勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「魔界の竜族の恐ろしさ、てめえにたっぷりと思い知らせてやる!」

 

 ココが叫びフォークを握り込みます。

 フォークの先端が掌の皮膚を突き破り、赤い血が滴り落ちます。

 

「……」

 

 しかしそれだけです。何も起こりません。

 

「ふん。やっぱりただのハッタリじゃない」

 

 はあちゃまがそう呟いた直後です。

 

「あ!」

 

 観戦していたるしあが、何かに気づいて声を上げました。

 

「シュバルバシュバア」

(どうしたるしあ)

 

「コ、ココさんの血の色が!」

 

 るしあが指さす先に皆の視線が集まります。

 それはフォークを握り込んでいるココの手でした。

 

「血の色が、赤から蒼に変わっていきます!」

 

 るしあの言うとおり、ココの手から流れている血が赤から蒼へと変色していきます。

 

「うおおお!」

 

 ココは声を張り上げながらその手を振り上げました。

 直後バチバチ! と彼女の周囲を凄まじい電流が迸り、身体全体を包みます。

 するとどうでしょう。彼女の両手指先が橙色に変色し、まるで竜の皮膚のように厚みを増します。その変質は指先から身体中心部へと向かっていき、胸元まで橙色に染めます。

 その変化が済んだかと思えば今度はココの翼と尻尾が一回り大きくなり、爪も真っ黒に変色します。そして最後に両手の甲からそれぞれ二本の突起が指の伸びている向きとは真逆に、まるで竜の双角のように突き出します。

 そうした変身を終えて、ココはゆっくりとはあちゃまの方を向きました。

 

「待たせたなはあちゃま。これこそ魔界の住人たちが忌み恐れた竜族のマックスバトルフォーム、竜魔人と呼ばれる姿だア!」

 

「シュバアアア!」

(おめえええ!)

 

 ココの変身した姿を見て、なぜかはあちゃまではなくスバルが叫びます。

 

「シュバルバシュババシュバルルバシュババシュバルルシュババ『〇ババシュバルルシュバ』バシュババシュバルババシュバルシュバシュバルシュバ〇バシュバ〇シュババシュバシュバルルシュバルルババシュババ! シュバルバシュバルルシュババシュバルルババシュバルルシュバ!」

(近年アニメ放送もされた名作漫画「〇イの大冒険」の人気キャラクターである竜騎将バラ〇の竜〇人化を軽々しくパロディるのはやめろ! おまえはガチ勢ファンの恐ろしさをわかってねえ!)

 

「あの、スバル先輩が有名作品の変身シーンをパクるなって言ってます」

 

 るしあがスバルの言葉を伝えます。

 ココは「ああ?」と言いながら振り向きました。

 

「有名作品のパクリだア? なんのことだかわからねえな」

 

「ダ〇の大冒険というそうです」

 

「わからねえって言ってんだよ」

 

 ココははあちゃまに向き直ります。

 

「何はともあれこれがワタシの最強戦闘形態。このあとで『実はあと二回の変身を残しているんですよ』とは言い出さねえから、その点は安心しな」

 

「何の話をしてるのよ。変身? したければ何度でもすればいいわ。どうせ結果は同じなのだから」

 

「ふん。イキがっていられるのも今のうちだけだ」

 

 ココはバキボキと指関節を鳴らします。

 

「言っておくが竜魔人になったワタシはただ目の前の敵を殲滅させるだけの魔獣と化す。たとえてめえが泣き叫ぼうが拳を止めることはできねえ」

 

「ああそう」

 

「さらに! この形態になったワタシは秘呪文ドルオーラすら放つことができるのだ! たぶん!」

 

 ココがはあちゃまに向かって突っ込みます。

 

「シュババシュバルバシュババシュバシュババ!」

(誰かあいつの口を縫い付けろ!)

 

「まあまあ。落ち着きなよ大空スバル」

 

 かなたがそんなスバルの肩に手を置いて宥めます。

 シュバル語がわからないかなたですが、スバルが何に怒鳴っているか大体察しているようでした。

 

「今更じゃないか名作パロディなんか。これまでだって散々伏字使ってパロディってきたんだから、そんなに目くじら立てることないじゃん」

 

「シュババシュバルシュバルシュババシュバシュバルシュバルバ! シュバ!」

(だからせめて伏字使えって話なんだよ! なあ!)

