勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 航海を終えてメードの船着き場に寄港した宝鐘海賊団の海賊船、そこから一味たちが次々に降りてきます。

 

『せんちょー!』

 

『おかえりー!』

 

 一番最後に出て地に足付けたマリンの周りに、子供たちが群がりました。

 

『ただいまみんな!』

 

 マリンは笑顔で答えながら、子供たちの頭を撫でてやります。

 

『おいおいおまえたち。船長は航海を終えたばかりで疲れてるんだから、遊んでもらうのは後にしなさい』

 

 マリンの背中に飛びついたり脇にパンチをし出したりと好き放題する子供たちに、見ていられなくなった町の男が注意しました。

 

『ああ。いいのいいの』

 

 しかし当のマリンはそんな彼にひらひらと手を振ります。

 

『これが楽しみで帰ってくるまであるから』

 

 答えるマリンに子供たちは大袈裟に声を上げて喜びます。

 

『一番の楽しみは寄港して一番の祝杯でしょうが』

 

 ぼそりと呟く一味の言葉に、図星なのでしょうマリンは『あん?』と声にドスを利かせて振り返ります。

 彼は目を逸らして口笛を吹き始めました。

 

『せんちょー! 航海の話してよ!』

 

 それに気づいているのかいないのか、子供の一人がマリンの服の裾を引っ張りながらせがみます。

 

『ああ。うん。そうね。じゃあ聞きたい子は町の広場に集合しなさい』

 

 マリンの指示に子供たちは素直に『はい!』と答えて駆け出していきます。

 その後ろ姿を見送ってから、マリンは自分を眺めていた一味たちに振り返ります。

 

『そういうわけだから、船長はちょっと遅れて参加するわ。みんなはいつもの酒場で先に飲んでてちょうだい』

 

『そんなわけにいかないでしょ』

 

 一味の一人が肩を竦めます。

 

『船長がいないんじゃ酒がマズくてしかたない。ガキどもに俺たちの武勇伝をたっぷり聞かせてやってから、まあゆっくり来てくださいよ。祝杯はその時に一緒に上げましょう』

 

『あんたたち……』

 

 一味の温かみのある言葉に、マリンはぐすんと鼻を鳴らします。

 

『そ、そうよね。宝鐘海賊団船長である船長は言わば主役、その主役がいない酒の席なんておいしいはずがないものね』

 

『いやいや、そうじゃなくて。船長の余興がないと酒の肴が物足りないってことですよ。それ以上の意味なんてありませんって』

 

 茶化すように言う一味の男に、他の一味たちもゲラゲラと笑いだします。

 

『言ったなおまえ!』

 

 怒鳴るマリンに、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。

 

『ったく。目上に対する敬意がなってないわ』

 

 マリンは呆れたようにため息ついてから、フッと含み笑いを浮かべます。

 それから町の子供たちが集まっているでしょう広場に向かいました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 広場にはメード中の子供たちがところ狭しと集まっていました。

 彼らはマリンの姿が見えると一斉に騒ぎ出し、話を聞かせてくれとせがみます。

 その話とは、もちろん今回終えたばかりの宝鐘海賊団の航海談です。

 マリンは広場に積み置かれた土管の上に立って、身振り手振りを加えながら船旅の大冒険を語ります。

 子供たちは目を輝かせながらその話を聞いていました。

 

『……?』

 

 しかしふと、マリンはあることに気づきます。

 自分が立っている土管から少し離れた広場の隅、そこに一本の木が立っているのですが、それに背もたれながら詰まらなそうにそっぽを向いている少女がいるのです。

 無関心を装っていますが、広場にいるということはマリンの話に興味があってやって来たに違いありません。

 

『どうしたの? ねえ続きは』

 

 語りを止めたマリンに、子供たちが続きを促します。

 

『ああ。うん』

 

 マリンは頷いてから『ねえ』と逆に聞き返しました。

 

『あそこにいる女の子は?』

 

 木にもたれ掛かっている少女を指さしながら尋ねるマリンに、目の前の男の子が『ああ。あいつ』と答えます。

 

『あくあだよ。湊あくあ。この町の市長の』

 

『へえ。市長さんの娘さんかあ。そういえば会ったことなかったな』

 

 感慨深げにつぶやくマリンに『違うよ。あいつが市長』と彼は訂正します。

 

『ちょっと前に市長のおっさんとおばさん、事故で亡くなったんだ。だから今はあいつが市長になってんの』

 

 彼の言葉にマリンは思わず『え!』と声を出して驚きます。

 しかし彼はそんなマリンに『ねえ! 早く話の続きしてよ!』とせがみます。

 

『いや。でもさ』

 

『いいんだよあいつは。目は合わせないし、遊びに誘っても絶対来ないし。市長になったからって俺たちのこと見下してるんだ』

 

『どうしてそんなこと言うのよ。羨ましそうにこっち見てるじゃない。もしかしたら人見知りなだけかもしれないでしょ』

 

『知らねえよ! あんなやつ!』

 

