勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「おまえがラミィにしたこと、ポルカは忘れてねえからな!」
バーニング・サラミをはあちゃまに向けながらポルカが吼えます。
「ふん。ザコが偉そうに」
はあちゃまはそんな彼女を鼻で笑いました。
「忘れていようがいまいがどうでもいいでしょそんなこと。今からあなたも同じ目に合うのだから!」
言ってはあちゃまが駆け出します。
彼女はあっという間にポルカとの距離を二メートルまで詰めて、クリスタルサビロイを横なぎに振るいました。
ポルカはバーニング・サラミを受けに構えてそれを防ぎますが、
「……ッ」
はあちゃまの振るうその剣の威力に、わずかに身体をよろめかせます。
「脆弱!」
はあちゃまはその隙を見逃しません。続けざま剣を振るい畳みかけようとます。
ポルカはすかさず地面を蹴って大きく後ろへ跳び退きました。
そうやってはあちゃまの一刀を躱して距離を取ろうとするのですが、一方のはあちゃまは振るうかと思われた剣を振りかざした格好のままにして、後退するポルカに向かって直進します。ポルカの動きを読んだ上でのフェイントでした。
後方へ跳ねるポルカに対し前方へ突っ込むはあちゃま、跳躍力で後者が勝るのは言うまでもありません。
一瞬でポルカとの距離を詰めたはあちゃまが、再びポルカに剣を振るいました。
「……ッ」
それが着地直後というタイミングであったので、ポルカは避けることができません。
否が応でも剣で防がされ、鍔迫り合いに持ち込まれます。
そしてやはり力では分が悪いようで、クリスタルサビロイをぐいぐいと押し込まれます。
「ふふ。さっきまでの威勢はどうしたのかしらね。こんなんじゃ話にもならないわよ」
「うるせえ!」
「さっきは雪花ラミィにしたこと忘れてない云々って言ってたけど、本当何見てたのかしらね今まで。普通に観戦していればあなたと私の実力差くらい察して、最後まで自分がレジェンド所有者だってことは黙っていそうなものだけれど。どうせボケッと突っ立って碌に見てもいなかったんでしょう。仲間が傷つけられたのなんだの騒ぎ立て、理性より感情を優先させて行動するバカ女。ありがとうね本当に! あなたみたいな弱いくせにしゃしゃり出てくれるおバカがいたおかげで私はすべてのスキルをコンプリート出来る!」
「この!」
ポルカはフォークを持つ側とは違う手で鍔迫り合いするバーニング・サラミの剣身を持ち、そのままはあちゃまの方へ無理矢理ソーセージを押し込みます。
そしてはあちゃまが押し返そうと力を込めたその一瞬の隙を突き、鍔迫り合いを解きました。
そのタイミングがあまりに良かったのでしょう、力を込めた先の相手が急にいなくなり、はあちゃまはたたらを踏んでバランスを崩します。
それは明らかな反撃のチャンスでした。
「おまるん!」
観戦していたねねが思わず叫びます。
「……」
その声に、はあちゃまはクリスタルサビロイのフォークを強く握りしめました。
体勢が崩れたと言えども、全長と柔軟性がトップレベルであるクリスタルサビロイならばどこからの攻撃であろうとその一振りに合わせることは可能です。
そして一振り目を防いだ後に身体の重心を確保して攻撃を切り返し自分のペースに持っていく、先程の打ち合いからポルカ相手であればそれが可能と見積もって、彼女は来るだろう攻撃を待ち構えます。
しかし、いつまで経っても剣が振るわれる気配がありません。
仕方なく前屈みだった体勢を整え、ゆっくり周囲を見渡すはあちゃまの目に移ったのは、走るポルカの後姿でした。
「痛ちちち」
ポルカはバーニング・サラミを素手で触った方の手を痛そうに振るいながら「ふー! ふー!」と息を吹きかけ、はあちゃまに背を向けて走っていたのです。
「逃げるなー! おまるんー! 臆病者ー!」
そんなポルカに思わず、味方であるはずのねねが罵倒します。
「うっさいねねち!」
ポルカもポルカでいちいち言い返して、それでもなお城内中央の方へ走り続けます。
念ために断っておくと、先の場面でポルカが攻撃せずに相手との距離を開けるという選択を取ったこと自体については、非難されるほどのものではありません。
ポルカはあとちょっとで壁際という位置まで追い詰められていましたので、もしも攻撃が失敗してしまったらもう逃げ場がありませんし、実際はあちゃまはそんなポルカの攻撃に備えていたのです。
しかしねねがポルカに苛立ったのはそう言った戦略的なところではなく、むしろスマートさに欠けるところだったのでしょう。
場所を広く使える城内中央へ移るにしても、どうしてわざわざ相手に無防備な背中を晒しながら走って行くのか。先程はあちゃまの攻撃を回避した時のように、大きく跳躍して一足に行ってしまえば済むことなのです。
そして似たような感想を持ったのはねねだけではないようで、
「あは」
はあちゃまも、思わずといったように笑いました。
「みっともない」
口にしてから、ポルカの方へ駆けだします。
ちょうどポルカが中央まで辿り着くかつかないかといったところで、はあちゃまがポルカに追いつきました。
そして彼女はクリスタルサビロイを振りかざし、ポルカの背中めがけて横なぎに振るいます。
ポルカとて走りながらでも横目ではあちゃまが迫ってきていることは確認していたでしょうに、背後を取られてしまったという形です。
「おまるん!」
ねねがもう一度叫びます。
それは先とは違い悲痛がこもった叫びでした。
クリスタルサビロイが横一文字に振るわれます。
ですが、
「ッ」
ポルカの身体を上下に両断したかと思われたその一太刀は、ブン! と凄まじい風切り音を立てて空振りました。
ポルカが屈み込んで避けたのです。
「……」
まさか振り返りもせず躱されるなんて思っていなかったはあちゃまは、思わずしなりのタイミングを失います。しかし彼女は短く息を吐いて素早く頭を切り替えて、返し刀で追撃にかかります。
一方のポルカは斬りかかって来るはあちゃまなど意にも返さないというように屈み込んだ体勢から前転して跳び上がり、その際に身体を反転させて彼女と向き合いに立ち上がるという格好つけたパフォーマンスをしだします。
案の定と言いますかそんな無駄なことをしますので、はあちゃまが再び剣を振るうのとポルカが地に足付けるタイミングとが重なって、回避が困難な状況となります。
「おまるん!」
ねねが三度目の叫びを上げ、
「くたばりなさいザコが!」
はあちゃまがそれを上回る大声を張り上げながら、クリスタルサビロイを振るいます。
すると、
「ザコねえ」
ポルカは上体を反らして、難なくその一振りを躱しました。
「な、なに?」
はあちゃまが思わず戸惑いを口にします。
驚異的であったのは、その避けた間隔がまさにぎりぎりだったこと。だから着地直後で再び跳躍ができないにも関わらず、上体を反らすだけの最低限度の動きで回避したのです。
さらには、そのギリギリ回避を行う際にも行う直前にも全く躊躇いがなかったこと。だからこそ悠々と立ち上がるふざけたパフォーマンスをしたのです。
そして、そんなことができたということ自体が問題で、それはつまり、
「本当にザコならレジェンドソーセージなんて所有してるわけないだろうが。バーカ!」
はあちゃまは、すでにポルカによって剣筋を把握されてしまっているということでした。