勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「大空スバルとの戦いまで隠しておきたかったんだけど。本当は私、スキルを同時に二つ発動することができるの」
赤色の右と紫色の左、オッドアイの目を細めてはあちゃまは笑いかけます。
彼女の持つクリスタルサビロイは黒紫の靄を漂わせながら高温の熱を発しだします。
まさにそのことがスキルの「毒牙」と「断末魔」が同時に発動している状態であることの証でした。
「断末魔」の高温により「毒牙」の霧が熱せられて生じたのでしょう、城内に異様な腐臭が広がります。
「さあ。かかって来なさい」
呼びかけるはあちゃまに、しかしポルカは息を呑むだけで動きません。
「ふん」
はあちゃまはそんな彼女を鼻で笑いました。
それからクリスタルサビロイを振りかざし、ポルカ目掛けて駆け出していきます。
「断末魔」と「毒牙」の攻撃力バフを合わせ掛けしたはあちゃまの攻撃力上昇率は175%、その脚力による直進ですのでポルカとの距離はあっと言う間に縮まります。
そして振るわれる凄まじい袈裟斬り。ポルカは急いで後方に撥ねました。
「ッ」
間一髪の回避です。
一瞬前までポルカの胴体があった空間に、ブン! と鋭い音をさせてクリスタルサビロイが空振ります。
「ふふ」
はあちゃまの攻撃は終わりません。
振り終えた剣を素早く返し刀に、ポルカが距離を開けた分だけ踏み込んで逆袈裟に斬り上げます。
その追撃を避けるのは無理と判断したのでしょう、ポルカはバーニング・サラミの柄を両手もちにしてクリスタルサビロイを受け止めます。
ガキン! と鋭い衝突音が城内に響き渡りました。
「……ッ」
それと同時に、ポルカがクリスタルサビロイの振るわれた先に飛ばされていきます。
彼女は弾き飛ばされた勢いのまま、壁に身体を打ち付けられました。
「おまるん!」
ねねが叫びます。
はあちゃまがまた駆け出します。
彼女は強かに背中を打ち付けられたポルカにあっという間に接近し、クリスタルサビロイを横薙ぎに振るおうとします。
しかしポルカもそれはわかっていたようで、はあちゃまが剣を振るよりも早くバーニング・サラミの切っ先を彼女に向けました。
「ポルカ・ファイア!」
ポルカが叫ぶと同時にバーニング・サラミの先端から青い炎が噴射して、はあちゃまに浴びせかかろうとします。
はあちゃまはポルカにではなく、その炎に対してクリスタルサビロイを横凪に振るいました。
すると炎の青い一面にクリスタルサビロイの横一文字が空白を刻み、その亀裂が一瞬にして広がって、霧が晴れるように消滅してしまいました。
「そんな! ポルカ・ファイアが切り裂かれた!」
思わずと言ったふうにるしあが叫びます。
「だから何度も言っているだろう! あれは大したことのない初見殺しだと!」
それを聞いたアキロゼの方も思わずと言ったふうに返しました。
一方ポルカ・ファイアを切り裂いたからと言って、はあちゃまの足は止まりません。
さらに大きく踏み込みポルカの目の前にやってくるや、先程振るったクリスタルサビロイを真逆に振り返す乱雑な返し刀で今度こそポルカ本人を狙います。
これがもし200%近い驚異的な攻撃力バフがかけられた状態でなかったとしたら、ポルカにとってそんな雑な繋げ方による斬撃など容易に躱せるものだったでしょう。
しかし、あまりの剣速の違いに追いつくことさえ困難なのが事実なのでした。
ポルカはポルカ・ファイアを放った格好からバーニング・サラミを構え直す暇もなく、はあちゃまの放った一振りを受けて真横に弾き飛ばされます。
それは、はあちゃまVSポルカ戦で見る初めてのヒットでした。
◇ ◇ ◇
「おまるん……」
はあちゃまの鋭い一振りを受けて飛ばされ転がされるポルカを目にして、ねねが心配そうに呟きます。
そんな彼女の横で、
「あの、アキロゼさん」
ねねと同様、不安げな顔のるしあが隣のアキロゼにそっと尋ねます。
「ポルカは大丈夫でしょうか」
「このままだと、マズいかもしれん」
アキロゼは組み合わせた腕に力を込めて、苦々しく答えました。
「やっぱり、このままだと負けちゃいますか」
ため息をついてるしあが呟きます。
