勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「シュバルバシュバ、シュバルルシュバルルバシュバ」

(フブキのヤツ、覚えていやがったんだ)

 

 るしあの足元でスバルがぼそりと呟きます。

 

「ん?」

 

 それに気づいたすいせいが彼女の方を見下ろしました。

 するとスバルはそんなすいせいから逃れるようにいそいそとるしあの陰に隠れ込み、

 

「……シュバルルシュバルルシュバ」

(……覚えていやがったんだ)

 

 と、もう一度呟きます。

 それからちらりとるしあを見上げました。

 

「覚えていたって、何をですか」

 

 いかにも聞いてほしいと言いたげなスバルを察して、るしあが尋ねてやります。

 

「シュバシュバルルシュバルバシュバルルバシュバ」

(矯正する以前の剣筋をだよ)

 

 スバルは続けます。

 

「シュバルシュババシュバルルバシュバルシュバルバシュバルルバシュバルシュババシュバルルバ。シュバルバシュババシュバルバルババ。シュバルルシュバルルシュバシュバルルバシュバルルバシュババシュババシュバルバシュバルルシュバルバ。シュバルルシュババ、シュバルルシュババシュババシュバルバシュバルルシュババシュバルシュバルシュババシュバ」

(二年前にはあちゃまにぶちのめされて相当に悔しかったんだろうな。あいつは腹をくくったんだよ。それまで使っていた剣筋も直感もすべて捨ててゼロからやり直したんだ。そうでもしなきゃ、ゴリ押しだった頃と真逆の剣筋なんて身につけれるものじゃない)

 

「でもスバル先輩。先輩のおっしゃる通り剣筋を矯正したとして、すいせいさんが言っているような剣筋のフェイクなんてできるものなのでしょうか」

 

 るしあが腑に落ちない顔で聞きます。

 

「シュバルル。シュバルルバシュバルルバシュバシュバルシュバルルシュバ」

(できない。剣筋を完全に入れ替えてしまったらな)

 

「でしたら」

 

「シュババ、シュバルルバシュバルルバシュバシュバルシュバルルシュ、バ」

(だから、剣筋を完全に入れ替えてしまったら、だ)

 

「え」

 

「シュバルシュバルバシュバルシュバシュバルルバ。シュバルバシュバルシュバルシュバルルバシュバルバシュバルルバシュババ、シュバルバシュバルシュバルバシュバルルバシュバルシュバルルバシュバルシュバルシュババシュバルルバ。シュバルシュバルバシュバルルシュバシュバルルバシュバルルシュババシュバルルバシュバルシュバルバシュバルルシュバルルシュババ。シュバルルシュバルルバシュバルバシュバシュバルシュバシュバルルシュバルババ、シュバシュバルシュバルルシュバル。シュバルシュバシュババ」

(フブキのヤツは多分そうしなかった。自分が納得する剣筋を見つけて身に付けた後も、かつての無茶苦茶だった剣筋をあえて忘れずに覚えておくことにしたんだよ。つまりあいつは矯正後の剣筋と矯正前の剣筋の二足わらじを履いてる状態なんだ。どちらの剣筋も体に馴染んでるから自然に振るえるし、入れ替えも容易にできる。それだけのことだ)

 

「はあ。そういうのもありなんですね」

 

「シュバ」

(ああ)

 

「で。スバルはなんて?」

 

 スバルが話し終えたのを察して、すいせいがるしあに尋ねました。

 

「えっと、ですね」

 

 るしあはスバルの説明をすいせいに伝えます。

 

「わからんな」

 

 するとるしあが話し終えたタイミングで、すいせいの隣で聞いていたアキロゼが呟きました。

 

「剣筋をあえて二通り覚えている? そんなことを本気で言っているのか」

 

 スバルを見下ろしながら聞くアキロゼに、スバルは無言です。

 

「どういうことですか」

 

 スバルの代わりにるしあが聞き返しました。

 

「剣筋を二通り覚えているとしたら、全く異なる剣筋にシフトできたことの説明は確かにつく。だが、そうなるために費やす労力に対し習得後の利点があまりに少なすぎる」

 

「利点が少ない、ですか」

 

「そうだ」

 

 アキロゼは腕を組みなおして続けます。

 

「まず大前提として、剣士は誰しも自分の剣筋を衰えさせないよう日々剣を振るっている。そうしなければ徐々に己の剣筋を忘れていってしまうからだ」

 

「数日サボだけで腕が錆びつく、とかいいますものね」

 

「ああ。だから当然二通りの剣筋を維持しようと思うならば、その両方を錆び付かせないよう心掛けなければならない。しかも、数合打ち合ってバレない程度のフェイクならまだしも、『毒牙』のスキルを発動できる体力状態までずっと隠し通せるほどの精度だ、その熟練度は生半可なものではない。そこまで馴染ませるためには、本来ならば『矯正後』の剣筋一方だけに振るえばいい経験値を『矯正前』と『矯正後』の剣筋それぞれに振り分ける必要がある。それは苦行と言って良い作業だ」

