勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「……」

 

 ゆっくりとフブキは目を覚ました。

 目の前にいるのははあちゃまです。

 彼女はフブキに背を向けながら、さも嬉しそうに自分のレジェンドソーセージフォークを眺めています。

 フブキが起きたことにも気が付いていない様子です。

 

「おい」

 

 倒れた状態のまま、フブキははあちゃまに呼びかけます。

 それから身体を起こそうとしますがなかなか上手くいきません。

 動かそうとすると全身に激痛が走り、起き上がることを拒んできます。

 それでも彼女は歯を食いしばり、どうにか上体だけでも起こしました。

 

「あら」

 

 そんなフブキにはあちゃまが振り返りました。

 しかしさほど問題でもないと言いたげな顔で、笑みを浮かべながら見下ろします。

 その表情が気に入らずフブキは「ちッ」と舌打ちしました。

 

「何を余裕ぶっているんだ。まだ勝負はついてないぞ」

 

「へえ。そうなの」

 

 言って、はあちゃまがフブキの足元あたりに視線を落とします。

 つられてフブキもその場所へ目を向けました。

 そこにはフブキのレジェンドソーセージ、ポイズンチョリソーのフォークがありました。

 ただしフォークに虹色の輝きはありません。

 錆びついてしまったかのように黒ずんでいます。

 

「わかってもらえたかしら」

 

 はあちゃまが機嫌よさげに話しかけてきます。

 フブキは視線を彼女の方へ切り替えました。

 瀕死だったはずの彼女の身体の傷が、ほとんどなくなっていることに気づきます。

 盤外スキルである「不死の魂」を発動させ体力を回復させたであろうことは、火を見るよりも明らかなのでした。

 

「……。ぷっ」

 

 すると、なぜかフブキは吹き出しました。

 それからさも平然とした動きで起き上がり、足元のフォークを拾い上げます。

 はあちゃまはフブキを訝しむような目で見つめます。

 一方のフブキはそんな彼女を気にしたふうもなく、拾い上げたフォークをブン! ブン! と振るい始めます。しかし当たり前ですが、黒ずんだレジェンドフォークはもうソーセージを出現させることができません。

 フブキはそれでも何度か振るい続け、それからしばらくして、

 

「あは。あはは」

 

 と乾いた声で笑いだしたかと思うと、

 

「こんなもの!」

 

 唐突に怒鳴り、フォークを地面に叩きつけました。

 

「……ッ」

 

 その投げつけた勢いが瀕死状態の彼女には強すぎたのでしょう、直後に顔を歪ませて右腕を抱え込むように押さえます。

 

「あははは!」

 

 そんなフブキを今度ははあちゃまが笑いました。

 

「なにを自棄になっているの。敗北したという結果を素直に受け止めなさい。さあ、スキルを失ったあなたももう用済みよ。さっさとこのステージを降りて」

 

「黙れ!」

 

 はあちゃまの言葉を遮って、フブキは自分のレッグバッグに手を伸ばします。

 そこから一本のフォークを引き抜きました。

 使い古された木製のフォークです。

 ブン! と振るわれたそのフォークの先に出現したソーセージは下級剣のチョリソーでした。

 フブキははあちゃまに向けてチョリソーを構えます。

 

「なにそれ」

 

 はあちゃまが小馬鹿にするように言います。

 

「そんな棒切れなんか持ってどうするつもりなのかしら」

 

「知れたこと! 貴様を叩きのめす!」

 

「叩きのめすねえ」

 

 彼女は「ふん」と鼻で笑いました。

 

「瀕死の状態のくせして下級剣でこの私を叩きのめすなんて。随分と自信過剰なことじゃない」

 

「自信過剰はどっちなのか思い知らせてやる!」

 

「へえ」

 

「白上がその気になれば貴様なんぞ、両目を瞑っていても問題なく倒すことができる相手だ。残り僅かの体力も下級剣もちょうどいいハンデなんだよ!」

 

「立っているのもやっとのくせに何を言ってんだか。足が震えているわよ」

 

「武者震いだ!」

 

 はあちゃまは肩を竦めてみせます。

 

「でもねえ、そんな鼻息荒くされても私としてはレジェンド所有者でなくなったあなたと戦うメリットはないわけだし、あなたを再び倒しても『不死の魂』は使えないわけだし」

 

 それから少し考えるような間を開けて、

 

「まあ、いいけどね。戦ってあげても」

 

