勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 フブキのポイズンチョリソーがはあちゃまの身体を貫き、はあちゃまの口から多量の血が吐き出されました。

 彼女はそれからぐたりと俯きに首を垂らして動かなくなります。

 足元にぽたぽたと血の溜まりが出来上がり、城内にむせ返るような血なまぐさい臭いが漂います。

 

「ふん」

 

 フブキは最後とばかりにはあちゃまを一瞥して、彼女に突き刺さったポイズンチョリソーを引き抜こうとしました。

 しかしなかなかソーセージが抜けません。

 

「……?」

 

 なぜかと思い視線を落としてみて、フブキは思わず息を呑みました。

 ポイズンチョリソーの剣を、はあちゃまの左手が強く掴んで押さえているのです。

 

「な、なに?」

 

 思わずフブキは戸惑いを口にしました。

 すると、

 

「ふふ。ふふふふ」

 

 目の前で動かなくなっていたはあちゃまの口が開き、ふつふつとした笑い声をもらします。

 

「やっととどめを刺しに来てくれたわね白上フブキ。あのままじわじわいたぶり殺されたらどうしようかと思ったわ」

 

 言いながら彼女はゆっくりと顔を上げ、フブキと向き合います。

 その目は血色に染まっていました。

 

「貴様……ッ」

 

 直後、フブキに貫かれたはあちゃまの胸元の傷口が逆再生するように塞がっていきます。

 

「ブラッディー・ブルートヴルストのスキルか!」

 

 フブキの問いかけに、はあちゃまは目を細めて「ええ。そうよ」と答えました。

 スキル「血の涙」は致命傷を受けた直後に発動できる致命傷回避スキルであり、致命傷ダメージを軽傷ダメージにまで激減させます。

 

「惜しかったわね。このスキルがなかったから私の勝機はなかったわ」

 

 はあちゃまは鼻を鳴らしながら余裕然としてそう口にします。

 しかしながら、その表情はいくらか強張っているようにも見えました。

 ポイズンチョリソーはレジェンドソーセージの一本でありますので、当然レジェンドソーセージとしての属性効果も有しています。

 それどころかポイズンの名の通りの強力な毒属性であり、属性追撃効果で言えば他のレジェンドソーセージよりも強力ですらあります。

 そのポイズンチョリソーに触れているどころか傷口と直に接しているはあちゃまは、常に猛毒に犯されている状況なのであり、しかも体力が残りわずかであるのですからとっくに失命していてもおかしくありません。そうなっていないのは、毒の属性効果によって死の直前状態に陥るたびに「血の涙」を発動し直しているからでした。

 一見余裕そうな態度とは裏腹に、生と死の狭間に立っているような状態なのです。

 しかし勝負を終わらせるつもりの一撃を入れたにも関わらず平然としているはあちゃまを目の前にしているフブキに、そんな微細を察する余裕はないようで、

 

「おのれ!」

 

 叫ぶなり、彼女は急ぎポイズンチョリソーを引き抜こうと力を入れます。

 しかし前述したとおりソーセージの剣身ははあちゃまに掴まれています。引き抜けません。

 はあちゃまはそんなフブキを嘲笑うように一笑してから、

 

「終わりよ白上フブキ」

 

 と言って、クリスタルサビロイをゆっくり振りかざしました。

 

「今から私は『断末魔』をかけてあなたを斬りつけるわ。攻撃力が75%上昇した私の一撃にあなたは耐えられない。いいところまで来たのに残念だったわね」

 

「笑わせるな!」

 

 はあちゃまの勝利宣言にフブキは声を張り上げます。

 

「『断末魔』の攻撃力バフがかかったからなんだというのだ! その程度でこの白上をどうにかできると思うな! おまえが剣を振るえば隙ができ、ポイズンチョリソーを掴んでいる腕の力も緩む。白上はその瞬間を逃すことなくポイズンチョリソーを引き抜いてから距離を取り、仕切り直しをはかる! 一度仕切り直すことができればこんなつまらない手に二度と引っかかることはない!」

