勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
戦闘中つねにラミィのすぐ側で金魚の糞のごとく浮遊していただいふくでしたが、急に後方へ移動してしまうラミィにはなかなか追いつけませんでした。
はあちゃまは、そんなもたもたと移動するだいふく目掛けてクリスタルサビロイを振るい、彼を地面に叩き落としたのでした。
「だいふく!」
ラミィが倒れただいふくに駆け寄ります。
「だいふく! しっかりして! だいふく!」
彼女は動かないだいふくを揺すって懸命に呼びかけました。
「私としたことが、まんまとあなたたちに騙されるところだったわ」
はあちゃまがそんなラミィを見下ろしながら口を開きます。
「まさか氷の槍を生成しているのが瓢箪クマの方だったなんてね」
「何を言っているの」
ラミィがはあちゃまを睨みつけます。
「あれはラミィが魔法で作り出しているのよ! だいふくは関係ない! 変な言いがかりをつけてこの子を攻撃しないでちょうだい!」
「あきれた。まさか本当に気づいてないの」
はあちゃまはため息をつきます。
「ソーセージレベルの硬度の物質を生成するなんて並々じゃない高等魔法よ。それを、魔法力を持っているというだけで剣士に過ぎないあなたが一朝一夕に身に着けて、しかも戦闘しながら使いこなしていた? そんなこと本気で言っているのかしら」
「一朝一夕なんかじゃない」
「私ははじめ、あなたが何かの呪具か魔道具を装備しているんだと思ったわ。まさかこんな瓢箪が魔法を使うなんて考えてもいなかったから。そのおかげでカラクリに気づくのに随分と時間を取らされた」
「だから違うって言ってるでしょ!」
「あーうるさいうるさい」
はあちゃまが虫を払うように手を振ります。
「じゃあ今ここであの氷の槍を出してみなさいよ。この至近距離であれを頭にぶち込まれたら、さすがの私もどうすることもできないわよ」
ほらやってみなさい、と挑発するはあちゃまにラミィは歯を噛み締めます。
怒りで髪を逆立て目を見開き、握りしめるスケルトンソーセージに魔法力を送り込みます。
するとラミィの周囲の気温が劇的に低下しました。
しかしそれだけです。
氷の槍は全く出てきません。
はあちゃまは嘲笑を浮かべながら黙ってその様子を見ています。
「この!」
ラミィはさらに魔法力を込めました。
直後、彼女の背後に一本の氷の槍が生成されます。
それはすぐさまはあちゃまの頭部めがけて突っ込んでいきました。
はあちゃまはクリスタルサビロイで氷の槍を弾きます。
軌道を曲げられた槍は天井に突き刺さりました。
「ほらね」
そういうはあちゃまの視線の先へラミィはゆっくり目をやります。
それはラミィの左肩の横でした。
いつの間に起き上がっていたのでしょうだいふくが、そうしているのがやっとという具合で浮遊しながらはあちゃまを睨んでいました。
「魔法力を持ってるくせにその流れを見ることができないの? 確かに魔法力って材料を用意しているのはあなたよ雪花ラミィ。でもその魔法力を上手く捏ねくり合わせて氷の矢を作り出しているのはそこの瓢箪クマの方なのよ。それでもまだ違うと言うなら、またそいつを気絶させてあげるからもう一度試してみなさいよ」
言ってはあちゃまがクリスタルサビロイを振りかざします。
「だいふく!」
ラミィはだいふくに呼びかけました。
「ラミィの後ろに! 早く!」
はあちゃまの振り下ろすクリスタルサビロイをラミィがスケルトンソーセージで受け止めます。
その隙にだいふくはラミィの背後に隠れました。
「やっと尻尾を出したわね雪花ラミィ!」
鍔迫り合いながらはあちゃまが口を開きます。
「勝負直前についてくるなとか何とか言って一芝居うち、カラクリがバレてなお白を切るも、とうとう隠し通せないとわかるや否や後ろに下がらせるその抜け目なさ! とんだ策士だこと!」
罵倒するはあちゃまにラミィは無言です。
