勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
ココとはあちゃま、二人はお互いの剣の届く範囲で足を止めソーセージを振るいます。
先に相手の身体へ叩き込んだのはココでした。
「くッ」
歯を食いしばり痛みをこらえ、はあちゃまはクリスタルサビロイを振るってやり返します。
ココも息を止めて気合を入れて、その一撃を耐えます。
かと思えば、彼女は受けたその直後にはストーンスンデを振るっており、息つく暇もなくはあちゃまに次の一撃を食らわせます。
一方はあちゃまも再び殴り返そうとフォークを握りしめるのですが、
「!」
その間、なんとココは続けざまに攻撃できそうなものをあえてそうせずに、それどころか「さあ次はおまえの打つ番だから早く済ませてくれないか。待ってんだけど」と言いたげな目で、その軽んじるような眼差しをはあちゃまに向けながらため息などするのでした。
「……ッ」
あからさまな舐めプに、はあちゃまは怒りで目を見開きます。
「ふざけてんじゃないわよ!」
ココがしたのと同じように、はあちゃまはソーセージを受けた直後に相手へソーセージを叩き込みました。
そうした打ち合いが延々と続くことになったので、城内にドンドンドンドンドン! と一定のリズムで大太鼓を打ち鳴らすような打撃音が響き渡ります。
「大丈夫でしょうかココさん」
二人の戦いを観ながら、るしあが心配そうに呟きました。
「あんなにソーセージを生身で受け止めて。死んでしまうのではないでしょうか」
「シュバ。シュバルバシュバア」
(いや。あれはなるしあ)
「あれは見た目ほど激しい打ち合いではないのですよ。るしあさん」
シュバル語を解さないノエルが、意図せずもスバルの言葉を遮って話しだします。
「確かにはじめの方の一発二発は足腰から力がこもったかなり殺傷力の高いものでしたが、それ以降は威力よりも振るう速さに重点を置く質より量の攻撃ばかりなのです。あんな激しい応酬ラッシュができているのも、主に腕の力で振るっているからなのですよ。とは言え彼女たちが振るっている剣は共にレジェンドソーセージ、生身で受ければ属性ダメージが加算されます。しかしながら、そのことを踏まえた上でも普段団長やスバル先輩が振るうような剣より遥かに劣った威力でありますので、彼女たちが伝説級剣士の防御力あればこそ、あの程度ではそうそう大事には至らないのです」
「そうなのですか。良かったです」
それを聞いたるしあは胸を撫で下ろします。
「ところでノエルさん。ココさんはどうして、あんな殴って殴られの勝負を提案したのでしょうか。何か勝算があってのことだとは思うのですが」
「んー」
ノエルはやや困ったように唸ります。
「ノエルさん?」
「実を言うと、団長もそれについてはあまりわかっていなかったりします」
そう言いながらも「まあ、彼女たちの剣の種類で言いますと」と彼女は話し始めました。
「ココさんのストーンスンデが平均ソーセージより少し長めの約140センチ、対してはあちゃまのクリスタルサビロイはソーセージ最長の約2メートル、そしてそんな彼女たちの間合いは1メートル弱。以上のことだけで考えると、はあちゃまが不利の状況であると言えます」
「そうなのですか」
「剣を振るう際の腕の長さも含めると、はあちゃまの振るうクリスタルサビロイは剣身の三分一ほどのところでココさんを殴っていることになります。そこだと案外、力を込めて振るうのは難しいのですよ。対してココさんはそういう悩みなくストーンスンデを振るうことができるリーチですから、威力もそれに反映してやや勝ることになるのです」
「ああなるほど。あんな早い打ち合いだとクリスタルサビロイをしならせる余裕もないですもんね。じゃあ、このままいけばココさんが勝てるんですね!」
手を合わせて喜ぶるしあに、ノエルは苦笑しながら「はい。このままいってくれればそうなりまっする」と答えます。
「どうしたんですか。なんか言葉に含みがありますけど」
るしあがノエルの言葉に首を傾げます。
「シュバルシュバア」
(気づけるしあ)
スバルがぼそりと、そんな彼女に話しかけます。
「シュバルババシュバルルシュバルバ。シュバルルバシュババシュバルルバシュバルルシュバシュバルシュバルバ」
(はあちゃまは持ってんだろうが。体力が減った状態で発動するヤバいスキルを)
「あ! 『断末魔』!」
思わずるしあが声を上げます。
「そうです」
ノエルがそれに頷きました。
「団長のレジェンドソーセージ、マグマ・ホットドッグのスキル『断末魔』。残り体力が30%以下になることを条件に発動可能となる、攻撃力75%上昇のバフスキル。はあちゃまにはこれがあります。だから団長にはココさんの狙いがよくわからないのです。お互いの体力を確実に、それも徐々に削り合っていくこの戦い方はハッキリ言ってはあちゃまの願ったり叶ったりです。はあちゃまは『断末魔』以外にも『鉄の意思』や『執着』といった、体力が少ない状態であればこそ発動できるスキルをいくつも持っています。対してココさんのストーンスンデのスキル『大地』は初手バフスキル、体力が減った状態の今はもう発動することができません。なので現在ココさんが優勢であっても、その優位ははあちゃまがスキルを発動するまでのかりそめのもの。『断末魔』発動の瞬間一気に形勢は逆転されます。ココさんとてそのことはわかっているはずなのですが」
「まさかとは思いますがココさん、はあちゃまのスキルのこと忘れてしまっているのでしょうか」
そう言って、るしあがまた心配そうな顔になります。
「あはは。それが本当だとしたらシャレにならないね」
そんな彼女たちの会話にかなたが混ざってきました。
「かなたさん。笑い事じゃありませんよ」
るしあが呆れたように言います。
「いいや。笑い事さ」
かなたはあっけらかんと返しました。
「相手のスキルを忘れたって? ないない。抜かりないココに限ってそんな初歩的なミスまずないよ」
「そうなのですか」
「そうだよ」
かなたは当然とばかりに頷きます。
「なんかさっきみんなで言ってたよね、このまま体力の削り合いが続けばはあちゃまに『断末魔』を使われてココの負けになるとかなんとか。でも実は、全然関係なかったりするんだよなあそんなの」
「シュバ?」
(なに?)