二人の会話をさりげなく盗み聞きしているねねも、アキロゼの返しを待ちながらごくりと唾をのみました。
「違う」
しかしアキロゼは、るしあの方を振り向きもせず否定します。
「最早、尾丸ポルカの勝算は消えた。気の毒だが負けは確定だ」
「では、マズいと言うのは」
「負けるにしてもいろいろな負け方があるだろう」
アキロゼは続けます。
「はあちゃまの実力であれば、200%の攻撃力バフを得た今その剣速に追いつけないポルカを仕留めることなんてわけないはずだ。なのにわざわざ相手の防御を許し、その後もちまちまと追撃して弾き飛ばすなんて悠長なことをする。なぜだと思う」
「さあ」
「いたぶっているからだ。せっかく切り札を公開した初の勝負だから遊びたいのか、今までの経緯で散々尾丸ポルカに虚仮にされてきたことの恨みをネチネチと晴らすためなのかはわからないが、とにかくすぐに決めれる勝負を決めようとしていない。今の尾丸ポルカははあちゃまの俎上に乗せられた鯛同然、どう料理するのか吟味されている状態だと思っていい」
「そんな!」
るしあが大声を上げます。
「……ッ」
一方そんなるしあ以上に、二人の話を盗み聞きしているねねはショックを隠しきれず、思わず叫びたくなる口を両手で押さえました。
「そう思うなら止めてやれ」
他方アキロゼはしらっと口にします。
「降参した相手に手を出さないと言う約束は最初に取り決められている。はあちゃまだって勝利してスキルを得ることが最優先目的、己の勝利が確定するのであれば戦闘を中断されることになっても従うだろう。実際桐生ココ、白上フブキ、宝鐘マリンの戦いでも戦闘を続行したい感情を押さえて彼女らの降参を認めた。だから今回も尾丸ポルカが降参するのであれば、それを呑んで剣を納めるだろう」
「そうですよね」
るしあは早速ポルカに呼びかけようとします。
するとアキロゼがそんなるしあを制止するように「ただし」と付け加えました。
「尾丸ポルカはレジェンド所有者であり伝説級剣士、つまりホロ・デ・ソーセージ大陸有数の実力剣士だ。降参を勧めて彼女が降りると言うことは、そんな彼女のメンツ等を少なからず損なわせることは覚悟しておけ」
「えっと、どういうことでしょうか」
アキロゼの言葉にるしあは首を傾げます。
「さっきアキロゼさんも言ってたじゃないですか、今まで戦った他の人達だって降参したって。なんでポルカだけメンツが損なうとか強調するんですか。そりゃ世界の今後が掛かった戦いで降参するというのですから、いろいろと言う人は出てくるかもしれませんよ。でも少なくともここに集まったみんなに本心からそんなクレームを入れる人はいませんし、むしろよく頑張ったってなりますよ。仮にいたとしても胸を張って無視すればいいんです。ポルカははあちゃまを『毒牙』を使わざるを得ない体力まで削ったんですから。はあちゃまの『不死の魂』は連続使用の影響で使うたびに回復力が落ちているわけですから、次に戦うスバル先輩のためにより少ない体力にさせてバトンを渡すという役目を果たしたんです。それに加えて切り札であるスキルの二つ同時発動なんていうチートを使わせたんですから、これまでで一番の功労者といっても過言ではないですよ」
「そうだな。すまない。私が紛らわしい言い方をしてしまった」
言ってため息をついてから、アキロゼは続けます。
「尾丸ポルカはよくやったし、その功績も大きい。私は彼女が降参して戻ってこようが一切責める気はないし、賞賛の言葉しか浮かばない。だが、はあちゃまをより少ない体力にして大空スバルに全てを託す、ということはできなくなった。そこから来るだろう自責の念を考えると気の毒だと思ってしまい、つい詰まらないことを口にしてしまった」
「自責の念ですか?」
尋ねるるしあにアキロゼは「そうだ」と頷きます。
「次の大空スバル対はあちゃま戦では、はあちゃまはより少ない体力で戦いに臨むことになる? いいや、逆だ。彼女は完全体力で大空スバルを待ち構えることになる。尾丸ポルカもその点うっかりしていたのか、はたまた最初から勝つ気でいたから適当に言ってすませよう程度に思っていたのか、バーニング・サラミのスキル『再来』はゴーストベーコンのスキル『不死の魂』と同効果だから同じものを持っていても意味がないと彼女は序盤に言っていたが、意味がないわけがない。連続使用によって回復力が鈍っているのはあくまで『不死の魂』だ。『再来』はそれ本来の高純度の効果でもって使用者の体力を回復するはずだ」
