勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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『サーカス団?』

 

 それはポルカがずっと幼い頃でした。

 彼女の住んでいた小さな村に、旅芸人の一座がやって来たのです。

 村の中央広場に市役所規模の大きなサーカステントを広げ、次々と人を中へ呼び込んで行きます。ポルカは父親に手を引かれ、初めてサーカスを目の当たりにしました。

 

『……』

 

 芸をするのは専ら座員契約をした動物たちでした。

 ポルカは彼らの演じる奇跡のような芸の数々に、心を奪われました。

 彼女は自分のサーカス団を持つことを夢見るようになりました。

 サーカス団結成のためにはお金がいります。手っ取り早くお金を稼ぐには剣士が一番です。数年後、彼女は剣士資格を獲得します。

 剣士になり大手のチームに所属してからはサーカス団を作るためのお金を少しずつ貯め、並行して座員募集活動も続けていきました。

 そうしてある程度の資金ができたところで、サーカス団を結成したのです。

 とても小さなサーカス団で、テントもなければ座員の動物たちも数匹でした。

 もちろんそんな規模ですのでサーカス一筋で食べていくだけの集客力があるはずもなく、座長であるポルカは自分の剣士としての給金をサーカス団資金として入れてやりくりする日々を送りました。

 しかし、それでも毎日は充実していました。

 道端で集客のため座員たちと演じる芸に、通りかかった子供が足を止めて時間を忘れたように見入ってくれる。それが何よりうれしかったのです。

 しかしその反面、ポルカはその子供たちに自分がかつて目にした奇跡のようなサーカスを見せてあげたいと言う思いを膨らませていきました。

 そんな時でした。夢のような話が持ちかけられてきたのは。

 

『スポンサー、ですか』

 

 ポルカのサーカス団にスポンサーを申し出る人物が現れたのです。

 多額の資金援助を約束するその人物と、ポルカは契約しました。

 彼女は剣士をやめてサーカスのみに専念するようになり、サーカス団はみるみる大きくなっていきました。

 ポルカはかつて自分が幼いころに目にしたサーカステントよりもずっと大規模なテントを広げ、天井のスポットライトを浴びながら数えきれないほどの観客に芸を披露するようになったのです。

 しかしサーカス団の名が売れ始め、観客席が連日満員になりはじめたあたりから、スポンサー側から無茶な要求を受けるようになりました。

 

『客足を途絶えさせないために、もっとスリリングを追及してください』

 

 サーカス団座長の立場として、聞かないわけにはいきません。

 ただでさえ危険な火の輪くぐり、その輪を一重から二重三重と増やしたり、綱渡りする際の床下に針山を設置するなど、ポルカは言われるまま芸を組み替えました。

 それでも客の飽きが来るのを見計らってでしょう、来月は、再来月はと、スポンサーは次から次へとエスカレートした要求を出していきました。

 基本、芸の練習は安全を重視して行われます。しかしそれではハイスペースで更新要求されてくる「スリリングな見せ場」の芸に対応し難くなっていきます。

 なので、ある時期から練習でも度々本番を模した状況で行われるようになったのですが、そうなると練習中に事故死する団員たちが現れるようになりました。

 普通に考えて、客を魅せる座員が一人また一人といなくなってしまうわけですから、サーカス団としては活動の存続がかかった大問題です。

 ポルカはスポンサーにそのことを話して、元の芸風に戻したいと話をしました。

 しかし彼はそれを良しとしませんでした。

 

『心配ありません。私に任せてください。だから今のまま続けてください』

 

 そう言われた数日後です。新しい座員がサーカス団に編入されました。

 しかも、どこで見つけてきたのかなかなかに高い身体能力とセンスがある新人で、彼は仕込まれた芸をすぐに自分のものにしてしまいました。

 

『さあ。これで何も問題ないでしょう』

 

 したり顔で口にするスポンサーに、ポルカは頷くしかありませんでした。

 その後も事故死する座員は次々に出てきます。しかしその度毎に代わりの座員が補充され、悲しむ暇もなく今日と変わらないサーカスの明日が訪れます。

 サーカスの客層も徐々に子供が減っていき、日々退屈をもてあましているような上層階級が増えていきました。

 そして、

 

