勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「本当にザコならレジェンドソーセージを持てるわけないだろ! バーカ!」
「この!」
舌を出して挑発するポルカの顔目掛けて、はあちゃまがクリスタルサビロイを振るいます。ポルカは上体を反らして悠々と避けました。
「な、なぜそんなふうに避けれるの!」
「あんだけ振り回して剣筋晒したり、スキルを見せられたらね。自分の癖を覚えてくださいって言ってるようなもんでしょ」
「なに」
「ポルカは目が良いんだよ」
はあちゃまを見下ろしながら、彼女は続けます。
「ポルカは他のレジェンド所有者と比べたら、確かに力も剣速も見劣りするでしょうよ。でもその代わり、ポルカは相手を見切ることには長けてるわけ。ラミィと桐生ココ、白上フブキに宝鐘マリン。レジェンド所有者を相手にしたガチの戦いを四度も見させてもらったら、そりゃまあ、あんたの剣筋なんか普通に把握するわ。え、なに? もしかして本気でポルカが今までボケッと突っ立って眺めてるだけだと思ってた? んなわけないじゃん」
「くっ」
軽口を叩くポルカに怒りをぶつけるようにはあちゃまが剣を振るいますが、またもや躱されました。
しかしその回避の仕方は先のようなギリギリ間隔ではなく、後ろに大きく跳躍して距離を取るものです。
すかさずはあちゃまは距離を詰めるために駆け出します。
彼女はポルカの着地直後のタイミングを狙い、足元目掛けてクリスタルサビロイを水平に滑らせるように振るおうとします。
上半身に狙いを定めても先程のように身体を反らして躱される恐れがありますが、着地直後の足元は地面と接しざるを得ないために動かしようがありません。
たとえ与えるダメージは少なくとも確実に当てにいこうという考えなのでしょう。
「甘い!」
しかし今度のポルカは避ける気配がありません。
もうすぐ近くまで迫っているはあちゃま目掛けて、バーニング・サラミの剣先を真っすぐに向けます。
そして、
「唸れ! ポルカ・ファイア!」
声を張り上げました。
するとバーニング・サラミの先端から、青色の炎が凄まじい勢いで噴出します。
「ッ」
ソーセージからまるで火炎放射器のように炎を発射させられるという不意打ちに、さすがのはあちゃまも回避行動できず、その炎を顔面からあびせられます。
「ぎゃああああ!」
直後、彼女は炎を直撃された顔を両手で押さえながら床に転がり回りました。
◇ ◇ ◇
「うわあ」
その光景を見たるしあが思わず気の毒そうな呟きをもらします。
「どうした。敵に同情か」
アキロゼが面白がるように聞きました。
「違いますよ。そういうのじゃないけど、すごいと言うか、びっくりしたというか、まさかソーセージから火炎放射とかしてくるなんて思わないじゃないですか」
「そうだな。あんなものを初見でされたらまともに受ける以外ない。たまったものじゃないな」
「ですよね」
「だが、あくまでそれは初見殺しとしてだ」
「え」
目を瞬かせるるしあに「あんな子供騙し、二度目は通用しない」とアキロゼが続けます。
「見た目こそ派手だが、言うても所詮は炎。剣士の耐久力をもってすれば、警戒すべきものではないだろう。先にあれを受けたはあちゃまも、突然火を吹きかけられた困惑から取り乱しただけで、ダメージ自体はかすり傷以下だ。火が来るとわかり心の準備さえできていれば、多少熱い思いをするだけで済むことだ」
「多少熱い思い、で済まされちゃうのですか」
「済まされる」
アキロゼはさも当然とばかりに頷きます。
「それにあれの問題点は威力の低さだけじゃない」
「え」
「先端部分をはあちゃまに向けて放っていたのを見るに、当然あの火炎放射は先端から直線的に放たれるものなのだろう。つまりソーセージの先端部分を相手に向けて固定した格好になるわけだ」
「そうですね。それだとマズいのですか」
「マズいだろう。隙だらけだ」
アキロゼは呆れたような顔をるしあに向けます。
「さっきも言ったが、あの火炎放射は気合で何とでもなるものなんだよ。つまり火炎噴射中の、ソーセージの先端を相手に向けたままの格好の際に襲いかかられてしまう。いくら尾丸ポルカでもその体勢から回避行動に移るのは難しいだろう」
「なるほど。でもポルカは普通に戦ってもはあちゃまの攻撃を躱すことができますから。仮に今後ポルカ・ファイアが使えないとしても問題ないですよね」
「……。そうだな」
るしあはアキロゼの言葉に頷いてから、はあちゃまとポルカの戦いに視線を戻しました。
