離を取る、ボクシングで言うヒットアンドウェイ・スタイルのような戦い方が氷の槍を当てづらく最も厄介であったので、むしろ相手の方からわざわざ突っ込んでくるなら氷の槍の的が大きくなり鴨ネギの心境ですらありました。
しかし何らかの狙いがあっての行動であることは明白なのです。
ラミィははあちゃまが攻撃に移る前に再び距離を開けようと後ろに跳ねます。
ですがそうしながらも抜け目なく氷の槍の標準を合わせ、足を止めたはあちゃま目掛けてそれらを五本放ちました。
一方はあちゃまは距離を取るラミィを追おうとはしません。
それどころか飛んでくる氷の槍にすら注意を払っていません。
ただ静かにやや左に視線をやりながら何かを目で追っており、その見ているものが移動しているのでしょうか少しずつ彼女の視点が正面に向いていきます。
かと思えば唐突に、はあちゃまは自分に向かってくる氷の槍をまるで無視して、全く違うところにクリスタルサビロイを振るいます。
するとパシンと音がしました。
その直後、はあちゃまに向かって突き進んでいた五本の槍は急ブレーキを踏まれたような不自然な減速をして、彼女にたどり着く直前でガラガラ音をたて地面に落ちてしまいました。
それから少し間をあけて、またペタンと軽い音がして地面に何かが落ちます。
「だいふく!」
それはだいふくでした。
ラミィは思わず大声を上げました。