勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
スバルたちが黒服の男に連れてこられたところは島の中でも一番背の高いビル、そこの最上階にある広い部屋でした。
正面の壁はガラス張りになっており、島全域だけでなく広大な海、海の向こうで霞んでいるホロ・デ・ソーセージ大陸まで一望できます。
そのガラス張りの壁際に黒革製の重々しい椅子が置かれており、椅子には誰かが座っています。
スバルたちに背を向けているその人物は、椅子に座りながら静かに下界を見下ろしているようでした。
時々椅子からはみ出た巨大なトカゲの尻尾のようなものが、右へ左へと動いています。
「あのー、会長?」
黒服がその人物の背中に呼びかけます。
ちなみに彼はノックしてから入室していました。
それなのに会長と呼ばれているその人物は、スバルたちと彼女らを連行してきた黒服がやって来たことに気が付きません。
「会長、会長!」
黒服の男は声を大にして再度呼びかけました。
「ん? おお」
するとようやく、その人物が返事します。
それは女性の声でした。
「会長、例のやつらです。連れてきました」
「おー、悪いなア」
彼女が答えると黒服は「ではこれで」と言い置いて、スバルたちを部屋に残しドアを閉めて退室してしまいます。
男がいなくなってから少しして、黒服に会長と呼ばれていた女性はくるんと椅子を回しスバルたちの方へ向き直りました。
それから彼女は立ち上がり、カツカツカツと床を踏み鳴らして近寄ってきます。
長身の女性です。
オレンジ色の髪を腰の下まで伸ばしており、先ほど見えたトカゲの尻尾のようなものが尾骨あたりから生えています。
その尻尾がオレンジ色の髪の毛先をそわそわと揺らしています。
容姿の異様な点は尻尾だけではありません。
耳はエルフのように先が尖っており、頭側部左右にも鋭い角を生やしています。
彼女は一房だけ黄色く染まった前髪を人差し指でピンと弾いてから、ゆっくり口を開きました。
「おー、おー、おー、おー。おまえらかア、ワタシの島でおイタしたってやつア」
「先に剣を向けてきたのはそっちデス」
言いがかりをつけるようなこと口にする彼女に、キアラが言い返します。
すると彼女は「そうか。そりゃア悪かったな」とあまり詫びているようには見えないものの、謝罪をしてくれます。
「だがなア、ワタシらからすれば家の庭に不法侵入されたようなモンよ。そりゃア警戒するだろう」
言いながら顎をしゃくってスバルたちにソファを勧めました。
スバルたちが座ると彼女も向かいに腰を下ろします。
「だがまあ、時期も時期だからなア、うちのもんたちもピリピリしてるし、ワタシが把握してる以上に失礼なことをしちまってるかもしれん。すまんかった」
そう言いながら、彼女はふたたびスバルたちに謝ります。
それは先ほどのようなおざなりなものでなく、テーブルに両手をついて頭を下げる真摯な謝罪でした。
「い、いえいえ、あなたの言っていることもわかりますし、どうか止してください」
思わずるしあは立ち上がり、女性に頭を上げてもらいます。
「時期も時期とおっしゃりマシタが、なにかよくないことが起きているのデスか?」
「起きてるわけじゃないんだが、起こりそうなんだよなア」
女性はため息をついてから「実はな」と話し始めます。
「大陸に雪花会っつう組がある。その雪花会とワタシら桐生会は昔から犬猿の仲でなア、たびたび剣を交えてきたわけよ。そんで今もお互いに睨み合ってるわけなんだが、近々雪花会とでけえ抗争が起きそうな空気でなア、うちのもんたちは神経尖らせちまってんのよ」
「え? 組? チームではなくて、ですか? というか抗争って。んん?」
女性の話を聞いたるしあが頭を抱えだします。
それを見た女性はニヤリと笑いました。
「悪い悪い、自己紹介がまだだったなア。ワタシの名前は桐生ココ、チーム『たつのこ』もとい『桐生会』のリーダーだ」
「つ、つまりあなたたちは、……極道なのですか?」
ごくりと唾を飲んでからるしあが尋ねます。
「まあ要はそういうことなんだが、なに、そんなに怖がってくれるな。極道もチームも大して違いはない、筋の通し方が少々異なってるだけだ。ワタシら桐生会のことは世の中に星の数ほどあるチームの一つだと思ってくれて差支えない」
そう言い終えてから、ココは「あんたらは?」とスバルたちに尋ねます。
「あ、はい。潤羽るしあと言います。それと大空スバル先輩、その隣がスバ友の小鳥遊キアラです」
「大空スバル? おー、おー、おー。失踪中のスバ友リーダーの名前をアヒルに付けてんのかア?」
「いえ、その、本人です」
答えるるしあに「なにイ?」とココは身体を乗り出しました。
「これが、あの大空スバルだとオ?」
「シュバル! シュバルバ! シュバア!」
(やめろ! 突くな! シュバア!)
