勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「はあちゃま。今からおまえに地獄を見せてやる」

 

 スキル「毒牙」を発動させたフブキが、ポイズンチョリソーを構えて言い放ちます。

 

「ぷっ。あは、あはは!」

 

 それを聞いたはあちゃまは吹き出しました。

 

「私に地獄を見せるですって?」

 

 そう言ってからまたひとしきり笑います。

 

「あなたって本当に優秀な前座よね白上フブキ。笑いを取るのが上手いもの」

 

「……」

 

「ねえ。二年前に私とあなたが戦った時のことを覚えているかしら。あの時もあなたは今と同じようなことを言ったのよ、『「毒牙」のスキルさえ使えば勝てる』って。その結果どうだったかしら。いちいち自分のチームメンバーに助けられながら尻尾巻いて逃げ帰ったわよねえ。なのにそんなあなたが今再び『毒牙』を発動させて驕りだす。あなたほど成長しない女は大陸広しと言えどもそうそういるもんじゃないわ」

 

 はあちゃまは「でもね、あなたの成長は止まっていても他の皆は教訓を生かし日々進歩していくものなのよ」と続けます。

 

「あなたが今いる場所は逃げ隠れ出来る森林奥地ではなく閉ざされた魔王城、あの時みたいに逃げ出すことなんてできないし、一対一のルールがあるからお仲間が助けてくれることもない。私がこのステージを用意した一番の理由は今度こそあなたを」

 

「ベラベラベラベラ相変わらずうるさいなおまえは。進歩してないのはどっちだよ」

 

 フブキは吐き捨てるように言って、はあちゃまの喋りを遮りました。

 

「今からボコボコにぶちのめしてやるって言ってんのにいつまで待たせる気だ。早くかかってこいよ。それとも本気になった白上にビビって動けないのか」

 

「なんですって?」

 

 フブキの挑発にはあちゃまが眦を上げます。

 

「私があなたなんかにビビってる? その発言はライン越えよ。さすがの私も笑えないわ」

 

 はあちゃまはその苛立ちを示すようにブン! とクリスタルサビロイを素振りしました。

 その風圧がフブキの前髪を靡かせますが、フブキは微動だにせずポイズンチョリソーを構え続けます。

 それがまたはあちゃまの癇に障ったようで、彼女は「ちっ」と舌打ちします。

 

「はあ!」

 

 はあちゃまがかけ声と同時に駆け出します。

 瞬く間にフブキとの距離を詰め、クリスタルサビロイを横なぎに振るいます。

 一方フブキはそんなはあちゃまを認めてから動きます。

 フブキはポイズンチョリソーを振るってクリスタルサビロイにぶつけました。

 その一振りは『毒牙』の攻撃バフがかかっています。なので当然打ち勝ち、クリスタルサビロイのみならずそれを持つはあちゃまの腕も弾き上げました。

 ですが、はあちゃまもそうなるだろうことはわかっていたのでしょう、弾かれた直後のクリスタルサビロイにしなりを入れてフブキを背後から狙っていきます。

 そしてフブキが串刺しになると思われた、その直前でした。

 

「……」

 

 彼女は振り向きもせずにポイズンチョリソーを後方に振るい、襲いかかるクリスタルサビロイの剣を叩き落とします。

 

「なに!」

 

 予想外の防がれ方をされて、はあちゃまが思わず戸惑いを口にします。

 一方のフブキはそんなはあちゃまにすぐさま肉薄して間合いに入り、剣を振りかざしました。

 はあちゃまは腕を弾かれた直後のため剣を構えることができず、しなりも使ったばかりですので防ぐ手段がありません。仕方なく後ろに跳躍して距離を開けようとしますが、案の定同程度の距離をフブキに踏み込まれます。

 彼女は仕方なしに歯を食いしばりフブキの攻撃に備えました。

 そしてフブキが無防備のはあちゃまにポイズンチョリソーを振り下ろしますが、

 

「……」

 

 その剣ははあちゃまの額スレスレのところで止まります。

 まさかの寸止めです。

 

「は?」

 

 はあちゃまの顔が引きつりました。

 

「寸止め? この私に舐めプ?」

 

 わなわなと身体を震わせながら呟くはあちゃまを無視してフブキは剣を引きます。

 それから後ろへ跳んで距離を取りました。

 先の寸止めに続き、追撃のチャンスを見送っての仕切り直しです。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまは苛立ち気に歯を噛み締めました。

 

「ふざけてんじゃないわ!」

 

 彼女は声を張り上げ、ふたたびフブキに向かって突っ込んでいきます。

 駆け出す勢いは凄まじく、一瞬でフブキとの距離が埋まります。

 はあちゃまはその勢いのままフブキめがけてクリスタルサビロイを袈裟斬りに振り下ろしました。

 

「ふざけるなだって?」

 

 一方フブキは静かに見返しながら口を開きます。

 

「それは白上のセリフだよ」

 

