勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
あくあが尻もちついて泣き出してしまったあと、どれだけ時間が経ったでしょう。
スバルたちには数秒間にも数分間にも、それ以上にも感じました。
その間ずっと、あくあの「ひくっ、ひくっ」という嗚咽以外、全くの静寂が包んでいました。
「ったく、もう」
そんな静寂を破ったのは、大きくため息をついて頭を掻きだすマリンです。
マリンは自分とあくあをずっと見守っているスバルたちに振り返り「悪いわねあんたたち」と謝りました。
「こんな大変な時に、海賊団だのなんだの船長たちの問題で時間とらせちゃって」
言いながら彼女は頭を下げだします。
「あ、いえ、るしあたちは別に」
るしあはぶんぶんと顔の前で手を振りました。
そんなるしあに「ありがと」と礼を言ってから、「まあそれで、お詫びと言ってはなんだけどさ」とマリンは続けます。
「走って戻るよりもずっと早いショートカットを使ってあげるわ」
「「え?」」
マリンの言葉に、彼女以外の全員の声が重なります。
まぶたを腫らしたあくあが船長を見上げます。
「アクアマリン号出航よ。漕ぎ手はいないけど、町の船場くらいまでなら風を利用してすぐたどり着けるでしょ」
「船長!」
あくあが声を張り上げます。
マリンは「そんで」と話しを続けます。
「町のドタバタを収拾させてから、この船であんたたちを西の孤島まで送り届ける。まあ、宝鐘海賊団再結成の肩慣らしってところよね」
それからマリンはあくあの方を向いて「これでいいでしょ?」と聞きます。
あくあは「うん!」と頷きました。
「よし、じゃああくたんはすぐに避難して! なんか風のうわさで聞くところによると、あくたんは後々船長の宝鐘海賊団に加わるつもりだとか言ってるらしいじゃない。でもね、船長は船長の指示を聞けないクルーは船に乗せない主義だから! また安全な航海ができるようになったら迎えに行ってあげるから、それまでちゃんと剣の腕を磨いて待ってなさい!」
「うん! わかった!」
元気よく返事してから、あくあは屋敷の外へ向かって駆け出していきます。
「よおし! そんじゃあんたたち、早く船に乗りなさい! アクアマリン号、出航よ!」
◇ ◇ ◇
一方メードの船場では、まだ元宝鐘一味とスバ友トリ派の剣士たちが戦っていました。
数としては五分五分か、もしくは元宝鐘一味のほうがやや多いくらいです。
しかし元宝鐘一味のほとんどは二年前に現役を退いた元剣士たち、対するスバ友トリ派は襲撃作戦決行に備え集中トレーニングを積んできた剣士たちですから、当然時間の経過とともに元宝鐘一味の旗色は悪くなっていきました。
船場に停泊していた船も、もうほとんど燃やされてしまっています。
それでもまだ元宝鐘一味が粘り強く戦っている理由は何かといえば、あくあの屋敷へこの場のスバ友たちを向かわせないための足止めでしかありませんでした。
「な、なんだあれは!」
そんな勝機の見えない状況のなか、唐突に、元一味の男が海のほうを指さして声を上げます。
「ああ? どうした?」
そばにいたもう一人の元一味が気怠そうに尋ねました。
「いや、船が」
「船?」
オウム返しに呟きながら、彼は仲間の指さす先に目を向けます。
するとそこには巨大な船がありました。
その船は帆を張ってこの船場にどんどん迫ってきます。
「なんだ、あくあの嬢ちゃんのお船じゃねえか」
男はため息をつきました。
「せっかく無傷で残ったってのに、なんでこっちに向かってくるんだか」
「ちがう」
否定する仲間に彼は「あ?」と聞き返します。
「何がちがうんだ?」
「あの旗を見ろ!」
言われて彼はもう一度目を向けます。
そしてその目を大きく見開きました。
「か、海賊旗! 宝鐘海賊団の、俺たちの海賊旗!」
「船長か! 船長が乗っているのか!」
船場が急にざわめきだします。
その時、
「聞けえ! 我が宝鐘海賊団の同胞たち!」
アクアマリン号からマリンの声が聞こえてきました。