彼女は興味津々な様子でスバルのお腹に指をめり込ませます。
ちょうどその時、ドアの方からコンコンとノックの音がしました。
ココはスバルを突く手を止めて「入れ」とドア越しに言います。
スバルはその隙に、急いでるしあとソファの背もたれの間に隠れました。
「失礼します」
入ってきたのはスバルたちを連れてきた黒服の男です。
右手に紙の束を持っています。
「会長、今お時間は?」
「構わん。なんだ」
黒服の男はソファに座るココの脇までやって、持ってきた紙の束を手渡しました。
「先日本土の市場に流した朝ココについてのリストです。こんだけの金になりました」
「ふむ」
ココは受け取ったリストを一枚めくって目を通します。
それが済んだらまた一枚めくり同じように目を通します。
そうやってぱらぱらぱらりとめくっていきます。
「それは、何ですか?」
気になって仕方がなさそうにるしあが尋ねました。
「さっきも言ったが、近々大きな抗争が起きそうなんでなア」
ココはリストから目を離さずに答えます。
「抗争には金がいる。その資金調達についての報告書みたいなもんだ」
「あ、朝ココというのは?」
再度問いかけるるしあに、ココではなくその隣で立っている黒服の男がにやりと笑い返しました。
「元気になれるお薬よ」
「ド、ドラッグですか!」
るしあは思わず声を大きくしました。
すると、
「バッキャロー!」
バン! といきなりココが読んでいたリストをテーブルに叩きつけて怒鳴りました。
「あんな身体に悪くて人様を困らせるもん、桐生会が扱うわけねえだろうが! 健康食品だ!」
「あ、はい」
「ちゃんと国からの許可基準をクリアして認定ももらっている! あんま舐めたこと言ってんじゃねえぞ!」
「シュバルシュバ!」
(真っ当だ!)
ココは「ふー」と息を吐いてから、テーブルに叩きつけたリストを拾い上げ黒服の男に返します。
「だいだいわかった。下がれ」
「へい」
黒服の男はリストを受け取ってから部屋を出ていきました。
「それで、話が逸れちまったなア」
ココはソファに深く腰かけます。
「なんであの大空スバルがアヒルになってんだ?」
「えっと、それはですね、まあいろいろあったんです」
「へエ」
「とにかく、今るしあたちはスバル先輩を人間に戻すために旅をしているんです。スバル先輩にかかったアヒルの呪いを解くためには、レジェンド所有者を探す必要があるんです」
「それでこの島に?」
問いかけるココに「はい」とるしあは頷きます。
「二年前に船長を倒した凄腕の剣士がいると聞いてきました。一体どこにいるのか教えていただけませんでしょうか?」
「ん? かなたんのことか?」
そう口にしたココは、いぶかしむようにスバルたちを見回しだします。
「なんでかなたんを探している?」
「だから、彼女がレジェンド所有者だと聞いたからです。るしあたちはすべてのレジェンド所有者を倒すか、もしくはこの」
言いながらるしあはクソザコの書を取り出します。
「クソザコの書に署名してもらわないと、スバル先輩を元の姿に戻せないのです」
「あア、なるほど」
ココは納得したように頷いてから「ちょいと見せてもらえないか?」と聞き、るしあからクソザコの書を受け取ります。
そしてパラパラとめくってからまた「なるほどな」と頷き、彼女にそれを返しました。
「まずは聞かれたことに答えようか」
腕組みしながら話しだします。
「かなたんの居場所は知っている」
「どこですか?」
「この神竜町から少し南へ行った先にある質素な丸太小屋だ。あいつは変わった女でなア、とにかく剣を振るうことしか興味がない。いつもその小屋にこもって剣の修行をしている」
「ありがとうございます!」
るしあは礼を言ってから立ち上がろうとします。
「おー、おー。待ちなって、まだ話は終わってない」
