勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「さあ、始めようかア。超重量級の頂上決戦だ」
『受けて立ちましょう』
巨大な竜と紫の巨人、ココとるしあが対峙します。
竜の歩みに合わせ、巨人を操作するるしあは一歩前に踏み出しました。
そして、
『たまき君!』
唐突に、るしあはたまき君を自分の足元に呼び出します。
『たまき君! あなたのレバーケーゼをるしあに渡すのです!』
「あ、てめえ、汚ねエ!」
『何を言っているのかわかりませんね、勝負にきれいも汚いもありません!』
たまき君がるしあに向かって金色フォークを投げます。
るしあはそれを受け取ってレバーケーゼを出現させました。
ただし巨人の手のサイズに比べフォークはあまりに小さいため、握っているというよりも爪楊枝を摘まむように親指と人差し指で挟んで持っています。
『ふふふふふ』
「く、くう!」
ココはるしあから一歩距離を取ってから「お、おーい! 桐生会! 今ちょうど手の空いてる桐生会のやつはいるかア!」と神竜町へ向かって声をかけます。
するとしばらくしてから「なんでしょう会長?」と言って何人か男たちが戻ってきました。
「おオ、よく来たおまえら! 誰かおまえらのフォークか串を投げてよこせ! ただしナマクラは握らせんなよ、上級剣だ!」
「へい会長!」
黒服の一人が金色のフォークをココに向かって投げます。
ココはそれを受け取り親指と人差し指で挟み込みました。
「おー。よっしゃア、うなぎの蒲焼きかア!」
ここが出現させたのは上級剣ソーセージ・うなぎの蒲焼きです。
「いくぞオ、魔女のお嬢ちゃん!」
『望むところです!』
巨大な竜と巨人は同時にとびかかりました。
◇ ◇ ◇
一方、スバルとキアラはフェニックスに乗り林の中を駆けていました。
「スバルせんぱい、ありました! 丸太小屋です!」
「シュバア! シュバルバシュバア!」
(よおし! 降ろせキアラ!)
「えっと、降ろしマスよ? いいデスね? つきマシタから、降ろしマスからね?」
シュバル語を聞き取れないキアラは何度もスバルに確認します。
「シュバ、シュバルバシュバ! シュババ!」
(ああ、降ろしてくれ! 早く!)
キアラは恐る恐るシュバシュバわめくスバルを地面に降ろしてやりました。
地に足が着くや否や、スバルは一直線に丸太小屋へ駆けていきます。
「シュバルー! シュバルー!」
(たのもー! たのもー!)
そして玄関前で喧しく喚きたてました。
「なに? さっきからシュバシュバうるさいんだけど」
するとしばらくしてドアが開き、中から少女が気怠そうに顔を出しました。
華奢な印象の銀髪少女です。
彼女は耳元だけ少し伸ばしたショートカットの髪型で、頭に星型の大きな髪飾りを付けています。
肩から生える小ぶりの翼をパタパタさせながら、やや眠たげな眼をしてアヒルスバルを見下ろしました。
「シュバルバシュバルルバシュババシュバルババ?」
(おまえが船長を倒した剣士か?)
「は? 何なのこのアヒル?」
少女は露骨に眉をひそめます。
「こっち見ないでよ、しっしっ。喋りかけられてるみたいで気味が悪いなあ」
「シュバ、シュバルルシュバルバ!」
(おま、傷つくじゃねえか!)
