勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「さっさとソーセージを出しなはあちゃま。てめえの相手はこのワタシ、桐生会会長の桐生ココだ」

 

「よ! ココ! 待ってました! 今日の主役!」

 

 はあちゃまにストーンスンデの切っ先を向けるココへ、かなたが囃し立てるように声出しします。

 

「ふん」

 

 ココは満更でもなさそうに鼻を鳴らしました。

 

「まあなんだ、桐生会会長として雪花組のリーダーが先頭切って戦ったってのに指咥えてるわけにはいかんからな。それにこの流れだとどうせみんな戦いそうだしよオ、先に戦っておいた方がプレッシャーが少ないってもんよ」

 

「ココー! 別に倒してしまっても構わんのだよー!」

 

「おま、このPPT! さっきからぐいぐいハードル上げようとしてくんじゃねえよ! ワタシに対するみんなの期待値が上がっちまうじゃねえか! こういうのはなア、謙虚に出てきて勝ってこそカッコいいってもんなのによ!」

 

「えー。せっかく応援してるのにー」

 

「おまえのは応援って言わねエ! 野次って言うんだよ!」

 

 ココがかなたに怒鳴ります。

 

「ねえ」

 

 一方はあちゃまはブン! とフォークを振るってクリスタルサビロイを出現させました。

 

「いつまでぐだぐだ喋ってるの。早く勝負をはじめましょう」

 

 呼びかけるはあちゃまにココは「ああ」と答えます。

 それからココはかなたに「もうおまえ黙って見てろ!」と言い置いて、はあちゃまに向き直りました。

 

「……」

 

 ココは呼吸をと整えるように静かに目を閉じてから、ゆっくりと見開きます。

 その赤色の目が光を失ったような土ばんだ茶色へと変色します。

 同時にココの持つストーンスンデも様子を異にして、ソーセージのひび割れ部分から白い湯気が噴き出し彼女の周囲を湿気で包みます。

 

「ストーンスンデのスキル『大地』」

 

 はあちゃまが呟きました。

 

「体力完全状態であることを条件に発動可能となり、使用者の攻撃力を55%上昇させる初手バフスキル」

 

「ベラベラと誰に解説してんだ。レジェンドソーセージスキルの効果なんざガキでも知ってる。今更説明することじゃねえだろうが」

 

 ココがストーンスンデを構えます。

 それを見たはあちゃまもクリスタルサビロイを構えました。

 直後、ココはズドン! と音をたてるほど強く地面を蹴って、はあちゃま目掛けて突っ込みます。

 その突撃の威圧感はさながら速度がなんとも驚異的で、並の剣士であれば立ち尽くしたままあっと言う間に蹴散らされていたでしょう。

 伝説級の実力者であるはあちゃまでさえ五メートル以内でそれをやられていたら対応が後手とならざるを得ず、防ぐか避けるかのどちらか取れなかったでしょう。

 

「ふん」

 

 しかしながら仕掛けたココとはあちゃまの間の距離は十メートル以上、彼女には対応する余裕がありました。

 自分へ向かってくるココに対し、はあちゃまも剣を振りかざして迎え撃つように駆け出します。

 そして剣と剣、ストーンスンデとクリスタルサビロイが交わる直前、はあちゃまが目を見開きました。

 その目が闇色に染まります。

 同時にクリスタルサビロイを黒い霞が包み込みます。

 スキル「悪意」の発動です。

「悪意」は「大地」同様使用者の体力が完全状態であることを条件に発動できる初手バフスキルであり、発動した使用者の攻撃力を50%上昇させます。

 クリスタルサビロイの剣速が急に増したことにより二振りのソーセージが接するタイミングがずれ、はあちゃまの剣が先にココへ届きそうになります。

 それを察したココはタイミングを急ぎ修正し、はあちゃまより先に彼女を斬りつけようとストーンスンデを横薙ぎに振いました。

 しかしその一刀は大振りです。はあちゃまは足を止めることなく屈んで難なく避けます。

 ココのストーンスンデがブン! と大きな風切り音をたてて空振りました。

 

「もらった!」

 

 ココが剣を振り斬った隙をついて、はあちゃまがクリスタルサビロイで斬りかかろうとします。

 しかし、

 

