勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「おらア!」
カウンターアタックを決めたココの一振りがまた一撃、はあちゃまの身体に打ち込まれます。
「ぐッ」
ふらりとよろめきながら、しかしはあちゃまもクリスタルサビロイを振るいやり返しました。
パン! と乾いた音をたててココにソーセージが当たります。
「だから効かねえっつってんだろ! てめえのソーセージなんかよオ!」
ココがそう怒鳴りながらストーンスンデを振るおうとした時でした。
「……ッ」
はあちゃまが目を見開きます。
その目がサッと染め変わりました。
灰色に。
目の変色と同時にスキルが発動します。
はあちゃまの身体全身を無色透明の氷の鎧が包み込み、防御力を60%上昇させます。
防御バフスキル「執着」の発動でした。
◇ ◇ ◇
「バカな!」
はあちゃまが「執着」を発動させたのを目にしたノエルが思わず叫びます。
「『執着』ですか! この場面で!」
「ま、まずい展開なのですか」
るしあが不安そうに聞きました。
「いえ。何と言いますか。その逆です」
ノエルは一息ついてからるしあに答えます。
「すいませんでした急に大声を出して。まさかここで防御バフスキルを発動するとは思ってもみなくて。その勝負を捨てるような選択に、つい驚いてしまって」
「はあちゃまが悪手をさした、ということですか」
「実際のところはわかりません。しかし少なくとも団長にはそうとしか思えません」
ノエルは続けます。
「確かに『執着』は使用者の受けるダメージを60%も軽減する優れた防御スキルです。しかしココさんの攻撃はほぼすべてがカウンターアタック、100%の攻撃力バフがかかっている状態です。ですので60%分ダメージを軽減したところでそれを差し引いた残り40%分の攻撃力向上状態にあります。つまり『執着』をかけたところで打ち負けることは目に見えているのです」
「でも、もしかしたらさっきノエルさんが言ってたみたいに、防御バフをかけた状態で距離を取ろうと考えているのかもしれませんよ」
「あれはあくまで『どうしても距離を取りたいなら』という仮定の話です。そもそも団長が言いたかったのはそれくらいしないと仕切り直すことはできないということであって、そういう選択肢があるという意味で言ったわけではありません。実際問題その行動を採用できるかどうかという話で言えば全く現実的なものではないのです」
「はあ」
「ですからこの場面ではあちゃまが取るべき手があるとすればただ一つ、『断末魔』の攻撃力バフしかないと団長は思っていたのであります」
「でも『断末魔』の攻撃力上昇率は75%。カウンターアタックの上昇率100%には負けているので、『執着』を選んでも『断末魔』を選んでもどちらも変わらないんじゃないですか」
尋ねるるしあに「確かに上昇率が負けていることに違いありません」とノエルは頷きます。
「しかし、ココさんの攻撃力100%バフはあくまでカウンターアタックが成功したらの話です。いきなり75%も攻撃力が上がった剣撃に初手からカウンターを決めるのはまさに至難の業。なのでもしはあちゃまに勝機があるとすれば、ココさんが『断末魔』バフのかかった攻撃にカウンターアタックを合わせ始める前に畳みかけて終わらせるしかない。団長はそう思っていたのであります。しかしまさか『執着』の方を取るとは、どうにも解せません」
「そうですね。そう言われると、どうしてなんでしょうね」
眉を顰めるノエルを倣うようにるしあも考えはじめます。
「どうでもいいじゃん。そんなこと」
するとかなたがそんな二人に話しかけてきました。
「たとえ『断末魔』の攻撃力バフスキルをかけてたとしても結果は同じだよ。カウンターアタックを決めはじめたココはもう外すヘマなんてしない」
「初手からカウンターアタックで合わせていけるというのですか。さすがに無理でしょうそんなこと」
「無理なんて言われることの大抵は案外できてしまえるもの、それがホロ・デ・ソーセージ大陸のあるあるさ」
かなたは続けます。
「さっきも言ったけどココは身体で受けないとなかなか相手の剣筋を覚えることができないクセのある剣士でね。言うは易しだけどこの特徴、ダメージを受けなくちゃ剣筋を掴めないんだから相当の欠点でもあるんだよ。でもさ、ハッキリ言ってボクは打ち合う中で全然掴めない剣筋をどうして打たれることで掴めるのか、長年一緒にいながらその感覚が全くわからないんだ」
「あの、すいません。一体何の話をしているのでしょうか。もっと要点を絞ってもらえると嬉しいのですが」
「ココの感覚や直感をボクたちのそれらと同じものとして見るべきじゃないって言っているのさ」
「……」
「カウンターアタックを確実に決めるココの直感は本物だよ。たとえ相手が攻撃力バフをかけたとしても、ココは一度掴んだ感覚を決して手放したりなんかしない。わかるかい。ボクたちにとっては訳が分からないような域にある超高等テクニックが、ココにとってはなんてことのない攻撃方法の一つでしかないのさ。ココ本人からすれば大して難しくもないことだから、攻撃力が上がったぐらいじゃ簡単に対応できちゃうんだよ」
そう話し終えるかなたにノエルとるしあ、スバルは思わず顔を見合わせます。
「とにかく。はあちゃまは『執着』を選びました」
ノエルが話しを戻すように口にします。
「おそらくですが彼女の『助かりたい』という保身の本能が無意識に働いて、本人の意図せぬまま『執着』のスキルが発動してしまったのではないかと思いまっする」
「なるほど。じゃあこの勝負ココさんの勝ちなんですね」
「おそらくは」
「よかった」
るしあがホッと胸を撫で下ろします。
「シュバルババ」
(どうだかな)
しかし、それに水差すようにスバルがボソリと呟きました。
「シュバルバシュバルルバシュバルババ? シュババシュバルルシュババシュバ、シュバシュバシュババ」
(保身の本能が働いた? そんな可愛い女かよ、あのはあちゃまが)
「スバル先輩」
「シュババシュバルバシュババシュバルルシュバルルバシュバルシュバルバ、シュバルバシュバルルシュババシュバルルバシュバ。シュバア」
(まさか氷の槍を出現させたりはしないだろうが、あいつは絶対何か企んでるぞ。るしあ)
そう言ってから、スバルは睨みつけるようにはあちゃまの方へ目を向けました。