スバルがいくら言い返しても少女にはシュバシュバとしか聞こえません。
「なんなの、もう」
少女はついに足先でスバルを蹴りつけながらドアを閉めようとし始めます。
「待ってください!」
そこにキアラがやってきました。
「ん?」
ふと少女がキアラの方に目を向けます。
キアラは素早くスバルを抱きかかえてから「おまえが、かなたんデスか?」と少女に問いかけました。
「まあ、そうだね。それが本名じゃないけど、よくその愛称で呼ばれてる」
素直に答える少女に「そうですか」とキアラは頷いてから続けます。
「ならばおまえということデスね、マリン船長を倒した剣士というのは?」
「マリン船長?」
誰? と言いたげに彼女は首を傾げました。
「とぼけないでください。二年前おまえに倒された宝鐘海賊団の船長デス」
キアラが説明します。
すると、
「二年前の海賊団船長!」
少女は大声を上げ、急に生き生きしはじめました。
「うん! そうだよ! ボクだよ、ボク! 彼女またこの島にやってきたの? どこどこ? リベンジはいつでも受け付けるよ!」
それから彼女はきょろきょろとあたりを見回しだします。
「ええと、すいマセンが、船長はこの島にはきていマセン」
キアラが教えてやると少女は「ああ、そう」と言い、見るからに残念そうに顔を俯かせました。
そんな戦闘中毒者のような少女の反応に、思わずキアラはドン引きしてしまいます。
普段の彼女であれば、この場からすぐにも逃げ出してしまいたい気持ちになっていたでしょう。
しかし今回ばかりはこれ以上ないほどの嬉しさで、内心でほくそ笑みました。
「残念がることはありマセン」
キアラは気落ちしている少女に話しかけます。
「おまえの目の前には船長以上の実力を持つ剣士がいるのデスから」
「え? きみ?」
少女は目を輝かせながら顔を上げてキアラを見つめました。
「え、あ、いや、キアラは大したことありマセン。そうじゃなくて、この」
言いながら、キアラは抱えていたスバルをずいっと前に突き出しました。
「……まさか、このアヒルとか言い出さないよね?」
すると先程とは一転し、少女は胡散臭げな人に向けるような眼でキアラを見てきました。
「シュバルバシュバシュババシュバルババ! シュッバルシュバ!」
(なんなんだおまえさっきから! ぶっころすシュバ!)
思わずスバルは汚い言葉を吐き出します。
「ええ、そのまさかデス」
案の定シュバル語がわからないキアラはスバルの怒りを聞き流します。
「何を隠そうおまえの目の前にいらっしゃるこの方は、五年前にその武勇とお名前を大陸中に轟かした我らがチーム・スバ友のリーダー、ライトニングウィンナー使いの大空スバルせんぱいなのデス!」
キアラの紹介に、スバルはここぞとばかりに「シュバア!」(そうだ!)と吠えます。
「え? アヒルでしょ?」
少女は目を瞬かせました。
「今はアヒルの呪いにかかってしまいこのような姿となっていマスが、正真正銘スバルせんぱい本人です」
答えるキアラに少女は「ふうん」と言って、見定めるようにスバルをじろじろ見始めます。
「いや、でも仮にそうだとしてもだよ」
しかし最終的にはゴミを見るような目に変わり、最後にスバルを一瞥してから「アヒルじゃさあ」とぼそりこぼしてため息つきました。
そんな少女に「ところが、デス」とキアラが続けます。
「スバルせんぱいは一日に少しの時間だけ、自分の意志で人間に戻れるのデス。そして今日おまえと戦うために、スバルせんぱいはいつでも人間に戻れる状態で今ここにいらっしゃっているのデス」
「え、なにそれ」
少女は即座に食いつきます。
「つまり、ボクと戦える時間だけ人間に戻れるってこと? あの大空スバルが!」
「はい」
少女は目を輝かせてスバルを見つめました。
しかし今度はスバルの方がへそを曲げてしまったようで、彼女からぷいと顔をそらします。
「あー、ボクってばヤダなー、あの大空スバル大先輩に向かってアヒルだなんて失礼なこと言ってー。この口か! この口かー!」
言いながら、少女はぺちぺちと自分のほっぺを叩きました。
しかしスバルはそんな彼女を冷めた目で見続けます。
「あ、そうだ自己紹介! 自己紹介がまだでしたよねスバル先輩!」
しかし少女は屈しまいと、明るくスバルに微笑みかけました。
「ボクの名前は天音かなた、天界出身の剣士です! スバル先輩だったら『かなたん』って気軽に呼んでくれてもいいですよ? いやー、だってあの大空スバル先輩ですもんねー! その武勇とお名前は天界にまで行き届き知れ渡っていましたよー!」
かなたはスバルの機嫌を直してもらおうと精一杯持ち上げようとします。
