勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「みんな、よく集まってくれたシュバ」
そこはアヒール村の酒場です。
かつてスバ友が行きつけにしていた場所でした。
現在、その酒場の玄関には「貸し切り」の札が下げられており、なかはスバルと大勢の剣士たちで満席になっています。
「この日をスバルがどれだけ待ち望んだか、思い出しただけでも泣けてくるシュバ」
「スバルさん!」
「泣かないでください!」
「うん。泣かない」
はあちゃまとの決戦から、数ヶ月が経ちました。
その間、アヒル化の呪いが解けたスバルは、メスバル派とトリ派に分かれたかつての仲間たちに分裂解消をするよう呼びかけ、ついに「スバ友」として再結成することに成功したのでした。
「みんな。さっそくスバ友再結成を祝って乾杯しよう、と言いたいところだけど、その前にまず今回の功労者たちを褒めたたえたいと思う。というのも、メスバル派とトリ派を根気よく仲立ちし続けてくれたアヒージョたちがいなければ、こうして分裂していたスバ友が再び一つとなる日は訪れなかったと思うからシュバ。皆、彼らに盛大な拍手を」
言って、スバルは横に立ち並ぶキアラと数人の剣士たちを示します。
周りのスバ友たちは彼らアヒージョを拍手喝采しました。
「新生スバ友結成、万歳! 乾杯!」
叫んで、スバルはメロンソーダを一気飲みします。
「「「万歳! 乾杯!」」」
復唱して、スバ友たちも手にしたジョッキのビールを傾けました。
そうして皆同時に「ぷはあ!」と気持ちの良い一息をついたところで、
「さて。と」
スバルが声のトーンを落として、呟きました。
「キアラ」
「ハッ」
スバルに名指しされたキアラはコクリと頷いて、他のアヒージョたちに目配せします。
すると彼らは素早く窓際に向かって、酒場の窓という窓にカーテンをかけてしまいました。
窓からの日差しを光源としていた中は、急に薄暗くなります。
スバルは手前のテーブルにランプを置いて火を点し、ほのかな灯りとしました。
卓上に両肘をつき手を絡ませて顎を乗せ、動揺しているスバ友たちをゆっくり見回します。
「ど、どうしたんですかスバルさん。急に重々しい雰囲気出しちゃって」
空笑いで話しかけるスバ友の男に、
「なあ諸君。この度のスバ友再結成にあたり、まずはじめに何をなさねばならないだろう」
スバルは逆に聞き返します。
「さ、さあ。何ですかね」
「そりゃ宴会ですよ。だから今こうして皆で祝杯を」
各々答えるスバ友たちに、スバルは「ふっ」と鼻で笑ってから、
「粛清だよ」
と言い放ちました。
「組織が正しく一新されるために、まずは旧組織内の膿を取り除かなくてはならない」
「え」
「なあ。おまえたちもそう思ってくれるだろ」
「ス、スバルさん?」
困惑極まるスバ友たちを余所に、スバルは「キアラ」と横に立つキアラに呼びかけます。
キアラは「ハッ」と答えてから、どこから取り出したのか紙の束を手に持って、それに目を通しながらパラパラ捲っていきます。
「スバル先輩の命により我らアヒージョは、スバル先輩不在時においてスバ友上級剣士がアウトネームの二つ名を付けるという由々しき問題――以降これを『センシティブ・ネーム問題』としマス――を極秘調査していきマシタ。その調査により『センシティブ・ネーム』問題の主犯者、つまりアウトネームを用いるよう呼びかけた発起人は複数人であること、またその者たちはスバ友上級剣士であることが判明しておりマス」
言ってから、キアラはスバルに軽くお辞儀して一歩さがります。
「うむ」
スバルは重々しく頷いてから、スバ友たちの方に振り返りました。
「聞いた通りだ諸君。スバルは悲しい。スバルがいなくなっていた間にスバ友上級剣士にアウトネームの二つ名を名付けるなんていうバカを言い出したバカ野郎がいるなんて。だからもう二度とそのバカ野郎がそんなバカをやらかさないよう、スバルが直々にそのバカ野郎を制裁してやる必要がある」
「ス、スバルさん……」
「アヒージョたちの調査によって、この『センシティブ・ネーム問題』の主犯者たちの目星はだいたい付いている。だがスバルは、できればおまえたちが自分から罪を認め罰を受け入れることを望む」
「……」
「そこで、みんなとりあえず手にしているジョッキをテーブルに置いてくれ。しっかり目を閉じてほしい。今からスバルはおまえたちに、この『センシティブ・ネーム問題』の主犯者が誰かと問いかける。自分だと思うスバ友は右手をあげてほしい。また、自分ではないものの誰であるか知っているという者は、左手を上げてほしい。本来ならば極刑に処す『センシティブ・ネーム問題』だけれども、スバルとて鬼じゃない、そうしておまえたちが誠意を見せてくれるならばいくらか情状酌量して、鞭打ち百回程度に減刑しようと思っている」
