勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「ごめんねみんな。ボクの勝手な判断ではあちゃまの体力を回復させちゃって」

 

 スバルたちの元に戻ってきたかなたは、開口一番にそう言って謝りました。

 

「シュバ。シュバルバシュバルシュバルルシュバシュバシュバルバ」

(いや。あの場でできる最善だったと思うぞ)

 

「ナイスだそうです」

 

 るしあがスバルの言葉を雑に通訳します。

 

「そうそう。全然気にすることないって」

 

「あ。フブキさん」

 

 白上フブキがスバルたちの会話に交じります。

 

「白上としてはむしろありがたいよ。初っ端から断末魔を発動されたらたまらないからね」

 

「え。ということは」

 

「うん」

 

 フブキはレッグバッグからフォークを取り出します。

 

「そろそろ白上が戦場に立たせてもらおうかな」

 

「へえ。次はあなたなのね白上フブキ」

 

 フブキたちのやり取りを見ていたはあちゃまがほくそ笑みます。

 

「嬉しいわ。あなたが相手で」

 

「まあ。お手柔らかに」

 

 フブキはステージに上がろうとします。

 しかし、

 

「あの。フブキさん」

 

 るしあがそんなフブキの袖を掴んで引き止めました。

 

「もしよければなのですが、棄権とかしても大丈夫ですよ」

 

「あはは。なんでそんなこと言うの」

 

 フブキは思わず苦笑します。

 

「いえ。気分を害させてしまったらすいません。でも、なんというか、今はあまり戦いの流れには思えませんし、それにほら、大怪我とかしてしまったら大変じゃないですか」

 

 るしあは早口にそんなことを言いだします。

 

「うん。ありがとう」

 

 フブキはるしあに微笑みました。

 

「前回の白上とはあちゃまの戦いを知って、それで心配してくれてるんだよね」

 

「うう」

 

 図星をつかれ、るしあは思わず呻き声をだします。

 フブキはそんなるしあに「でも大丈夫だよ」と続けました。

 

「白上だってあの頃よりずっと強くなったんだからさ。まあ勝てるかどうかは別だよ? だけどレジェンド所有者としてそれなりの戦いはしてくるつもり。だから安心してみててほしいな」

 

「はあ」

 

 フブキはまだ不安そうにしているるしあを元気付けるように二、三度軽く彼女の肩を叩いてから、はあちゃまの待つ戦場のステージに上がります。

 

「いらっしゃい。噛ませ犬さん」

 

 はあちゃまが満面の笑みで話しかけてきました。

 

「なんかなあ」

 

 フブキはため息をつきます。

 

「どうして対戦相手をすっごい笑顔で迎え入れるかなあ。感じよくないよそういうの」

 

「あら。ごめんなさいね。前回、前々回と面倒な相手が続いたから、ここで箸休めができると思うとつい顔が緩んでしまって」

 

「失礼なヤツだね相変わらず。本人を前にしてそんなこと言うなよ」

 

 フブキは「でも。まあ」と続けます。

 

「白上とて自分が前座の分際であることは重々承知の上。それでも過去に仲間たちが受けた屈辱分くらいは、ここできっちり返させてもらうよ」

 

 彼女はフォークをブン! と振るって所有するレジェンドソーセージ、ポイズンチョリソーを出現させました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

「はあ!」

 

 フブキがはあちゃまの目前まで肉薄しポイズンチョリソーを振るいます。

 はあちゃまはそれをいなして逆にフブキの胴体へクリスタルサビロイを叩き込みます。

 フブキは痛みをグッと耐えてからまたはあちゃまに斬りかかり、再びはあちゃまの反撃を受けます。

 フブキとはあちゃまの戦闘は始まってからずっとこの繰り返しでした。

 

「なんだこれは」

 

 彼女たちを観戦していたアキロゼが、思わず呟きます。

 

「白上フブキとか言ったかあのポイズンチョリソーの所有者は。よくもあんなゴリ押しの戦い方でこれまでやってこれたな。あれでは相当の実力差でもない限り勝負にならないぞ」

 

「アキロゼさん」

 

 るしあがムッとした顔をしてアキロゼに食いつきます。

 

