勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
はあちゃまとポルカの戦いは、完全にポルカ優勢の形となりました。
アキロゼのいう「戦いのペースを握っている」ためなのでしょうか、ポルカ・ハンマーが決まる以前は回避に専念するようなポルカの戦い方が変わって来て、回避の直後に反撃をしかけるようになりました。
ポルカは視認によって剣を見切ったと言いますが、やはりその類の見切りには限界があります。だからこそ避けることに集中しなければらなかったのですし、相手がミスでもしない限り攻撃に転じることが難しかったのです。
そんな彼女が手を出すようになったのは、はあちゃまの動きに鈍りが生じ始めたのを認めたからなのでしょう。
事実ポルカの仕掛ける攻撃を受けたはあちゃまも反撃を振るうのですが、そのタイミングは傍目からでも一拍遅れで、悠々と躱されてしまうのでした。
「こ、んの……ッ」
そしてまた一発身体にバーニング・サラミを打ち込まれたはあちゃまが、込み上がる怒りを宿したように目を赤く変色させます。
スキル「断末魔」の発動です。
「断末魔」は残り体力が25%以下になって発動可能となる75%攻撃力バフスキルです。
逆に言えば、すでにはあちゃまの体力は25%以下まで削られているということです。
「はあ!」
はあちゃまが熱気を放つクリスタルサビロイを反撃に振るいます。
先程までとはまるで違う剣速のソーセージが、ポルカ目掛けて横一文字に向かっていきます。
しかし、
「ほい、と」
ポルカはそれもあっさりと躱しました。
のみならず、カウンターとばかりにソーセージを振るってはあちゃまの左脇にバーニング・サラミを叩き込みます。
「ぐ……ッ、う」
攻撃に集中していたために無防備となった瞬間の、一撃です。
はあちゃまもさすがにそのダメージが苦悶の表情となって顔に出ます。
思わず打たれた箇所を押さえて腰を折りました。
「どうする? 降参する?」
ポルカは彼女を見下ろしながら喋りかけます。
「別にポルカはいいけどさどっちでも。降参しないならああそうですかってことでこれから容赦なくボコボコにするし、降参するならするで受け入れて剣を納めてやる。だけどな、もし降参するならラミィや他のみんなにちゃんと謝れよ。今まで酷いことしてごめんなさいってな」
諭すようにそんなことを言うポルカに、
「ふふ、ふふふふ」
はあちゃまは俯きのまま含み笑いをもらします。
「なにがおかしいんだよ」
ポルカは呆れたようにため息をつきました。
「誰が降参なんてするもんですか!」
はあちゃまは叫ぶなり顔を上げて、目の前のポルカ目掛けて剣を逆袈裟に斬り上げます。
ポルカはそれ認め回避行動を取ろうと構えます。
はあちゃまはそんなポルカを視界におさめながら、その目を見開きました。
彼女の目の色が、赤から紫に変色します。
スキル「毒牙」の発動でした。
「毒牙」は残り体力が15%以下になることを条件に発動可能となる攻撃力バフスキルであり、使用者の攻撃力を100%上昇させます。
すでに残り体力がそれほどわずかになっていたことを隠していたはあちゃまの、不意打ちでした。
紫色の毒霧を吐き散らしながら、クリスタルサビロイが驚異的な剣速でポルカに襲い掛かります。
超至近距離かつ斬りかかり途中での「毒牙」100%攻撃力バフ。ポルカはすでに「断末魔」75%攻撃力バフ対処で回避行動を取ってしまっているために、対応するのが難しいのは言うまでもありません。
なのですが、
「あぶね」
ポルカは彼女の優れた身体柔軟性でもってさらに後方に身体を折り曲げることにより、紙一重のタイミングでそれも躱しました。
「急にスキル切り替えてくるなよ。びびるってマジで」
そう言うほどには動揺していない様子で、彼女は降り曲がった腰を起こして直します。
「……」
あの「毒牙」を発動させた初撃である一振りは、はあちゃまにとっての最後の逆転をかけた一振りに思われました。
「断末魔」を発動したすぐあとに「毒牙」を発動させる、それも不意打ちで、です。
誰がその一振りを避けるだなんて想像したでしょう。
はあちゃま勢のハートンたちのみならず、ポルカ勢のスバルたちもざわつきます。
そして紙一重とは言え、それほどの不意打ちですら回避されたということですので、たとえ今度「毒牙」を発動して戦い続けたとしても大きく優劣が変わることはないでしょう。
先の一振りとその回避によって、両陣営の面々はこの戦いの結末が示されたと思わされたのでした。
ですが、
「ふふ、ふふふ」
はあちゃまはなお笑い続けます。
「ギリギリだったわね」
「?」
はあちゃまがボソリと呟く言葉に、ポルカは首を傾げます。
「『断末魔』を発動させた私の一振りを、本当に危ういタイミングで躱したわね」
「ああ。うん。そうだね」
ポルカは鬱陶しそうに頷きます。
「不意打ちだったからな。『ギリギリだったから今度は当たる!』とか思ってんならどうぞかかって来いよ。次からはもっと余裕持って躱してやるからさ」
鼻を鳴らしてそんな軽口を叩くポルカに、
「いいえ。結構よ。『毒牙』の100%の攻撃力バフじゃあなたに通用しない」
はあちゃまはゆっくりと返します。
「でも、もし100%以上の攻撃力バフが掛かったとしたらあなたは対応できない。そういうことでしょ」
「なに」
思わず目を顰めるポルカに、今度ははあちゃまが「ふん」と鼻を鳴らします。
それから彼女は静かに目を閉じました。
「宝鐘マリンも言っていたでしょ。私が何か秘策を持っているんじゃないかって。あなたはそのことについては何も考えてなかったの?」
「……」
黙るポルカに、はあちゃまはゆっくりと目を開けました。
「ッ」
その目を見たポルカは、思わず息を呑みます。
開かれたはあちゃまの目は右が赤色、左が紫色のオッドアイになっていたからです。
「ごめんなさいね尾丸ポルカ。本当は私、スキルを同時に二つ発動することができるの」
言って、はあちゃまはその目を細くさせて微笑みました。