 ぷいと顔を逸らす彼に、マリンはため息ついてから頭を撫でてやります。

 それから少し考えて、周りの子供たちに『ちょっと待っててね』と言い置いてからあくあの方に向かいました。

 

『こんにちは。お嬢ちゃん。船長は宝鐘海賊団のリーダーで、宝鐘マリンって言うの』

 

 マリンは、あくあのすぐ目の前まで来てから膝を折って微笑みかけます。

 一方あくあは、マリンが自分の方へやってくるのを横目に見てはいたものの、まさか話しかけて来るとは思っていなかったようで、驚いたように目を見開いてから木陰に隠れます。

 しかしそれから少しすると顔だけひょこりと覗かせて、

 

『……知ってる』

 

 と答えました。

 

『あてぃしの二階の窓から、よく見てたから。船長の舟が町にやって来ると、お祭り騒ぎみたいにみんなが船着き場に集まって、楽しそうに出迎える』

 

『そうよー。船長は海賊であると同時にこの町の美少女アイドルだからね』

 

『うん』

 

『あはは。美少女は無理があるって、突っ込んでよー』

 

 笑いながら、マリンは『よっこいしょ』と言ってあくあの横で腰を下ろしました。

 

『ほら。あくたんも』

 

 言ってマリンはそばの地面を軽く叩いてあくあを促します。

 

『あくたん……』

 

 あくあはその呼称に顔を顰めながらもおずおずとマリンの隣に座ろうとしますが、

 

『せんちょー!』

 

 土管に集まっている子供の呼び声にビクンと肩を震わせて、また木陰に隠れてしまいました。

 マリンは苦笑しながら起き上がり、

 

『はいはい』

 

 と返事をしながら、子供たちの方に戻っていきます。

 そして中断した話の続きを再開しました。

 その間じゅう、あくあはずっとそっぽを向くようにして木の傍に立っているのですが、時々ちらちらとマリンの方に目をやって話を盗み聞きしているのでした。

 そうするうちに時間はどんどん過ぎていき、

 

『はい。今日はこのあたりで終わり』

 

 話を一区切りつけたマリンと手を鳴らします。

 

『ありがとー。せんちょー』

 

 それを合図に集合していた子供たちは満足そうに帰っていきます。

 

『……』

 

 あくあも無言で広場から出て行こうとしました。

 ですが、

 

『あくたん』

 

 それをマリンが引き留めます。

 

『ちょっと船長と一緒に来ない?』

 

 にこりと笑って手を伸ばしてくるマリンに、あくあは首を傾げました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 マリンがあくあを連れて行ったのは、宝鐘海賊団行きつけの酒場でした。

 

『船長。とうとう誘拐にまで手を染めちまったんですか』

 

 酒場に入るや否や、マリンを待っていた一味の男があくあを見ていぶかし気な目をします。

 

『違うわ! ていうか「まで」って言うなや! その前段階まではやってるみたいじゃんか!』

 

 マリンの返しにドッと店内に笑いが起きます。

 すでにそこは宝鐘海賊団の一味が勢揃いしており、皆ジュースなり茶なりのノンアルコールとつまみを口にしながら、マリンを待っていたようでした。

 酒場は割と広いホールですが、一味の数が数なので所狭しと感じます。

 マリンはその中央に空いたテーブルの椅子に腰を下ろし、隣の席にあくあを座らせました。

 それから自分にビール、あくあにはジュースを注文します。

 あくあは訳が分からない顔をしながらも言われるままにジュースを手に持ち、マリンと一味たちが「乾杯!」と杯を上げてアルコールを飲み干すのに合わせ、自分もぐびぐびとジュースを飲み干しました。

 

『その、大変だったわね』

 

 あくあがグラスから口を離すタイミングを見計らって、マリンが話しかけます。

 

『なにが』

 

『だからさ、お父さんとお母さんが、事故にあってさ』

 

 子供たちの前では饒舌だったマリンの口が、歯切れ悪く続きます。

 それは本人が一番わかっているようで、ガリガリと髪を掻いてからもう一度勢いよくジョッキを飲み干して『元気だしな!』とあくあの肩を叩きました。

 あくあは鬱陶しそうにその手を払いのけてから『平気よ』と返します。

 

『お父さんとお母さんがいなくなっても、市長の仕事はあてぃが代わりにできるから。こんな時のために全部教わってるの。あてぃしがうまくやっておくから、みんなが困ることなんて何もないわ』

 

 強気に答えるあくあに『そういうことじゃなくてさ』とマリンが小さく呟きます。

 でもあくあが『なによ』と振り返ると、やっぱり『いや、だからさ』と言葉に詰まってしまい、またガリガリと髪を掻きます。

 すると、

 

『船長ー! 盛り上げてくださいよー!』

 

『そのために待ってたんですからー!』

 

 そんなマリンに酔いのまわりはじめた一味たちが声をかけてきます。

 

『ああ! わかったよ!』

 

 言葉に詰まっていたマリンは助け船とばかりに勢いよく立ち上がり、またジョッキを一気に飲み干すなり、今回の航海を大声で語りはじめ、それを再現するように身振り手振り動き出します。

