勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
ドン! ドン! ドン! ドン!
「おらア!」
「はあ!」
ココがストーンスンデを振るいはあちゃまに一撃あびせた直後、はあちゃまがクリスタルサビロイでやり返しそのまた直後にココがやり返します。
そんな二人の息つく暇ない応酬ラッシュが続いていました。
「……」
その単調な繰り返しの中で、はあちゃまは徐々にココの剣筋を掴んでいました。
はあちゃまにとって最も都合のいい展開、それはこのまま打ち合い続けてスキル「断末魔」を発動させる、そしてその勢いのまま一気に畳みかける、これにつきます。
しかし彼女もそう自分の思惑通りに事が進んでくれるとは思っていませんでした。
今はこうして打ち合っているココもこのままではスキルを発動されてしまうことはわかっているはずなので、それを阻止するためラミィの氷の槍ではありませんが、スキル発動状態になる前に何らかの策を用いて距離を開けにくるはずなのです。
打ち合うごとに徐々に剣が鋭くなっていくこの桐生ココという女、おそらく彼女はこうして身体に打たせてこそ相手の剣筋を覚えるタイプの剣士であり、この打ち合いも相手の剣筋を把握した上で次に本格的にぶつかり合うための前段階なのでしょう。
そこまで思考して、はあちゃまはほくそ笑みます。
「だからどうしたと言うのよ」
仮に現時点で相手に剣筋を掴まれていたとしても自分だってもう十分に相手の剣筋を把握している、そうであるならば同条件であり勝敗はお互いの実力によって左右されるのみ。
それにいざとなれば自分で自分の体力を調整的に減らしてスキル発動状態にまでもっていけばいいだけのこと。
なんにしても自分が負けることなどありえないと、はあちゃまは確信するのでした。
そして「あと何発受けたら『断末魔』を発動できるのか」と、そんなことを考える余裕すら持ちながら反射的に振るうクリスタルサビロイをまた一撃ココに喰らわせます。
その直後でした。
「!」
はあちゃまの左脇下に、その部位を抉り取られたような生々しい痛みが走ります。
「え」
思わず呟きその箇所に目をやってみれば、ココのストーンスンデが振るわれているのでした。
「い、一体何が……?」
また一振りソーセージを反射的に振り返しながら、はあちゃまは疑問をもらします。
もちろん先の痛みはココのストーンスンデによるダメージなのですが、その威力がこれまでとは段違いなのです。
ココも自分と同様受けた直後に振り返しているはずなのに、なぜあんな強打を放つことができたのか、それとも単に打ちどころが悪かっただけなのか。
そんなことを考えているうちにまた一撃、はあちゃまの身体にストーンスンデが打ち込まれます。
「……ッ」
その一撃もまた先と同様、信じられない重さなのでした。
本当に一体何が起きているのかと、はあちゃまはクリスタルサビロイを振るいながらココの手元を凝視します。
そのココは、一見はあちゃまの攻撃を受けた直後にストーンスンデをただ振るっているだけのようです。
しかし、
「あ」
振るうココを認めてあることに気が付いたはあちゃまは、思わず驚愕の呟きをもらしました。
◇ ◇ ◇
「なるほど。あなたが言っていたのはこのことだったのですね」
確認するノエルに「うん」とかなたが頷きます。
「シュバルバ。シュババシュバルシュバシュバルシュバ」
(マジかよ。なんてセンスしてやがるんだ)
その隣でスバルが愕然としたように呟きました。
「えっと、なにが起きているのですかスバル先輩。るしあには全然わからないのですが」
観戦する面々がちらほらざわつき始めるなか、るしあがこっそりスバルに耳打ちで尋ねます。
「シュバルババシュバルルバ」
(カウンターアタックだ)
「え」
「シュババ。シュバシュバルルシュバルバシュバルシュババシュバ、シュババシュバシュバシュバルシュバルババシュバルルバシュバルルシュババ」
(だから。この応酬ラッシュの殴り合いのなか、ココのヤツことごとくカウンターアタックを決めてるんだよ)
「それって、ちょっと前にはあちゃまがココさんにしてたやつですよね。やっぱりすごいのですか」
「シュバルシュバルバシュバル」
(すごいというかヤバい)
「はあ」
「シュバババシュバルシュバルバシュバルシュバルバシュバルルバシュバシュバルシュバシュバ、シュバシュバルルシュバルルシュバルバシュバシュバルババシュバルルバシュバシュバルルシュババシュバルルシュババシュバルバシュバ」
(かなたがさっき言ってたように打ち合いが単調になっているとは言え、この激しい応酬ラッシュのなかカウンターアタックを当て続けるなんてハッキリ言って普通じゃない)
「でもレジェンド所有者の人達って、みんなそんな人たちばかりですよね」
「シュバルシュババ、シュバシュバルルババシュバルシュババシュバルルシュバルバシュババ。シュバシュバルシュバルババシュバルバシュババ。シュバルルバシュババシュバルバシュバルシュバシュババ。シュバシュバババ。シュバシュババシュバルルバ。シュバシュババシュババシュバルルシュバ、シュバルバシュバルルシュバシュババシュバルババシュバルルバシュバルルシュバルシュバシュバルルバシュバシュバシュバルルバシュバ。シュババシュバルルババシュババ。シュバルルシュバ。シュバシュバルシュバシュバシュバルシュバシュババシュバルルババシュバシュババシュバルバ」