弁明したところで無駄に終わるとわかっているのでしょう、しかし悔しそうに閉じた口の中でギリギリと歯を噛み締めます。
はあちゃまはそんな彼女との鍔迫り合いを解いてから、今度は逆袈裟に斬り上げます。
ラミィは再び受けようとスケルトンソーセージを構えました。
二振りのソーセージが接すると思われたその刹那、クリスタルサビロイが異様なしなりを見せてスケルトンソーセージをかわします。
クリスタルサビロイは空振るスケルトンソーセージを尻目にラミィの左脇下を潜り抜け彼女の背後に回り込み、そこでバコン! と何かを叩きました。
それはラミィの後ろに隠れていただいふくでした。
彼女の足元にだいふくが力なく倒れます。
「……ッ」
ラミィは牽制に剣を振るい、はあちゃまが距離を取ったのを認めてからだいふくの方へ振り返ります。
だいふくは戦いに加わるために起き上がろうとしていました。
ラミィは屈んでそんな彼を優しく押さえながら、はあちゃまに向き直ります。
「よくもやってくれたわね!」
怒号と同時にスケルトンソーセージから凄まじい雪風が吹き起こりました。
雹や霰を伴う強風が城内で渦を巻き、はあちゃまのみならず観戦するスバルたちやハートンたちにも襲いかかってきます。
「これは大変なことになった余」
ため息混じりに呟いてから、あやめは「メル。ちょこ先生」と側の二人に呼びかけます。
「二人とも余の後ろへ。決して離れてはならぬ余」
「うん」
「わかりましたわ」
メルとちょこはあやめの後ろで頭を抱えながら身体を丸めます。
「ふむ」
あやめはレッグバッグに右手を伸ばし、フォークを掴み引き抜きます。
それをブンと振るってソーセージを出現させます。
そのソーセージはもちろんゴーストベーコンではありません。
上級剣のベーコンです。
あやめはベーコンを振るい自分たちに飛んでくる雹や霰をことごとく打ち落としていきます。
そうやって氷の礫から自身や仲間を守っているのはあやめだけではありません。
キアラやぼたん、ポルカ、すいせい、トワなど腕の立つ剣士は皆剣を手に取り氷を払い、慌てふためく中級下級の剣士たちや剣士でない面々を守護しています。
ハートンたちですら人質のぺこらに氷が当たらないようソーセージを振るっていました。
荒れ狂う吹雪のなか至って変わらず腕組みしながら観戦するのはアキロゼくらいです。
そして、
「あなた自身の魔法の使いこなしなんて所詮この程度よ」
はあちゃまもまた平然と歩きながらラミィに近づいてきます。
雪風吹き荒れる視界であるため、それを発生させているラミィ自身もこちらへやって来るはあちゃまの輪郭しか捉えることができません。
なぜこれほどの暴風と氷礫の中はあちゃまが余裕然としていられるのか、ラミィにはわかりませんでした。
その理由がわかるのははあちゃまが彼女の目の前まで近づいてきた時です。
視界不良の状況とは言え、互いの距離が目と鼻の先までくるとさすがに視認することができます。
はあちゃまの姿をはっきり目にしたラミィは、思わず息をのみました。
「なにを驚いた顔してるのよ」
頭のてっぺんから足の爪先まで、はあちゃまの身体は鋼鉄の膜で覆われていたのです。
「あなたの『執着』と同種の防御スキルじゃない」
はあちゃまはその姿のまま笑いかけました。
「メタルホットドッグのスキル『鉄の意思』。残り体力が35%以下であることを条件に発動可能となる防御スキルであり、使用者を鋼鉄の膜で包み込み受けるダメージを35%軽減させる。『鉄の意思』を発動させた私にとってこんな雪風、涼風に当たっているような心地よさすら感じるわ」
「減らず口を!」
ラミィはさらにスケルトンソーセージへ魔法力を送り込みます。
すると送られた魔法力量に呼応してさらに吹雪の勢いが増します。
しかしそれから少しして、
「?」
唐突に雪風がピタリと止んでしまいました。
「あ、あれ? どうしたの?」
ラミィがいくら力を込めても雪風は発生しません。
「やっと切れたわね魔法力」