『あ!』

 

 ある日、とうとうサーカス披露本番で事故が起こります。

 煮えたぎった油湯の鍋を設置した上空で行われた空中ブランコ、それを魅せていた座員がハンドルから手を滑らせて落下し、油湯の中に落ちて亡くなってしまったのです。

 驚くことに、ところどころから歓喜の拍手と口笛が引き起こります。

 ですがその観客席の片隅から、かすかに子供の泣き声が聞こえました。

 それを耳にしたポルカは、自分が何を夢見てサーカス団の座長になったのかわからなくなりました。

 

『……』

 

 その当日に、彼女はスポンサーとの契約を解消しました。

 一方的破棄による契約違反だとして、ポルカは多額の違約金を請求されました。

 さらにはサーカスのテント、資材、小道具等、もともと自分たちのだったはずのものまで取り上げられ、借金まで背負わされサーカス団から追い出されました。

 ポルカがサーカス団からいなくなるや否や、他の座員たちも続々と退団しはじめて、彼女の元に集まってきました。

 名声も道具も金も失った、それでも座員だけは確かなサーカス団となったわけです。

 自分を慕い集まってくれた仲間たちに、どれだけポルカが感激したかわかりません。

 しかしその時から、今までにない資金苦難の始まりとなりました。

 ポルカはもちろん、せっかく自分についてきてくれた座員たちともう一度ゼロからやり直そうと考えるのですが、かつてのゼロと現在のゼロでは全く状況が違います。

 座員たちの人数が多いために細々としたサーカス団活動では赤字を補いきれませんし、そもそもポルカ自身が借金を返済しなければならない立場です。

 またかつてのように剣士として稼ぐにしても現在彼女は無所属なので、有力なチームを探して所属するところから始めなくてはいけません。そしてそんな悠長なことをしている余裕がないのです。

 しかしながら、みんなを食べさせていかなくてはいけません。

 座員みんなで協力して資金を集めるという方法もなくはないのでしょうが、ポルカサーカス団のメンバーはポルカを除いて皆が動物ですので、あまり期待はできません。

 ポルカだけが頼りなのでした。

 ポルカは日々の生活と借金返済、夢実現の資金貯金のために何でもしました。

 危険なことでも剣士として恥晒しと思われるようなことでも、とにかく報酬額優先で仕事を受けまくり、そんなこんなでとにかく一日一日を乗り越えていきました。

 そんななかで、何の因果かバーニング・サラミを手にすることになったのです。

 しかしその頃のポルカの心はひどく荒んでしまっており、座員たち以外は決して信用しないようになっていました。

 そんな彼女の心理状態からなのか、もしくはそのレジェンドソーセージが盗品であるなどのやましい理由があったのか、真相はよくわかりませんが、ポルカはレジェンドソーセージを所有しているにも関わらずそのことを誰にも口外せず、剣士協会にも報告しませんでした。

 ならばただ隠し持っていただけなのかと言えばそういうわけでもなく、たとえば賞金首の剣士を相手にする際など、彼女は何食わぬ顔で中級剣を所持し相手を油断させておいてからバーニング・サラミを抜いてボコボコに打ちのめす、という方法で活用していました。

 その頃あたりからホロファイブの五人で冒険する夢を見始めるのですが、その夢と現実のあまりにかけ離れた自分の立場に吐き気を覚え、なおさら苦悩するのでした。

 もう資金は十分に貯まり、いつでもサーカス団を再スタートできる状況なのに、そんな願いもどうでもよくなっていきました。

 とにかく生活が第一である、無駄なことにお金を使ってはならない、この先々も何が起こるかわからないのでとにかく貯金しなくてはならない、ポルカの頭はそうしたことでいっぱいいっぱいでした。

 そんなある日のことです。

 ポルカは「暗殺を頼みたい」という依頼人を酒場で待ちながら憂鬱に顔を俯かせていました。

 

「ねえ。あなたどこかのチームに所属してる?」

 

 呼びかけられてふと頭を上げて、ポルカは思わず目を見張ります。

 

「ねねのチームに入らない?」

 

 しばしば夢で見た、三人の剣士が自分と同じテーブルに相席で座っていたのです。

 

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