「関係なくはないでしょう」
スバルとノエルが食いつきます。
「ふふん。みんな全然わかってないなあ。ココのすごさを」
シュバル語がわからないかなたは案の定、スバルを無視してノエルの方を向いてから続けます。
「殴り殴られの応酬ラッシュファイトはココの十八番スタイル、あれがはじまったらもうココは負けないよ」
「シュババ」
(バカな)
スバルが苦笑いしました。
「シュバシュバルババシュバルシュバルバシュバシュバシュバシュバルバ。シュバ『シュバルルバ』シュバルバシュバルルシュバシュバルバシュバシュバルバシュバルバシュバルバシュバシュバル」
(そりゃ竜だから耐久力はそこそこあるだろうよ。だが「断末魔」レベルの攻撃バフスキルを持つ相手にどうしてそこまで言い切れる)
「あの。かなたさん。竜族の耐久力が高いとはいえ、それは言い過ぎではないでしょうかとスバル先輩が」
「ボクは別にココが打たれ強いからそう言ってるんじゃないよ」
かなたはスバルを見下ろしながら「ココの狙いは二つあるんだ」と続けます。
「ココはちょっと変わった剣士でね。剣で打ち合うよりもああして自分の身体に打ち込ませて相手の剣筋を把握するのが得意なんだ。これが応酬ラッシュファイトを仕掛けた理由の一つ」
「二つ目の理由というのは」
「相手の剣筋を単純化させることさ」
尋ねるノエルにかなたが答えます。
「ココもはあちゃまも殴った直後即座に殴り返す状態にあるからね。さっきそのネクロマンサーの子が言ったみたいに剣をしならせる余裕なんてもちろんないし、それどころかちょっとしたフェイントや変化球みたいな軌道修正すらできっこない。真っ直ぐな軌道限定の打ち合いを強要しているんだよ」
「すいませんかなたさん。正直に言います。団長にはあなたが何を仰りたいのかよくわからないのでありまっする」
「シュバルルバシュバル。シュバルババ」
(謝るなノエル。スバルもだ)
「なにが?」
「ココさんが剣筋を身体で受けて覚えるタイプの剣士だということ、この打ち合いでは互いに小細工ができないということは団長もよくわかりました。ですがそれらは安心材料にはならないでしょう。ココさんが相手の剣筋を把握できたとしても一度仕切り直さなくては意味を成しません。しかしこの応酬の嵐のなかで距離を取るタイミングなど皆無ではありませんか。であるならば、結局体力を適度に減らしてスキル発動頃まで調整したはあちゃまが『断末魔』を発動し、ココさんはその餌食とされてしまいまっする」
言い切るノエルに、るしあは何か反論するでしょうかなたの返答を期待して彼女の方へ振り向きます。
しかし、
「ふふん」
かなたは意味ありげな含み笑いをするだけでした。
「シュバ。シュバルバシュババ」
(いや。ふふんじゃねえよ)
スバルが呆れたように言います。
「かなたさん。本当に大丈夫なのでしょうか」
るしあは堪らずかなたに聞きました。
「大丈夫大丈夫」
かなたは変わらずにこにこしながら答えます。
「まあ、ボクが口でああだのこうだの言うより実際見た方が良いよ。すぐにわかるからさ。ココがどれだけすごいヤツなのかってことがね」
自信ありげと言いますか、自信しかないような口振りでかなたが言います。
「はあ」
るしあはそんな彼女に頷いてから、その視線をココとはあちゃまの方へ戻しました。