直後、元一味たちは皆一斉に口を閉じ船場がしんと静まり返ります。
「みんな! いきなりこんなこと聞かされて驚くと思うけど、船長は今、性懲りもなくこの船の舵を取っている! そしてあの島へ、西の孤島へ向かおうとしている! アヒルたちを連れていくと約束しちゃったからね!」
船長の声に「船長!」「マリン船長!」と船場から元一味たちが叫びます。
「だけどみんなも知ってのとおり、あそこは悪魔の島! 行って戻って来るだけでも一苦労! だから向かう前にウォーミングアップが必要なわけよ! ねえ! そうでしょキミたち!」
「ああそうだ!」「その通りだ!」と元一味たちは船長に返しました。
「そこでだ! 血迷い町で大暴れしだしたチーム・スバ友のアホどもをコテンパンにのしてから向かうことにした! 今から船場にこのアクアマリン号を接岸して渡しをかける! そんで乗り込んできたスバ友どもをボコボコにしてやる! そういうことで、わかってるわよねキミたち! 海賊にとっての戦場は間違っても人々賑わう街中じゃねえ! 海の上だ! スバ友どもが板上を渡りアクアマリン号にたどり着くまで一切手出し禁止! 渡り途中に妨害するような恥ずかしい真似だけは絶対するんじゃねえぞ!」
「はい船長!」
「わかりました船長!」
マリンの言葉に元一味たちが各々答えます。
「そ、それと、それから、その、キミたちのなかにさ」
するとそんな彼らにマリンは何かを言いかけました。
しかし、もごもごと口ごもってやめてしまいます。
「なんだなんだ?」
「どうしたんだ?」
「船長?」
いきなり歯切れが悪くなったマリンの声に、船場が再びざわつきます。
「キミたちのなかで!」
そんな彼らの様子に気づいたマリンは、意を決したように大声を張り上げました。
「ま、また船長とバカな夢を見たいやつがもしいたらさ! そんなバカも一緒に、このアクアマリン号に乗り込んで来おおおい!」
◇ ◇ ◇
船場に向かって叫んだあと、マリンは不安と緊張で胸が押しつぶされそうでした。
乗り込んで来いなどと強気な口調で言ったものの、実際問題少なくとも船の漕ぎ手の人数が集まってくれなければ、西の孤島へ向かうどころか海へ出ることさえできません。
しかしその一方で、町の人々のなかでアクアマリン号の漕ぎ手が務まるだけの腕利きは、二年前の悪夢のようなトラウマ航海を経験した元一味たちしかいないのです。
しかもその航海が終えてからの二年間、マリンは彼らの信頼を回復させるような何かをしてきた記憶がまるでありません。ただただ毎日酒ばかり飲んで過ごしてきたのです。
彼らは皆そのことを知っているのです。
一体何人集まってくれるだろうか、少なくとも最小限の漕ぎ手だけは集まってほしい。
マリンは内心でそんなことを切に祈っていました。
しばらくして船場の横にアクアマリン号が到着します。
マリンは船にスバ友たちを引き入れるための渡しをかけようとしました。
その時です。
「船長!」
「マリン船長!」
声がしました。
ふとマリンが目を向けると、元一味の男たちがアクアマリン号に向かって走ってきています。
「船長おおお!」
彼らの何人かは頭に緋色のバンダナをしていました。
そのバンダナには海賊旗と同じロゴが刺繍されています。
それは宝鐘海賊団一味であることの証でした。
バンダナをしていない者も持ってないわけではないようで、ズボンのポケットやレッグバッグから取り出し、それを頭に巻きながら走ってきます。
「き、キミたち……」
マリンは信じられない光景を目の当たりにしたように呟いて、思わず手を止めてしまいました。
もう二年も前なのです、チーム・宝鐘海賊団が解散したのは。
そのあとの二年間、彼らはずっとチームの証を肌身離さず持ち歩いていたというのです。
「一番乗りは俺だ!」
「いいや俺だ!」
そして彼らはマリンが渡しをかける前に軽々とアクアマリン号に飛び乗って、驚くマリンに「船長!」と呼びかけながらイタズラっぽい笑みを見せました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。