勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 二年前のことです。

 

『う、うう……』

 

 そばから呻き声が聞こえ、フブキは目を覚ましました。

 彼女は仰向けで横になっており、声はすぐ隣から聞こえてきたようです。

 起き上がることも首を動かすことも億劫に感じて横目でそちらを見てみると、呻いているのはミオでした。

 ミオは深い傷を手で押さえながら、苦しそうに身体を丸めています。

 さらに隣にはおかゆ、ころねと並んで横になっており、彼女たちも瀕死の重傷を負っているようでした。

 その悲惨な光景に息をすることも忘れて、フブキは跳び起きます。

 

『……ッ』

 

 身体を起こした瞬間、彼女の全身に激痛が走りました。

 何なのだと思い見下ろしてみると、身体のあちこちに包帯が巻かれています。

 フブキは思わず顔を顰めました。

 

『あ! リーダー!』

 

『よかった! おい! リーダーが目を覚ましたぞ!』

 

 するとそんなフブキに気づいたゲーマーズの獣人たちがやや遠くの方から駆け寄って来て、彼女の無事を喜びだします。

 その時点で、フブキは今自分がいる場所がどこであるのか知りました。

 そこはゲーマーズが隠れ家として活用している洞窟のなかで、フブキたちはその穴の奥深いところで横になっていたのでした。

 しかし、現在地がわかっても現状がわかりません。

 なぜ自分やゲーマーズの幹部たちが重症の状態でいるのか、なぜ重症にも関わらず近くの集落地の医療施設ではなく隠れ家で横になっているのか、そしてなぜ自分以外の三人にまともな怪我の処置がなされていないのか。

 

『なあ』

 

 フブキは一番手前のチームメンバーに声をかけました。

 

『悪いけど、何があったのか教えてくれないか。どうして白上たちはこんな傷だらけになっているんだ』

 

『え。覚えていないんですか』

 

 驚いたふうで聞き返してくる獣人に、フブキは『うん』と頷きます。

 すると彼はやや話しにくそうな顔をして躊躇いますが、フブキが『頼むから』と念を押すと『わかりました』と承知しました。

 

『リーダーと幹部は、やっとのことで逃げ延びることができたんですよ』

 

『誰から』

 

『クリスタルサビロイの所有者と、ハートンたちからです』

 

 彼は説明し始めます。

 フブキのレジェンドソーセージであるポイズンチョリソーのスキル『毒牙』を狙って襲い掛かって来たはあちゃまに、ミオがフブキを逃がして戦います。しかしミオでははあちゃまに太刀打ちすることができず殺されかけてしまいます。その寸前に駆けつけてきたフブキがミオと代わりはあちゃまに戦いを挑むのですが、はあちゃまの実力は侮れず今度はフブキが殺されかけてしまいます。トドメとばかりにフブキに振るわれる一太刀ですが、ミオが身を挺して庇い防ぐことでどうにか事なきを得ます。ですがそれによってミオが重傷を負いました。

 

『そうか。そうだった』

 

 話の途中でフブキが呟きます。

 聞いていくうちに思い出してきたのです。

 

『でも白上が思い出せるのはそこまでだ。そこから先は本当にわからない』

 

『酷いダメージでしたから。意識を失ってしまったんでしょうね』

 

 気の毒そうに相槌を打って、獣人は続けます。

 その後おかゆが戦闘に入って来てフブキとミオを助け出す隙を作り、おかゆが作り出した隙を逃さずころねが二人を担いで戦場から離脱しました。はあちゃまはおかゆを斬り捨ててからころねに追いつきますが、その時ころねが担いでいたのはフブキとミオのダミーであり、本物の二人はゲーマーズのチームメンバーによって最も近い拠点であるこの洞窟へ運ばれていました。

 ポイズンチョリソーの所有者であるフブキをまんまと逃げさせられたはあちゃまは怒髪衝天の如しであり、ころねと途中参戦したおかゆの二対一の状況にも関わらず二人を徹底的にぶちのめします。それでも二人は這う這うの体で逃げ延びてこの洞窟までたどり着いたというわけです。