 と続けました。

 

「あなたとしては勝負の結果に納得できていないのだろうけど、私としても過程に納得できていないからね。力を付けたことをいいことに好き放題してくれてさ、最後に一発当ててハイ終わりって気分にはやっぱりなれないわけよ。やり返していいならやり返してやりたいわ」

 

 はあちゃまがフォークを振るいクリスタルサビロイを出現させます。

 チョリソーを構えるフブキにゆっくりと近づいていき、距離が二人の間合いに入ります。

 

「……」

 

 彼女らは同時に剣を振るいました。

 クリスタルサビロイとチョリソー、二振りのソーセージが交わろうとします。

 しかし直前、

 

「!」

 

 二本の間に第三のソーセージが割り込んできました。

 向き合う二人の視界を遮る大型サイズのソーセージ、上級剣のアメリカンドッグです。

 

「ころね!」

 

 フブキが叫びます。

 そのソーセージの所有者はころねでした。

 ころねはアメリカンドッグでクリスタルサビロイとチョリソーの双方を受け止めたかと思うと、はあちゃま目掛けて勢いよくそれを振るいます。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまはいきなりの乱入にやや困惑しながらもその一振りを回避して、後ろに大きく跳ねて距離を取りました。

 着地した彼女は不愉快んだと言わんばかりに目を顰め、フブキの方へ向き直ります。

 そしてさらに不快げに顔を歪ませました。

 

「なんなのかしらね。本当に」

 

 乱入してきたのはころね一人ではありませんでした。

 フブキの両隣にミオとおかゆも立っているのです。

 

「次から次へとさも当然とばかりにルール無視。一対一の戦いに乱入するのは違反行為よ。もう何度も言っているわよね。もしかして舐められてるのかしら私。どうせルールなんて無視してもどうにかなるって」

 

「……」

 

「まあ確かにね、こんなことでデーモン・みこ・ソウルを発動させるかどうかと聞かれたら、その結果として私も困ることになるのだから躊躇せざるを得ないわ。でも人質の方は別よ。あんまりふざけたことすると本当に首を撥ねるわよあの兎」

 

 はあちゃまがぺこらの方に親指を向けながら語気を強めて言います。

 ぺこらが呼応するように「ぺこおおお!」と喚きました。

 

「まあまあ。落ち着きなよ。とりあえずはさ」

 

 そんな状況にもかかわらず、まるで空気を読めてない調子でおかゆが話しかけます。

 

「確かにルール違反と言われればそうだけど、ボクたちは君のために割り込んであげたんだよ」

 

「は?」

 

「あれ。フブキの言ったこと聞いてなかったの」

 

 彼女は首を傾げながら続けます。

 

「だからさ、フブキがその気になれば君なんて目を瞑っていても倒せるんだよ。でも君ってばどうせフブキに負けたら負けたで、まあた『勝負がついた後なのに』とか何とか言ってごねるに決まってるじゃん。そう言うの面倒臭いし時間の無駄だからさ。君がこれ以上醜態を晒す前に止めてあげようかなって」

 

「言ってくれるじゃない」

 

「そんな褒めないでよ」

 

「じゃああなたの言うように試してみようじゃないの、どっちが勝つか。なんならその死にかけにあなたを加えた二対一で戦ってあげてもいいわ」

 

 はあちゃまはおかゆを睨みつけながらクリスタルサビロイの剣先を向けます。

 

「おかゆ。そんな挑発しない」

 

 するとミオがおかゆを嗜めました。

 

「ごめんごめん。いくらうちらでもこんなに深手を負ったフブキがまさかあなたに勝てるなんて思ってないよ。だから戦いを妨害されたなんて言われたら認めざるを得ないわ」

 

「当たり前よ」

 

「でもね」

 

 ミオは続けます。

 

「窮鼠猫を噛むって言うでしょ。相手が弱いと思って見くびってると思わぬ痛手を被るって意味の。ましてフブキは狐だからその怖さは鼠の比じゃないわけ。フブキがその気になれば、勝てはしないだろうけれど道連れ覚悟の特攻とかはしてくるよ。フブキの執念と言うか底力というか、そういうのが尋常でないことはあなたも身をもってわかっているでしょ。ちょっとイライラが抜けないからボコしとくかって軽い気持ちで戦おうっていうことなら、間違いなく選ぶ相手を間違ってる」

 

「……」

 

