勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 はあちゃまが地面に倒れます。

 それを認めたハートンが、ぺこらを縛っていた縄を解いて彼女を解放しました。

 

「ぺこおおお!」

 

 自由になったぺこら泣きながら駆け出していき、みこに抱きつきます。

 それを見ながらスバルは「ふぅ」と小さく息を吐き、フォークからライトニングウィンナーを消しました。

 ソーセージが消えると同時に「神の怒り」も解除され、スバルの目が元の色に戻ります。

 

「スバル先輩!」

 

 そんなスバルの元に、るしあとキアラが駆け寄ってきました。

 

「お疲れ様でした」

 

 二人でスバルを労います。

 

「ああ。本当に疲れたシュバよ」

 

「でも、とうとうスバル先輩のアヒルの呪いが解けたんデスね」

 

 キアラが嬉しそうに言います。

 そう、すでに三分が経っているのにスバルは人間の姿のままです。

 十二本全てのレジェンドソーセージの所有者の署名を集め、ついにスバルはアヒルの呪いから解放されたのでした。

 

「長い冒険だったシュバ」

 

 感慨深げにスバルが答えます。

 実際の期間としてはさほどでもありませんが、体感としては人生の半分ほど費やして達成したような実感でした。

 

「……」

 

 そんなスバルに、るしあは複雑そうな顔をして目を伏せだして、それから「あの」と話しかけようとします。

 その時でした。

 

「せいぜい、喜んでるといいわ」

 

 どこからか、はあちゃまの声が聞こえてきたのです。

 スバルはハッとなってはあちゃまの倒れた場所に目をやります。

 しかし、彼女はすでにそこにいませんでした。

 

「どこシュバ!」

 

 スバルは急いで周囲を見回します。

 

「あ! スバル先輩!」

 

 そんな彼女に、るしあがデーモン・みこ・ソウルの方を指さしながら、呼びかけます。

 スバルがるしあの指さす先に視線を向けると、はあちゃまはそこにいました。

 デーモン・みこ・ソウルの機械を支えに瀕死の身体を寄りかかりながら、スバルたちの方を見ていたのです。

 

「はあちゃま!」

 

 スバルが叫びます。

 しかしはあちゃまはそんなスバルに対して「ふん」と鼻を鳴らすだけです。

 むしろ、スバルたちに謝罪して回っているハートンたちをギロリと睨みつけました。

 

「いい気なものねハートン。あなたたちが最期の最期で裏切ったせいで、赤井はあとの命が尽きてしまうというのに」

 

「ブブ、ブブブ」

 

「もうおまえの言うことは聞かないですって? バカ言わないでちょうだい。今更あなたたちみたいなバカに言い寄られたら私の方が迷惑だわ。ただ一言、言いたかっただけよ」

 

「……」

 

「私はあなたたちを許さない。一生後悔するといいわ」

 

「ハートンたちに八つ当たりするのはやめろ」

 

 はあちゃまたちの会話にスバルが割り込みます。

 

「負けたのはハートンのせいじゃない。相手を見くびりソーセージ道を軽んじる、おまえ自身の心の弱さのせいシュバ」

 

 そう言うスバルを、はあちゃまはじろりと横目でにらみます。

 しかし何も言い返すことなく、デーモン・みこ・ソウルの裏側に消えていきました。

 

「これで一件落着デスね」

 

 はあちゃまの姿がなくなってから、その場の緊張をほぐすようにキアラが改めて言います。

 

「そうでしょうか」

 

 しかし、ノエルがそれに疑問を返しました。

 

「どういうことデショウ」

 

「もし終わったというならば、勝負に敗れたはあちゃまは今まで奪い取ったレジェンドソーセージスキルを失うわけですから、団長たちのレジェンドソーセージは再び利用可能となるはずです。ですが」

 

 言いながらノエルはレッグバッグからフォークを取り出します。

 

「団長のマグマ・ホットドッグのフォークはこの通り、黒ずんだままです」

 

 彼女の言う通り、レジェンドソーセージであるマグマ・ホットドッグのフォークは黒く錆び付いていました。

 

「つまり、どういうことなのでしょう」

 

 るしあが首を傾げます。

 

「どうもこうもないだろう」

 

 フレアが険しい顔で答えました。

 

「もしもはあちゃまが敗れたのであれば、その時点で彼女が奪ってきたスキルはすべて解放される。そうなっていないということはつまり、まだはあちゃまの敗北は確定していないということだ」

 

「ええ!」

 