「切れた? ラミィの魔法力が? そんなこと今までなかったのに」
「それはこれまで切らすほど大量の魔法力を使ったことがなかったからでしょ」
はあちゃまが『鉄の意思』を解除しながら答えます。
「考えなしにあれだけバカ放出してれば、尽きない方がおかしいわ」
そんなバカな、と言いたげな顔でラミィは何度もスケルトンソーセージを振るいます。
しかし何も起きないどころかラミィの『執着』まで解除され、彼女の目が金色に戻りスケルトンソーセージの骨上半分も肉片がかぶさります。
「哀れね」
そんなラミィを見下ろしながらはあちゃまがボソリと口にします。
「必殺技だのなんだのと息巻いた挙句、魔法を使っていた瓢箪がいなくなると自分一人でできるのはガバガバの魔力放出だけ。そして魔法力すら尽きたあなたは私の敵にもならないザコ剣士。ほんの一時とは言え脅威と思わされた相手がこんなにも急に弱体化してしまうと、呆気なさ過ぎて寂しさすら込み上がってくるわ」
「くッ」
ラミィはスケルトンソーセージを構えてはあちゃまの攻撃に備えます。
はあちゃまはそんな彼女に余裕の笑みを向けました。
「このままだとただの弱い者いじめ、私は心が張り裂けそうよ雪花ラミィ。そこで私としてはあなたのために何かハンデを付けてあげたいのだけど、どうしようかしら」
「いらないわ!」
「じゃあこうしましょう。私が次にどうしようとしているか教えてあげるわ。そしたらあなたはより的確な行動を取ることができる、ちょうどいいハンデじゃないかしら」
「だからいらないと!」
「瓢箪クマを殺す」
冷たく響くはあちゃまの言葉にラミィは思わず黙ります。
「私がこの戦いで負ける可能性があるとすれば、それは再びあの氷の槍を展開されてしまった場合よ。だからそれを防ぐために私が取るべき行動は二つ、あなたの魔法力を尽きさせるかその瓢箪クマを再起不能にするか。一見魔法力は尽きたようだけど、女狐なあなたのことだからそう思わせるための演技でないとも言い切れない。念に念を入れてその瓢箪を潰しておこうってわけ」
さてここからはあなたがどう行動するかよ雪花ラミィ、とはあちゃまは続けます。
「瓢箪を助け出し再び氷の槍を展開するのがあなたの理想でしょうけど当然そう美味しくいかせない。瓢箪を庇うような隙を晒したら逆にあなたの方を仕留めてあげるわ。だからここであなたが取るべき行動も二つに限られる。私が攻撃目標を瓢箪に向けているのを好機と捉え一発逆転の一刀を振るう隙を見出すか、私が瓢箪を再起不能にするまでの貴重な時間を使って頭をフル回転させ、起死回生となる新たな戦術を閃くか。どちらにせよこの状況をピンチと取らずにチャンスと見ることができるかどうかで勝機の有無が変わってくるわ」
「……」
「言っておくけど私はとても大切なことを言っているのよ、今この時だけでなくこれからのあなたにとってね。あなたは剣士として甘すぎる、子供なのよ。前回私と戦って負けた時もそう。仲間を攻撃するなんてハッタリをバカ正直に真に受けて目前の敵から注意を逸らし、自分がボコボコにされるという下手な落語みたいな滑稽話。いい加減そろそろ一皮剥けなさいよ。仲間を助けるために己が身を盾にするのが強さであれば、いざという時に斬り捨て前進するのもまた強さよ。問題なのはどちらを選べばより勝利に繋がるのかという時と場合を見極める決断力。スバルたちみんな甘くてイライラするけれど、なかでもその甘さのせいで勝機を逃すようなあなたが一番苛立たしい。私は今すごくいいことを言っているわ。敵に塩を送るとはまさにこのこと、相当の授業料を払ってもらいたいくらいよ」
とは言え、と続けながら彼女はだいふくの方を見ます。
「そんなに多くの時間は期待しないことね。早ければ数秒、遅くても十数秒、二十秒以上はかけないつもり。それがそこの瓢箪の寿命でありあなたのタイムリミットよ」
そう口にしてからはあちゃまはクリスタルサビロイを振りかざし、だいふく目掛けて振り下ろしました。