「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。フブキさんだって頑張って戦っているんですよ」

 

「事実を言ったまでだ。それにな潤羽るしあ、白上フブキが負けるということはすなわち彼女の所有するポイズンチョリソーのスキル『毒牙』が奪われてしまうということだ。『毒牙』は攻撃力を100%バフするレジェンドソーセージ最大の攻撃力バフスキル、それがはあちゃまの手に渡ってしまうことは私たち陣営にとってかなりの痛手になる」

 

「そうかもしれませんけど」

 

「私だって別に『「毒牙」を渡さないために白上フブキは戦うな』と言ってるわけじゃない。はあちゃまと戦うためにわざわざこの城に集結した者たちの勇気ある意志は尊重すべきだと思っている。しかしな、意気揚々と戦場に上がっておいてなすすべもなく『毒牙』のスキルを敵にくれてやるとしたら話が別だ。それは勇気ではなく彼我の実力差すら推し量れない未熟者の蛮勇に過ぎない。先の雪花ラミィと桐生ココが健闘の末に敗北してきたからなおのことだ。勝つ自信がないならば最後の最後の番が来るまで戦場のステージに上がらなければいい」

 

「そんな言い方、厳しすぎますよ」

 

「ふん」

 

 アキロゼはるしあから視線を外してフブキとはあちゃまの方に目を向けようとします。

 すると、

 

「彼我の実力差を推し量れていない? その判断は早すぎるんじゃないかしら」

 

 そんな彼女に誰かが話しかけてきました。

 

「なに」

 

 アキロゼが振り向きます。

 

「あ。すいせいさん」

 

 るしあが呟きます。

 彼女の言うとおり、会話に入ってきたのはすいせいでした。

 

「どういうことだ」

 

 アキロゼはすいせいの方を向いて尋ねます。

 

「おまえはあの二人の戦いを観て、白上フブキに勝機があるように思えるのか」

 

「ううん。ひっどい戦いよねえ。このままだと負け確だわ」

 

 すいせいはあっけらかんと答えます。

 

「おい。私は真剣に聞いてるんだ」

 

 アキロゼはそんな彼女に顔を顰めました。

 

「怖い顔しないで。私だってふざけてるわけじゃないわ。あんたの言うとおり戦況はよろしくないって認めてるんじゃない。それは確かなことよ」

 

 すいせいは「ただねえ」と続けます。

 

「なんか嘘くさいのよね。あの攻め方は」

 

「なに」

 

「攻撃を完封されてる状態だって言うのに、まったく怯んでいるように見えない。仮に私が彼女の立場であったなら、あそこまで迷わず攻め続けたりできないわ。多分だけどダメージをわざと喰らっているのよ」

 

「つまり体力調整をしていると。『毒牙』のスキルを発動するために」

 

「そう」

 

「なるほどな。そう言われればそう見えないこともないが」

 

 アキロゼは腕組みしながら「しかし」と続けます。

 

「たとえ『毒牙』の攻撃力100%バフがかかったとしても、白上フブキの勝率は低いぞ。とにかくゴリ押しに剣を振るう白上フブキに対して、はあちゃまはすでに彼女の剣筋を見切った節がある。むやみやたらと剣を振りすぎたせいでな。剣筋を把握されたこの状況では、たとえ『毒牙』を発動させたとしても形成逆転できる望みは薄い」

 

「かもね」

 

 すいせいは頷いてから「でも」と続けます。

 

「彼女、ここに来てからずっとはあちゃまと戦いたかったみたいなのよね」

 

「何の話をしている?」

 

「この勝ち抜き戦よ。実際はあちゃまと一番始めに対戦したのは雪花ラミィだけど、あれってほとんどフライングみたいな感じで決まったじゃない。次の桐生ココも雪花ラミィの敵討ちみたいなノリで勝手にステージに上がっちゃったから、『待って! 次は自分が戦いたい!』みたいなことは言えない雰囲気だったわよね」

 

「そうだな」

 