「そもそも敗北したのであれば、クリスタルサビロイ一つ分のスキルエネルギーで己を維持しなければならなくなる。今の彼女の疲弊しきった身体と精神力でそれを成すのは無理だ」

 

「つまり、えっと、どうなっているのですか」

 

「鈍いやつだな。ポルカが敗れた時もそうだっただろう、傍目から見るにどう考えても勝敗は決したと思えても、本人の意識がハッキリとして敗北を拒んでいればかろうじて勝敗のジャッジは下されない。今のはあちゃまがそれだというんだ。敗北の拒絶を強く意識し続けることで、勝敗の決着を先延ばしにしているんだよ」

 

「……ッ」

 

 それを聞き終えるや否や、キアラが、はあちゃまの消えて行ったデーモン・みこ・ソウルの裏側に回り込みます。

 

「皆さん! これを見てください! こんなところに隠し通路が!」

 

 キアラの呼びかけに皆が集まります。

 彼女の指さす先に、石畳の床を剥がした地下階段の入り口があるのでした。

 

「みこの魔王城を! またこんな勝手に! 勝手にい!」

 

 みこが地団太を踏んで苛立ちます。

 

「みこさん、今はそんなことをしている場合じゃないですよ! このまま逃がしてしまえば、また何をしでかすかわかったもんじゃありません! 追いかけないと!」

 

 るしあがみこを宥めながら言います。

 皆は彼女の言うことに同意するように頷き合ってから、我先にと地下階段を駆け下りようとして、

 

「逃がすか!」

 

 トワが叫びました。

 彼女の身体が何十というコウモリに分かれだし、その群れが他の皆を押しのけるような雪崩れ込む勢いで、地下へ突っ込んでいこうとします。

 ですが、

 

「待った」

 

 トワの隣にいたシオンが、そのコウモリのなかの一匹を、空中でグッと掴み取りました。

 すると他のはばたいていたコウモリたちが、まるでその捕まった一匹に吸い込まれるような吸引力でもって、吸い寄せられていきます。

 気づけば、シオンが掴んでいたのはコウモリではなくトワの左手に変わっていました。

 その左手部分に集まったコウモリたちも集まり重なり塊となって、あっという間にトワの身体を再構築します。

 

「なにすんだよ!」

 

 元の身体に戻されたトワは、自分を掴んでいるシオンの手を乱暴に払いのけました。

 

「そっとしといてやりなよ。最期くらいさ」

 

 そんなトワに、シオンは落ち着き然として返します。

 

「はあ?」

 

「逃げようが逃げまいが、はあちゃまの命が残りわずかなことに変わりないよ。彼女の意識が途絶えたらその時点ですべてのレジェンドソーセージスキルは解放される」

 

「だから追うなってか! お人好しだなああんたは! あいつがどんだけ質が悪くて始末に負えないか、わかってないのか!」

 

「……」

 

 喧嘩腰に突っかかるトワに、しかしシオンは平然としながら決して目を逸らしません。

 そこに不思議な威圧感があって、「ちッ」と舌打ちしながらも先に目を逸らしたのはトワでした。

 

「別にお人好しのつもりはないんだけど、何ていうか、ここでちょっと皆に言っておかなくちゃいけないなあと思ってさ」

 

 言って、シオンは皆の方に向きなおります。

 

「シオンの二つ名は『千里眼の魔女』、ありとあらゆるものを見通す眼を持つ魔術師。だからずっと赤井はあとの作られた第二人格、はあちゃまのことは見てたよ。あの女があんたたちにどんなことをしてきたはもちろん知ってるし、むしろ、あんたたちが知らないだろうあの女がしてきた色んなエグイこととかも全部知ってる」

 

「だったら!」

 

 再び噛みつこうとするトワに「でもさ」と、シオンはそれを遮って続けます。

 

「みんなはそんなあいつの行動ばかり目について責め立てるけど、あいつの立場は考えたことある?」

 

「……」

 