しかしココがそれを制止しました。
仕方なく座りなおします。
「それでな、ワタシもおまえたちに確かめたいことがある」
「なんですか?」
尋ねるるしあに「さっき見せてもらったクソザコの書のことだ」とココは答えます。
「少々解せない点があるんだ。なア、正直に答えてくれねエか?」
「だ、だから何ですか!」
妙な威圧感を放ってくるココに押し負けまいと、るしあは声を大きくしました。
ココはそんなるしあに「ふん」と鼻を鳴らしてから、おもむろに立ち上がります。
「おまえたちの話によると、そのクソザコの書にレジェンド所有者の署名を集めてるっていうことだったが、今のところ鳥の手形しか埋まっていない」
「あ、それはスバル先輩のものです。スバル先輩もレジェンド所有者なので」
答えるるしあに「どうだかなア」とココは返しました。
「え?」
ココがカツン! と靴裏で床を踏み鳴らします。
直後バタンと部屋のドアが開き、ぞろぞろと黒服の男たちが中へ入ってきました。
「どういうつもりですか!」
るしあがスバルをギュッと抱きしめながら叫びました。
「ワタシはよオ、ここからおまえたちが島にやって来るのを見せてもらっていたんだ。おまえたち、この島までその何とかって海賊の船長の船でやって来ただろ?」
「だ、だから何ですか?」
「かなたんから聞いた話によると、その船長さんもレジェンド所有者だそうじゃアねえか。にもかかわらず、そのクソザコの書に名前がないってエのはおかしな話だと思わないか?」
「あとでしてくれる約束なんです! 無事に再会したときにって!」
叫ぶるしあに「バッキャロー!」とココは怒鳴り返して机を叩きます。
「よりにもよって呪いを解くための署名なんかでなア、そんなロマンチックなことするやつアいねえんだよオ!」
「そんなこと船長に言ってやってくださいよ!」
弁明するるしあですが、ココは聞く耳持ちません。
「おおかたそのクソザコの書っつうのはおまえのさっき言った条件、つまり勝負に負けるか署名するかした者をアヒルにする呪いの書と見た。大空スバルがその犠牲者第一号ってわけだ」
「ひどい! なんでそんなこと言うんですか!」
「なんでもクソもあるか! ここまで不自然な上に『クソザコの書』なんてふざけた名前の書物、信じる方がどうにかしてる!」
確かに一理あると言わざるを得ない点を突かれ、るしあは思わず「うう」と怯みます。
「とにかくだ、ワタシらの船に乗って本土へ帰ってもらおう。なに、大人しくしていてくれれば何もしやしない」
ココがそう言い終えると、それが合図であるように黒服の男たちがるしあたちににじり寄ってきます。
「スバルせんぱい、るしあさん」
すると、キアラが小声でぼそぼそと話しかけてきました。
「逃げマスか?」
その提案に、スバルとるしあは顔をギョッとさせて振り返ります。
「……キアラ、少し尋ねてもいいですか?」
るしあも声量を落としてキアラに話しかけました。
「はい、なんデショウ」
「るしあたちの現状を分かった上で、そう言っているのですか? るしあたちは今、地上から十メートル近くあるビルの最上階で、敵に囲まれ逃げ道もふさがれている絶体絶命のピンチです。そのことはちゃんと理解していますか?」
確認するるしあに「もちろんデス」とキアラは頷きます。
「それでも、逃げれるのですか?」
「はい」
るしあはスバルの方へ向き、顔を見合わせました。
「シュバル」
(頼む)
「キアラ、お願いします」
「了解デス」
答えるや否や、キアラはスバルとるしあをそれぞれ脇に抱えます。
そしてドアと反対方向に走り出したかと思えば、島を一望できるガラス張りの壁を蹴破りそのまま飛び降りてしまいました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。