勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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『ねえココ。キミの夢はなに?』

 

 あれはいつのことだったでしょう。

 西の孤島南方にあるかなたの丸太小屋、そのすぐ横にある丘の上でココとかなたが二人、沈む夕日を眺めていました。

 そんな折にポツリとかなたが聞いてきたのです。

 

『あ? なんだいきなり』

 

『ボクの夢は気持ちよく敗北することさ。コテンパンに負かされたあとに寝転がって大空を見上げてみたい』

 

『まだそんなこと言ってんのか。変態が』

 

『別にいいだろ。それでココは』

 

『ワタシは、……親友がほしい』

 

『いるじゃん。桐生会のみんなが』

 

『ちがう』

 

 ココは首を振ります。

 

『あいつらは家族だ。親友じゃない』

 

『え? ごめん。言ってることがよくわからないんだけど』

 

『ワタシにはな、故郷に何人か親族がいるんだ。そいつらはすごく無力でよ、だから昔はワタシがみんな守ってやってたんだ。まあ今はそいつらみんな元気でやってるみたいだしそんな必要はないようだが、それでも、もしも助けてほしいと便りがあればワタシはすぐにでも駆け出して助けに行ってやるつもりでいる。それが家族ってもんだ。ワタシが命に代えても守ってやる大切な存在よ』

 

『親友は?』

 

『ワタシと一緒にそんな家族を守ってくれるようなバカ野郎だ』

 

『ぷふ。バカ野郎なんだ』

 

『笑うんじゃねえよ!』

 

『でもココの言うそれって、親友っていうより伴侶なんじゃない? 家族を一緒に守ってほしいなんてさ』

 

『あ?』

 

『怖いなあ。ドス利かせた声なんか出さないでよ。お詫びにあとで良さげな結婚相談所を探しといてあげるから』

 

 言って、かなたはケラケラと笑いだします。

 ココはチッと舌打ちしました。

 

『笑いたきゃ笑えよ』

 

『ごめん。ごめんって。怒んないでよ』

 

 謝るかなたに『ふん』とココは鼻を鳴らします。

 

『おまえも知ってんだろ。ワタシは結婚なんてしない。伴侶なんて冗談でも口にするんじゃねえ』

 

『うん。わかった。もう今後一切口にしないって約束するよ』

 

『どうだかなア』

 

 怪しむように言ってから『ああそれから』と、ココは続けます。

 

『親友の方もだ。変に気を遣って探してくれなくていいからな』

 

『……。え』

 

 かなたが目を丸くします。

 

『なに驚いてんだ。当り前だろ』

 

 ココが呆れたようにため息をつきました。

 

『ワタシだってなア、そんな何の得にもならねえことを一緒にしてくれるバカ野郎がどこかにいるなんて本気で思っちゃいねえよ。いたらいいなってくらいで言ってみただけだ。けど夢ってそんなもんだろ』

 

 言い終えるココに『そうだね』と、かなたがニコニコしながら相槌打ちます。

 それからしばらく沈黙が続き、二人はまたぼんやりと夕日を眺めだして、

 

『親友かあ』

 

 かなたがボソリと呟きました。

 

『ココ。キミはいけないやつだよ』

 

『あ?』

 

 かなたはココに向き直ります。

 

『そうやって時々、本当に寂しいこと言うんだもんなあ』

 

 言ってから、かなたは複雑そうに目を細めて笑いました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 気を失ってから、一体どれだけ経ったのでしょう。

 意識を覚醒させたココは自分が俯せに倒れていることに気づきます。

 

「……ッ」

 

 彼女は立ち上がろうと片膝を立てさせながら、左手でズキズキ痛む頭部を押さえます。

 そうやって靄のかかったように曖昧な記憶をたどり、意識を失う前の自分が何をしていたのか思い出そうとしたのです。

 すると、

 

「フォークを持つ必要なんてないわよ桐生ココ。もう勝負は終わっているから」

 

 そんなココに正面から声がかけられました。

 

「フォーク?」

 

 ふとココは自分の右手の方へ視線を落とします。

 なるほど、言われた通りココは無意識に右手でフォークを掴んでいました。

 しかし一瞬、彼女はそのフォークが自分のものだとわかりませんでした。

 ココの持っているフォークはさび付いたように黒ずんでいたのです。

 

「なによボーッとして、そんなに打ちどころが悪かったの」

 

 声はココを嘲るように続きます。

 

「それはあなたのレジェンドソーセージ、ストーンスンデのフォークよ。私に負けた雪花ラミィのフォークが変色したのを見てたでしょ。私に敗れてスキルを失ったレジェンド所有者のフォークはそうやって黒ずむの。私のクリスタルサビロイを受けて倒れたあなたをソーセージは敗者と判断したわけ。わかったらさっさと起き上がってこのステージから降りてちょうだい。後ろが詰まってるのよ」

