勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
クリスタルサビロイを何度叩きつけたあたりからでしょう、ポルカはぴくりとも動かなくなりました。
「おまるん!」
ねねが叫んでステージに上がり込み、ポルカに駆け寄ります。
ぼたんとラミィも彼女に続きました。
「おまるん! しっかりして!」
ねねがポルカを揺さぶりますが、無反応です。
ぼたんとラミィはそんなポルカを気にかける一方で、すぐ近くのはあちゃまにも油断せずに注視します。
「別に何もしないわよ。もう勝負はついたんだから。私は勝ってスキルさえ手に入ればそれでいいって言ってるじゃない」
はあちゃまは呆れたように肩を竦めました。
「どうだかな」
悲惨なポルカの姿を横目にしてから、ぼたんが吐き捨てるように言います。
「本当に勝負に勝てればいいだけなら、ここまで傷めつける必要もなかっただろ。あんたの言葉はいちいち信用できないよ」
「ああそう。じゃあご勝手に」
どうでも良さそうに返して、はあちゃまはフォークからクリスタルサビロイを消しました。
「シュババ!」
(ポルカ!)
「大丈夫ですか!」
ちょうどその時、スバルとるしあもポルカのところにやってきます。
「シュバ! シュバルルシュバ! シュババ!」
(おい! しっかりしろ! ポルカ!)
スバルがポルカを嘴で突きますが、やはり反応しません。
「気が早いわね大空スバル。さっそく私と戦いたいのかしら」
はあちゃまがそんなスバルを腕組み見下ろしながら鼻を鳴らします。
「シュバア」
(てめえ)
スバルがぎりりと嘴を歯ぎしりさせて、はあちゃまを上目に睨みつけます。
そんな彼女の身体が薄っすらと輝きだします。
その発光はスバルが人間の姿に戻る兆候でした。
一触即発の雰囲気を察したスバルとはあちゃま以外の面々は、彼女らの邪魔にならないようにその場から離れだします。
倒れていたポルカもねねとラミィが二人で引っ張って行こうとしています。
「ふふ」
一方はあちゃまは含み笑みをもらし、フォークを振るってクリスタルサビロイを再び出現させます。
それから、目に力をグッと込めるようにして見開くのですが、何かに気づいて顔をしかめました。
「『不死の魂』が、発動しない」
ぼそりと呟きます。
「シュバ?」
(なに?)
「へ、へへ。焦んなさんなって。お二人さん」
二人から少し離れたところから、答える声。
その声の主は、ねねとラミィに運ばれているポルカでした。
「おまるん!」
喋ったポルカに、ねねが感激の声を上げます。
「気が付いたんだ!」
「いいえ。そうじゃないでしょ」
ねねの言葉をはあちゃまが否定します。
「私の盤外スキル『不死の魂』が発動できなかったということは、まだ勝負がついていない状況だったということ。宝鐘マリンみたいに、体力に余裕ある状態で意識を失った場合はともかく、瀕死状態である今の尾丸ポルカが気絶したら確実に私の勝利は確定するはずよ。にもかかわらずまだ勝負がついていなかったとしたら、本当は気絶なんてしていなかったという以外ない。死んだふりをしていたんでしょうよ」
「ちげえよ」
ポルカがはあちゃまに言い返します。
「いや、まあ確かにずっと起きてはいたよ。みんなの会話も聞こえてた。でもポルカだって好きで黙ってたわけじゃない。あんたのダメージが重すぎて、しばらく口を開くこともできなかったんだよ」
確かに今も喋ることも首を動かすことすら辛そうで、ポルカは、ねねとラミィに運ばれている状態の天井に視線を向けながら口を開いているのでした。
「ねねち、ラミィ。悪いけどちょっと降ろしてくれない」
ポルカは視線だけ二人に送って頼みます。
ねねとラミィは目配りをしてから、そっとポルカを床に降ろしました。
「シュババ!」
(ポルカ!)
