勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「おい」

 

 防御バフスキルの「執着」を発動したはあちゃま。

 それを目の当たりにしたココは静かに目を怒らせ、真っ赤な瞳孔をぎちぎちと縮ませてはあちゃまを見下ろし睨みつけます。

 

「てめえ。どういうつもりだ」

 

「ふふん」

 

「ふふんじゃねえだろ」

 

 ドン! ドン! ドン! ドン! とソーセージを殴り合うココの手が、込み上がる怒りで小刻みに震えだします。

 

「なに笑ってやがる。一体どんな神経してやがるんだてめえは!」

 

「……ッ」

 

 怒鳴ってドスン! と振り斬るストーンスンデの一撃に、はあちゃまは思わず顔を顰めました。

 

「そのスキルはてめえのもんじゃねえ! 雪花ラミィがチームメンバーと汗水たらしてようやく手に入れたあいつらの財産だ! それをよくもまあ奪ってすぐさま、本人の目の前で使う気になれたなア! クズが!」

 

 ココの怒気に呼応して、彼女の放つソーセージの剣撃も速さと威力を増していきます。

 そんなココの攻撃を受けながら、

 

「……」

 

 はあちゃまは意味ありげな含み笑いを浮かべました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 ココの振るう剣の速さと威力が徐々に上がっていきます。

 

「すごいですね。ココさん」

 

 るしあはそんなココの勢いに圧倒されたように息をのんで、呟きます。

 

「シュバ」

(いや)

 

 しかしスバルはそれを否定しました。

 

「シュババ、シュバルバ」

(これは、まずいぞ)

 

「え」

 

 るしあが思わずスバルの方へ振り向きます。

 

「なにがまずいのですか」

 

「シュバルバ」

(だからさ)

 

 一拍置いてから、スバルが続けます。

 

「シュバルルシュバルルシュバ」

(合わなくなってるだろ)

 

「はあ。なにがでしょうか」

 

「シュバルシュバルシュバシュバルシュバ。シュバルルバシュバルルバ」

(ココのヤツのタイミングだよ。カウンターアタックの)

 

「ええ!」

 

 驚きの声を上げて、るしあはココとはあちゃまの打ち合いに目を戻します。

 たしかにスバルにそう言われてから改めて見てみると、ココの剣速や打撃の回転率が上昇したことにより、はあちゃまが打ち終えた直後に打つ時もあればフライングしてしまったかのようにほぼ同時のタイミングでストーンスンデを打ち放っている時もあります。

 タイミングがあっていないというのはそのフライングのことなのか、それとも彼女が振るっているソーセージが尽くそうなのか、剣士でないるしあにはよくわからないものの、スバルの話しぶりから察するに現状が看過できない事態であることだけは理解したのでした。

 

「どうして、カウンターアタックが決まらなくなっているのでしょうか」

 

「シュババシュバルルバ。シュバルルバシュババシュバルルバシュバル「シュバルル」バ」

(だから言っただろ。はあちゃまが何の考えもなしに「執着」を)

 

「それはおそらく、はあちゃまの発動させた『執着』のスキルによって心を掻き乱されたからです」

 

 るしあがスバルに対して問いかけた言葉を、隣のノエルが意図せず拾って答えます。

 

「恥ずかしいです。先の団長の予想はまるで見当違いでありました」

 

 申し訳なさそうにそう言ってから、ノエルは続けます。

 

「どうやらはあちゃまが『執着』を発動させた狙いはバフ効果ではなく心理戦、ココさんに対する挑発のためであったようです。はあちゃまが『執着』を発動してからのココさんは怒りが勝手に剣のギアを上げてしまい、うまくソーセージをコントロールできていないのです」

 

「でも、どうして『執着』を使われただけでそんなに怒ってしまうのでしょうか」

 

「こればかりはレジェンド所有者にならないと理解しづらい感情であります。主を選定すると言われるメタルホットドッグを除き、レジェンドソーセージは並大抵の苦労で手に入るようなものではありません。どれだけ手に入れたいと欲しても己だけでは力不足、レジェンド所有者たる実力を有した上でチームメンバーと心を一つにしてようやく手にすることができる伝説の剣なのです。ココさんがその苦労を知るレジェンド所有者だからこそ、同じくレジェンド所有者であるラミィさんの気持ちを察して、その込み上がる怒りを抑えることができないのでしょう」

 

「そっか。そういえば、ココさんが戦いの二番手を名乗り出たのもラミィの敵討ちみたいなノリでしたもんね。二人はそれぞれ組のリーダーとして敵同士とは言え長い付き合いですし、逆にお互いの苦労とか辛かったこととか一番よくわかって尊重し合っているのかもしれませんね」

 

「はい。おそらくそこをはあちゃまに見抜かれてしまったのです。ですが同じ剣士としてチームリーダーとして、ココさんを短気だと責めることは団長にはできません。自分のスキルを奪われた直後に使われるというのであれば、己の未熟だと言い聞かし耐えることもできましょう。しかし例えば団長が今のココさんと同じような状況で、スバル先輩の『神の怒り』など発動されては己の心を制御できる自信は正直ありません。レジェンドソーセージとそのソーセージを象徴するスキルはそのチームにとっての誇りであり財産でもあるのですよ。それを、本来なら『断末魔』を使うべき場面であえて『執着』を使いだすのはラミィさんに対する明らかな侮辱です。腐ってもレジェンドソーセージを所有する者がしていいことではありません」