「!」

 

 剣を勢いよく振り切ったココはその勢いのままぐるりと身体を捻って反転させて、彼女の尻尾を鞭のように振るいます。

 そしてその尻尾でもって、斬りかかろうとするはあちゃまを逆に地面に叩き伏せました。

 

「あア? 何か言ったか?」

 

 背中を見せた振り向きざまに、ココが口角を上げて笑います。

 その後ろ姿の腰の下、臀部の鎖骨部分から生えた太い尻尾がぐるんぐるんと荒ぶるように左右に揺れます。

 

「くッ」

 

 はあちゃまは上目で睨みつけながら悔しそうに呻きました。

 そんな彼女の闇色の目が元の碧色に変わります。

 クリスタルサビロイから放出されていた黒い霞もピタリと止まりました。

 体力完全状態という発動条件を満たせなくなったために「悪意」のスキルが解除されたのです。

 

「ざまアねえな。これでてめえは初手バフスキルを使えない」

 

 ココがストーンスンデを後ろ手に担ぎながらはあちゃまを見下ろします。

 

「はあちゃまだかポッチャマだか知んねえが、このワタシが何も考えずに突っ込んでいくわけねえだろうがよバカが。こんな幼稚な手に引っ掛かるてめえの方がよっぽど未熟の剣士だぜ」

 

 言ってケラケラと笑いだします。

 

 バシン!

 

 その直後、はあちゃまのクリスタルサビロイがココの胴体に叩き込まれます。

 ココは真横に飛んでいきました。

 

「油断大敵よ桐生ココ」

 

 はあちゃまはゆっくりとした動作で立ち上がり、スカートについた埃を払うように軽く叩きます。

 

「たまたま尻尾があたって『悪意』が解けただけというのに、まるで鬼の首でも取ったような高笑い。みっともなくて見ていられないわ。あなたみたいな剣士を未熟って言うのよ」

 

 そんな軽口を叩きました。

 一方弾き飛ばされたココはそのまま壁に激突します。

 ストーンスンデの発する湯気と衝突した際に巻き起こった埃が絡み合い、煙幕のような霧となってココの周囲を包み隠します。

 

「ココ!」

 

 かなたが叫びます。

 

「何やってんのさ!」

 

「騒ぐな」

 

 視界不良の霧の中からココが答えました。

 

「大したことねエ。かすり傷だ」

 

「そんな心配してないよ! ダメージ受けたら『大地』のスキルが解けちゃうじゃないか!」

 

 かなたが言うように「大地」が解除されたのでしょう、ストーンスンデから立ち上がる湯気が途絶えて霧が徐々に晴れていきます。

 

「ふん」

 

 うっすら残る霧のなか、ココは赤色の目を光らせながら鼻を鳴らしました。

 

「そっちも心配すんじゃねえよ。さっき『大地』を発動させたのは、自分が井の中の蛙だとも知らずイキり散らしてるコイツをちょっとばかしチビらせてやろうと思っただけだからな。こちとら端からこんなヤツにスキルを使うつもりなんかねえんだよ」

 

 ココはつかつかとおもむろに歩いてはあちゃまのすぐ向かいまでやってきます。

 彼女はさきほどソーセージを叩き込まれた箇所を、これ見よがしにボリボリと掻きだしました。

 

「あー。痒い痒い。蚊にでも食われちまったみてえだなア」

 

「汚らわしい」

 

 ココのあからさまな挑発に、はあちゃまは蔑むような目を向けました。

 

「鬼と言い竜と言い、前時代でマウントを取ってきた時代遅れの種族はどうしてこう野蛮なのかしら。もっとも粗野で単純なあなたの神経組織だから、本当に痛みと痒みの区別が付けれていないだけかもしれないけどね」

 

「ひどいとばっちり余」

 

 あやめがボソリと呟きます。

 スバルたちは聞かなかったことにして観戦を続けます。

 

「バカが。てめえの攻撃なんざ蚊と大差ねえって言ってんだよ!」

 

 ココがストーンスンデを横なぎに振るいます。

 はあちゃまはそれを屈んで避けました。

 しかしココの攻撃は終わりません。

 さきほどと同じように振り切った勢いで尻尾を振るい、はあちゃま目掛けて打ち込もうとします。

 ですが、もちろんはあちゃまも二度目は食らいません。

 

