勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
巨大な竜となった桐生ココと対決する、紫の巨人を操るるしあ。
ソーセージを手に取った彼女たちの戦いは、しゃがみ込んで親指と人差し指でフォークを挟んで持ちながら突き合うという地味極まりないものでした。
そんな退屈この上ない戦いに、とうとうるしあの堪忍袋が膨らみに膨らんでパンパンにはち切れます。
『ああああああ!』
堪忍袋の緒が切れるや否や、るしあの巨人は叫びだしました。
『ちまちまちまちまちまちまちまちま! 鬱陶しいんだよおおお! もおおガマンの限界じゃあああ!』
るしあはレバーケーゼを放り投げます。
「おー?」
いきなり立ち上がり大声を出するしあに、ココはのん気そうに顔を上げます。
それがまた癪に障ったようで、るしあは『コラあ!』と怒鳴りました。
『こんなのやってられっかあああ! 格闘で勝負しろやあああ!』
るしあは一度後ろに大きく飛び退いてから、ガシャンガシャンガシャンと踏み鳴らし両手を広げココに襲いかかろうとします。
『うおりゃああああ!』
まさに鬼神のごとく、並みの神経の持ち主ならばド肝を抜かれて逃げ出してしまいそうな迫力です。
しかし、
「愚か者め」
ココはぼそりと呟いてからおもむろに立ち上がりました。
「敵を前にしながらソーセージを手放すとは!」
たしなめるように口にしてから、彼女はうなぎの蒲焼きを両手で持ち直して構えます。
そして真正面から突っ込んでくるるしあの胸元にそれを突きたてました。
『あ、う……』
直後るしあの巨人は苦しそうなうめき声をもらし、足を止めてしまいます。
掴みかかろうとする格好のまま固まって、痙攣したように震えだします。
「いい戦いぶりだった。またいつでも遊びに来な」
そう言ってからココは剣を引き抜きました。
するとるしあの巨人は膝をつき、色がついていた肌と鎧甲冑が土色に戻ります。
それからその巨体がぼろぼろと崩れ落ちていきました。
「シュバア!」
(るしあ!)
「るしあさん!」
スバルとキアラが思わず声を上げます。
かなたはそんな二人を安心させるように「心配しなくてもいいよ」と言いました。
「抜かりないココのことだからさ、ああほら、完全に崩れ落ちる前に気絶してる操者を救出してるでしょ」
かなたの言うとおり、ココは崩れ落ちる巨人の心臓部分に手を突っ込んでるしあを引っ張り出してから足元に降ろし、自分も竜から人間に姿を変えています。
「るしあさん……」
それでもなおキアラは心配そうな様子です。
「大丈夫だって。ココはああ見えて優しいし、堅気にひどいことは絶対しないっていうプライドを持ってるから。どうしてもというならボクからココに言っておいてあげるよ、その子にひどいことするなってね」
そう言ってから、かなたはスバルに振り返りました。
「このお楽しみが終わったあとで、だけどね」
「シュバルバ」
(そうだな)
スバルはかなたに頷いてから目を閉じます。
身体が光り輝きます。
彼女はアヒルから人間へと姿を変えました。
「だけど、悪いがこっちは制限時間があるんでな。おまえが楽しめるほどのんびり時間をかけるつもりはねえ。速攻で潰させてもらうシュバ」
「いいね! ボクはそうやって本気で向かってくる相手が大好きなんだ!」
両手を前に出して叫ぶかなたを無視し、スバルはレッグバッグに手を伸ばして虹色のフォークを引き抜きます。
そしてそれををブン! と振るい、ライトニングウィンナーを取り付けました。
「それがうわさに聞くライトニングウィンナー! 燃えてきたよー!」
かなたもレッグバッグからフォークを引き抜きます。
そのフォークは金色です。
かなたがブン! と振るうと、フォークの先に120センチの黄色いバナナが現れました。
出現直後そのバナナは中身を皮で包んでいましたが、すぐに先端がぱくりと十字に裂け、皮が全体の八割ほどまで剥かれます。
そうしてバナナの真っ白な中身部分が露出し、四方に剥かれた皮がアーチを描いて綺麗に垂れます。
黄色い皮が徐々に黒ずんでいき、やがて真っ黒に染まってしまいました。
「なに? バナナ?」
かなたの剣を認めたスバルは、思わず眉をひそめました。
「上級剣じゃねえか!」
叫ぶスバルに、かなたは首を傾げてから「そうだよ」と答えます。
「ふざけるな! なんでレジェンドソーセージを使わない!」
スバルはライトニングウィンナーをかなたに向けながら怒鳴ります。
一方のかなたは「なんでもなにも」と苦笑を返しました。
「ボクはレジェンドソーセージなんて持ってないよ。これがボクのソーセージさ」
「な、おま、船長に勝ったって言ったシュバじゃん!」
「勝ったよ」
答えながら、かなたはバナナを振るいます。
「このバナナで」
「マジか」
驚愕しながらスバルが聞き返します。
「なんでそんなに驚いているのか、ボクはよくわからないな」
「え、いや、ガチでわかんないシュバか?」
問いかけるスバルに「冷静になって考えてみてよ大空スバル」とかなたは話し始めました。
「レジェンドソーセージはこの世界に十二振りしかない、まさに伝説級にレアなソーセージ。しかもそれらは所有者が手放さない限り持ち主も変わらない。つまりさ、たとえレジェンド所有者と同等の力、伝説級の実力があっても、すでにレジェンド所有者が十二人そろっていたらレジェンド所有者にはなれないんだ。だからレジェンドソーセージを持っていない伝説級の実力剣士が現れたとしてもおかしくないし、その剣士にレジェンド所有者が負けることがあってもおかしくないでしょ?」
「た、確かにその通りだけど」
「さあ時間が限られているんでしょ? 早く始めようよ」
言いながら、かなたはてくてく歩きスバルとの距離を詰めてきます。
一方スバルは逆に困った顔をして後ろへ後ろへと退きながら、近くで観戦しているキアラにちらちらとアイコンタクトを送って意思疎通をしはじめました。
(おい、レジェンド所有者じゃないんだって! どうするシュバ! 倒す意味ないぞ!)