 

「ああそうか。ワタシは」

 

 声の主、はあちゃまの話を聞くうちに、ココは何が起こったのかを思い出していきます。

 はあちゃまが「執着」のスキルを使用したのを見て頭に血が上ってしまったこと。カウンターアタックを決められなくなり、自分から応酬ラッシュの縛りを破ってしまったこと。その結果無様に叩きのめされてしまったこと。

 

「……」

 

 ココは再び黒ずんだストーンスンデのフォークを見ます。

 それから視線をはあちゃまに戻し、彼女の身体の傷が癒えていることに気づきます。

 

「なるほど。『不死の魂』か」

 

 言ってから自嘲するように笑います。

「不死の魂」が発動したということは、本当に自分は負けてしまったらしいのでした。

 

「ざまアねえな」

 

 やらかした自分にうんざりするようにココは呟きました。

 

「何か言った?」

 

 はあちゃまがココに聞きます。

 ココはあからさまにため息をついてから、

 

「やめだ」

 

 と独り言ちるように言いました。

 

「え」

 

「だからやめだって言ってんだよ。もうこんなソーセージを振り回すチャンバラごっこは終わりにする」

 

「あは」

 

 ココの言葉を聞いたはあちゃまが思わず笑い声をあげます。

 

「いまさら何を言ってるのかしらこのドラゴンは。やめるも何ももうあなたとの勝負は終わってるのよおバカさん。あなたのストーンスンデは黒ずんで使い物にならないゴミとなった、つまりソーセージがあなたを敗者であると判断したの。わかったらぐちぐち小学生みたいな負け惜しみ言ってないでステージから降りなさい!」

 

「生温いなア」

 

「あ?」

 

「はあちゃま。おまえは相手を殺したわけでも戦闘不能にしたわけでもねエ。ワタシがまだ戦えるって言ってんのに負けだ負けだってぎゃあぎゃあと。まるで子供同士の喧嘩を過敏になって止めようとする保護者みたいで笑えるな。おまえにしてもワタシを負けと判じたソーセージにしても、やっぱり大陸のこういうとこは生温くて肌に合わねエわ」

 

「なんですって」

 

「ワタシは魔界出身のドラゴンだ。向こうじゃぶっ殺すか戦闘不能にするか、相手が泣いて許しを請うかまでしなけりゃ決して勝負は終わらねえ。たとえ武器を失っても闘志を失わなければ敗北者じゃねえんだ」

 

「それで?」

 

「郷に入っては郷に従えの倣いで大陸に来て以降ずっとソーセージを振るってきたが、そもそも私の武器はこの竜の身体だ。ストーンスンデのフォークが使えなくなったからと言ってさして問題はないし、むしろてめえをボコボコにぶちのめすにはワタシのネイティブスタイルの方が好都合ですらある」

 

「ふん。バカバカしい」

 

 はあちゃまは鼻を鳴らします。

 

「竜族が力でマウントを取っていたのは遥か昔の前時代、あらゆる種族の剣士職の身体能力が爆発的に向上した現代では獣人はおろか人間にすら負ける頑丈さだけが取り柄のデクの棒であるくせに、よくもまあキャンキャン威勢よく吠えることができるわね。このクリスタルサビロイを所有する私を相手にストーンスンデなしで問題ないですって? ハッタリも大概にしなさいよ」

 

「ハッタリかどうかはすぐにわかる」

 

 ココは持っていたフォークを軽く真上へ放ります。

 そのフォークはくるくると1メートルほど上がってからまた彼女のところへ落ちてきます。

 ココはパシン! と音をたててフォークを掴み取りました。

 彼女が持ったのはフォークの柄ではなく、三叉に尖った先端です。

 

「これから始まるのはレジェンドソーセージスキルや大陸の命運をかけた戦いなんていう大仰なもんじゃねえ。ワタシ個人の単なるけじめだ」

 

 フォークの先部分をギュッと握り込むココの手から赤い血が滲みだし、フォークの反対端まで伝ってからポタポタと地面に滴り落ちます。

 

「極道のもんとして、外道の輩の汚ねエ手に引っかかって退場したなんていう赤っ恥だけア、かくわけにいかねえからな!」

 

「お気の毒に。その下らないプライドがなければ恥を上塗りしなくて済んだのにね」

 

「はあちゃま。今からてめえにたっぷり教えてやるよ」

 

 ココはフォークを握りしめる血塗られた手を顔前に持っていき、その拳越しにはあちゃまを睨みつけます。

 

「今日なお恐怖で人々を震え上がらせる魔界の竜族、その本当の恐ろしさをな!」

 

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