 

「うん。そうだね。そうだね」

 

 シュバル語を解せないかなたは適当に頷きます。

 それから彼女はココとはあちゃまの方へと視線を移しました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 ココがはあちゃま目掛けて駆けていきます。

 

「ふん」

 

 はあちゃまはそんなココを鼻で笑いました。

 

「最強戦闘形態だか何だか知らないけど、ソーセージも持たず直進してくるなんて可哀想なくらいおバカなのね」

 

 はあちゃまは真っ直ぐ向かってくるココが攻撃範囲内に入ったドンピシャのタイミングでクリスタルサビロイを振るいます。

 しかし、

 

「!」

 

 その一振りは躱されました。

 命中したと思われたその直前、ココが背中の翼を羽ばたかせて空中に飛び避けたのです。

 

「おらア!」

 

 そして避けたその次の瞬間にはまた翼を羽ばたかせ、はあちゃまとの距離を自分のリーチまで縮めて殴りかかります。

 

「……ッ」

 

 竜魔人化したココの拳はただの人間のそれとは比べものになりません。

 しかしとは言っても拳は拳、ソーセージの打撃に比べればそう重いダメージでもありません。

 はあちゃまはココから殴られた直後、お返しとばかりにクリスタルサビロイを振るいます。

 しかしそれも翼を羽ばたかせて避けられます。完璧と思われたタイミングからの回避、これで二度目のしくじりです。

 なぜこうも躱されるのか。はあちゃまは思わず顔を顰めます。

 ココは剣士、それも伝説級剣士であるはあちゃまにダメージを素手で与えなければならないのですから、少なくともその拳は体重を乗せた強打でなくてはいけません。そのため拳を打ち放った直後、彼女の重心は前方に傾いているはずです。そして重心が前方に偏っている状態で回避行動を取る場合、否が応でもその重心を乗せた足に踏ん張りを利かせてしまうためのタイムラグが生じてしまいます。はあちゃまはそのことを理解した上で、殴打直後にクリスタルサビロイを振るって当てにいっているのです。にもかかわらずことごとく外されるのですから、はあちゃまが不審に思うのも無理ないことでした。

 なぜココがそんな回避をできているのか、その理由自体は簡単です。

 彼女ははあちゃまを殴った直後、重心が前方に傾いているその状態などお構いなしに翼を羽ばたかせ、強引に空中移動することで回避しているのです。

 しかしそのことは一度目で空中回避された時点から、はあちゃまももちろんわかっています。不可解なのは以後もその回避が続いていることです。

 ココの攻撃手段は拳であるのでその攻撃範囲は至近距離です。対するはあちゃまのクリスタルサビロイはソーセージ最長の2メートルの遠距離範囲武器です。そう言ったリーチ差を考慮するなら、たとえ翼を使って前方重心キャンセルの回避をしているとしてもそう何度も通用するはずがありません。相手が強かなはあちゃまであるからなおのことでしょう。

 にもかかわらずその回避が成功し続けているのは、ココの翼がまるで彼女の意思とは別の意思を持っているかのような動きをさせているからでした。ココの翼が厄介であるのはその翼の移動速度が速い以上に、彼女の身体と翼がそれぞれ独立に動いているような並行処理がなされているからなのです。

 変身後のココは「殴ったあとで避ける」といった一連の行動として「攻撃」と「回避」を考えていないようで、ココの身体が「とにかく相手を殴り倒す!」と激情に駆られたように突っ込んでくる一方で、彼女の翼は「相手に攻撃が届こうが届かまいがとにかく回避は成功させる」と徹底しているような避け方をしてくるのです。

 だからココが強引に突っ込んで殴りかかってくるのを狙ってクリスタルサビロイを振るっても、翼が無理やりココのその突撃を中断させるような回避行動を取りだし躱されてしまうのです。加えて空中回避が可能になったココにとって回避経路は三次元的ですので、しなりで逃げ道を塞ごうにも回避ルートを塞ぎきれません。また回避のための予備動作がいらないために、不意打ち気味にクリスタルサビロイをしならせても寸前で回避されてしまいます。

 はあちゃまは一人で二人を相手にしているような気分になるのでした。

 そして一発二発であれば大したことのないココの攻撃ですが、積み重なるにつれて無視できないものへと膨れ上がっていきます。

 

「……ッ、……ッ」

 

 スキル「不死の魂」で体力回復したはずのはあちゃまでしたが、今は苦しげに息を荒らげているのでした。

 もちろんだからと言ってココが手を緩めることはありません。苦々しそうに睨みつけるはあちゃま目掛けて再度突っ込んでいきます。

 

「この!」

 

 はあちゃまはココに目掛けてクリスタルサビロイを袈裟斬りします。

 しかしココは当然のようにその一振りを回避し、はあちゃまに殴りかかります。

 

「さっきからちょこまかと……ッ」

 