「ふん」

 

 来ると確信していたのでしょう、構えていたクリスタルサビロイでその一撃を受け止めると思いきや見惚れるような剣捌きで軌道を下に誘導し、尻尾の先を地面へ逸らします。

 

「!」

 

 かと思った次の瞬間、いつの間に斬り上げていたのでしょうクリスタルサビロイでココの顔面を打ちました。

 よほどの威力があったのでしょう、ガゴン! と凄まじい打撃音があたりに響きます。

 

「うわあ」

 

 それを見たノエルが思わず呟きをもらしました。

 

「良いのをもらってしまいまっするね」

 

「シュバルバ」

(そうだな)

 

 ノエルの言葉にスバルも頷きます。

 

「顔面ですものね」

 

 るしあも気の毒そうに相槌を打ちました。

 

「もちろん打たれた箇所も悪いのですが」

 

 ノエルは「それに加え」と続けます。

 

「打ち込み方も相当にエグいのですよ。るしあさん、さっきはあちゃまがココさんの尻尾をクリスタルサビロイで防いだのを見ましたか」

 

「はい」

 

「あれが実はカウンターになっていまっする。右回転しているコマに左回転のコマをぶつけて回転速度を上げるように、絶妙のタイミングで受け流したことによって尻尾の振るわれた勢いの分だけ次動作のクリスタルサビロイの威力が増幅させています。相手の攻撃力分だけ自分の攻撃力を向上させる100%バフ、カウンターアタックと言われる高等テクニックです。とは言え口で言うのは簡単なのですが、実際実行して上手くバフを乗せれるかと言えばこれがなかなかに難しい」

 

「はあ」

 

「それをまさか生き死にかかわるソーセージの実戦で、しかも伝説級同士の戦いで難なく成功させるのですから恐ろしいことです。まあ来るとわかっていたからこそ狙えたというのはあるでしょうが、それにしたって的確に顔面へ打ち込むのだから敵ながら大したものですよ」

 

「シュバルルバシュバシュバルバシュバルバシュババシュバルルシュバルバ。シュバババシュバルルバシュバシュバルバシュバルバルルシュバシュバ」

(人格が別とは言え身体ははあと先輩だからな。身体が絶妙のタイミングを覚えているんだシュバ)

 

「こういうのを目の前で見せられると、やはり人格が変わっても最強の剣士赤井はあとなのだと思わされまっする」

 

「スバル先輩も同じようなことを仰っています。ノエルさん」

 

 スバルの言葉を伝えるるしあに「おお。そうですか」とノエルは頷きます。

 

「もっとも、できるだけの技術があるからと言って本当に実行するかどうかは話が別。赤井はあとはまずしないでしょうし、団長やスバル先輩もそうです。一切躊躇なく相手の顔面に強打を叩き込む非道非情の人格であってこその一撃、ある意味はあちゃまだからこそできることなのだと言えるのかもしれませんね」

 

 そう言ってからノエルはるしあに苦笑いを見せて「そうなりたいとは少しも思いませんが」と付け加えました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「あは! どうよ野蛮種族!」

 

 ココの顔面にクリスタルサビロイを打ち込んだはあちゃまは、打ち込んだ格好のまま込み上がる手応えに歓喜の声を上げます。

 

「クリーンヒット! あなたの顔面ぺっちゃんこ!」

 

 言いたいことを言ってから、彼女はココの顔からゆっくりクリスタルサビロイを離します。

 そうして少しずつソーセージの陰に隠れていたココの顔が顕わになっていくのですが、

 

「!」

 

 ココの顔を目の当たりにしたはあちゃまは、思わず愕然となって先程までの言葉を失いました。

 

「おーおーおーおー。三下がよオ」

 

 クリスタルサビロイを顔面にまともに受けたはずのココですが、彼女は平然とした表情のまま、しかし目の奥に怒りの炎をめらめらと滾らせてはあちゃまを見下ろしていたのです。

 

「てめえの攻撃なんざ、蚊と大差ねえって言ってんだろうがア!」

 

「……ッ」

 

 振り下ろされるココのストーンスンデ。はあちゃまは地面に叩きつけられました。

 

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