◇ ◇ ◇
「この!」
ポルカ・ファイアを直撃されたはあちゃまは急いで立ち上がり、再びポルカに向かって駆けだします。
一方のポルカは、アキロゼの予想したように二度目のポルカ・ファイアは放とうとせず、バーニング・サラミを正眼に構えます。
そしてはあちゃまの振るうクリスタルサビロイに合わせてバーニング・サラミを合わせるのですが、案の定と言いますか打ち負けるのはバーニング・サラミです。
畳みかけるようにはあちゃまはポルカの頭部めがけてクリスタルサビロイを横なぎに振るいます。
ポルカはそれを、上体を反らして躱しました。
対してはあちゃまは、ポルカが上体を反らしたそのタイミングでクリスタルサビロイにしなりを加えます。
横一文字に振るわれていたクリスタルサビロイの剣身半ばあたりが、ポルカが上体を反らした分だけ下方に曲がり、執拗に彼女の身体を狙っていきます。
「よっ、と」
するとポルカは、さらに上体を反らしました。
それは「反らした」というよりも「折り畳んだ」という表現の方が適切かもしれません。
ある種のサーカスの曲芸師がするように、後方に身体を反らす勢いのまま腰を180度折り曲げて、自分の股下から顔を覗かせてしまったのです。
はあちゃまもそこまで上体を反らして躱すとは思っていなかったのでしょう、しなりを加えたにも関わらずクリスタルサビロイはポルカの上方を空振りします。
「キモ!」
身体を折り曲げて攻撃をかわしたポルカを目の当たりにしたねねが、思わず叫びます。
「キモい言うな!」
ポルカはねねに叫び返してから、その体勢のままはあちゃまにバーニング・サラミを突き出します。
クリスタルサビロイを振るい終えた直後、しかもそのソーセージはしなっている状態であるので、はあちゃまは回避以外の行動選択がありません。
彼女はポルカの一撃を避けるために後方に跳びます。
そうしてまた勝負を仕切り直す形になりました。
「さっきからごちゃごちゃと! 見世物師かあんたは!」
「へっへっへっ。どうも。これでもサーカス団の座長なんで」
体勢を整えてから、ポルカは両手を揉み合わせてそんな返しをします。
それが癪に障ったのでしょうか、はあちゃまは眉をしかめてポルカを睨みつけました。
それから再び彼女に向かって駆けだしていきます。
今度は先よりもずっと速い疾走です。あっという間にポルカとの距離を縮めていきます。
ポルカはそんなはあちゃまに備えてまた剣を構えるのですが、はあちゃまとポルカの残り距離が二メートルというところで、はあちゃまは大きく跳躍しました。
彼女は空中で剣を振りかざし、下降ざまに勢いよくポルカに振り下ろそうとします。
ポルカはそんなはあちゃまを見上げながら、なぜか左手で指パッチンしました。
するとパチン! と鳴らされる子気味の良い音と同時に、彼女の持つバーニング・サラミの剣身半ばあたりに小さな炎が点ります。
「はあ!」
そんな彼女に構わず、はあちゃまはクリスタルサビロイを大振りに振り下ろしました。
ポルカはその一振りを横に避けながら、カウンター狙いでしょう、はあちゃまの身体めがけてバーニング・サラミを振り上げます。
「おまるん! 駄目だろそれに手を出しちゃ!」
それを見たぼたんが、思わずというように声を上げました。
「わかるっしょ、相手がどれだけ強かなのか! それ隙を晒すフリのフェイントだって!」
そんなぼたんの言葉を証明するように、ポルカがバーニング・サラミを振り上げた直後、はあちゃまのクリスタルサビロイはその身体を大きく曲げてポルカに向かっていきます。
反撃するポルカの隙を突いて、はあちゃまがクリスタルサビロイにしなりを加えたのでした。
ポルカのバーニング・サラミよりわずかに早く、はあちゃまのクリスタルサビロイがポルカの背面を叩く、そう思われた時でした。
クリスタルサビロイがポルカに届く直前、ダン! と凄まじい音が城内に響きます。
そして、はあちゃまが地面に叩き伏せられます。
「……」
それは彼女が叩き落とされた打撃音でした。
「え?」
当人のはあちゃま、それを見ていた観戦者たち。ポルカを除く面々が、何が起こったかわからないと言いたげに唖然とした顔で目を瞬かせます。
はあちゃまに至っては目と鼻の先にソーセージを持つ相手がいるにもかかわらず、思考が停止してしまったかのように、俯せの状態のままぴくりとも動きません。
ポルカはそんなはあちゃまにバーニング・サラミを突きつけながら、
「見たか! ポルカ・ハンマー!」
と声高々に叫びました。