「スバルせんぱい、スバルせんぱい」
キアラがスバルの横に屈みこんで小声で話しかけました。
「スバルせんぱいを慕うスバ友の一人としてこのキアラ、今のスバルせんぱいのお気持ちはもう痛いほどよくわかりマス。しかしどうかそのお怒りをお鎮めください」
「シュバア……」
(キアラ……)
「スバルせんぱいの憤りはもっともでありマスが、まさに今わたしたちをここへたどり着かせるためにるしあさんが桐生会と戦ってくれていマス。そのことも踏まえて、どうか寛大なご対応をしてもろて」
キアラの言葉に「シュバルバ」(そうだな)とスバルは頷きました。
「シュバルバシュバシュバルバシュバア。シュバアバシュバルバシュバルルシュ」
(おまえの言うとおりだキアラ。るしあのためにも一刻も早)
「かなたさん、いいそうデス」
シュバル語がわからないキアラは「たぶんオーケーしてくれただろう」というスバ友としての感から、かなたに勝手に返事をします。
スバルは「シュバ! シュバルババシュバルバ!」(おい! 最後まで聞けよ!)と一応つっこんでから「シュバシュバルルシュバシュバ」(まあいいんだけどさ)と呟きました。
「やったあ!」
一方かなたは飛び上がるくらいに喜びます。
「そうと決まればついてきて」
「どこに行くのデスか?」
尋ねるキアラに「もっと戦うのに適した場所があるんです」とかなたが答えます。
「あの大空スバルが戦ってくれるっていうのに、こんな不安定な足場じゃもったいないですからね」
鼻歌など歌いながらかなたが歩き始めます。
キアラとスバルは顔を見合わせてからそんな彼女に続きました。
三人がやって来たのは小屋の横にある低い丘です。
かなたに案内されてその丘の上に上がってみると、なるほど広く開けた場所で地面がよくならされています。
「いいでしょ、この場所」
かなたがスバルたちに振り返り話しかけました。
「ここで自主トレしたり、ココを呼んでソーセージ代わりの模擬剣で戦ったりしてるんだ」
「見晴らしもいいデスね」
キアラが満更でもなく答えます。
「でしょお? それもここが気に入ってる理由の一つなんだよね」
かなたが自慢げに言うのももっともで、スバルたちが登ってきた丘の南側は林で茂っていますが北側は木の一本もなく開けており、眼下に広がる壮大な森林景色を見渡せるほどの絶景なのでした。
「シュバ」
(どれ)
言われてスバルは北側の崖際まで歩み寄りました。
アヒルスバルは目線の高さがハイハイする赤子より少し高いくらいなので、キアラがちょうどよく見渡せるような位置からでは上手く一望できないのです。
「シュバ、シュババシュバ」
(おお、これはまた)
見下ろしたスバルは呟いてから深く息を吐きました。
たしかに絶景です。
眼下に視界の端から端まで埋め尽くすほどの木々の緑が広がっており、そのところどころで陽光を浴びて煌めく繊細な葉の一枚一枚が黄緑色の光を放っています。
これはしばらく見ていても飽きないな、などと思いながらスバルは視線をやや上に向けました。
「シュバ?」
(ん?)
するとそんなスバルの視界に、二つの巨体が映ってきました。
一つは紫色の肌をした巨人、つまりるしあの操作する巨人で、もう一つは赤い巨大な竜です。
二体はお互いしゃがみ込み向き合いながら線香花火でもしているかのように体を丸めて親指と人差し指の間でソーセージを摘まんで持ち、ちまちま剣と剣を突き合っていました。
「シュ、シュバルシュバ?」
(な、なんだあれ?)
スバルの視線の先に気づき、かなたが「ん? あー、すごいねー」と頷きます。
「ココが竜になるの久しぶりに見るなー。神竜町に建物を作る時くらいにしかなってくれないからさー。うん、すごいすごい」
「シュバルルシュバルバシュバ!」
(感想それだけかよ!)
「スケールがデカくて圧巻ですね」
キアラも横に並びだし、気づけば三人で二体の巨大生物を眺める絵面になります。
「そう?」
かなたが首を傾げてからキアラに振り返りました。
「ボクには爪楊枝で突き合ってるようにしか見えないけどなー。ソーセージをあんなふうにしか持てないから仕方ないんだろうけど、普通の戦闘よりずっと地味に感じるよ」
「シュバルルバシュバルシュバババシュバルシュバ」
(悔しいが天音かなたに同意シュバ)
スバルがかなたに頷きます。
そして案の定、そう感じていたのはスバルとかなただけではないようで、
『あああああああ! もおおお! もう我慢の限界じゃあああああ!』
いきなりるしあの操る紫の巨人が真上を向いて、大声で叫びだしました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。