勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
スバルに向かって、るしあの放つ光の玉が襲いかかります。
「ケガしないでください、っすか。じゃあなんで攻撃してくるっすかね」
ため息をついてから、スバルは頭を切り替えたように真剣な顔になります。
素早くレッグバッグに手を伸ばし、虹色をした一本のフォークを取り出します。
それからそれをブン! と勢いよく振るいました。
すると彼女のフォークの先に、どこからか巨大なウィンナーが現れて突き刺さります。
そのウィンナーは切り離されずに三つ連なっている状態で、一本の長さが約40センチ、三本合わせて120センチほどあります。
異様なのは大きさだけではありません。
見た目はウィンナーであるのに、その周囲に白銀の電流をまとって光り輝いています。
スバルは迫りくる光の玉に向かってそれを振るいました。
すると三つ繋ぎの巨大なウィンナーは鞭のように大きくしなり、彼女に向かってくる光の玉をすべて打ち落とします。
「魔法使いとは珍しいっすね」
スバルはウィンナーを地面に垂らしながらるしあに話しかけました。
「でも、剣士に戦いを挑むのは浅はかだと思うっす」
ホロ・デ・ソーセージ大陸には剣士や狩人、魔法使いなどファンタジックな戦闘職が数多くあります。
しかしそのなかでもっとも強くかつ人気の高い職種が剣士であるため人々はみな剣士をこころざし、魔法使いなどその他の戦闘職につく人は珍しくなっていました。
ところで、なぜそれほど剣士が強いのでしょうか。
その秘密は専ら彼らの武器にありました。
剣士の振るう武器はただの刃物ではありません。
スバルが手にしているような、巨大なソーセージこそ彼らが強さを誇る剣なのです。
剣とは巨大なソーセージのことを指す、それはホロ・デ・ソーセージ大陸で生きる者たちにとって幼児でもわかる常識でした。
ではその剣(ソーセージ)とはどれほど強力なのでしょうか。
大陸の剣士たちが自分の子共にそのことを理解させるためよく使う小話があります。
それは次のようなものです。
ある時、二人の剣士が決闘することになりました。
一人の剣士はソーセージを、もう一人の剣士は旧時代的な刀剣(ロングソードやファルシオンによく言い換えられます)を手に持ち決闘の場へ向かいました。
一方決闘の場には、すでに戦いを観戦しようと多くの人々が集まっていました。
二人の剣士が現れた時、人々は旧時代的な刀剣を持ってきた剣士を見て驚き呆れます。ある者など「おまえはそんなおもちゃでどう戦うつもりなんだ」と嘲笑いました。
そしてはじまる二人の決闘ですが結果は言わずもがな、ソーセージを持つ剣士にもう一人の剣士は手も足も出ず敗北するというものです。
ソーセージはそれほど強く、おそろしい武器なのです。
閑話休題。
「浅はか? ふふふ、それはどうでしょうか」
るしあはスバルの忠告を笑って返します。
それからローブのポケットに手を突っ込み、中から水晶玉を取り出しました。
「スバル先輩、これを見てください」
そしてそれをスバルのところまで転がしました。
スバルはるしあを警戒しながら、足元の水晶玉をちらりと見ます。
水晶玉には何かが映っています。
どこかの店内です。
カウンター側からの眺めなのか手前に横長のテーブルカウンターがあり、奥にはいくつもの丸テーブルが設置されています。
そしてその丸テーブルの上や床の上で、体格のいいムサい男たちが横になっています。
「これ、スバ友たちっすね。というとこの場所は、スバルたちが泊っている宿屋の一階ということっすか?」
答えるスバルに「そうです」とるしあは頷きます。
「でもるしあが見せたいのはそれだけではありません。右手側の奥を見てください」
言われたとおりスバルが目をやると、そこに人影らしいものが一つあります。
スバルは目を細めてよく見てみました。
その人影は青白い肌をした女性でした。
彼女は上級剣士しか持つことを許されない上級剣・巨大なレバーケーゼを取り付けたフォークを手に持ちながら、不気味にスバ友たちを見下ろしています。
「そこにいる女性はたまき君、るしあの操る上級剣士のアンデットです。またその水晶玉と視界を共有しているのもアンデットの一人、下級剣士でジョゼフといいます。ジョゼフはまだ下級剣士とはいえ、寝込みを襲う分には問題ないでしょう」
