勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「ブブ!」

 

 身体をよろめかしてそのまま地面に倒れてしまいそうになる赤井はあとの身体を、慌てて側にいたハートンが支えようとします。

 すると、

 

「……」

 

 その直前にぱちりと目を開けた彼女が、倒れかけた体勢をグッと持ち直し、支えようとして伸ばされたハートンの手を払いのけました。

 

「赤井はあと。最後という最後に、ふざけたことを」

 

 赤井はあとの人格と入れ替わった、はあちゃまでした。

 彼女は足元に転がっているフォークを拾ってブン! と振るい、クリスタルサビロイを出現させます。

 それから試しに素振りしようとでもしたのでしょう、腕を動かしたところでくらりとよろめきました。

 

「……ッ」

 

 先程、はあとがハートンを庇った際のダメージの影響です。

 はあちゃまは再び倒れそうになる身体を持ちこたえ、真正面のスバルを睨みつけます。

 それから側のハートンを見て、周囲のハートンたちを見回し、

 

「ハートン!」

 

 と、大声で呼びかけました。

 

「もう決闘ごっこは終わり! 命令よ! あなたたち全員で一斉に、大空スバルに斬り込みなさい!」

 

「……」

 

「あなたたちの特攻でもって一瞬、ほんのわずかでも大空スバルに隙を作ることができたなら、私がその瞬間を逃さずに『毒牙』と『断末魔』のバフをかけた一撃を急所に決めてこの勝負を終わらせるわ! さあ!」

 

「………」

 

「ハートン!」

 

 再度呼びかけても、ハートンは無言です。

 周りを囲む大勢のハートンのうち、誰一人動こうとしません。

 

「どうしたのよ! 行きなさい! 聞こえてるでしょ! 私の指示に従わないつもり!」

 

 はあちゃまは彼らに怒鳴り散らします。

 

「あなたたちは赤井はあとを助けたいんじゃないの! ハートン!」

 

「まだわからねえのかよ」

 

 すると、ハートンたちではなくスバルが口を開きました。

 

「おまえははあと先輩でなければ、ハートンのチームリーダーでもないしその器でもない。むしろはあと先輩にとって良からぬ存在そのものだ。ハートンはそのことに気づくことができた。だから従わねえんだよ」

 

「……ッ」

 

 はあちゃまはハッと息を呑んでから、悔しそうに歯を噛み締めます。

 

「兎田ぺこらを斬りなさい!」

 

「ペ、ペコお!」

 

「……」

 

「デーモン・みこ・ソウルを!」

 

「………」

 

 はあちゃまの指示に、やはりハートンたちは動きません。

 

「無茶苦茶だな」

 

 スバルは呆れたようにため息をつきました。

 

「その場の昂った感情で兎田社長を斬れだのデーモン・みこ・ソウルを発動させろだの、もしハートンが本当にその指示に従ってしまった場合の、起こり得るだろう最悪の結果をまるで考えてない。自己中極まれりシュバ」

 

「黙りなさい!」

 

 スバルに怒鳴ってから、はあちゃまは側のハートンを怒りに任せて蹴り飛ばします。

 それから『毒牙』と『断末魔』を同時発動してスバルに向かって駆けだし、彼女めがけてクリスタルサビロイを袈裟斬りに振るいます。

 175%攻撃力バフのかかったその一連の動作は一瞬です。

 しかし『神の怒り』を発動しているスバルの速さはさらにその上でした。

 

「ッ」

 

 スバルの身体を斬り裂いたかと思われたはあちゃまの一刀は、スバルの残像を滑りブン! と凄まじい空振り音だけを残します。

 直後、パシン! と乾いた音をさせて、右頬を叩かれました。

 その際に口内が切れたのでしょう、はあちゃまの右口端から一筋の血が伝います。

 

「おのれ」

 

 はあちゃまは目を怒らせて、小さく呟きます。

 

「おのれえ!」

 

 それから目を見開いて、声を張り上げました。

 直後、はあちゃまの両目がそれぞれ変色します。

 右目が灰色に、左目が鉄色に移り変わったのです。

 スキル『執着』と『鉄の意思』の同時発動でした。

 防御バフスキルである『執着』と『鉄の意思』は、それぞれ体力が25%・35%以下になることを条件に発動可能となり、防御力を60%・35%向上させます。

 つまり同時発動したはあちゃまの防御力が95%上がったのでした。

 