(でも相手はやる気デスよスバルせんぱい! ほら、構えて構えて! 来マスって!)
(スバルさあ、別に戦闘狂なわけじゃないから不要な戦いは避けたいんだけど)
「なんか、急に闘志がなくなったよね」
かなたがため息をついて話しかけます。
「ボクがレジェンド所有者じゃなかったことがそんなに残念だった? まあ、その気持ちはわかるけどさ」
かなたは口元に手を当てて何やら考え始めます。
それからしばらくして「ねえねえ、ならこうしよう」と話しかけてきました。
「ボクと戦わなかったら、キミたちみんなこの島から出られない。ココがなんて言おうとボクが絶対に出させない。どう? これでやる気出たんじゃない?」
かなたは褒めてほしがる子供のような顔をしてスバルに尋ねます。
「いや、どうって聞かれても」
「まだ乗り気じゃない感じだね。だったらもっと何か付け加えたほうがいいかな? んー、何にしよう」
言いながら、かなたはまた口元に手を当てはじめます。
「スバルせんぱい!」
それを見たキアラが大声でスバルに呼びかけました。
「戦ってください! この人、次に何言い出すかわからないデスよ!」
早く早く! と急かすキアラに「シュバア、じゃなくてそうだな」とスバルが頷きます。
「待たせたな天音かなた! もう余計な心配無用だ、戦ってやるシュバ!」
「ああ、ようやくやる気になったんだね!」
かなたが目を輝かせながら剣を構えます。
そして「来い!」とスバルに呼びかけました。
直後、スバルはかなたに向かって真っすぐ駆け出します。
しかしそれがとにかく速い。
かなたが瞬きして目を開けた時、すでに目と鼻の先まで迫っていてライトニングウィンナーを振り下ろそうとしているのです。
「くっ!」
かなたはそんなスバルに向かって力強くバナナを突き出しました。
スバルはひらりとかわします。
それからかなたに剣を振り下ろそうとしました。
しかし、大きく踏み込んだ突きをかわされ一見無防備に見えるものの、かなたの身体は広がっているバナナの皮でうまく急所を覆い隠しています。
そのためスバルの剣を打ち込むところがありません。
「それならこうするシュバ!」
スバルはライトニングウィンナーを器用に扱いだします。
というのも三本繋ぎになっているライトニングウィンナーを上手く緩ませ、一番先端に付いている一本に意識を集中し、手首だけを独特にしならせて振るったのです。
するとその一本は針に糸を通す正確さでバナナの開いた皮と皮の間へ入り込み、パコンと音をさせてかなたの腹部に先端部分を当てました。
音こそかわいいものですがソーセージによる打撃です。
しかもそれがレジェンドソーセージなのですから、受けたかなたの痛みは相当なものです。
かなたは「くぅううう!」と呻いてから後方へ飛び退きました。
「さ、さすがは最速の剣士と名高い大空スバル」
ソーセージを打ち込まれた腹部をさすりながら、スバルに話しかけます。
「びっくりしたよ」
「降参してもいいシュバよ」
スバルはライトニングウィンナーを下げてから彼女に問いかけます。
「まさか!」
かなたは首を振りました。
「わくわくしてきたって言っているのさ!」
言いながら、今度はかなたがスバルにとびかかっていきます。
かなたはスバルの胴体めがけて素早くバナナを突き出しました。
しかしその動きは直線的です。
スバルは彼女の左側へ回り込むように避けてから、さっきと同じようにライトニングウィンナーを当てようとします。
ですがその瞬間、かなたは絶妙なタイミングでバナナを持つ手の手首を回しました。
するとバナナに付属しているその皮も一緒に回ります。
その結果、皮と皮の間にちょうど入り込もうとしてライトニングウィンナーは、大して力も込められていなかったため簡単に弾かれてしまいました。
さらに悪いことに、一方的に攻めるつもりだったスバルはまさかいきなり剣を弾かれてしまうとは思っていなかったため、無防備をさらしてしまいます。
そしてかなたはその好機を見逃すほど甘くありません。
「歯を食いしばった方がいいよ!」
言ってから、彼女は横なぎに剣を振るいました。
「くっ!」
対して、避けられないと判断したスバルは身体を丸めてから両腕を胸の前で折りたたみます。
それからグッと歯を食いしばり、息を止めます。
バシン!
その直後、すさまじい音が辺り一面に響き渡りました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
長い三分間が始まります。