「人質ということっすか?」
「はい」
「随分とやり方が汚いっす」
「るしあだって、スバル先輩にこんなことしたくなかったです。でもスバル先輩が捕まってくれないから、だから……」
言ってるしあはもじもじし始めます。
スバルは「はあ」とため息をつきました。
「まさかネクロマンサーだったなんて、油断したっす」
そうぼやくスバルに「ごめんなさい」とるしあは謝ります。
「魔法使いは魔法使いでもるしあの得意は特殊魔法のネクロマンス、万が一のために保険を張っておいたけれど、本当にこの手を使う気はなかったことだけは分かったほしいです」
「いいっすよ。それで、スバルはどうすればいいっすか?」
「とりあえず武器を置いてください」
言われてスバルは彼女のソーセージ、ライトニングウィンナーを手放します。
すると巨大なウィンナーは光の粒子となって拡散して消えていき、虹色のフォークだけが残されます。
フォークは地面に落ち、からんからんと軽い音を立ててから止まりました。
「そのフォークをこちらへ」
「なるほど、それが本当の狙いというわけっすか」
スバルは納得したように呟いてから足で軽くフォークをけり、るしあのもとへ届けます。
足元にやってきた虹色のフォークをるしあは大事そうにポケットに仕舞いました。
「さあ、世界に十二振りしかないレジェンドソーセージの一本、スバ友の次に大切なスバルの宝『神の怒り』ライトニングウィンナーのフォークは渡したっす。もうスバ友は解放してもらうっすよ」
スバルは返事を待たずに踵を返して、宿屋に向かおうとします。
しかしるしあはそんな彼女に「動かないでください!」と怒鳴りました。
「『解放してもらうっす』、じゃないですよ。るしあはべつに剣士じゃないから、どんなに強いフォークも欲しくなんてありません。これは一時的にあずからせてもらっているだけ、あとでちゃんとスバル先輩にお返しします」
「じゃあ一体なにがしたいっすか?」
「るしあが欲しいのはスバル先輩です。最初からそう言っているじゃないですか」
るしあは一歩、スバルに近づきます。
「るしあ、いろいろ考えたんです。もしもスバル先輩がるしあのものになってくれるとしたら、どうしようかなって。アンデットにするのもいいけど、やっぱりるしあは生きたままのスバル先輩が好きですし、アンデットにするのはもったいないです」
言いながらまた一歩、るしあは進み出ます。
「でもスバル先輩はレジェンド所有者になるほどのつよつよ剣士、持ち帰ったところでそのままにしておくと、るしあなんてすぐ倒されて逃げられてしまいます。そこでるしあは偉大なるひいひいおばあ様の残された魔導書を読み漁り、とうとう見つけ出したんです」
「な、なにをっすか?」
「我が家に伝わる最大の禁呪魔法、人間をアヒルに変えてしまう素晴らしい大魔術」
「いや、アヒルって」
「心配しないでくださいスバル先輩、どんな姿になろうとるしあの愛は不滅です。それどころかるしあが守(まも)るしあとなってスバル先輩をずっとずーっと大切にお世話してあげます」
るしあは「だから、ね?」とスバルに微笑みかけました。
「そ、そんなのウソっす! だってそんな魔法、スバルは聞いたこともないっす! スバルにハッタリは通用しないっすよ!」
口調こそ強気ですが内心ではひどい不安に襲われているのでしょう、スバルは未知の敵を威嚇するように大声を張り上げます。
一方るしあはそんなスバルと対照的に、ひどく穏やかな様子でなにやらぼそぼそと口にしはじめます。
スバルは最初それを独り言かなにかと思い、彼女の挙動に警戒しながらも取り敢えず黙って見ていました。
しかし二人の距離が縮まっていき、スバルの耳にその声がよく聞こえるようになってから「人から鳥へと姿を変じ」とか「我が魔力を用いて成る二度は使えぬ大魔術」とか、不穏極まりない響きを持った言葉を韻踏みしながら唱えていることに気づきます。
「や、やだ」
スバルの持つ剣士の直感が、とにかく逃げろと警告します。
「やだあああああ!」
恥も外聞もなく、スバルは叫びながらるしあに背を向け走り出しました。
「逃がしません!」
るしあが声を張り上げます。
すると彼女の足元で、先ほどスバルに放られた花束がもぞもぞと動きだしました。
バアン!
