勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
はあちゃまとマリンの打ち合いが再開されます。
「はあ!」
「くッ、この!」
優勢は至ってマリンでした。
マリンの攻撃にはあちゃまは再び反撃すらできない防戦一方に追い込まれているのです。
その最もな理由は、やはりマリンははあちゃまが発動する「血の涙」のラインを把握していることにありました。はあちゃまとしてはもう急所を晒すようなことができなくなり、純粋な打ち合いしかできなくなったのです。
しかしながら単純な力でマリンに分があるとは言え、はあちゃまにはクリスタルサビロイの驚異的なしなりがあります。
「なんか変ですね」
にもかかわらずあのはあちゃまが防戦一方に甘んじている状況に、観戦しているるしあは首を傾げました。
「どうしたの」
そんなるしあの隣にいるかなたが聞きます。
「いえ。さっきから、はあちゃまがずっと防戦一方じゃないですか」
「そうだね。いいことじゃん」
「もちろんそうなのですが、はあちゃまが一筋縄ではいかない剣士であることは嫌というほど見せられたじゃないですか。確かに船長の方が腕力と言うか剣を振るう力があることはわかるのですが、だからと言ってあのはあちゃまが反撃もできずに防ぐだけという状況になるものなのでしょうか。また何か企んでいるのではないかと思えてならないです」
「そうだね。もしかしたら何か考えがあるのかもしれない」
そう言ってから「でもね」とかなたは続けます。
「船長の攻め方、あれはあれで結構やっかいなんだよ」
「攻め方?」
言われて、るしあはマリンの方に目を向けます。
「ただゴリ押し気味に攻めてるわけではないのですか?」
「いや、ただゴリ押しで攻めてるだけなんだけどね、伝説級剣士の剣速であの超大型サイズのマシーンヨーテボリを立て続けに振るわれると、なかなか反撃のチャンスは来ないもんなんだよ。無理して振るってるならスタミナが切れるまで待てばいいだけの話なんだけど、彼女はあれが通常運転だから」
「はあ」
「大型サイズのソーセージってさ、扱うためにはそれなりの筋力がいるから人を選ぶけど、使えるようになればかなりいいソーセージだよ。長さだけじゃなく幅があるからさ、その分相手は的が狭く感じてやりづらい。それがマシーンヨーテボリほどの巨大ソーセージになればなおさらさ。クリスタルサビロイがしなって攻撃してくるような隙間もほとんどカバーしてくれる。船長はあまり不意打ちされることを気にすることなく攻めることができてるんだよ」
「ああ。それではあちゃまはしなりを使って来ないんですね」
「だと思うよ。船長との戦闘ってさ、とりあえずは防戦一方にならざるを得ないんだ。そこをどう覆していこうかって戦いになるわけで」
「へえ」
「あと、船長の性格知ってたらわかると思うんだけど、彼女って調子が乗ってきたらますます勢いづいてくるタイプだからさ。ただでさえ手に余ってるって言うのに、ペース乗ってきたら剣速も攻撃力もどんどん上がっていくんだ。でも、まあ、今の船長は『集結』が発動しているわけじゃないからまだ防ぐことはできる。だけどこのまま彼女のペースで押されていくとそれすらできなくなる時が来てしまうかもしれない。ぶっちゃけ実際にそこまで攻撃力が上昇するかは疑問なんだけれど、彼女と対戦している相手はそういう焦燥感に蝕まれる。そのせいで剣筋を把握するための精神的な余裕がなかなか取りづらいから、やっぱり船長のペースから抜け出せない。意図的なのかどうかわからないけど、いやらしい攻め方だよ」
「そうですね。いやらしい攻め方です。いい意味で」
かなたはくすりと笑ってから「もちろんいい意味で」と、るしあの言葉を繰り返します。
「多分はあちゃまは絶好の反撃チャンスを待ってるんだと思うよ。下手に反撃しても止まらないし、下手したらカウンターもらっちゃうからさ。あの戦い方に慣れた船長がそんなおいしい隙を晒すとは思わないけどね」
「もしくは攻撃力上昇スキルが発動できるようになるまで体力調整しているのかもしれませんね」
「ああそうだね。それかもしれない」
かなたは頷いて、はあちゃまと船長の方へと視線を戻しました。
「あの」
そんな彼女に、るしあがまた話しかけます。
「ん?」
「かなたさんは船長に勝ってるんですよね。レジェンド所有者でないからスキルも使わずに」
「そうだね」
「一体どのように戦ったのですか」
尋ねるるしあに「えっとね」と少し考えるようにしてから、かなたが口を開きます。