「私、彼女の近くだったから嫌でも視界に入ってたんだけど、ずっとはあちゃまと戦いたそうにしていたのよ。はあちゃまがルール説明している時から名乗り出るタイミングを見計らっているようだったし、雪花ラミィが敗れた後もそのタイミングを見てた。ココが負けて戻って来た時にはもうタイミングを狙おうなんてせずに、強引にるしあたちの会話に割り込んで次の戦いを立候補することにした。ね。すごくはあちゃまと戦いたがってるのよ」

 

「それで?」

 

 アキロゼがうんざりしたように聞きます。

 

「白上フブキがはあちゃまと戦いたかったからと言って、だから何だというんだ」

 

「白上フブキは過去に一度はあちゃまと戦って負けてるんでしょ? そんな彼女だったら、はあちゃまと自分との実力差は重々承知のはずよ。スキルを発動させても無理なことだって理解しているはずだわ。にも関わらずはあちゃまとの対戦を望み、かつ実際対戦して圧倒的な劣勢に立たされても攻撃のペースを乱さず動揺しないのはいくら何でも奇妙よ。この万事休すに思える状況が想定内みたいじゃない」

 

「そうだな。確かに奇妙かもしれん」

 

 そこまで言われて、アキロゼは考えるように腕を組みなおします。

 

「しかしだとすれば、白上フブキは『毒牙』のスキル以外に何か秘策があるということになる。一体何があるというんだ?」

 

「いや、ここまで偉そうに言っといてなんだけど、私も『かもしれない』で喋ってるだけだからねえ。ぶっちゃけ何とも言えない。でも雪花ラミィがスキルの属性効果を魔法に転化した例もあるしさ。もう何でもありな気がするのよねえ、私たちソーセージ時代に生きる剣士の戦いって。だからあなたもさ、早々に見切りつけるようなこと言わないでもう少し白上フブキに期待しながら観戦してもいいんじゃないかしら」

 

「……。ふむ。そうだな」

 

 提案するすいせいにアキロゼは素直に頷きます。

 それからアキロゼはすいせいから視線を外し、黙ってフブキとはあちゃまの戦いを見始めました。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 すいせいたちの会話が終わったちょうどその時、ドガン! と凄まじい音が城内に響き渡ります。

 はあちゃまのクリスタルサビロイをまともに受けたフブキが弾き飛ばされ、壁に激突した音です。

 

「……ッ」

 

 壁はソセレ合金によってコーティングされているため身体がめり込むようなことはありませんが、飛ばされた勢いが相当のものであったのでしょう。フブキの身体は一瞬壁に張り付いたように押し付けられ、それからゆっくりと床に落ちます。

 

「ふふん」

 

 傷だらけの身体でなおも立ち上がろうとするフブキを見下ろしながら、はあちゃまが鼻を鳴らしました。

 

「あなたって本当に弱いわね白上フブキ」

 

「……」

 

「確かに二年前に比べて力も速さも格段に上がってるわ。でもそれだけよ。あなたは剣士として一番必要なもの、戦闘のセンスを全く磨いてこなかった。これじゃあ折角の身体能力も宝の持ち腐れだわ」

 

 そう言いながらクリスタルサビロイを手に一歩、また一歩とゆっくりフブキに近づいていきます。

 一方そんなはあちゃまを上目で睨みつけていたフブキはゆっくりと息を吐き、目を閉じてから顔を俯かせました。

 そして、

 

「はは、はははは」

 

 唐突に笑いだします。

 

「なにがおかしいの。それとも打ちどころが悪くて頭が変になっちゃったのかしら」

 

「いいや。そうじゃない」

 

 フブキは顔を上げました。

 

「あんたって本当におめでたいヤツだなって思ってさ」

 

「なに」

 

「そろそろ猫をかぶるのも疲れたよ」

 

 そう口にするフブキの目が紫色に染まります。彼女の持つポイズンチョリソーから毒々しい黒紫色の靄が吹き出しはじめます。

 スキル「毒牙」の発動です。

 攻撃バフスキルである「毒牙」は残り体力が15%以下であることを条件に発動可能となり、使用者の攻撃力を100%上昇させます。

 

「待たせたなはあちゃま」

 

 フブキは毒靄を吐き出すポイズンチョリソーを、ゆっくりはあちゃまに向けて構え直しました。

 

「今からおまえに地獄を見せてやる」

 

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