勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「撫でますドン!」
マリンのかけ声と同時に振るわれるマシーンヨーテボリの直撃を受け、はあちゃまの胴体に風穴が開きます。
「……ッ」
直後、はあちゃまは歯を食いしばり目を見開きました。
その目が血色に染まります。
スキル「血の涙」の発動です。
致命傷ダメージを激減させる「血の涙」の発動により、マリンの一撃によって抉り取られた部位が逆再生されるように修復されます。
「ったいわね、このばか力」
はあちゃまは吐き捨てるように言ってクリスタルサビロイを振るいます。
マリンはそれを後ろに跳ねて躱してから、もう二、三歩退いて距離を開けました。
「やっぱり駄目ね」
彼女はマシーンヨーテボリを肩で担ぐように持ってため息つきます。
「いい具合に力を抑えたつもりだったのに、『血の涙』を発動されちゃう。やりにくいわ」
「スキルで攻撃力上昇させておいてよく言うわよ」
「……」
はあちゃまの軽口に、マリンはしかし言い返さずに口元へ手を当てます。
「わかった」
そしてボソリと呟いたかと思えば、また「うおおお!」とかけ声を上げながらはあちゃまに突っ込んでいきました。
「何なのよさっきからまっすぐ突っ込んできてばかり。あなたイノシシ?」
小バカにするように言いながら、はあちゃまもクリスタルサビロイを構えます。
そしてブン! ブン! と大振りされるマリンのマシーンヨーテボリを受け止めていきますが、なにぶんマリンとはあちゃまとでは腕力の差がありすぎます。加えてマリンは「集結」によって攻撃力が75%上昇していますので、受け止めるごとに手に痺れが走り、三撃もすればまともな受けもできなくなります。
仕方なく避けることに専念しても、マシーンヨーテボリの大きさに加えそれを通常のソーセージ以上に軽々と振るうマリンですので距離を開けざるを得ず、ならば得意のしなりで不意打ち気味の反撃を試みようともやはりマシーンヨーテボリの大きさが邪魔でどうにも上手くいかず、結局は防戦一方になります。
たとえマリンの直撃を受けたとしても「血の涙」を発動させれば軽傷で済むわけですが、わずかながらもダメージは受けてしまうわけで、その状況が続くとなるとあまりよろしいことではありません。
そんなことを悶々と考えてから、はあちゃまは小さく息を吐きます。
そしてまたもやマシーンヨーテボリを振るってくるマリンを見返してから、クリスタルサビロイの柄をギュッと握りしめて、
「はあ!」
思い切ったように攻撃に移りました。
とにかく当てることを優先したクリスタルサビロイの一閃がマリンの頭部めがけて伸びていきます。マリンはそれをマシーンヨーテボリで防ごうとはせず、構わず振るいながら身体を右側に傾けて回避します。
しかしはあちゃまも当然そこで攻撃を終わりにはせず、しなりを加えて再びマリンの頭部にクリスタルサビロイの剣先を向かわせます。
マリンは首を傾けてさらに避けようとしますがさすがに無理があったようで、右頬の皮一枚をかすられます。そこからじんわりと血が滲みだしました。
直後、彼女の目が鉛色から緋色に戻ります。
完全体力状態という条件を満たさなくなったため、マシーンヨーテボリの硬化も解けて「集結」が解除されます。
しかし一方で、すでに振るわれたマシーンヨーテボリは止まりません。無防備状態のはあちゃま目掛けて凄まじい勢いで迫っていきます。
凄まじい勢いで、迫っていっていたのですが、
「……」
マリンは、はあちゃまにあと数センチで当たるというところで無理矢理剣を止めました。
「?」
痛みを覚悟していたはあちゃまは、思わず顔を顰めながら視線をそちらへやります。
かと思えば、マリンはふたたびマシーンヨーテボリに力を込めて剣を振るいました。
それが意外な不意打ちとなります。
身体の体勢のみならず精神面でも無防備となったはあちゃまはその一撃を受けて真横に飛ばされました。
ガタン! と音をさせて壁に身体を打ち付けて地面に落ちます。
「なんなのよ。ったく」