 

「そうね。ただしそれはあなたが私の一撃を耐えることができたらの話よ」

 

「たとえ75%の攻撃力バフがかかったとしても所詮一発、その程度のダメージ今の白上の実力なら」

 

「いいえ。あなたは耐え抜くことができないわ」

 

 はあちゃまがフブキの言葉を遮ります。

 

「確かにあなたが通常の体力状態であれば、『断末魔』のスキルを発動させた一発二発なんて大した痛手にならないわ。でも今のあなたは違う。皮肉よね。あなたを見てると短期間に実力をつけすぎるのも考えものだって気づかされるわ。身体残り体力がわずかであっても、そうであることに慣れていないから危うい状態だって気づけていないのだもの」

 

「なに」

 

「今のあなたは『毒牙』のスキルを発動している。つまり残り体力が15%を切っている状態なのよ。そんな瀕死一歩手前の体力で75%の攻撃力バフがかかった私の一撃を耐えてみせるですって? あなたこそ笑わせないでちょうだい。耐えるどころか失命すらあり得るってわからないのかしら」

 

「……ッ」

 

 はあちゃまに指摘され、フブキは改めて自分の身体の負傷具合を見回してからギリリと歯を食いしばります。

 

「恨むなら私じゃなく、『毒牙』のスキル発動まで猫をかぶるなんて失策を講じた自分自身を恨みなさい」

 

「黙れ!」

 

 声を張り上げて、フブキはポイズンチョリソーを両手に掴んで引き抜こうとします。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまがポイズンチョリソーを掴んでいるのは左手一本です。なのでフブキがそうやって全力で引き抜きにかかれば、さすがにズブズブと剣が引っ張られていきます。

 剣を徐々に引き抜かれていくはあちゃまの痛みは相当のものなのでしょう、顔に余裕が保てなくなり酷く歪ませ唇を噛み締めます。

 しかし、

 

「ふ、ふふ」

 

 にもかかわらず、はあちゃまは不気味な笑みを浮かべました。

 そして直後、フブキに向かってクリスタルサビロイを振り下ろします。その剣に「断末魔」の攻撃力バフはかかっていません。

 剣を引き抜くことに集中していたフブキはまともにその一撃を受けてしまい、バタンと音をさせて仰向けに倒れました。

 そんなフブキの手からポイズンチョリソーのフォークが離れ、ソーセージの剣身が消失します。

 フォークはカランカランと乾いた音を立てて床に転がりました。

 

「……ッ、……ッ」

 

「バカね。『断末魔』なんて、使うわけないでしょ」

 

 倒れたフブキを見下ろしながら、はあちゃまが口にします。

 

「私は今、常に『血の涙』を発動させているのよ。『血の涙』の発動を止めてしまえば即座にポイズンチョリソーの属性効果で毒死しかねないからね。『血の涙』を発動し続けなくちゃいけないから『断末魔』に発動スキルを切り替えるわけにいかない。『断末魔』なんて使いたくても使えない」

 

「……」

 

「だからあなたが直撃を受けてくれるような隙を晒してくれるのを待っていたのよ。攻撃バフスキルをかける必要もなく一撃で倒せれるようにね」

 

「お、おのれえ……ッ」

 

 フブキが悔しそうに呟きます。

 それから首を持ち上げてはあちゃまを睨みつけようとしますが、うまく首が上がりません。それどころか目の焦点すら合わすことが出来ず、震えているようにぐらぐらと揺れています。

 はあちゃまはそんなフブキをじっと見下ろしています。

 おのれ、とフブキはもう一度口にして彼女に手を伸ばそうとしますが、今度はその言葉を出すことも手を動かすこともできません。

 

「……ッ」

 

 さらには、そんな彼女を強烈な眠気が襲ってきます。振り切ろうとしても首さえ動かすことができず、抗う手段がありません。

 無理やり瞼を閉じさせられるような感覚を覚えながら、視界が真っ黒に塗りつぶされました。

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