勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「歯を食いしばった方がいいよ!」
言いながらかなたはバナナを振るいます。
その一撃をスバルは両腕でもって受け止めました。
「……ッ」
一瞬、スバルの腕に火であぶられたような熱が走ります。
それから痛みがなくなり頭がぼんやりとして、視界に靄のようなものが混じりはじめます。
音もなくなり振動だけがガタンガタンと視界を揺らします。
そして揺れるたびに視界の奥行きが増していき、天音かなたが遠のいていきます。
「スバルせんぱい!」
キアラの声がして、スバルはハッと我に返りました。
そして自分が凄まじい勢いで飛ばされていることに気づきます。
「んの、この!」
スバルは両足を精一杯地面に伸ばしました。
そしてガリガリガリと足元に直線の跡を付けながら摩擦させ、そうやって徐々に勢いを殺します。
しかし大分勢いも弱まってきたとスバルが油断しはじめたその時、いきなり背中に大木がぶつかって彼女は痛みに顔をしかめました。
「ってえな、もう」
背中に尋常でない痛みを感じます。
しかしそれ以上に剣を受けた腕が痛みます。
意識がはっきりしたことで、受けた痛みがまとめてぶり返したようでした。
一体何が起こったのか、スバルは頭を押さえて整理します。
スバルはかなたの強烈な一撃を両腕で受けて飛ばされたのでした。
そしてその勢いは凄まじく、スバルの背後に林立していた木々を何本かへし折っていったのです。
スバルはついさっき意識が覚醒するまで宙に浮いていたのでした。
「立ってる! さすがだよ大空スバル!」
そんなスバルを見つけ、かなたが嬉しそうに駆け寄ってきます。
スバルは思わず「おめえええ!」と怒鳴りました。
「立ってる、じゃねえよ! よくもやってくれやがったな!」
「何をそんなに怒っているのさ」
「普通に考えて怒るだろ! こんなにぶっ飛ばしやがって!」
地面を踏み鳴らしながら怒るスバルに「いや、でもさ」とかなたが返します。
「見たところそれほどダメージは受けていないし、やっぱりさすがだよ!」
両手を合わせて喜ぶかなたに「くそー」とスバルは歯ぎしりします。
「さっきからバカにするみたいに褒めちぎりやがって! イライラするシュバア!」
スバルがライトニングウィンナーを手に駆けだします。
迎え撃つかなたは彼女の顔面にバナナを突き出しました。
スバルは体を屈めてそれを避け、返しにかなたの足を狙い横一文字に剣を振ろうとします。
しかし、スバルはその一刀を直前で引っ込めました。
かなたの動きから、さきほどのまでの単調さが消えていることに気づいたからです。
一方かなたはスバルの顔があった虚空を突いてから、その一閃から始まる一連の動作であるような流れる剣捌きで、屈んでいるスバル向けて剣を振り下ろしてきました。
スバルは寸前のところでそれを避け、大きく後ろへ飛びます。
ドシン! という音がします。
かなたのバナナが地面にひびを入れたのです。
「避けちゃうか、やっぱり」
かなたは呟いてからバナナを引き抜き、剣身についた土を払いはじめました。
「おめええええ!」
スバルが怒鳴ります。
「なめやがって! 今までスバル相手に手え抜いてやがったな!」
「まさか、そんなことしないよ」
かなたは平然と言い返してからバナナを構えなおします。
「隙は晒すものでなく騙すもの、相手が強いからこその戦術さ」
もっともなことを口にするかなたに「くそお」とスバルは苦々しく呟きます。
「ふざけんなよ、マジでこいつ伝説級の実力じゃねえか!」
それからスバルは再びかなたへ向かっていきます。
ただ今度は真正面からとびかかるような真似をしません。
持ち前の速さで翻弄するように動き回り、背後、頭上、足元など、わずかでも隙があればどこからでもライトニングウィンナーを打ち込もうとします。
しかし、かなたはそのすべてを防ぎます。
すさまじい動体視力でスバルの動きを目で追って、ライトニングウィンナーの振るわれるその箇所箇所にバナナの皮を合わせるのです。
むしろかなたはスバルが大振りするのを待っており、隙あらばバナナで突き返そうと虎視眈々と狙っているようでした。
そんなスバルとかなたの戦いは、お互いへ徐々にダメージを与えていく根気比べのようなものとなっていきます。
ですが、スバルがバナナの皮と皮の間に小ぶりの打撃を入れるしかないことに対し、かなたがスバルに与えるのは威力の大きい一撃です。
そのため時間の経過とともにスバルの敗色が目立っていきました。
「つ、強えシュバ」
肩で息をしながらスバルが呟きました。
そんな彼女に「それは僕のセリフだよ」とかなたが返します。