 はあちゃまはクリスタルサビロイを持つ手を強く握り込み、目を見開きました。

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

 はあちゃまの目が真っ赤に染まり、クリスタルサビロイから凄まじい熱気が放たれます。

 スキル「断末魔」の発動です。

 断末魔は体力が25%以下であることを条件に発動することができる攻撃力バフスキルであり、使用者の攻撃力を75%上昇させます。

 はあちゃまは自分に殴りかかろうとするココに、振り終えたばかりのクリスタルサビロイを返し刀で逆袈裟に斬り上げました。

 

「……ッ」

 

 先程までであればココは難なく回避していたでしょう。しかしこの一振りには75%の攻撃力バフが乗っており、それ相応に剣速が上昇しています。

 急に剣速が増したクリスタルサビロイに翼が即座対応するには無理があるようで、バコン! という轟音と共に強烈な一撃がココの側頭部に入りました。

 先に説明したように、ココの翼はまるでココの身体と別の意思を持っているかのような回避行動をしています。しかし逆を言えば翼の回避行動が失敗した場合、攻めることしか考えていないようなココ本体は無防備に近い状態です。

 はあちゃまの放った一撃がクリーンヒットで入るのは当然でした。

 

「ふふん」

 

 ようやく入った一撃、しかも強打で決まったそれにはあちゃまは満足げに笑います。

 しかし、

 

「なに笑ってやがる」

 

 クリスタルサビロイを当てたその頭部、ソーセージで翳りになって表情が読めない顔から二つの赤い眼光が不気味な輝きを放ちながら驕るはあちゃまを見返します。

 

「まだわからんのかアアアア! はあちゃまアアアア!」

 

 言い放つや否や、ココは大きく足を振り上げてはあちゃまを蹴飛ばしました。

 勝負が決したと思っていたはあちゃまにとってその一撃は不意打ちになります。まともに受けて二度三度と地面に打ち付けられ、壁付近まで飛ばされました。

 

「この姿になったワタシにてめえごときの攻撃が通用するはずねえだろうが」

 

 バキボキと首関節を鳴らしながらココが吐き捨てるように言います。

 

「ふざけるな!」

 

 はあちゃまは立ち上がるなり叫びました。

 

「一度敗北しフォークが黒ずんだあなたの残り体力はほんのわずかに過ぎないはず! 私のクリスタルサビロイのクリーンヒットを受けて、なぜ平然と立っていられる!」

 

「ふん」

 

 ココは口角を上げて笑います。

 

「最強戦闘形態になったワタシは特殊な闘気、ソセレニックオーラを発生させ己の身体全体に纏わせることができる。このソセレニックオーラはあらゆる打撃系ダメージを軽減させる効果を持つ。それはソーセージとて例外ではない!」

 

「わけのわからないチート設定を!」

 

「てめえにだけは言われる筋合いがねえ!」

 

 ココがまたもやはあちゃまに向かって突っ込んでいきます。

 そんな彼女の周囲には確かに赤い膜のようなものがうっすらと見えました。おそらくそれがココの言っていたソセレニックオーラなのでしょう。

 

「おのれえ……ッ」

 

 はあちゃまは忌々しそうに呟きます。

 

「なにが竜〇人! なにがソセレニックオーラよ! 竜族が人々から恐れられていたのは遠の昔、ソーセージ無き前時代のはず! なのにこの私が! クリスタルサビロイの所有者であるこの私が、どうして素手の竜族なんかにここまで苦戦することになる!」

 

「ワタシらが恐れられていたのは前時代? 驕ったことほざいてんじゃねえよバカが!」

 

「なに!」

 

「何度も言わせんじゃねえ! それは大陸出身の竜族の話だろうが! ワタシら魔界生粋の竜族を、そんな竜だかトカゲだかわからなくなっちまったような日和見連中と一緒にするんじゃねエ!」

 

 ココはすでにはあちゃまの目と鼻の先の距離です。

 拳を振りかざすココにはあちゃまもクリスタルサビロイを振るって応戦しようとします。

 しかしはあちゃまのその一振りはソセレニックオーラで防ぐまでもなく躱されます。

 

「くたばりやがれ!」

 

 叫ぶなりココは拳を振り下ろしました。

 その一撃ははあちゃまの頭部右側面に打ち込まれ、殴打の勢いで彼女の首が大きく左奥に捻じられます。

 

「この……、くそドラゴンが……ッ」

 

「あ?」

 

「野蛮人が調子乗ってんじゃないわ」

 

 拳を頬に食い込まされながら、はあちゃまが怒りの眼光でココを横目に睨みつけます。

 

「魔界出身? はん! ソーセージもろくに発達していない未開文明のサルが! いつまでもこの私からマウント取っている気でいるんじゃないわよ!」

 

 そう叫ぶはあちゃまの目が、赤色から灰色に染まり変わりました。

 

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