(なんていうか、どうすごいのかを具体的に表現しづらいシュバな。とりあえずスバルにはあんなの無理だ。修練を積んだとしてもできる気がしない。ああそうだ、はあちゃまを見てみろよ。はあちゃまもココと同条件だ。あいつの性格上ココにカウンターアタックをやり返してもいいはずなのに全然していないだろ。あれはしていないんじゃない。できないんだ。それくらい人間離れしたことをやってるんだって言えばわかるか)
「なんていうか。それはヤバいですね」
「シュバ。シュバルババ」
(ああ。ヤバいんだ)
スバルの説明を聞いたるしあがごくりと唾を飲み込みます。
「ふふふ。どうやら大空スバルもココのすごさがわかったようだね」
そんな二人にかなたが話しかけました。
「はい。すごいセンスだと驚いています」
「そうでしょそうでしょ」
かなたはまるで自分のことのように喜びます。
「なんたってココはボクの親友だからね。すごいヤツなのさ」
「はあ」
「なんにせよ。これで軍配はココさんの方に上がりましたね」
ノエルが彼女たちの会話に混ざります。
「このままいけばココさんの勝ち。はあちゃまの負けです」
「え。はあちゃまには『断末魔』がありますよ」
口を挟むるしあに「そうですね」とノエルが頷きます。
「はあちゃまには確かに『断末魔』があります」
そう言ってから「しかし」と彼女は続けました。
「『断末魔』の攻撃力上昇率は75%、対してカウンターアタックの攻撃力上昇率は100%です。そして今現在ココさんの攻撃はほぼすべてがカウンターアタックとなっていますので、彼女は常に攻撃力100%バフがかかっていると考えて良いと言えます。つまりたとえはあちゃまが『断末魔』を使おうとココさんの方が25%も上昇率が勝っているのです。さらに、先にも言いましたが彼女たちの間合いはココさん優位の距離です。下手に仕切り直すことができないこの状況、はあちゃまが『断末魔』を使うことを踏まえてもなおこのままいけばココさんの勝ちと言うわけなのです」
「あ、あの」
るしあがおずおずとした調子で口を開きます。
「実は、るしあには少しわからないのですが、なぜはあちゃまが『距離を取って仕切り直しすることはない』ということを前提にして話が進んでいるのですか。……その、さも当然のように喋っていて、ちょっと聞くのが恥ずかしかったりするのですが」
最後の方はボソボソと小声になってしまいながら、るしあは頬を桜色に染めて呟くように聞きます。
「シュバシュババ。シュババシュバ。シュババシュバア」
(ああそうか。そうだよな。あのなるしあ)
「申し訳ありませんるしあさん。団長が言葉足らずでした」
ノエルはるしあに軽く頭を下げてから続けます。
「確かにただ打ち合っているだけであれば、るしあさんの言うとおり避けるなりなんなりして距離を取ることは簡単にできます。しかしこの打ち合いに関して言えば少々場合が違うのです。ああしてお互い相手の攻撃を受けた直後に殴り返していますよね。るしあさんは、あんなのを一発一発全く意識的に剣を振るって打っていると思いますか」
「違うのですか」
「実はちょっと違うのです。はじめの数発はもちろんそうであったでしょうけれど、あれだけ喰らって打つ喰らって打つを繰り返してしまいますと、身体が動作を覚えて勝手に動くようになってしまうのです。もちろん打ち込むタイミングなどは自分で意識していましょう、しかし攻撃を喰らったその瞬間にはすでに身体が相手へ攻撃し返す準備を整えているのです。やり返すことが当たり前となっている状態。極端な話オートモードで戦闘しているように、仮に何も考えていなくても勝手に身体がソーセージを振るってくれるのですよ」
「はあ」
「で。ここからが本題なのですが、こうなると逆に剣を振るう以外の動作が難しくなるのです。もちろんその中には『剣を振るうことをやめる』ことも含まれています。そもそも剣を振るうためには身体全体それ相応の体勢を取らねばなりません。今の彼女たちの身体は自動的にその体勢を取るようになっているのです。それを無理矢理キャンセルさせるのですから無茶であるのは当然でしょう。もし仮に、そんなことを急にしてしまったら隙ができるどころではないのです。ほんのわずかな時間ですが、不自然なまでにピタリと運動停止したような空白時間が生じます。さらにはこの応酬ラッシュファイト、一瞬後には相手方がすでに殴りかかる準備を整えているのですからその一撃を甘んじて受けるのは当然として、それでも身体の硬直状態が解けるわけではありません。その好機を逃すはずがないココさんから放たれるでしょうフルスイングのクリティカルショット、下手をすればそれを何発とあびせられ戦闘不能に陥る恐れすらあるのです。まあ『鉄の意思』や『執着』の防御バフスキルをかけて実行すれば、どうにか生き延びることはできるかもしれません。しかしだからと言って距離を取るためだけにそんなリスキーなことをするというは、団長は全く割に合わないと思いまっする」
「はあ。なるほどです」
「シュバア。シュバシュバルシュバシュババシュバシュバルバシュバルルシュバシュバルバシュバ。シュバシュバルシュバルバ」
(るしあ。これ以上ないくらい嚙み砕いて説明してもらったんだ。礼くらい言っとけ)
「あ。そうですよね。ごめんなさいノエルさん。ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして」
ノエルは顔の前で小さく手を振ります。
「それよりも」
彼女はココとはあちゃまの方へ目を向けました。
「このまま終わってしまうのか、それともなにがしらして窮地を脱するのか。気になるところでありますね」