「船長とやり合おうと思ったら、まともに打ち合ったらダメなんだよ。単純なパワーで打ち合っても勝てっこないからさ」
「はあ」
「だからとにかく船長の攻撃を受け流すのが上策なんだ。船長は自分のペースになったらどんどん調子が出てきて手に負えなくなるけど、逆にペースがぐだぐだになったら調子が下がってきて動きが鈍くなるからね。キレ気味というか自棄っぽくなってくるし、そのうち『え?』って思うようなポカもしだす」
「えっと、それってマズいんじゃないですか。もしはあちゃまがそのことに気づいたら」
「さあ。それはどうだろうね」
のんきにかなたは答えます。
「一発二発ならともかく、連撃をことごとく受け流すのって余程の実力差がない限り難しいんだよ。それをあの全長二メートルもあるクリスタルサビロイでできるものなのかなあ」
「よくわからないのですが、しやすさにソーセージの長さが関係あるのですか」
「もちろんだよ。基本的に短ければ短いほどいい。餃子やピクルスみたいな短剣ソーセージだと小回りが利いて随分やりやすくなるし、一撃目を受け流した後に二撃目に対応する準備も取りやすい。逆に長剣ソーセージだとその準備がなかなか追いつかないから、し続けると徐々にぼろが出始める。そして何と言っても長剣特有のしなりの機能、あれが剣を捌くのには邪魔なんだ。受け流すって要するに相手の剣の軌道を逸らすことだからさ、剣と剣の接触時に衝突させず脇に滑らせる繊細な作業なんだよ。しなるってことは、その作業中にソーセージの形態が変わっちゃうわけだからね」
「なるほどです」
るしあは納得したように頷きました。
しかし、それからふと気づいたように「でも」と続けます。
「かなたさんのソーセージって、さっき出してたバナナですよね。長剣とは言わないまでも、それなりの長さがあったように思いましたが」
「うん」
「そのソーセージでよく船長の攻撃を受け流し続けることができましたね」
「ふふん」
かなたは得意げに鼻を鳴らします。
「さっきも言ったけど、受け流すことに関してソーセージは基本的に短ければ短いほどいい。だけどボクのバナナは例外さ」
言って彼女はレッグバッグに手を入れます。
それからガサゴソと中をさぐりますが、「え? あれ?」と困惑気味に呟くだけでなかなか手を出そうとしません。
「どうしたのですか」
「いや。バナナのソーセージを見せながら説明してあげようと思ったんだけど」
「バナナのフォークだったら、ちょっと前にはあちゃまに没収されていませんでしたっけ」
るしあに指摘されて「あ」とかなたも思い出します。
かなたは、ココにとどめを刺そうとするはあちゃまを止めるために自分が敗北し、その際にフォークも渡してしまったのでした。
彼女は決まりが悪そうに咳払いしてから「ボクのバナナはね」と言い直して、続けます。
「剥き出しになっているバナナの剣身のほかに皮が付属している。その皮の曲線フォルムはそもそも相手の剣戟を受け流すことを目的としているんだ。つまり受け流すことに特化したソーセージというわけさ」
「へえ。バナナってすごいんですね」
「そうだよ」
「るしあも、たまきくんに持たせるソーセージをバナナにしましょうか」
るしあは真面目な顔でそんなことを言いだします。
「うん。それがいいよ」
かなたも嬉しそうに頷きます。
すると、
「やめておけ」
ぼそりと誰かが口を挟みました。
「え」
るしあが声の方に振り返ってみると、そこにいたのはアキロゼです。
「この女の言うことを真に受けるな。バナナの扱いづらさは他のソーセージの比ではない。ある意味、はあちゃまのクリスタルサビロイや大空スバルのライトニングウィンナーよりずっと癖の強いソーセージだ」
「え」
るしあは驚いて、ちらりと足元にいるスバルに目をやります。
ちょうど話を聞いていたスバルはるしあの方に顔を上げてこくこくと頷きました。
「自分の側に反り伸びているバナナの皮は、敵の攻撃を防ぐ盾である以上に自分の動きを妨げる障害なんだ」
アキロゼは続けます。
「皮が邪魔でろくに剣が振るえず動きが制限されるのは鬱陶しいどころではないし、ソーセージ硬度の尖った先端部分が常に自分の身体に向けられているのも、私には構造的欠陥としか思えない。相手との鍔迫り合いで押し負けた際、下手をすれば己の身体に食い込んでくるぞ」
「ひえ」
「あんなものを所有剣にするのは物好きか怖いもの知らずかソーセージの申し子のような戦闘狂か、もしくはそのすべてをひっくるめたようなバカだけだ」
アキロゼの説明を聞いたるしあはごくりと息を呑みます。
「やっぱりたまき君はレバーケーゼでいいです」
そして小さく呟きました。