勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

14 / 183
14羽

「くくくく、さっきまでの威勢はどうした? タマネギ頭のお嬢ちゃんよお」

 

「くう!」

 

 スバルたちが屋敷のなかを走っているまさにそのころ、湊あくあは最大のピンチを迎えていました。

 場所はアクアマリン号が停泊されている屋敷内の波止場です。

 アクアマリン号に火をつけんとするスバ友の男に、あくあが下級剣のサラミソーセージを手に立ち塞がっていました。

 

「こんな程度じゃすぐにやられちまうぜえ?」

 

 対する男が持つソーセージは上級剣のトルネードポテトです。

 

 ちなみにこのトルネードポテト、剣の柄はフォークではなく串になっています。

 このように剣として用いられるソーセージのなかにはフォークではなく串によって出現されるソーセージがいくつかあり、それらは通称「串剣」と呼ばれています。

 またこの串剣に対応する用語としてフォークによるソーセージは「鉄剣」とも呼ばれています。

 

 閑話休題、スバ友の男は何重にもカールされたトルネードポテトをいやらしく揺らしながらあくあににじり寄っていきます。

 

「ま、まだまだあ!」

 

 あくあはそんな男に向かってサラミソーセージを振るいました。

 しかし男はいやらしくトルネードポテトをしならすだけで、その剣を弾いてしまいます。

 

「くはははは! 軽い軽い! これが剣士だっていうんだから笑わせてくれるぜ!」

 

 男はあくあに揺れるトルネードポテトの切っ先を向けました。

 

「そうそう自己紹介がまだだったなあ」

 

 ぶらんぶらんと揺らします。

 

「我が名は上級剣士鈴木、栄えあるスバル三剣士の一人よ。二つ名は『スバルの咳払いしか愛せなくなった男』」

 

 そう名乗ってから男はニヤリといやらしく口角を吊り上げました。

 

「自己紹介も済んだことだし、いい加減そろそろ退きなお嬢ちゃん。俺の用があるのはお嬢ちゃんの後ろにある、そのでけぇ船だけなんだからさ。ちょちょいと火だけ付けさせてくれやあ、大人しくここから出ていくんだがな」

 

「断る!」

 

 はっきりと口にするあくあに「くくく、そうかい」と鈴木は笑います。

 

「まあじゃあ実力行使しかねえわけだが俺だって腐ってもスバ友の一人、殺しはしねえよ。ただちょっと怪我してもらおうか」

 

 言いながら鈴木はまたじりじりと距離を詰めました。

 彼は時々急にトルネードポテトを止めたり揺らしたりして、あくあが過敏に反応するのを楽しむようににやにやしながら近づいていきます。

 彼が一歩前進するのに合わせてあくあは一歩後退します。

 そして一歩また一歩と徐々に後方へずれていき、気づくとあくあはアクアマリン号と鈴木に挟まれ逃げる場所を失っていました。

 

「さあ、終わりだお嬢ちゃん!」

 

 鈴木が剣を振り上げます。

 それでもあくあは逃げ出そうとせず、剣を構えたままギュッと目をつむりました。

 その時です。

 

「すずきイ!」

 

 鈴木の背後から凄まじい声量の声が発せられました。

 鈴木が思わず振り向くと、彼の目と鼻の先にまでその声の人物は迫っており、手に持つ上級剣チュロスを彼に向かって振り下ろしていました。

 

「キ、キアラ!」

 

 鈴木は慌てて身体をキアラに向き合わせ、振り下ろされたキアラのチュロスをトルネードポテトで受け止めます。

 しかし彼女の攻撃は終わりません。

 剣を防がれたキアラは間髪入れず鈴木の胸元に蹴りを入れます。

 それをまともに受けた鈴木は勢いよく飛ばされ転がっていきました。

 

「大丈夫ですかあくあさん!」

 

「あくたん!」

 

 キアラに続いてスバルを抱えたるしあとマリンが波止場にやってきます。

 るしあたちはあくあに駆け寄って、彼女を鈴木から遠ざけました。

 