「キミは強い。世界に十二人いるレジェンド所有者のなかでも相当上位に入っていると、ボクは確信を持って言える。だけどソーセージには相性というものがあるんだ大空スバル。ボクのソーセージとキミのソーセージでは相当相性が悪いみたいだね」
かなたは残念そうな顔で続けます。
「キミたちが言っていた船長もそうさ。相当の実力の持ち主なのに、もしかしたらボクを負かしてくれる剣士だったかもしれないのに、ボクのソーセージとは相性が悪かった。キミもそうなんだよ。もっと違うレジェンドソーセージの使い手だったらすぐにでもボクを倒しているかもしれないのに、それだけの実力があるというのに、本当にボクは運がない。なぜかみんながみんな、ボクが巡り合う剣士はボクのバナナとの相性が良くないんだ。残念でならないよ」
「な、なにを言っているシュバ? おまえ」
まるで負けたがっているような言い方に、スバルは思わず聞き返します。
そんなスバルに「ボクには夢があるんだ、大空スバル」とかなたは口にしました。
「ボクは剣士同士の真剣勝負で全力を出して敗北したい。どれだけ足掻いても勝てない相手と戦って、自分のすべてを出し切って負けてみたいんだ」
かなたは視線を上に向けます。
そうやって大空を眺めて遠い目をします。
「そして地面に仰向けになってさ、この大空を見上げてみるんだ。きっとすごく気持ちがいいんだろうなって、そんなことばかり考えてるんだよ」
それからかなたはスバルに向き直ります。
「もちろん、今だってすごく恵まれてると思っているよ。静かな環境で剣の鍛錬に集中できるし、強敵をわざわざ探しにいかなくてもいつだってココが剣の相手をしてくれるんだからね。でも、それでも夢は抱いてしまうんだ。模擬刀でなくお互いソーセージを持った真剣勝負で全力を出して斬り合ってみたい、あわよくばそれで負けてみたいって」
「ぜいたくな夢シュバな」
かなたが喋り続けてくれたおかげで呼吸を整えることができたスバルが、そんな皮肉混じりの言葉を返します。
しかしかなたは「うん、ボクもそう思う」と素直に答えました。
「でもどうしても諦めきれないからさ、最近になって考えてることがあるんだ」
言いながら、かなたは手に持つバナナを見下ろします。
「たとえば、もし今君と戦っているボクが上級剣ではなく下級剣を所持していたとしたら、ボクはどれだけ頑張ってもキミに完敗するだろうね。そう考えるとさ、案外とボクの望んでいることは容易く叶うんじゃないかって思うんだよ」
さらりとそんなことを言い出すかなたに「おい」とスバルが突っ込みます。
「おまえまさか、上級剣士でありながら上級剣を捨てて下級剣を自分の所有ソーセージにしようと思っていると、本気でそんなこと言ってるシュバか?」
神経を疑うような目をして問いかけるスバルに、かなたは「うん」と頷きました。
「そんなびっくりすることでもないでしょ、だってほら、剣士の中にもちらほらいるじゃん。本当は上級剣士なのに普段は下級剣や中級剣を持ち歩いて相手を油断させる人たちとか。それと同じだよ」
「違うシュバ」
スバルは首を振ります。
「それはあくまで相手を油断さえるための戦術、おまえがしたいと言っていることとは根本的に違うシュバ」
「なら別に違っててもいいよ。それでボクの夢が叶うなら」
笑って答えてから「さあ、そろそろ戦いの続きしようか」とかなたが腕を伸ばしはじめます。
「夢が叶う?」
しかしスバルは剣を構えようとしません。
「皮が黒ずむまで使い込んできたバナナを捨てて、下級剣に切り替えて、負けて、それで本当におまえの望む敗北を迎えられると思っているのか?」
「そうだよ」
するとスバルは「はん!」と鼻で笑いました。
「バカなこと言うな天音かなた。おまえは何もわかっていないシュバ。そんなことしたら、それこそ一生おまえの夢なんて叶わなくなるぞ」
「……。は?」
一瞬だけ、笑みを浮かべるかなたの目から鋭い眼光が覗かせます。
しかしその直後には「いやいや、キミがボクの何を知っているのさ」と冗談混じりに言って笑いました。
「わかるよ、それくらい」
しかしスバルはなおも続けます。
「上級剣のバナナを捨てて下級剣で戦えば全力を出し切って負けることができる? それで気持ちのいい敗北をしたいという夢が叶う? ふざけるなシュバ! それは全力なんかじゃねえ! 全力っていうのは、おまえがおまえの持てる限りのすべてを使い切ることだ! 下級剣に持ち替えて負けたりなんかしても込みあがるのは虚しさだけ! おまえのそのいびつな考え方はソーセージ道から外れている!」
「うるさい! ボクはそれでも敗北を知りたいんだ!」
「そんなに知りたきゃ教えてやるよ!」
スバルはかなたに向けてライトニングウィンナー突き出しながら叫びます。
