勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「てめえの攻撃なんざ、蚊に刺された程度でしかねえんだよ!」
ココが大声を張り上げながらストーンスンデを振り下ろします。
その一撃を受けたはあちゃまは地面に叩きつけられました。
「さあて。それじゃボコボコにしてやるからよオ」
覚悟しろ、と続くはずのココの言葉が途切れます。
彼女は思わずといった仕草で額を押さえ、くらりと身体をよろめかせました。
「!」
その隙をついてはあちゃまは素早く起き上がり飛び退いて、ココとの距離を取ります。
それを認めたココは「ちッ」と舌打ちしました。
「逃げんじゃねえよこそこそと。ネズミかてめえは」
「逃げたですって」
ココの言葉にはあちゃまがまなじりを吊り上げます。
「バカ言わないでちょうだい。不利な体勢で次に来る攻撃を受けるのを避けただけ。今なら別に構わないからいつでもかかってきなさいよ。ボッコボコにぶちのめして返り討ちにしてあげるから」
「ふん。どうだかなア。負け癖逃げ癖のついてるヤツに限って口ではキャンキャン吠えたがるもんだ」
「あ?」
ココの言葉は明らかに挑発です。
はあちゃまもそのことは重々わかっているのですが、先程距離を取った行動について「逃げた」と指摘されたこと、彼女としては剣士の直感に従った反射的な行動であったにしても、見方によってはそう見えなくもなかった動作であったために妙に引っかかってしまうのでした。
さらには、普通ならば誰一人気にもしない取るに足らない行動にすぎないはずなのに、ココがそれをあたかも恥ずべき行いであるかのような言い方をするので、
「え。逃げたぺこか」
観戦する面々の下級剣士中級剣士が真に受けて食いつきます。
「今確かに逃げたって言ったにぇ。あんなに威張ってるのに」
ぺこらとみこがぼそぼそと呟きます。
それらを耳にしたねねが「ふん。ふん」としたり顔で頷いて、
「だっさ」
軽蔑を込めてそう言い放ちました。
「……ッ」
直後、はあちゃまはカッと目を見開きます。
「逃げてない!」
それから彼女はブン! とクリスタルサビロイを振るって怒鳴ります。
「さあ! どこからでもかかって来なさい桐生ココ! 私はあなたの攻撃すべてを真っ向から受けて立ち、その減らず口が利けなくなるまで徹底的に叩きのめしてやるわ!」
「言ったな三下」
ココがにやりと笑います。
「ならワタシとてめえ、どっちがさきにビビッて降参するか度胸勝負といこうじゃねえか」
「ふん。望むところよ」
「最後まで話を聞けバカ野郎」
「その必要はないわ。何にしても受けてあげるわよあなたのお望みどおりに。私とあなたの間にはそれだけの実力差があるのだからね」
腕を組み堂々たるふうを観客に見せつけるはあちゃまに、ココは「おーおーおーおー。大きく出たなア」と一笑します。
「なに。別にてめえにハンデが付くとかそういうのじゃねえよ。それに実を言うとワタシもてめえが逃げたなんて本気で思ってるわけじゃねえ。だけどよオ、観客席にはあんまり目の肥えてねえ連中もいるわけで、そいつらにも親切でわかりやすい勝負をしないかって言ってるんだ」
「まだるっこしいわね。要するに何よ」
「誰にも逃げたなんて言わせねエ、クリアでスマートなファイトをしようぜ」
ココはソーセージフォークを掴んでいない方の手を顔の前に持ってきて、ぎゅっと握り込みます。
「どつきあいだ。互いのソーセージ攻撃範囲内で棒立ちに突っ立って、延々と殴り合うんだよ。まあ、とは言え避けて良いし防いでも良い。だが相手の攻撃範囲外へ出ることは禁止だ。もっともワタシはてめえのソーセージなんざ避けるつもりも防ぐつもりもねえがな。蚊に刺されたって痛くも痒くもねえからよオ。あ、いや、痒くはあるか。とにかくこの身体で受け止めてやる。避ける防ぐオーケーの条件はてめえのためのルールだと思ってくれていい」
「はん。くそザコドラゴンが」
はあちゃまが吐き捨てるように言います。
「この私にまさかのハンデ? ふざけてんじゃないわよ。あなたの攻撃なんて痒みですらない、感覚器官が刺激を感知する以前の段階だわ。どつきあいですって? 上等じゃないの。私の方こそあなたの攻撃を避ける必要も防ぐ必要もない、足枷をはめた状態で戦ってあげたいくらいだわ」
「おーおーおーおー」
はあちゃまとココが互いに歩いて距離を詰めます。
二人は向き合い一メートル弱のところで足を止めました。
はあちゃまはブン! ブン! とクリスタルサビロイを素振りしはじめ、ココはバキン! ゴキン! と首や肩の関節部を鳴らしだします。
そんなことがしばらく続いた後、示し合わせたように二人の動きがぴたりと止まります。
一瞬シンと城内が静まり返りました。
そしてそれが合図となったのでしょう、
「はあ!」
「おらア!」
はあちゃまとココ、二人は同時に目の前の相手めがけてソーセージを振るいました。