「もっと冷静になろうよ。あなたはフブキの次にも戦わなくちゃいけない相手がいるわけじゃん。それを考えると今は少しでも体力温存しておくのが上策でしょ。下らない感情に振り回されて体力を消耗させるのはよくないって。そんでうちらもうちらでフブキに万が一のことでもあれば冗談じゃないしさ。ここはお互いのために引いてよ。ね」

 

「……。そうね」

 

 ミオの説得にはあちゃまが頷きます。

 

「よくよく考えてみれば、まだ私は白上フブキと剣を合わせていない。勝負は妨げられたわけではなく、そもそも始まっていなかった。だから今回ルール違反は生じていない。そういうことにしてあげてもいいわ」

 

「話がわかるう」

 

「ふざけるな!」

 

 本人を余所に勝手に話を付けようとするミオを押しのけ、フブキが叫びました。

 

「来い! 仕切り直しだ!」

 

 言うなり、すでに戦う気を失せてソーセージを消すはあちゃまにフブキが問答無用で斬りかかろうとします。

 

「フブキ!」

 

 ミオがそんなフブキを押さえました。

 

「もう十分だよフブキ」

 

「バカなこと言うな! 白上はまだ何もできていない!」

 

「あいつをボコボコにしてくれたよ。それでうちらは胸がスッとした。だからもう十分。ありがとう」

 

「違う! そうじゃない! 白上はそんな中途半端ないたぶりをするために強くなったんじゃない! おまえたちの苦しみをあいつに思い知らせてやるために、この日をずっと待っていたんだ! なのに結局はあいつの思い通りの展開だなんて、絶対にありえない! ここで白上が引き下がってしまえば、それこそ今までのすべてが無駄になる! なんのためにここまで強くなったのか!」

 

 語気を強めて言い返す彼女に「フブキ……」とミオが悲しそうに呟きます。

 

「違うよ」

 

 するとおかゆが二人の会話に入ってきました。

 

「すべてが無駄になるなんてことはない」

 

「なに」

 

「フブキは本当によくやったよ。確かに表面的な結果だけを見れば敗北したということだけれど、この戦いにはそれ以上の意味があった。そのことはこの場の全員がよくわかってる。レジェンド所有者が勢揃いしたこのステージで誰が最も輝いていたのか、誰がトップランカーとして君臨するにふさわしい圧倒的な実力を持った剣士だったのか、今日という日を振り返った時に皆が思い浮かべるのは十中八九この一戦における君の姿さ。君はそのことを嫌というほど刻みつけた。実質的な成果で言えばこれ以上のものはないよ」

 

「しかし!」

 

「フブキ、君はもっとチームリーダーとしての自覚を持たなくちゃいけない。そしてチームのためにもっと先を見通さなくちゃいけない。言わずもがな、ボクが言っているのはこの決戦が終わったあとで落ち着きを取り戻したホロ・デ・ソーセージ大陸のことさ。君はトップランカーの座について、最強の剣士としてこの界隈を牽引していかなくちゃいけない。だからこんなところで命を危険に晒してはいけないんだよ。ボクたちゲーマーズのために」

 

「……ッ」

 

 真正面から向き合ってチームの名前まで出され、フブキは泣き出したいような苦虫を噛み潰したような複雑な顔をします。

 

「ころさん。あとひと押しっぽいんだけど、なんかない?」

 

 フブキを説得するミオとおかゆの二人に構わずアメリカンドッグをはあちゃまに構え続けているころねに、おかゆが話しかけます。

 

「ない!」

 

 振り向きもせずころねは答えました。

 

「言いたいこと全部言われた!」

 

「あー、そっか。ごめんねー」

 

 おかゆが緩く返します。

 そんなおかゆに、

 

「でも!」

 

 と続けてから、ころねはゆっくり振り返りました。

 そしてフブキの方に顔を向け、

 

「フブキが傷つくところ、もう見たくない」

 

 獣耳を垂らして、苦笑するように微笑みました。

 

「……」

 

 自分のチームメンバー三人に止められて、フブキはやり切れない顔をさせながら悔しそうに歯を噛み締めます。

 それから顔を俯かせ、震える手でチョリソーをゆっくりと下ろします。

 しばらくするとフォークの先のソーセージが消えました。

 フォークだけになったそれをギュッと握りしめながら、フブキはその腕を目元に持っていきます。

 

「……ッ、……ッ」

 

 声を押し殺しながら、彼女は静かに泣き出しました。

 

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