 

 説明するうちにノエルもふつふつと怒りが込み上がってきたのでしょう、彼女は「はあああ」と長いため息をついてから気持ちを入れ替えるように両手でパチンパチンと顔を叩きます。

 

「はあ」

 

 るしあは頷いてからその視線をココとはあちゃまの方へ戻します。

 ストーンスンデを振るココの剣速ギアはさらに上がっていき、はあちゃまの打ち終わりに二発三発と連続で返していきます。

 

「あの。確かにカウンターアタックはなくなったのかもしれませんが、すごい猛攻ですよ。はあちゃまの一撃に対して二発も三発も打ち返していますし。このまま押し切れそうな雰囲気に見えるのですが、それでもまずい状況なのでしょうか」

 

 尋ねるるしあに、ノエルは言いづらそうな調子で「はい」と答えます。

 

「察するに、ココさんはカウンターアタックを決められなくなったのを内心で相当焦っているのだと思います。だからカウンターアタックで決められなかった分のダメージをああして手数で補おうとしているのだと思いますが、むしろそれが逆にまずい」

 

「?」

 

「この戦い、そもそも先までココさんが勝ち確だと言えたのは応酬ラッシュファイトという縛りがあったからです。お互い殴ったら即殴り返さなければならない縛りがあればこそ、ココさんはカウンターアタックを決め続けることができたのですし、はあちゃまが距離を取って仕切り直すことを防いでいたのです。そのためココさんが今取るべき最善手は、一刻も早く己を落ち着かせて元のメンタルに戻りカウンターアタックを決め続ける先の戦闘状態に引き戻すことであると言えます」

 

「そうですね」

 

「しかし今、ココさんの剣速はあまりに上がりすぎています。そしてはあちゃまが一撃を打ち終えたあとに二発三発と連続で打ち込んでいますが、応酬ラッシュファイトの縛りが有効ならばそんなことはできないはずなのです。剣速が上がったとは言えはあちゃま程の実力の剣士であれば、その速さに合わせて打ち合うことなど容易のはず。しかし事実そうなっていないのは、はあちゃまがあえてココさんの暴走を放置しているからなのです」

 

「どうしてですか」

 

「応酬ラッシュファイトという縛りを破綻させたいからですよ。はあちゃまもココさんのカウンターアタックの直感力に気が付いたでしょうから、もう彼女との応酬ラッシュなどやり合いたくないのです。しかし自分から剣を止めたり距離を取ったりして仕切り直すことは自殺行為のため実行できない。だから、まずココさんに応酬ラッシュファイトのルール破りをさせているんですよ。打たれたら即打ち返すという縛りをあいまいにして、いつでも自分が仕切り直せる状況にしておきたいのです」

 

「はあ」

 

「つまり、はあちゃまが破綻させてしまおうと思えばいつでも破綻させてしまえるのですよこの応酬ラッシュファイト形式は。はあちゃまはココさんに押されているように見えてその実、ルールを破綻させて反撃に移る絶好のタイミングを見計らっているのだと思います」

 

「……。一応聞いてみるのですが、もし破綻したらどうなってしまうのでしょうか」

 

 尋ねるるしあにノエルは「それは」と何か答えようとするものの、続く言葉が出てこないようで黙ってしまい、辛そうな顔で彼女から目を逸らしました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「おらア! こらア! くたばれエ!」

 

 罵声を浴びせながらココがはあちゃまに二発三発とソーセージを打ち込みます。

 一方それらを受けたはあちゃまは、やり返すことなくタンッと軽い足取りで一歩後ろへ下がりました。

 

「!」

 

 すると、はあちゃまの次の攻撃直後に反撃するつもりですでにソーセージを振るっていたココのストーンスンデが、ブン! と大きな音をさせて空振ります。

 はあちゃまはそんなココに向かってクリスタルサビロイを振るいました。

 

 ズドン!

 

 ココの胴体に命中します。

 

「……ッ」

 

 その一撃はそれまでのような腕力のみで振るっていたものではなく足腰から力が込められた殺傷力の高いものであり、加えて振るわれた距離が二メートル弱というクリスタルサビロイの間合いです。

 まともに受けたココのダメージは計り知れません。

 

「ぐ……ッ、う……ッ」

 

 残り体力が少ない状態でその重いソーセージを受けたのですから、ココは思わず苦しそうなうめき声をあげて動きを止めてしまいました。

 

「どうしたの?」

 

 はあちゃまが嘲るように笑います。

 

「蚊に刺されて動きが止まってるわよ。桐生ココ」

 

「て、てめエ!」

 

 ココがストーンスンデを振るおうとしますが、それより速くはあちゃまのクリスタルサビロイが先と同じ箇所を強打します。

 

「……ッ」

 

 ココはそれでも歯を食いしばり、倒れることを堪えます。

 しかしそんな彼女に返し刀のクリスタルサビロイが無慈悲に襲いかかり、右側頭部へ強かに打ち込まれます。

 ココはくらりとよろめきながら白目を剥かせ、崩れ落ちるように倒れ込みました。

 

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