 フブキはポイズンチョリソーを左下から右上へ掬い上げるように振るいクリスタルサビロイを弾きました。

 そして弾いた直後に返し刀ではあちゃまの胴体に斬りかかりにいきます。

 

「バカめ!」

 

 対するはあちゃまはクリスタルサビロイを勢いよくしならせて、剣先をフブキの死角である背後に回らせました。

 しかも今度のクリスタルサビロイが突く角度は絶妙で、フブキのポイズンチョリソーが迎撃しようとしても届くか届かないかという位置からです。

 フブキがその不意打ちを対処するには回避するか剣で防ぐかの二択しかないため、どちらにしても今の攻撃を中断せざるを得ません。なので、はあちゃまの追撃は甘んじて受けることになってしまいます。

 

「……」

 

 しかしフブキの顔に動揺はありません。

 彼女は避けようとも防ごうともせずに、むしろさらに一歩踏み込みました。

 そしてポイズンチョリソーを持たない左手をはあちゃまへ伸ばしたかと思えば、そっと彼女の左肩に置き、

 

「?」

 

 眉を顰めるはあちゃまの肩を、グイッと奥へ押し込みました。

 するとどうでしょう、クリスタルサビロイを持つはあちゃまの腕の機転がズレた分だけクリスタルサビロイの動きもズレて、フブキに直撃するはずだったその剣先が頭上スレスレのところでピタリと止まったのです。

 しなりを終えたクリスタルサビロイはその反動でスルスルと元の形状に戻っていきます。

 

「……なに?」

 

 はあちゃまは思わず驚きを呟きました。

 歴代最強剣士である赤井はあとがクリスタルサビロイを所有した頃から今の今まで、ソーセージ最長を誇るその剣の異様なしなりは少なからず相手を手こずらせてきました。

 クリスタルサビロイの所有者と戦う際には常にそのしなりに警戒しなければならないため、反撃や追撃がしたくてもできないもどかしい場面が多々発生するためです。

 そのしなりを、ソーセージも使わないこんなスマートな方法で対処されたことなど過去に一度もありませんでした。

 あまりの愕然に息をのみ、はあちゃまは数瞬の間動きを止めてしまいます。

 一方フブキはそんな彼女に構わずポイズンチョリソーを振るいます。

 はあちゃまがそのことに気づいても時すでに遅しです。

 防御のタイミングも回避のタイミングも失ってしまった彼女は、仕方なしに受ける覚悟を決めます。

 狙われるとしたら急所の頭部か胴体か、どちらにしてもクリーンヒットは確実です。痛みに備えて歯を食いしばります。

 しかしそんなはあちゃまの予想に反しポイズンチョリソーが振るわれた先は下半身、膝の後ろ側でした。

 叩きつけるというよりは軽く弾くような力加減で、フブキははあちゃまの両法の膝裏を同時に叩きます。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまの注意が上半身に向けられていたのも災いしてでしょう、彼女は面白いくらいに両膝を後ろから跳ねられ転ばされ、地面に両手を付かされます。

 その格好はまるでフブキに跪いているようでした。

 一方フブキはポイズンチョリソーの手を止めて、そんなはあちゃまを冷ややかな視線で見下ろしました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 フブキがはあちゃまの両手を付かせるという光景に城内は静まり返ります。

 皆がそうして息を呑んでいましたが、

 

「びっくりね」

 

 しばらくしてからすいせいがボソリと呟きました。

 

「そうだな」

 

 アキロゼも同意するように頷きます。

 

「狐に化かされたようだという例えは、こういう時に使うべきなのだろうな」

 

「待ってくださいお二人とも」

 

 そんなすいせいとアキロゼの会話にるしあが入ります。

 

「さっき『毒牙を発動させても勝てない』みたいなこと言ってましたよね。でも見てる感じ、『毒牙』を発動させたフブキさん滅茶苦茶強いじゃないですか」

 

「……。ああ」

 

 やや極まりが悪そうにアキロゼが頷きます。

 

「狐に化かされたとか何とか言っていましたが、つまり攻撃力を100%バフしたフブキさんの力を計り損ねたってことですよね」

 

 先にフブキを軽く見るような発言をしたことを根に持ってでしょう、追及するるしあはいくらか得意げです。

 アキロゼは顰め顔を作りながらも「ああ。悪かった」と口にしました。

 

「ちょっとちょっと」

 

 すると、見ていられなくなったとばかりにすいせいが苦笑いで二人の間に入ります。

 

「彼女の読みは別に見当はずれじゃなかったわよ。あたしも実際そうだと思ってたし。だからそんなに弄らないであげて」

 

「そうなんですか」

 

「ええ」

 

 言ってからすいせいはアキロゼの方に振り返ります。

 

「あんたも少しは弁明しなさいよ」

 

「言い訳は見苦しいだけだ。実際に私の読みは外れた。それがすべてだろう」

 

「頑固なやつね」

 

 すいせいは呆れたようにため息をつきました。

 それから彼女はるしあに向き直り、話し出します。

 