そして突然花束の包みが弾け飛び、中から花々の茎がツルのように伸びてきて、スバルに向かって襲い掛かかります。
「え、ちょっと、嘘っすよねええええ!」
それらはあっという間に彼女の足首手首に絡みついて拘束し、そのまま地面に押し倒してしまいました。
「――ゆえに、現当主るしあの求めに応じ、汝の偉大なる力をここに示せ」
るしあは呪文を唱え続けます。
スバルの周囲に円形の魔法陣が現れはじめ、その線が鈍い赤色に光り輝きだします。
「はわわわわ! はわわわわわわわ!」
一方スバルは恐怖が絶頂に達してしまい、暴れるどころか人語を発してすらいません。
「鳥獣変化!」
るしあが手を前に突き出して叫びます。
直後、ボン! という音と同時にスバルを白煙が包み込みました。
「こほ、けほ、……やりましたか?」
るしあは長い袖で煙を払いながらスバルの倒れていたところへ駆け寄ります。
「スバル先輩! スバル先輩!」
るしあは視界の悪い煙の中に両手を突っ込みました。
そうしてスバルを手さぐりで探し当てようとします。
「……。ん?」
何かを掴みました。
「シュバ?」
丸みのある羽毛の感触です。
るしあがそれに指を食い込ませると、そのたびに「シュバ?」「シュバ?」と独特の鳴き声が返ってきます。
「スバル先輩!」
彼女はそれを掴んだまま煙の中から引っ張り出しました。
そして埃を払うように煙を除けてから見てみます。
すると両足を花の茎によってがんじがらめに縛られたアヒルが一羽、現れてきました。
そのアヒルはスバルと同じように、前後逆にキャップ帽をかぶっています。
「よかったあ、成功したあ!」
るしあは満面の笑みを浮かべ、足の縛りを解いてやってから両手でアヒルを抱き上げました。
一方アヒルはまだ状況が呑み込めていないようで、「シュバ? シュバ?」と繰り返しながら首を傾げています。
「スバル先輩、これを見てください」
るしあはアヒルを下ろしてから水晶玉を取り出して、それをアヒルの前に置きました。
水晶玉は先程のようにどこか別の場所を映しているわけではありません。
そこに映っているのは覗き込んでいるアヒル自身の顔です。
水晶玉に映る自分の姿を認めたアヒルは「シュバア?」と鳴いて目を丸くしました。
「ふふふ、驚きましたか?」
「シュバア!」
「あ」
アヒルはるしあの隙をついて彼女のポケットに頭を突っ込みました。
それから何かをくわえて引き抜きます。
それはスバルのレジェンドソーセージ、ライトニングウィンナーの虹色フォークでした。
「シュバ! シュバア!」
アヒルはそれをくわえたまま、首をぶんぶん振りだします。
しかしいくら振ってもフォークはフォークのまま、ライトニングウィンナーは出てきません。
「ああ、かわいいー」
るしあは目を細めながらしばらく眺めました。
「でも勝手にポケットから取り出すのはよくありませんよ。危ないから返してくださいね」
「シュバアア……」
アヒルは簡単にフォークを取り上げられてしまい、せつなげな声を上げます。
「さあスバル先輩、たまき君とジョゼフはもう撤退させました。るしあたちも家に帰りましょう」
「シュバ!」
アヒルは掴んでくるるしあの手を振り払います。
それからスバ友たちのいる酒場兼宿屋に向かって駆け出しました。
アヒルは最初、裏口から中に入ろうと試みます。
しかし今の身体ではドアノブを回すことさえできないことに気づき、表口の方へ回りました。
「シュバア! シュバシュバ! シュバアアアアァル!」
そして大声で鳴きわめきます。
「なんだなんだ、このうるさい鳴き声は」
すると宿屋で寝ていたスバ友が一人、外に出てきました。
「シュバア、シュバシュバシュバァア!」
起きて来たのがよほど嬉しかったのでしょう、アヒルは目を潤ませながら彼に向かって駆けて寄っていきます。
「んだよ、このアヒル」
「シュバあ!」
しかしあろうことか、眠たげな顔をした男は向かってくるアヒルを蹴飛ばしました。
「スバル先輩!」
るしあが慌ててアヒルに駆け寄り、蹴られたところをさすってやります。
「おい。そのアヒルはお嬢ちゃんのかい?」
アヒルを蹴ったスバ友の男は、眠そうにあくびをしてから尋ねました。
「は、はい」
「どんな躾してやがるんだ、さっきからシュバシュバシュバシュバうるせえんだよ。こっちは死ぬほど酒を飲んだ後だってのに。頭にガンガン響くじゃねえか」
「ごめんなさい」
「ああもういいよ、それよりそのアヒルだ。なんだその帽子は? お嬢ちゃん、あんた俺たちがスバ友だってことを分かった上でそのキャップ帽をアヒルにかぶせてるのか?」
彼は鋭い眼光でるしあをにらみつけます。
「スバルさんは俺たちスバ友のリーダーであると同時にアイドルだ。だからあんたが憧れる気持ちもわからなくはねえし、飼ってるアヒルに同じ名前を付けるくらいは微笑ましいと笑ってやる。だがな、スバルさんと同じ帽子を同じふうにかぶせるのは行き過ぎだ。スバルさんを馬鹿にされているようで我慢できねえ。すぐに外しときな」
「はい、すいませんです」
頭を下げるるしあに「ふん」と彼は鼻息を立てます。
それからまた宿屋のなかへ入っていきました。
ちなみにその間、アヒルは口をぽかんと開けたままずっと目を瞬かせていました。
「スバル先輩、さあ帰りましょう」
るしあは呼びかけてアヒルに手を伸ばします。
「……。シュバ」
頷いてから、アヒルは差し出された手を掴みます。
そして二人は暗い森のなかへ入っていきました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。