 それは先の子供たちの前で見せたものとはやや違っていて、どちらかと言えば航海中の失敗談に焦点を当てて面白おかしく脚色して受けを狙ったもののようでした。

 はじめは広場の時と同じように素知らぬ顔で盗み聞くようにしていたあくあですが、途中からはくすくすと笑いはじめます。

 そんなあくあを認めてマリンもより一層調子を出して盛り上げます。

 するとあくあと一味が同時にドッと笑うことも増えて来て、『バカだよね』『バカだよな』と言い合って楽し気に喋ったりなどもしだします。

 そんなこんなで時間は過ぎていき、日が沈み始めました。

 

『あ』

 

 店内の掛け時計を見上げたあくあが小さく呟きます。

 

『どうしたの?』

 

 尋ねるマリンに彼女は『もうこんな時間』と言って椅子から降りました。

 

『待って。帰るなら船長が送ってくわ』

 

 言ってマリンも立ち上がります。

 二人は他の皆に断りを入れてから店の外に出ました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

『船長。ありがとう。楽しかった』

 

 二人並んで薄暗い道を歩きはじめてからしばらくして、あくあが呟くように言いました。

 

『あてぃし、コミュ障だからさ。みんなと付き合うのが苦手で。でもみんなと遊びたくないとか喋りたくないとかじゃなくて、むしろ羨ましいさえあるのに、みんなあてぃしのことを避けて仲良くしてくれない』

 

『……』

 

『あてぃしもさ、あてぃしが距離を置いて接しちゃうから相手がそれを感じ取って嫌な気持ちになってるんだろうなってのはわかってるよ。でも仕方ないじゃんか。あてぃしコミュ障なんだから。でも今日は船長たちと一緒にバカ笑いできて本当に良かったよ』

 

 早口にそこまで言ってから、あくあはやや歩調を速めてマリンの前に出ます。

 

『またいつでも来なよ』

 

 そんなあくあの背中に向かってマリンが返します。

 振り返るあくあに、マリンは酔いで赤らんだ顔で笑みを作りました。

 

『コミュ障だからって死ぬわけでもなし。ぶっちゃけ苦手なのに無理して友達と付き合って本当に楽しかったり満たされたりした毎日が送れるかって言ったら、そうとは限らないしね。でもさ、辛いことがあったり寂しかったりした時は、それを一人で我慢して溜め込むのもよくない。そういうのは誰でも良いからとにかく吐き出しちゃった方が良いのよ』

 

『……』

 

 マリンの『誰でもいいから』という言葉に、両親を想像したのでしょうあくあは悲しそうな顔をして俯きます。

 

『だからいつでも遊びに来なさいよ。船長たちのところに』

 

 マリンはそんなあくあの頭を雑に撫でながら続けました。

 

『あいつらしょっちゅう酒飲んでるからさ、仮に失言とか失態とかあってもどうせ翌日になれば全部忘れてるのよ。気が楽でしょその方が。精神年齢も子供だから話しやすいしさ』

 

 軽口を叩くマリンにあくあも笑いながら『うん』と頷きます。

 

『みんなあてぃしより子供みたい。船長も含めて』

 

『あはは。そうかもしれないわねえ』

 

 答えてからマリンは夜空を見上げます。

 

『宝鐘海賊団には大きな夢があるからね。子供心を持ってなきゃ、やってられないのよ』

 

『ゆめ?』

 

 首を傾げて尋ねるあくあに『そう』とマリンが振り向きます。

 

『きっとどこかにある黄金郷、誰もが夢見るエルドラドを発見することさ』

 

『へえ。すごいの?』

 

『だから黄金郷って言ってんでしょ。すごいどころじゃないわよ。一生遊んで暮らしても全然尽きないお宝財宝の山が眠る島なんだから。それを全部メードに持って帰って酒を湯水のごとく豪遊してやるわ』

 

『さっきも湯水みたいに飲んでたじゃない』

 

 あくあがぼそりと呟きますが、マリンには聞こえていないようで『見つけるぞー! エルドラドー!』と叫びだします。

 するとマリンの大声に家々の窓が次々開いて『今の声は何だ』と顔を覗かし、声の主を知ってから『なんだ船長か』と言わんばかりに苦笑して閉じていきます。

 人々の反応に、彼女の隣を歩くあくあは恥ずかしそうに顔を赤らめました。

 しかししばらくしてから、そんなマリンを『仕方がないなあ』と微笑ましく思っている自分に気づき、そんな自分がおかしく思えてクスッと笑みをこぼします。

 

『頑張ってね。船長』

 

 応援するあくあに『もちろんよ』とマリンは答えます。

 

『見てなさいあくたん。宝鐘海賊団は止まらないわ! エルドラドを見つけるその日まで、船長たちはどんな困難もすべて乗り越え踏破してみせる! 我ら無敵の宝鐘海賊団!』

 

 拳を振り上げ豪語するマリンに、あくあは眩しそうに目を細めて『うん!』と頷きました。

 

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