「おまえエエエエ! それでも誇り高きスバ友かアアアア!」

 

 一方キアラは身体を起こす鈴木に凄まじい怒声を浴びせます。

 

「剣士であれば誰しも通る下級の道! にもかかわらず、その下級剣士をこんな壁際まで追い詰め弄ぶような真似をするとは、スバ友にあるまじき下衆の極み! 恥を知れエエエエ! すずきイイイイ!」

 

「クソがあ! キイキイうるせえんだよニワトリ女が!」

 

 鈴木は怒鳴り返してからトルネードポテトを構え直し、キアラに向かって飛びかかります。

 

「ばかもんがアアアア!」

 

 キアラはトルネードポテトをキュロスのしなりで弾いてから彼の身体を袈裟斬りしました。

 

「ぐ、あ……」

 

 ばたんと鈴木が倒れます。

 それからピクリとも動かなくなりました。

 

「し、死んだのですか?」

 

 恐る恐るるしあがキアラに尋ねます。

 

「まさか。すずきとて腐ってもスバ友上級剣士、気絶しているだけデス」

 

 キアラはキュロスを消してからフォークをレッグバッグに仕舞いました。

 

「あくたん、なんで避難していないの!」

 

 一方とりあえず危機は去ったということで、マリンがあくあを問い詰めます。

 

「船長! どうしてそんなこと言うの! あてぃしだって剣士なんだよ、この町とアクアマリン号を守るために剣を手に取り残ったのさ!」

 

 あくあも負けじと言い返します。

 

「あーそれはごめんなさい! 船長の言い方が悪かったですねー! 一般人と戦闘ほぼ未経験の下級剣士は今すぐ避難してくださーい! さあ行きましょあくたん!」

 

 マリンはあくあの手を掴んで引っ張っていこうとします。

 ところがあくあは「やめてよ!」と言ってその手を振り解きました。

 

「子ども扱いしないでよ! 剣士だって言ってるでしょ! あてぃしにだって守りたいものがあるのよ!」

 

「生意気言ってんじゃねー! 実戦経験のない下級剣士なんてなあ、身分証代わりに免許証を使うペーパードライバーと一緒で戦力としてカウントしてないんだよー! さあさあ、あくたん避難避難! またスバ友があの船につられて来ないうちに!」

 

「いーやーだ!」

 

 あくあは頑なに拒みます。

 

「なんだテメー!」

 

 するとマリンもキレ気味になります。

 

「状況わかってんのかコラ! 他の場所でも元一味のみんなが戦ってくれてるから、船長もこのアヒルたちも早く加勢しに行ってあげたいんだよ! だから駄々こねるんじゃねえええ!」

 

「じゃあ行けばいいじゃん! あてぃしはここに残るけど!」

 

「ああもうなんか船長泣きたくなってきた……」

 

 怒ったと思ったら急に沈み込むマリン、そんな彼女をるしあが「まあまあ」となだめます。

 

「でもあくあさん、船長の言うとおりデス。ここは敵の狙う船もある危険な場所、戦うため町に残るにしても屋敷からは離れてください」

 

 キアラも妥協案を出しながら代わりにあくあの説得にかかりました。

 

「いやだ!」

 

 しかしあくあは一向に聞く耳持ちません。

 

「あてぃしだって剣士の端くれ、敵がこのアクアマリン号を燃やしにやって来るというなら剣を持って立ち塞がる! たとえ右手を失おうと左手でフォークを握り、左手を失おうと口にくわえて最期の最期まで戦ってやるのさ!」

 

 猛々しく言い放つあくあに、マリンが縋りつくように「あくたあん」と呼びかけます。

 

「船はまた造り直せばいいけど、あくたんが死んじゃったら代わりはいないんだよお。お願いだから避難しようよお」

 

「船はまた、造り直せばいい?」

 

 あくあはそんな船長の言葉をぼそりと呟き繰り返します。

 それからぎゅっと下唇をかみ締めました。

 

「アクアマリン号だって代わりの船なんてないよ!」

 

 あくあはキッとマリンを睨みつけました。

 