「まず大前提としてさ、あいつが元の人格の赤井はあとを救うってことは、赤井はあとに降ろされたあいつ自身の人格は行き場を失うってことだよ。あいつの人格はあっても仕方ないから用なしになるし、その存在を消さずに残すということで話が纏まるにしても、赤井はあとに身体の主導権を明け渡すことになるのは間違いない。あいつが赤井はあとをそうしようとしたように、生かさず殺さずの飼い殺し状態にされるだろうその後は容易に想像がつく。最悪の場合、『赤井はあとが復活できた。ありがとう。じゃあねバイバイ』って用済み後に即消されることもありえるよね。ハッキリ言って、あいつに赤井はあとを助けるメリットがないんだよ。そもそもスタートから言って、あいつにとってのトゥルーエンドに『赤井はあとを助ける』っていう選択肢が作られていなかったんだ。「助ける」=「バッドエンド」っていうクソゲーさ。ひどい話だと思わないか。クリスタルサビロイの『生命』を使ってあいつを作り出した連中は、あいつの『その後』については何一つ考えていなかったんだ。あいつを一人の人間人格としてではなく、利用できる道具としてでもみなしていなければこんなことできはしないよ。いきなりこの世界に生み出されて『赤井はあとを救ってくれ。その後は、まあ、消えてくれるよね?』みたいな雰囲気出されてさ、『うん。わかった』って素直に頷くような聖人君主、ホロ・デ・ソーセージ大陸広しと言えどもそうそういないとシオンは思うけど」

 

 そこまで言って「なあ」と、シオンはハートンたちの方を見ます。

 ハートンたちは各々、気まずそうに目を逸らし顔を伏せました。

 

「いつからホロ・デ・ソーセージ大陸を支配しようなんて大それた野望を抱き始めたか知らないけど、あいつだって生み出された直後は赤井はあとと自分を含めた皆が皆幸せになるようなハッピーエンドを必死に模索したはずなんだ。でもその選択肢が作られていなかった。しかも、赤井はあとの命が残りわずかだからって行動を急かされた。あいつは悪い方に腹を括るしかなかったんだよ、何が何でも生き残ってやる、そのためなら何でもするって。あいつがハートンを使い捨てする、だからあいつは最低だってみんな言うけど、逆なんだ。まずはじめにあいつが道具として生み出された。自分が道具としてみなされているから、あいつもハートンたちを道具として使い捨てようって割り切ったんだ。あいつにとってチームメンバーは仲間じゃなかった。戦うべき敵たちよりもずっと憎むべきところに位置している敵だったんだ。もしあいつが悪魔だとすれば、最初から悪魔だったわけじゃない、あいつを生み出した者たちによって悪魔にならざるを得なくさせられたんだよ」

 

「……」

 

「ここまで言っておいてなんだけど、私は人としてあの女は嫌いだよ。どんな理由があろうとも人の命を軽々しく消したり殺したりすることはしてはいけない。まあ、実際ハートンたち以外誰も殺してはいないんだけどさ。でも、そんなあいつ以上に非人道的なことしているにもかかわらず、そのことを自覚せずに被害者気取りでブタの皮を被ってる連中が大嫌いだ。『何が何でも赤井はあとを助ける。そのためには手段を選ばない』っていう覚悟は剣士のチームメンバーとして立派だと思うけど、やっぱり好きにはなれない。悪いけど」

 

 珍しく感情剥きだして話し続けてから「ああ駄目だ。こんなの、らしくない」と言って、シオンは自分を落ち着かせるように一息つきます。

 そんなため息を吐くシオンに、周りの皆は皆、しばらく何も言えずにいました。

 ハートンたちに至っては、シオンに自分たちのしたことを指摘されて、ようやく事の大きさに気づいたように、俯いた顔を上げれずにいます。

 

「……でも」

 

 ですが、それからまたしばらくして、ようやくるしあが恐る恐ると言った様子で口を開きました。

 

「そうだとしても、はあちゃまがやったことはいけないことです。何十人ものハートンたちの命を散らせ、ハートン以外実際その手にかけた人はいないのかもしれませんが、目的を果たすために手段を選ばないことをいくらでもしてきました。どんな事情があったとしても、許されてはいけないことだと思います」

 

「そう。許されないことだ。私も全くそう思う」

 

 シオンはるしあの意見に頷きます。

 しかしその後から「でもさ」と続けました。

 

「最期の最期、消える前くらいはそっとしておいてやろうよって、そう言いたいだけ。じゃなきゃ、いくらあの女でも可哀想じゃん」

 

「……」

 

「万が一にでも何かしでかさないように、千里眼で見張っておくからさ。まあ、それでも『油断ならない』『考えが甘い』『追いかける』って言うなら、シオンもお手上げ。シオンなんて所詮魔術師、強行する剣士を止めるなんて無理な話だし。どうぞご勝手にって感じ」

 

 言って、シオンは冗談っぽく肩を竦めます。

 

「……」

 

 ですが、彼女の話を聞き終えたその場の面々で、あえて地下に降りて行こうとする者は誰もいませんでした。

 

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