 

「はあ。そうなのですか」

 

 アキロゼの漠然とした説明にしっくり来ていない様子でるしあが頷きます。

 それを察してでしょう「具体的に考えてみろ」とアキロゼが続けます。

 

「『矯正後』の剣筋だけを鍛えるならば10で足りるはずの経験値を、フェイクのためだけに覚えているような『矯正前』の剣筋にも割り当てなくてはならないために20も稼いでいたということだぞ。私は二年前の彼女を知らないが、先の『毒牙』を発動させる前の剣筋が彼女の当時の剣筋であり、それを捨てて現在の剣筋を身に付けているのだとしたら、彼女の積み重ねた努力が並大抵のものでないことは察するに余りある。にもかかわらず、彼女はあえてその二倍の努力をして今に至っているというんだ」

 

「なるほど。それは確かに苦行ですね」

 

 納得するるしあに頷いてから、

 

「しかもだ。そうまでして『矯正前』の剣筋を鍛えて、彼女はなにを得た?」

 

 アキロゼは彼女に尋ねます。

 

「なにを、と言われましても」

 

 るしあはちらりとフブキとはあちゃまの方を見てから少し考えて、

 

「はあちゃまに本来の剣筋を隠したまま『毒牙』を発動させています。そのおかげではあちゃまはかなり面食らって動揺していますし、戦いの流れが完全にフブキさんに傾いているってるしあにもわかります。もし仮にフブキさんが『矯正前』の剣筋を覚えていなかったとしたら、はあちゃまはもっと警戒して戦っていたでしょうし、このような展開にはなっていなかったかもしれません」

 

 と答えました。

 アキロゼは「そうだな」と頷いてから、

 

「しかしそれだけだ」

 

 と返しました。

 

「え」

 

 るしあは思わず目を瞬かせます。

 

「それだけって、十分すぎると思いますが」

 

「そういう意味じゃない。おまえが並べた利点は初回であればこそ功を奏しているもの。つまり初見殺しだ」

 

 アキロゼは続けます。

 

「おまえの言うとおり、二通りの剣筋を覚えてきたという彼女の秘策はこの一戦だけを見れば確かな発揮している。打ち合う中ですでに剣筋をほぼ把握した状態の白上フブキに対し、はあちゃまは把握したと思った剣筋が完全にフェイクだったのだからな。顔にこそ出ていないがメンタル面のダメージも相当なものだろう。さらには剣士としての実力も、所有するスキルのバフ上昇率も白上フブキが上。完全に流れは白上フブキにある」

 

「ですよね」

 

「だが、そんな無双プレイが今後も通用するほどホロ・デ・ソーセージ大陸は甘くない」

 

「はあ」

 

「現に私たちはこうして白上フブキが二通りの剣筋を持つことを知った。なので今後彼女と対戦する機会が仮に訪れたとしたら、彼女が序盤に『矯正前』の剣筋で無茶苦茶な攻めをしてこようが警戒して戦うことにするだろう。もしくは『矯正前』の剣筋であるうちに一気に畳みかけるかもしれない。どちらにしても今のようなフェイクはもう通用しない」

 

「まあ。そうですね」

 

「そしてここに集まっている面子のほとんどはレジェンド所有者、世界屈指の剣士たちだ。言わずもがな剣士たちはチームランクとかいう下らない格付け遊びから抜け出せないバカの集まり。白上フブキもそんなお遊びチームを束ねるリーダーの一人、しかもそこそこ上に位置するバカの集まりだろう」

 

「唐突にディスるのやめましょうよ」

 

「であるならば、彼女は他チームのライバルたちにバレてはいけない『二通りの剣筋』という手の内をあっさりと晒したことになる。しかもその秘策はちょっとやそっとの苦労で身に付けたものではない。二年という月日をかけ、二倍の労力を費やし積み上げてきた経験値という名の努力の結晶だ。それを一戦でまさに水の泡にしたんだ。私が解せないと言っているのはそこだ。なぜそんな使い捨てになるような秘策をずっと温めてきたのか、理解できない。何度も言うが実力は白上フブキの方が上なんだ。つまらないフェイクなどせずとも普通に戦って勝てるんだよ彼女なら」

 

「……」

 

「さらに言えば、もしも彼女が二通りの剣筋など身に付けず鍛えてきたすべての経験値を『矯正後』の剣筋に当てていたとしたら、その実力はさらにもう一段階上の高みに達していたはずだ。それこそ日々の苦労がチームランクの上昇に直結することになる。リーダー冥利に尽きるというものだろう。そういうことを踏まえて考えてみて、私はますますわからなくなる。わざわざ剣筋を二つに増やした彼女の気持ちが」