彼女は舌打ちしながら起き上がりました。
◇ ◇ ◇
「いけえ! 船長! いっけえ!」
戦局の優勢劣勢に関わらず、とにかくあくあは声を張り上げてマリンを応援します。
「……『集結』のスキルが使えなくなってしまいましたね」
そこから少し離れた場所で、彼女に聞こえないような小声でるしあがボソリと呟きました。
『集結』の攻撃力バフをかけたマリンに防戦一方になっていたはあちゃまを見ていたからでしょう、その声には残念そうな含みがあります。
「シュバ、シュバア。シュババシュバル」
(いや、るしあ。あれは多分)
そんなるしあにスバルが何か話しかけようとして、
「使えなくなったというよりも、捨てることにしたんじゃないかな」
隣にいたかなたが遮りました。
「捨てる? 『集結』のスキルをですか」
聞き返するしあに「そう」とかなたは頷きます。
「確かにさっきまでの船長の攻撃にはあちゃまは防戦一方で良い流れっぽいけれど、はあちゃまの直感は赤井はあとと同じものだからね。あんまり剣を振り続けてるといつ剣筋を見切られて攻防逆転されるかわからない。それって結構怖いんだよ。かと言って早々に勝負を付けようと本体に攻撃を当てても『血の涙』を使われて大したダメージを与えられない。はあちゃまははあちゃまで防戦一方の状況を変えたいと思っていた一方で、船長も船長でどうにかこの状況を打開できないか考えていたわけ。だからはあちゃまが思い切って捨て身覚悟のダメージを与えに来た時、船長も行動を起こすことにしたんだよ」
「船長、何かしましたか」
怪訝な目でるしあが問いかけます。
「したよ」
かなたはなぜか得意げに頷きました。
「さっきのはあちゃまへの反撃で、あえてソーセージを停止させてから打ち直したよね。あれは力を調整するためなんだ。『血の涙』を発動させないためにね」
「ああ。それで止めてたんですね」
「ただ勢いを弱めて殴ったわけじゃないよ。それだったらわざわざ止める必要もないからね。どれくらいのダメージだったら『血の涙』のセンサーに引っ掛からないか、これまで観戦してきたのを参考にギリギリの線を検討付けて力加減を調整したんだよ。そういう繊細な作業をしたかったから、はあちゃまが攻撃だけに意識を集中した時を待ってたわけだね。そしてその結果、結構強く叩いたように見えたけど、はあちゃまには『血の涙』を使う様子がない。船長は本当によく見極めてるよ。彼女は『血の涙』を使わせないほぼ最大値のラインを把握できたわけさ。もう次からはどんどん本体めがけて攻撃をしかけていくはずだよ」
「『血の涙』の最大値を見極めるために『集結』を捨てたと」
「そう。相手が『血の涙』を使うんじゃ、『集結』で攻撃力を上昇させてもあまり嬉しくないしね。船長なんて元々の攻撃力が高いからなおさらさ。いい判断だと思うよ。スキルってレジェンド所有者の特権みたいなイメージがあるからさ、戦略的にいざ捨てようと思ってもなかなか踏ん切りがつけにくいと思うんだ。それを手放すべき時に潔く手放すことができるのはさすがだよ。この戦いで何が重要なのかよくわかってる」
るしあははあちゃまの方に振り向きます。
かなたの言ったように、はあちゃまには『血の涙』を使う気配がありません。
「え。本気で言ってますか。あの船長がそんな頭脳プレイを」
それでも信じられずに、るしあはかなたに聞きました。
「あのね」
そんなるしあにかなたは苦笑します。
「キミが船長のことをどう思っているかしらないけれど、彼女はなかなか頭の切れる剣士だよ」
「ブチギレしやすい剣士ではなくて」
「うん。確かに頭に血も上りやすいよね。その分頭に血が良く巡ってるのかな。あはは」
「はあ」
「まあとにかく、船長は相当の策士だよ。ああ見えてね。ある意味このメンツのなかで一番安心して観戦できる。それは戦ったボクが一番よくわかってることさ。だからキミももうちょっと信頼して見守ってあげたらどうかな」
「……」
かなたにそう言われ、るしあはマシーンヨーテボリを担ぎながら欠伸などしているマリンの方に目を戻しました。