勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「悪いな天音かなた、ここからのスバルは150%でいかせてもらう!」

 

 叫ぶスバルの目の色が、青紫色から金色へと変わりました。

 それに伴い彼女の持つライトニングウィンナーも変化します。

 ライトニングウィンナーをまとう電流が白銀から黄金に変わり、ライトニングウィンナー本体も金色の輝きを放ちだしたのです。

 さらにその電流はスバルの身体にまで広がっていき全身を覆いはじめ、バチバチと何かがはじけるような音をさせます。

 

「レジェンドソーセージには、その他のソーセージにはない特別な力『スキル』がある」

 

 スバルは立ち尽くすように呆然として自分を見ているかなたに向かって喋りだします。

 

「スキルは十二振りのレジェンドソーセージごとに様々で、発動するための条件も各々で異なっている。そして」

 

 スバルはブン! と白銀色から黄金色に変わったライトニングウィンナーを振ってみせました。

 

「スバルの所有するライトニングウィンナーのスキルは『神の怒り』。体力が残り三割以下になることを条件に発動することができ、スバルの力を50%高めてくれる」

 

「……なるほど。これでようやく納得できたよ」

 

 ようやく放心状態から戻ったかなたがスバルに頷きました。

 

「さっき攻撃をわざと受けたのは、この『神の怒り』の発動条件を満たすためだったというわけなんだね」

 

「そうだシュバ」

 

「そうか、そうだったのか」

 

 かなたは胸をなでおろしました。

 

「つまりキミはまだ全力じゃなかった、ここからがキミがボクに教えてくれた『持てる限りのすべてを使った』大空スバルの全力というわけなんだね。よかった、本当によかった!」

 

 彼女は目を輝かせながらバナナを構えます。

 

「天音かなた」

 

 対するスバルもライトニングウィンナーを構えました。

 

「スバルはるしあと共に旅へ出た時から、この旅が終わるまで『神の怒り』を使う機会なんて訪れないと思っていた。なぜならスバルが人間に戻れるのはわずか三分、その時間でスバルの体力が三割を切る事態を想像できなかったからだ」

 

「それで?」

 

「おまえは強い天音かなた、だからこそ敬意をもって完膚なきまでぶちのめしてやるシュバ!」

 

「来い! 大空スバル!」

 

 かなたが大声で持ってスバルに応えます。

 その直後でした。

 

 フッと、スバルの姿が背景の木々に溶け込んでしまったかのように消えてしまいました。

 

「え?」

 

 かなたは思わず目を瞬かせます。

 

「あれ? どこ?」

 

 呟いた直後、バチン! と音がしてかなたの左腹部に、その部分を引き千切られたような壮絶な痛みが走ります。

 

「……ッ」

 

 かなたは声にならない声をあげ、そこに手を当てました。

 お腹はきちんとついています。

 しかし大蛇に締め付けられたような、太く長い跡がついていました。

 

「こ、これが、大空スバルの全力……」

 

 かなたは呟きます。

 それから「ぷっ」と吹き出し、笑いだします。

 

「ははは、これは無理だなあ」

 

 口にするや否や、またバチン! と音がして今度は右頬を打たれます。

 大きく首を反りかえらされながら、しかしかなたは嬉しそうに口角を吊り上げました。

 

「今日は、なんて運が良いんだ。まるで勝てる気がしないよ」

 

 言いながら、ゆっくり顔の位置を戻します。

 

「しかし、だからこそまたとないこの機会! 全力で抗わしてもらうよ大空スバル!」

 

 口端から伝う血を拭い取り、かなたはバナナを構えなおしました。

 そして周囲に全神経を集中します。

 辺りは異様に静かです、高速で動き回っているどころか忍び足で歩いてもこれほど静寂にはならないだろうと思われるほどに。

 しかし事実、スバルは目視できない速さで移動しながらかなたに攻撃を仕掛けているのです。

 

「そこだ!」

 

 言ってから、かなたは右手側へバナナを突き出そうとしました。

 しかしまさにその場所から、かなたが突きを入れるよりもずっと速くスバルのライトニングウィンナーの一振りが放たれて彼女の脇腹を打ちます。

 

「……ッ、ぐ!」

 

 それでもかなたはバナナの鋭い一閃をくりだします。

 しかしながらその時すでにスバルはいなくなっており、かなたの剣は空を切ります。

 

 そんなことが何度も繰り返され、かなたの体力が削ぎ取られていきます。

 ですがその一方で、剣士として卓越したかなたの感は徐々に徐々に冴えていきました。

 たしかに大空スバルの姿は見えないし、物音ひとつ聞こえません。

 しかしかなたは、そんなスバルの動きを感じ取り、次にどこをどう攻撃してくるのかをイメージできるようになってきたのです。

 