「そんな」
「まだ回復するだけならいい。だが今、はあちゃまが隠していた切り札がスキルの二つ同時発動ということが明らかになった。つまり『不死の魂』と『再来』を同時発動することで、『再来』で全回復しきれなかった分を『不死の魂』で補うことができてしまう。次の大空スバルと戦う際は、十中八九完全回復状態になっているというわけだ」
「そっか。そういう使い方がしたいから、はあちゃまはもうすでに『不死の魂』を持っているのに『再来』のスキルを最も欲していたのですね」
「だろうな」
頷いてから、アキロゼは続けます。
「そして完全体力となれば、その状態だからこそ使える初手バフスキルの『集結』と『大地』が使用可能になる。それらを同時発動するとなると攻撃力上昇率は130%、完全体力の相手が初っ端から『毒牙』以上の攻撃力上昇率を有してくる。悪夢だろう」
「……。かもしれません」
「そもそも論だが、尾丸ポルカが割り込んで参戦して来なければ、少なくとも大空スバルは『体力は少ないが「断末魔」や「断末魔」を使うには至っていない体力状態』のはあちゃまと戦うことができた。もちろんスキル同時発動の切り札の存在は知ることができなかったわけだが。しかしポルカが負けて『再来』のスキルを渡してしまうことで、今までの戦ってきたレジェンド所有者たちが削ってきた体力がここで一気に回復されてしまう。そのことに対して尾丸ポルカを責める者はいないだろう。だが尾丸ポルカ本人は自分を責めざるを得ないんじゃないのか。そんな失態をしたレジェンド所有者としての矜持やメンツが丸つぶれなのもそうだし、今まで皆が繋ぎ積み上げてきたものを自分が崩してしまったという負い目のも相当なダメージになる」
「矜持やメンツ、は持っていないような気がします。結構ペコペコ頭下げたり、したてに出てたりして、自分のプライドを捨てることができる人なので。ただトリッキーな戦い方をしている割には傷つきやすいと言うか、メンタルはちょっと弱い気がします。人前ではすごく明るく振舞っているけど、危ういと言うか無理してるようなのもよく見かけるので」
「逆だな。トリッキーな戦い方をする者は得てしてそういう性質が多い。多分に繊細だからこそ、そのことを覆い隠す鎧として派手な言動や戦術を纏おうとする」
「そう。そういう感じなんですよ。そんなポルカが『自分がいきなり参戦したから戦況が一気に不利になりました。でも危なくなったので途中で勝負を降りました』みたいなことに直面したら、落ち込むとか憂鬱になるとかのレベルじゃないですよ。今後ずーっと抱え込んで苦しみ続けるかもしれません」
「うむ」
「うう。『うむ』じゃないですよ。なんかるしあ、そんなことを言われてどうポルカに声をかけていいかわからなくなってしまいました。アキロゼさんは武士だから、どうせ『降参させたらポルカは一生自分を責め続ける。そうだ。いっそのこと最後まで戦わせてやれ』とか思っているんでしょう。武士だから」
「おまえは私を何だと思っている」
アキロゼはムッとした顔になります。
「仮に完治する怪我であるならばそういうかもしれないが、レジェンドソーセージを持つ伝説級剣士が200%近い攻撃力バフを得てなぶり殺そうというこの現状、降参できるならした方がいいに決まっている。ただ中途半端に降参を勧めて、それこそおまえの言うように肉体面ではなく精神面に一生の傷が残るようなことになってはマズい。正直言うが私にはどうやって降参を勧めればいいかわからないんだ。だからおまえがやれと言っている」
「そんなあ」
るしあは泣きそうな声を出します。
「だって、るしあだってそんなの同じですよ。重大責任じゃないですか。るしあに押し付けないでくださいよ」
縋りつくように言いますがアキロゼはプイと顔を反らしたまま無言です。
るしあはとうとう「あーん」と泣き出してしまいます。
「……」
そんな二人の会話を聞き終えて、ねねはごくりと唾をのみました。