「スバルがおまえに味あわせてやる! 敗北の味ってやつをな!」
それからスバルは身体をやや前傾に沈めました。
一方、来ると直感したかなたはすぐにバナナを構えます。
そして、バッとわずかに立った砂埃を残し、かなたの視界からスバルの姿が消えました。
直後、かなたの視界の中央右寄りにかすかな歪みのようなものが見え、彼女は思わずバナナを振るいます。
そこにはスバルがいました。
スバルは一瞬でかなたの目と鼻の先まで距離を詰め、ライトニングウィンナーを振り下ろそうとしていたのです。
かなたのバナナがスバルの横腹をもろに強打します。
スバルは弾き飛ばされて地面に叩きつけられました。
「あ、あぶなかった」
かなたは自分の手が震えていることに気づきます。
「ボクが、ぞっとした。冷や汗が出たよ。キミはなんてやつだ大空スバル」
「よく言うシュバ、いてて、人を叩き落としておいて」
スバルは打たれた横腹をさすりながら言い返します。
そんな彼女に「いや、とっさに振るったのが入っただけさ」とかなたは正直に答えました。
「まさかあそこまで速く動ける人間がいるなんて思ってもみなかったからね、完全に不意を打たれたよ」
そう言ってから「むしろボクの方こそキミに聞きたい」と今度はかなたが尋ねます。
「なんでさっきの一刀を避けなかったの? キミだったらあの程度、容易く避けるなり防ぐなりできたと思うんだけど」
「あんまりスバルを買いかぶるんじゃねえよ」
スバルは苦笑を返します。
「いくらスバルでも全力で動きながら攻撃して、なおかつ反撃に備えるなんて芸当できないシュバ。見切られて反撃されたら無防備状態で食らっちまう、スバルの全力はそういう類のもんなんだよ。そうじゃなかったら始めから全力疾走で突っ込んでるシュバ」
「……。いや、それにしても変だよ」
かなたは拭い切れない違和感を覚えているようで、スバルの言葉を否定します。
「攻撃するにしてもあんな真正面から突っ込んでくることなかったのに。もしも背後から攻撃されていたら、さすがのボクも反撃なんてできなかった」
彼女はそう独り言のように喋ってから「なにを企んでいるの?」とスバルに問いかけました。
「決めてたんだ」
スバルは横腹を押さえながらゆっくり立ち上がります。
「決めてた?」
「そうシュバ。もうスバルの残り時間もわずかしかないからな。もしおまえがあの速さでも対応して反撃してくるようなら、その時は素直に一撃受けようって決めてたんだよ」
「……、ふうん。なるほどね」
かなたは、納得いかないけれどとりあえずそういうことにしておく、と言ったような顔で頷きます。
「それで、どうだった? さっきも言ったけれど、ボクは狙って反撃したわけじゃないんだ。たまたま振るったラッキーパンチが当たってくれただけ。さすがに次も同じことができる自信はないっていうのが正直な感想なんだけど、もう一度さっきの速さで向かって来るつもりはない? まだ目で捉えることすらできていないから、少なくともあと二、三発は確実に入るよ」
自分のすべてを曝け出して提案するかなたに「いや、遠慮しておくシュバ」とスバルは即答します。
「その三発目以降からの反攻が怖いし、残り時間内に決着がつきそうにないからな」
「そっか、うん、そうだよね」
かなたは苦笑いしながら頷きます。
すると、
「天音かなた、おまえは強い剣士だシュバ」
唐突にスバルがそんなことを言いはじめました。
「え? ど、どうしたのさ、いきなり」
聞き返すかなたに構わず、スバルはぽつぽつとした調子で続けます。
「スバルは今までこんなに上級剣を使いこなす剣士と出会ったことはなかったし、おそらく今後も出会うことがないと思う。おまえは間違いなく強い剣士だシュバ」
「大空スバル?」
「正直に言う。さっきのが全力、スバルの100%だった」
いきなり自分を褒め始めるスバルに戸惑うかなたでしたが、スバルがあえて口にするその告白に、悲しみをこらえ切れないような顔になります。
「キミもだよ、キミも素晴らしい剣士だよ大空スバル!」
かなたも負けまいとスバルに言い返しました。
「あともう少し、もうほんの少しなのに、キミとボクのソーセージの相性さえ悪くなければ、きっとキミはボクを」
「だが」
しかし、そこでスバルはかなたの言葉を遮ります。
それからかなたの方を真っ直ぐ見ます。
そんなスバルと目を合わせたかなたは、思わず息をのみました。
さっきまで青緑色だったはずのスバルの目が、金色に染まっていたのです。
「悪いが、ここからのスバルは150%でいかせてもらう!」
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。