 

「言われてみたら、そうですね」

 

 るしあもアキロゼに同意しだします。

 

「今の状況、結果的にフブキさんの本来の実力がはあちゃまより上回っていたから意表を突き大成功ですが、もしもはあちゃまの実力の方が上回っていたら逆にピンチの場面になっているかもしれませんしね。よく考えてみたら、純粋に実力をつける方が堅実でリスクが少ない選択に思えます」

 

「ああ」

 

 アキロゼはるしあに頷いて、少ししてからもう一度「わからん」と独り言ちました。

 

「……シュバルバシュバシュバルシュバルシュババ。シュバルバシュバルバ」

(……スバルは何となくわかるけどな。あいつの気持ちが)

 

 そんなアキロゼをちらりと見てから、スバルがぼそりと呟きます。

 

「え?」

 

 るしあが驚いてスバルを見下ろします。

 スバルはるしあに「シュバシュバシュバ」と喋りだします。

 

「……」

 

 スバルの話を聞き終えたるしあが、悲しそうに顔を俯かせました。

 

「どうした」

 

 そんな二人のやりとりを横見していたアキロゼが尋ねます。

 

「スバル先輩が、フブキさんの気持ちが何となくわかる、と」

 

「……」

 

「『あいつがわざわざ二通りの剣筋を身に付けた理由なんて、もう本人が喋ってるじゃないか』」

 

「ほう」

 

「『はあちゃまに地獄を見せるため。多分それがすべてだよ』」

 

「……。そうか」

 

 アキロゼは呟いてから、深くため息をつきました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「……ッ」

 

 一方、フブキにポイズンチョリソーで膝裏を打たれ、跪く格好で四つん這いになっていたはあちゃまは急いで起き上がり後方へ跳ねます。

 

「よくも!」

 

 フブキとの距離を取ってから、彼女は怒りに満ち満ちた声を吐き出しました。

 

「よくもこの私に、こんな無様な格好をさせたわね! 白上フブキ!」

 

「……」

 

「この屈辱! 絶対に許さない!」

 

 叫ぶなり、はあちゃまがフブキに向かって突っ込んでいきます。

 

「屈辱?」

 

 そんな彼女の言葉を口にして、フブキは鼻で笑いました。

 

「大したことじゃないだろそんなもの。おまえがしたことに比べれば」

 

 フブキはポイズンチョリソーでクリスタルサビロイを弾き、がら空きになったはあちゃまの胴体正面に勢いよく蹴りを入れます。

 

「ぐぅ!」

 

 蹴りをまともに受けたはあちゃまは、すかさず反撃にクリスタルサビロイをしならせてフブキを突こうとします。

 しかしフブキは悠々とそれを躱し、後方に跳ねて距離を取りました。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまは苛立ち気にクリスタルサビロイを地面に叩きつけます。

 

「はあちゃま。そういえばさっき、二年前のことを覚えているかって聞いてきたよな」

 

 そんな彼女にフブキが話しかけます。

 そして、

 

「忘れるはずがないだろう」

 

 黒紫に染まった目を見開き、ポイズンチョリソーの柄を握りしめました。

 

「白上の大切なチームメンバー。ミオとおかゆ、ころね。あいつらにおまえが何をしたか、白上は一時たりとも忘れることができなかったよ。おまえに想像できるか、目を覚ました時チームメンバーたちが瀕死の傷を負って横たわっている光景が。彼女らを守るべきリーダーの白上だけが十二分に治療され五体満足であるという不甲斐ない状況が。あの時ほど己の無力さを痛感したことはなかったし、無力であることに恥を覚えたこともなかったよ」

 

「……」

 

「白上は誓ったんだ。必ずおまえにあいつら全員分の苦しみを味合わせてやると。そのためなら下らない見栄も剣筋もすべて捨てるし、どんな苦痛があろうと何年でも耐えてやると。なあ。はあちゃま」

 

 ゾッとさせるような眼光を発しながら、フブキが一歩踏み出します。

 そんなフブキに思わず息を呑み、はあちゃまは一歩退きました。

 しかし気圧されている自分に気づいたのでしょう、はあちゃまは「ふん」と鼻を鳴らして退けた足を戻します。

 

「粋がってんじゃないわよ。前座が」

 

 そして強がるようにボソリと言いました。

 

「前座?」

 

 するとフブキがはあちゃまの言葉を拾い、乾いた声で一笑します。

 

「まだそんなこと言ってんのか。おまえ」

 

「な、なに」

 

「白上が前座? 噛ませ犬? 冗談じゃない!」

 

 フブキは大声を張り上げ、はあちゃまにポイズンチョリソーを構えました。

 

「ハッキリ教えといてやる! このあとに控えてる面子に手番が回ってくることはない! おまえはここで終わりなんだよ! はあちゃま!」

 

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