「船長のおバカ! アクアマリン号はただの船なんかじゃない!」

 

「あくたん?」

 

「アクアマリン号は絶対に難破しない、どんな嵐もよそ風同然に突き進む無敵の船! あてぃしが宝鐘海賊団のために造り上げた夢の船なんだ!」

 

 叫ぶあくあに、マリンは「宝鐘、海賊団……?」と瞬きしながら呟きます。

 

「宝鐘海賊団の、船長たちの船……?」

 

 それからゆっくり、マリンはアクアマリン号を見上げました。

 船にはすでに帆がかかっています。

 その帆は黒地の布で中心部にハートのマークがプリントされており、ハートの左半分は白で塗りつぶされており、右半分は斜めから矢で射止められ突き刺さったようにデザインされています。

 見間違うはずがありません、それは宝鐘海賊団の海賊旗でした。

 

『『船長!』』

 

 一瞬、マリンはその海賊旗に見惚れました。

 仲間たちの声が聞こえた気がしたのです。

 

「……」

 

 しかしマリンはすぐ我に返り、苦々しそうに下唇を噛み締めました。

 

「あー、そういえばいたわね宝鐘海賊団、そんなチームが昔。でも今は解散して船長も一味も平穏に暮らしてるらしいわよ」

 

「平穏? どこが!」

 

 笑いながら喋りだすマリンにあくあが噛みつきます。

 

「毎日毎日朝から晩までお酒三昧、いつも決まって最後に泣き出して酒場のマスター困らせてるのに平穏!」

 

「うるせえな嬉し泣きだよ! 朝から晩までお酒三昧とか天国じゃねえか、放っとけよ!」

 

「放っとけないよ! 船長の心はまだ宝鐘海賊団の海賊旗を下ろしてない! 風が吹いて旗があおられるたび、その気持ちを抑えつけようと必死になってる!」

 

「バーカ! んな旗は根元からへし折れちまったよ、二年前にな!」

 

「嘘つくな!」

 

 あくあが大声で返しました。

 

「あてぃしだけじゃない、メードのみんなが知ってる! 船長は夢を諦めてなんてない!」

 

「ん、んだとこの陰キャメイド……ッ、大人しく聞いてればべらべらと!」

 

「全然夢を諦めきれてないくせに、いつまでくすぶってるのさ船長!」

 

 マリンは声にドスを利かせますが、あくあは負けじと一歩前に出ます。

 マリンはそんなあくあの目が潤んでいることに気づき気圧されて、一歩後ろにさがりました。

 

「ねえ船長、もう一度だけ海に出てよ」

 

 その声は威圧的というよりも縋りつくような必死さが滲み出ていて、マリンをぐいぐい押しやります。

 

「そしたらあてぃしは何でもするよ。あてぃしのこの手でアクアマリン号に火をつけたって良い、だからあてぃしたちにもう一度だけ夢を見せてよ」

 

「ゆ、ゆめ?」

 

 聞き返すマリンに「そうよ!」とあくあが頷きます。

 

「船長がくすぶらせてる夢は船長だけのものじゃない、メードみんなの夢そのものなのさ! 宝鐘海賊団はあてぃしらの誇り、風になびく海賊旗はあてぃしらみんなの胸の鼓動! 宝鐘海賊団の数々の成果を皆が皆、よその町で自分のことみたいに鼻高々に自慢してる! そしてまた宝鐘海賊団があの頃みたいに海へ出ると信じてる! みんながみんな、船長が仲間の死を乗り越えて新しい航海に出るのを待ってるんだ!」

 

「……ッ」

 

 たたみかけるあくあに、マリンはもはや言い返す言葉が見つからずに黙り込んでしまいます。

 

「帆を上げて出航! あてぃしらのエルドラド! 夢を諦めきれないのは船長だけじゃないんだよ!」

 

 そこまで言い終えてから、あくあはすべての力を出し尽くしてしまったかのように尻もちついてしまいます。

 それから「ひくっ、ひくっ」と嗚咽を上げて泣き出してしまいました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。