さあ目を閉じてくれ、とスバルはスバ友たちに呼びかけます。
しかしさすがのスバ友たちもごくりと固唾を飲むだけで、目を閉じようとしません。
「なにをしている! さっさとしないかあ!」
そんなスバ友たちにキアラがキンキン声で怒鳴りました。
「キアラ! おまえ仲間を売るのか!」
「そ、そうだそうだ!」
すると当然の流れと言いますか、リーダーであるスバルに歯向かえないスバ友たちの矛先が、キアラの方に向かいます。
「同じ釜の飯を食い共にスバルさんのあれこれうふふを語り合った俺たちを、おまえは容赦なく手にかけるのか! キアラ!」
「見損なったぞキアラ!」
「アヒージョだかなんだか知らないがおまえも変わっちまったもんだなあキアラ!」
そんなスバ友たちの非難に、
「黙れえええ!」
キアラは一喝を返しました。
「おまえたちもスバ友であるならばわかっているだろう! 我らにとって、スバル先輩のお言葉すなわち正義! お命じられることすなわち法! 自分たちが潔白だというのなら今更ガタガタ抜かすんじゃなアい!」
◇ ◇ ◇
宴会から粛清会議に突如移行した酒場では、喧々囂々の騒ぎが起こりだします。
「……」
その騒がしいスバ友の会に同席していたるしあは、そっと席を立ちました。
彼女は音もなく玄関まで歩いていき、そっと戸を開けて外に出ます。
カーテンを閉じた酒場内とは打って変わって、外は眩しいほどの日差しでした。
「たまきくん」
呟くように呼びかけます。
その声に応えて彼女の後ろの地面が盛り上がり、そこからたまきくんが現れました。
「さあ。行きましょう。ここは、るしあの居場所じゃない」
言って、るしあは宿場を背に歩いていきます。
そうしてしばらく歩いた時でした。
「るしあ!」
後方から、彼女を呼ぶ声が聞こえました。
振り返ってみると、そこにいたのはスバルです。
スバルは慌てた様子でるしあに駆け寄ってきました。
「どうしたるしあ。いきなりいなくなったから、みんな心配してるぞ」
「……」
「ああ。もしかして、さっきの粛清云々のことにドン引きしてるのか? 違う違う。本気で鞭打ちの刑をしようとか思ってるんじゃなくて、あれくらい強く言っておかないとあいつらまた調子に乗るからさあ。素直に謝ってくれればそれで」
「スバル先輩」
るしあがスバルの言葉を遮ります。
「るしあは、るしあの屋敷に戻ろうと思います」
「え」
「スバル先輩にとって、るしあはいないほうがいいと思うんです」
「そんなこと」
「でも最後にこうしてお話しできて良かった。るしあはずっと、スバル先輩に謝らなくちゃいけないと思っていたから」
言って、るしあはスバルに頭を下げました。
「ごめんなさいスバル先輩。るしあの自分勝手な思いでスバル先輩にアヒル化の呪いをかけてしまって。あなたが仲間たちと過ごすはずだった大切な時間を奪ってしまって」
「なんだよ今更。そんなこと気にしてたのか」
「はい」
るしあは頷きます。
「スバル先輩とのレジェンド所有者を探す冒険はすごく楽しかった。スバル先輩と一緒の時間を共有していることが嬉しかった。でもそれは、本来るしあのための時間ではなくて、スバル先輩とスバ友たちの時間です。本当に幸せだったから、それを奪ってしまったんだと気づいた時に、るしあはすごくいけないことをしてしまったとわかったんです」
るしあはもう一度「本当にごめんなさいでした」と謝りました。
その謝罪を聞いて、スバルは短くため息をつきます。
「まあ確かに、おまえにアヒルにさせられてから色々大変な目に合った。スバ友も分裂するしスバルのことをスバルだって認めてくれないし、辛くなかったと言えば嘘になる」
「……」
「でも、スバルもるしあと一緒に旅をして楽しかったよ。スバルをアヒルにしたのはるしあだけど、アヒルの呪いを解くためにすごく頑張ってくれたのもおまえだった。そんなるしあと一緒に旅できたことを、今はすごく良い思い出だと思ってる」
「……」
「るしあ。おまえはもうスバルの仲間だ。実質スバ友と言っても過言じゃない。そんなおまえが変な罪悪感を理由にどこかに行くって言うなら、スバルは何としてでもそれを阻止するからな」
「スバル先輩……」
「さあ。みんなのところへ戻ろう。るしあ」
言って、スバルはるしあに向かって手を差し伸べます。
るしあはそんなスバルを真っすぐに見つめて、
「……。はい」
涙をこらえるような顔で微笑んで、頷きました。
勇者スバルの大冒険、とりあえずの完結になります。
最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。