 そうであるにも関わらず、かなたはスバルに触れることすらできないのでした。

 次にどう来るかわかっているにも関わらず、手も足も出ないのです。

 速すぎる、という言葉だけでは言い尽くせない次元の違い、その壁の高さを見せつけられた気分でした。

 

「これが、敗北感……」

 

 気づけば、かなたは呟いていました。

 

「そうか、これが、この感じが……」

 

 呟きながら、思わず笑みがこぼれました。

 

 天音かなたはこれまで、天界でも他の場所でも勝ってばかりで負けたことがありませんでした。

 だから負けて歯を食いしばる気持ちも、泣き出す気持ちもよくわかりませんでした。

 その気持ちを分かりたいと思い、わざと負けてみても全く理解できませんでした。

 かなたはしばしばそんな自分が嫌いになりました。

 自分が負かして傷ついてしまった人たちに、心から寄り添ってあげたかったからでした。

 

『空を見てみな』

 

 バチン! とライトニングウィンナーを打ち込まれた頭に耳鳴りがして、それがなぜか以前一緒に空を見上げた時のココの言葉に聞こえます。

 

『くだらねエこと考えてないで、空を見てみな。そうすれば心が晴れる』

 

『そうなの?』

 

『ああ、特にボコボコにされたあと見上げる空ア、最高の景色だ。心にしみてくる』

 

「ココお!」

 

 かなたは剣を振り下ろします。

 空振って、逆にバチン! と弾かれ飛ばされて、飛ばされた先でもライトニングウィンナーの一撃を食らい地面を転がります。

 

『いいなあ、ボクもいつか、そんな空を見てみたい』

 

 俯けから地面に手をつき、上体を起こし、どうにか立ち上がります。

 

『見てみたいなあ』

 

 ようやく立ち上がったかなた目がけて、真正面からスバルが迫ってきます。

 

「来い!」

 

 かなたは大声で叫び、当たるはずがないとわかっていながらバナナを突き出します。

 そこで、驚くべきことが起こりました。

 

「……、え?」

 

 凄まじいしなりを利かせて振るわれたスバルのライトニングウィンナーが、かなたに当たる直前にフッと半透明になり、そのまますり抜けてしまったのです。

 

「すまねえ」

 

 かなたの視界に、いきなりスバルの姿が映ります。

 スバルは苦笑いをしていました。

 

「勝ってやれなくて悪い。時間切れみたいだシュバ」

 

 それからボン! という音がして、スバルの身体が煙に包まれます。

 スバルは人間からアヒルに戻ってしまいました。

 

「え、ちょっと!」

 

 一方、かなたは疲労困憊からどうにかバナナを繰り出していた状態です。

 いきなりアヒルになられても放った剣を止めることなんてできません。

 その結果、

 

「シュバアアア!」

(ぐはあああ!)

 

 かなたのバナナの一閃が、スバルのお腹にえぐいほど食い込みました。

 スバルは凄まじい勢いで飛ばされ、岩壁に身体を打ち付けます。

 それからバサッと地面に落ち、舌をベロンと出して白目を剥かせ、ぴくぴくと痙攣しはじめます。

 

「ス、スバルせんぱあああい!」

 

 キアラが慌ててスバルに駆け寄っていきました。

 そんなスバルとキアラを眺めながら、

 

「勝てなくて悪い、だって?」

 

 かなたは先程のスバルの言葉をオウム返しに呟きます。

 

「ふふふ、一体何を言っているんだキミは」

 

 フラッと身体をよろめかせ、地面に倒れてしまいます。

 仰向けで少しも動けないまま疲れたように目を閉じます。

 それからうっすらと、かなたは目を開けました。

 そんな彼女の視界いっぱいに、どこまで広がっている大空が入ってきました。

 

「ああこれか、これなのかココ、キミが言っていた景色は」

 

 かなたは空に向けて手を伸ばします。

 少し動かすだけでズキズキと痛みますが、それでも構わずに力いっぱい伸ばします。

 

「ははは、届かないや。すごいなあ」

 

 そのどこまでも広がっている大空に比べてなんて自分はちっぽけなんだろうと、かなたはしみじみ感じました。

 

「ボクの負けだよ」

 

 ぽつりと呟いてから、かなたは手を下ろしました。

 その直後、不意にかなたの目から涙があふれ出てきて頬を伝います。

 

「え? あれ?」

 

 かなたは困惑しながらそれを拭い取りました。

 しかし湧き出る涙は一向に止まらず、とうとうかなたは両手で顔を覆います。

 

「ありがとう、大空スバル」

 

 絞り出すような涙声で、かなたはスバルに礼を言いました。

 

「もしボクがバナナを捨てていたら、ボクは多分、ずっとこの景色を見ることができなかった」

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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