「確かに『毒牙』を発動させて以後、形勢は逆転したわ。圧倒的なまでにね。でもそれは100%の攻撃力バフによってというよりも、もっと別の理由があるの」

 

「そうなのですか」

 

「ええ。『毒牙』発動以後、白上フブキの剣筋が変わったのよ。まるで別人みたいに」

 

「えっと、つまり今の今までフブキさんは実力を隠していて、『毒牙』の発動と同時にそれを表したってことですか」

 

「そう」

 

「なるほど。でも、それってそんな驚くことなのでしょうか」

 

「というと?」

 

 促すすいせいに「るしあが剣士ではないのでそう思えるだけなのかもしれませんが」と前置いてから、るしあは続けます。

 

「始めから実力を隠さずに戦う人もいるかもしれませんが、まず様子見をするために力を抑えて、後半になってから本気で戦う人もいると普通にいるんじゃないかと思います。フブキさんは残り体力が少なくなってから発動できるスキル『毒牙』を持っていますし、むしろ始めに実力を隠していて当然のような気がするのですが」

 

「そうね。あなたの言うように様子見から入り、後から本来の実力を出すのはセオリーの一つよ」

 

「でしたら」

 

「でもね」

 

 すいせいは続けます。

 

「白上フブキの実力の隠し方は全く別なのよ。あたしたちがその『様子見するために実力を隠す』やり方って、たとえば本来よりも威力や剣速をいくらか落としたり、あえて得意な斬り方をしなかったりとか、そんな程度なわけ。だから経験の浅い剣士ならともかく、上級以上の剣士になると『おいおい、こいつ今全力じゃないな』ってなんとなくわかるもんなのよ」

 

「そうなんですか」

 

「そりゃそうよ。本来の実力を隠すためにあえて力を抜いてるんだから、不自然なところなんてボロボロ出て来てくるわ。むしろ一合、二合打ち合っただけでも大体わかるもんだから、そういう相手と当たった場合にどう対処するか。相手が実力を隠していることを分かった上であえて自分は初っ端から全力を出して捻じ伏せるか、それとも自分も実力を隠して戦うか、ってあらかじめ決めてるまである」

 

「はあ」

 

「ちょっと話が逸れたけど、実力を隠すってそれくらい周りからしたらバレバレなわけ。だからびっくりさせられたのよ白上フブキには。ちなみに変わったのは剣筋だけじゃないわ。さっきまでは直感も何も働いていないような無茶苦茶な攻め方だったのに、今はむしろ必要最低限の動きだけではあちゃまの癖のある攻撃に対処している。凄まじい直観力よ」

 

「剣筋もセンスも違うって、もう別人じゃないですか」

 

「だから別人みたいって言ってんの。しかもその別人さんが、たとえばそこそこのレジェンド所有者くらいの実力だったら、はあちゃまもはあちゃまですぐに持ち返しただろうけど、そうじゃないからハイご愁傷様って感じなのよねえ」

 

「それってどういう意味なのですか」

 

「そのままの意味よ」

 

 すいせいは嬉しいような悔しいような複雑な顔をして返します。

 

「白上フブキの実力は、ここに集まったレジェンド所有者面々の中でも間違いなくトップレベルってこと。ハッキリ言って、仮に今彼女と戦っている相手がはあちゃまでなく赤井はあとだったとしても勝てるかどうか怪しいくらいよ。そのくらいずば抜けてる」

 

「……」

 

 るしあはごくりと息を呑みました。

 そんな彼女に微笑んでから「ただ」とすいせいは続けます。

 

「そこまでわかって逆にわからなくなってしまったのは、そんな力をつけているにも関わらずどうして巧妙に実力を隠すようなまだるっこしいことをしたのかってことよね」

 

 すいせいは、るしあに話すというよりは独り言のように口にしました。

 

「そしてもう一つ看過できないことは、それだけの実力があるならなおのこと、どうやってあたしたちレジェンド所有者の目を欺くほどの剣筋フェイクをやってのけたのかってこと」

 

「はあ」

 

「さっきも言ったけど、相手にバレずに実力を隠すなんてどんなに器用な剣士でもできるもんじゃないのよ。自分のものじゃない剣の振るい方はどうしても違和感が残る。だから相手はどれだけの実力を隠しているのかを推し量ることは出来なくても、少なくとも『全力を出していない』という違和感は感じ取る。力加減の調整ですらそうなのに、それを全く異なった剣筋でやってみせるなんて。しかも彼女場合本来の実力の剣筋は完成されたものだからなおさら」

 

 ぶつぶつ呟きながらすいせいは考え事をするように口元に手を添えます。

 

「シュバルルシュバルバシュバルバシュババ」

(そんなの謎でも何でもねえよ)

 

 そんなすいせいに、るしあの足元にいるスバルがボソリと言いました。

 

「シュバルルシュバ、シュババシュバルルシュバルルバシュバ」

(フブキのヤツ、ずっと覚えていやがったんだ)

 

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