そんなポルカに、人間に戻ることを中断したスバルが駆け寄ります。
「スバル……」
ポルカはスバルを見てから、そのさらに向こうで立っているるしあへと目を向けます。
「るしあ。あれ、出して」
「え?」
急に自分に「あれを出せ」と言ってくるポルカに、るしあは目を瞬かせます。
「あれと言われましても」
「ほら。変な名前の魔導書」
「あ。ああ! はい!」
そこまで言われて、るしあは慌ててクソザコの書を取り出します。
今更なのですが、ポルカはレジェンドソーセージ、バーニング・サラミの所有者です。
つまりはクソザコの書に署名されていない最後のレジェンド所有者であり、クソザコの書に彼女の署名がなされて初めてスバルは完全に人間の状態に戻れるのです。
「お願いします!」
るしあは床に横たわるポルカに、最終ページを開いたクソザコの書とペンを差し出しました。
ポルカはそれらを振るえる手で受け取って、辛そうに「尾丸ポルカ」と自分の名前を書いていきます。
「ごめんな。スバル」
そうしながら、ポルカは呟くような小さな声で口にしました。
スバルが「シュバ?」(あ?)と首を傾げますが、ポルカの目はずっとクソザコの書に向けられており、不自由に震えた手で五文字の名前を書くことに集中しています。
そうしながらも彼女は「ごめんよ。ずっと黙ってて」と続けます。
「バーニング・サラミのこと、ねねやみんなに黙ってたのも悪かったと思うけど、やっぱり呪いの解除できるかどうかがかかっていたあんたに黙ってたのが、ずっと悪いと思ってたんだ。あんたにだけは言わなくちゃいけないって、わかってた。でもできなかった」
「……」
「ポルカ、弱虫だから。ポルカがバーニング・サラミの所有者だって知られた時、それを端緒に根掘り葉掘り過去を探られたらどうしようって思って、怖くて、結局今の今まで隠してて。ポルカは弱虫で、卑怯なやつなんだよ。ごめんよ。スバル。ねね。みんな」
「おまるん……」
ポルカの話を聞いたねねが、ぐすんと鼻を啜ります。
「シュバルババ!」
(バカ野郎!)
スバルも円い目をじんわりとさせて、シュバシュバと嘴を開きます。
「シュバルシュバルババ。シュバルシュバシュバル。シュバルシュバシュバシュバ。シュバルバシュバシュバルバ」
(そんなことねえよ。弱くなんてない。卑怯なんかじゃない。おまえはよくやったよ)
そう言ってから、スバルはクソザコの書を書き終えたポルカの手を咥えました。
「シュババシュバルバシュバルババ」
(あとはスバルに任せとけ)
「……?」
ポルカはスバルの嘴に挟まれた手をぼんやり見ながら首を傾げます。
「ポルカ。ポルカは弱くなんてないし、卑怯でもない。あとはスバル先輩に任せろって、仰っています」
るしあが通訳します。
それを聞いたポルカは「そっか」と、重荷が降りたような安堵の顔になって、
「じゃ。頼むわ」
どうにか左手を動かして、右手を咥えるスバルの頭を撫でてから、今度こそ気を失いました。
その直後、
「ふふ」
はあちゃまの身体に変化が生じます。
顔や体に出来ていた切り傷が、うっすらとだけ治癒されたのです。
さらに一瞬後、それらの切り傷だけでなく身体中のありとあらゆる傷や殴打跡が完全に消え去り、疲弊していた顔色も好調時のものに戻ります。
盤外スキル『不死の魂』と、つい今しがた手にしたのでしょう同じく盤外スキルの『再来』を発動させたためでした。
「ふふ。ふふふふ。いいわ。完全回復」
一振り二振りとクリスタルサビロイを中空に振るってから、上機嫌に呟きます。
そんなことをしてから、
「ねえ」
と、彼女は自分を睨みつけているアヒル状態のスバルに話しかけました。
「私は今すごく気分がいいわ。『神の怒り』以外すべてのスキルをこの手に納めた状況で、かつ完全回復状態なんですもの。こんな私に一体だれが太刀打ちできるのかしらね。大袈裟でもなんでもなく、今の私に勝てる剣士なんて存在しないわ。たとえ一対多の戦闘になろうとも。でも、こうなってくると最後にたった一人残されたあなたがかわいそうに思えてならないわ大空スバル。だから今の私の最大の慈悲でもって、あなたに提案してあげようと思うのよ」
「……」
「近々私はこの最強の力でありとあらゆるものを捻じ伏せて、大陸全土を支配してやるわ。そこでよ。そんな最強の私と最後に戦うことになってしまった不幸極まりないあなたにパンドラの箱的サプライズ。大空スバル。今この場で降参しなさい。もしもあなたがこの場で降伏して私に無条件で『神の怒り』を渡してくれたとしたら、私はその気持ちを汲んで私が大陸全土を支配下に置いた後、その大陸全土半分の管理権をあなたに託してあげるわ。どうかしら」
面白がるようにスバルに聞きます。
るしあが、ねねが、ラミィが、その他の皆がごくりと息を呑みます。
「シュバルバ!」
(断る!)
スバルの返しは即答でした。
そして、声を上げた身体が光り輝き、アヒルから人へと姿を変えます。
「ホロ・デ・ソーセージ大陸はおまえのものじゃない!」
人間の姿に戻ったスバルは、レッグバッグに手を伸ばし、虹色のフォークを引き抜きます。
それをブン! と振るってライトニングウィンナーを出現させてから、はあちゃまをキッと睨みつけました。
「おまえの好き勝手はここまでだ! 覚悟しろ! はあちゃま!」