 ところでそんなふうに幹部たちが活躍している間、他の獣人のチームメンバーたちが何もしていなかったのかと言えばそういうわけではありません。というのは、なまじ実力不足のメンバーが戦闘に参加したとしても期待できる戦力になるとはとても言えず、それどころか逆に捕まり拷問でもされてゲーマーズの隠れ家を吐かされては最悪の事態に陥ります。そこで彼らは獣人得意の隠密行動で木陰等に隠れながら、はあちゃまに追われるころねやおかゆの足跡を揉み消したり、彼女らの使った獣道に枝葉を持ってその道を隠したりと追跡妨害のサポートをすることに徹していたのです。

 

『そうか。みんなありがとう』

 

 フブキは集まっているチームメンバーに礼を言ってから、意識朦朧の状態で横になっているミオたち三人を振り返ります。

 

『じゃあ急いでミオたちを近くの集落へ運んでいこう。こんな一時しのぎの隠れ家じゃ、まともな治療をしてやれる道具もない。さあ。急いで』

 

 言って、フブキは自分の怪我も構わずに一番近いミオを持ち上げようとします。

 

『リーダー。それはいけません』

 

 しかしそれを獣人の男に止められました。

 

『なに』

 

 思わず声に苛立ちがこもります。

 そんなフブキに彼はやや怯んだように後ずさりますが、それでも『だめです』と踏ん張りました。

 

『どうしてだ』

 

『まだ外は危険です。やつらがうろついています』

 

『やつら?』

 

『クリスタルサビロイの所有者とハートンです』

 

 そう答える獣人に、フブキはもう一度『なに』と言って顔を顰めます。

 

『リーダー。どうか落ち着いてください』

 

 そんなフブキに獣人はまた話し始めました。

 彼が言うに、フブキたちが洞窟に入ってからもうかなり時間は経っていますが、はあちゃまたちは執念深く探し回っているというのです。

 さらに悪いことに彼女たちは徐々に手がかりを掴んできているのでしょう、もうこの周辺にいると目途をつけて探索しているらしいのです。

 

『今、周辺の「隠れ家がありそうな場所」のいくつかにダミーの隠れ家を拵えている最中です。連中をそれらに引っ掛かけて時間を稼ぎます。夜になって辺りが暗くなるまで移動は避けなくてはいけません』

 

『そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろ! 三人とも傷が深すぎる! 万が一の事態も起こり得る状態なんだぞ!』

 

『だとしても待っていただきます。それこそ幹部たちからの指示でありますので』

 

 獣人の返しに、フブキは息を呑んで唇を噛み締めました。

 なぜミオたちが重傷を負いながらも碌な処置もされずに横たえているのか、それは外に出たくても出れない状況であったからです。

 フブキだけには一応の処置がされているのも、隠れ家にある応急手当てに使えそうな物を搔き集めてどうにか施したからでした。

 

『「自分たちは自然治癒で十分の具合なので、闇夜の時間帯まで決してリーダーを外に出すな」と託っています』

 

『……ッ』

 

 もはや言い返す気もなくなって、フブキはミオを担いで歩きだそうとします。

 しかしフブキも深手を負った重傷状態なのです。

 担ぎ上げはしたものの進むことができたのは数歩だけです。

 そこでフブキの足はピタリと止まってしまいます。

 

『リーダー。どうか落ち着いてください』

 

『……』

 

『今は外に出るだけでも危険なんです。なのに怪我人を背負った不自由な状態で近隣集落まで運ぼうなんて、あまりに無謀すぎます。幹部たちを背負った状態で万が一にも見つかったら、それこそもう終わりです。ですから』

 

『……』

 

 フブキは無言で、担いでいたミオをゆっくりと床に降ろします。

 自分もその傍に腰を下ろしました。

 そして悔しくてたまらないとばかりに地面を殴りだします。

 

『……ッ』

 

 ミオもおかゆもころねも、すぐにも手当てが必要なほどの重傷なのです。

 にもかからず彼女らは三人そろって身体を丸め、苦しそうな息づかいをさせながら少しでも体力の消耗を減らそうと抗っています。

 そんな、本気で自然治癒させようとしている三人の健気な姿に、フブキは自分の無力さを思い知らされずにはいられませんでした。

 

『……。ごめん』

 

 フブキがポツリと呟きます。

 その声はひどく震えていました。

 

『本当にごめん、みんな……ッ』

 

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