「ああああ!」

 

『執着』と『鉄の意思』を発動したはあちゃまの姿が、変形します。

『執着』によって彼女の身体に仰々しい氷の鎧が形成され、その鎧ごと『鉄の意思』による鉄化がなされるのです。

 そうして出来上がった姿は、はあちゃまの身体より一回り二回り大きな全身鉄の鎧となったバケモノのようでした。

 

「うわあ」

 

 その凄まじい形相に、思わず観客サイドのるしあが口元に手を当てて震えた声をもらします。

 

「怯むな」

 

 そんなるしあに、隣のアキロゼが相変わらずの腕組みで言います。

 

「でも」

 

「恐々しいのは見た目だけだ。防御バフスキルの『執着』と『鉄の意思』を同時に発動したら、ああなることくらいだいたい想像できるだろ」

 

「で、ですが、この場にきて『毒牙』と『断末魔』の攻撃力バフから『執着』と『鉄の意思』の防御力バフに切り替えるなんて。一体どんな秘策があるんでしょう」

 

 心配そうに聞くるしあに、

 

「秘策だと?」

 

 アキロゼは繰り返してからフッと鼻で笑いました。

 

「そんなもの、あるわけないだろう」

 

「え」

 

「自分がやられる前にどうにかして大空スバルに強打を打ち込み叩き伏せなくてはいけないこの場面、なにより優先されるべきはスピードだ。だから少しでも攻撃力を上げるための『毒牙』と『断末魔』発動は必須となる。だが一方で、どうあがこうとスピードで大空スバルに勝てるはずがない。ところでその大空スバル、攻撃力自体は随分低い。『鉄の意思』と『執着』で防御力を上げさえすれば多少なりとも生き延びることができる」

 

「はあ」

 

「つまり保身に走ったんだよ」

 

 アキロゼは続けます。

 

「はあちゃまにとって敗北はすなわち死。生きるために降参するなんてことはできない。それでも死にたくないと生にしがみつくが故に、ガチガチに防御力を固めにいったのさ。もしかしたら、そうして粘っているうちに奇跡的にラッキーパンチが入るかもしれないと淡い期待も持っているのかもしれないな」

 

「……」

 

「私には、はあちゃまのあの凄まじい形相がそんなあいつの心を映し出しているようにも見えるよ」

 

 アキロゼの言葉に、るしあははあちゃまの方に視線を戻してからごくりと息を呑みました。

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

『執着』と『鉄の意思』が発動しているはあちゃまの身体に、何十何百とスバルの容赦ない斬撃が斬り刻まれていきます。

 

「おのれえ!」

 

 怨恨籠った声を発するなり、はあちゃまはガクンと片膝を地面に着きました。

 直後、彼女から離れた場所にフッとスバルの姿が現れます。

 

「今度こそ覚悟しろ! はあちゃま!」

 

 ライトニングウィンナーを振りかざし、スバルが叫びます。

 

「それはあんたよ!」

 

 はあちゃまは叫び返すなり、一度地面についた膝をグググと持ち上げて、スバルに向かって駆けだしていきます。

 一方スバルは身を屈めるなり、その姿が再びフッと消えました。

 音速に近い高速のなかで、スバルもはあちゃま目掛けて直進していったのです。

 

「シュバアアア!」

 

 ――お願いスバル、私の大切なハートンを守って。

 

 あまりの高速世界ゆえにスバルの耳に絶えず響く耳鳴りを媒体にして、聞き覚えのある声が脳内記憶から溢れ出します。

 

 ――もし私のハートンに危害を加えるような輩が現れたら、たとえどんな敵であろうと、私に代わってあなたが罰してちょうだい。

 

「シュバアアアア!」

 

「このアヒル女がああああ!」

 

 スバルがライトニングウィンナーを振り下ろすのとほぼ同じタイミングで、はあちゃまもクリスタルサビロイを振り上げます。

 そうして二つの剣士の影が重なり、離れ、一瞬とも永遠とも思える異質の時間が流れたのち、

 

「ぐ……ッ、うう……ッ」

 

 斬り負けた方の剣士、はあちゃまが苦しげなうめき声を上げて、ばたりと俯せに倒れました。

 

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