勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 スバルたちが南方へ向かってから数日が経ちました。

 

「あ! スバルせんぱい、るしあさん! あの看板を見てください! ウサダ開発のロゴデスよ!」

 

 キアラがフェニックスに乗りながら指さす先に看板が見えてきます。

 

「シュバシュバ」

(どれどれ)

 

 スバルはその看板に目を向けました。

 

 真ん中に正面向きのウサギの顔があります。そのウサギは両耳に、ウサギ耳の根元まで貫かれたニンジンを一本ずつぶっ刺しています。

 ウサギの首元には「USADA」と大きな文字で書かれており、「S」の字以外は水色、「S」の字だけは頭にスライムのようなものを乗せてオレンジ色に塗られています。

 そして「USADA」の大きな文字の右下には、小さな文字で「BLADE WORKS」と書かれていました。

 

「行きマショウ、スバルせんぱい!」

 

 キアラがうずうずした目をしながらスバルに言います。

 

「だ、そうですが」

 

 聞いてくるるしあに「シュバル」(行こう)とスバルは答えました。

 

「行こう、だそうです。エルフの屋敷の情報も得られるかもしれませんしね」

 

 るしあがスバルの言葉をキアラに伝えます。

 

「やったあああ!」

 

 キアラは喜びの声をあげ、パシン! とフェニックスの横腹を叩きました。

 

「走れエ! フェニックス!」

 

 そしてフェニックスに乗るスバル一向は、ぺこらタウンに向かって走っていきました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 スバルたちはぺこらタウンにたどり着きました。

 白い建物がいくつも並び、その倍以上の数はあるでしょう大きな収納庫が嫌というほど目につきます。

 そしてその街中を、白衣にウサ耳のカチューシャを付けた男たちがせわしなく行き交いしたり、建物に入ったり出たりしています

 

「あの」

 

 るしあはちょうど目の前を通りかかった一人に話しかけました。

 

「すいません、少しお聞きしたいのですが」

 

「あ、ちょっとごめんペコ。今忙しくて」

 

 そう断っておきながら、男は足踏みしながらもそのまま行ってしまおうとはせず「で、なに?」とるしあに聞き返してくれます。

 だからるしあは「あ、はい」と頷いてから、一番聞きたいことだけ尋ねることにしました。

 

「るしあたちはエルフの館というところを探しているのですが、ご存じないですか?」

 

「エルフの館? うーん、知らないなあ」

 

「そうですか」

 

「ごめんね、今は急いでるから」

 

 申し訳なさそうに言って、男はスバルたちから立ち去っていきます。

 

「みんな忙しそうですね」

 

 るしあはスバルとキアラに話しかけました。

 

「そうデスね。こんな感じだと、ぺこら社長を一目見るのも難しそうデスよね」

 

 キアラが残念そうにため息をつきます。

 

「え? ぺこら社長?」

 

 すると、さっきのウサ耳カチューシャの男が足踏みバックしながら戻ってきました。

 

「長(おさ)ならぺこらビルに、ほら、あの中央に建ってる一番背の高いビルがあるでしょ? あそこにいるよ。多分行けば会ってくれるんじゃないかなあ」

 

「あ、どうも、わざわざ」

 

 スバルたち三人はかしこまりながらぺこぺこと頭を下げました。

 

「いえいえ! ようこそぺこらタウンへ!」

 

 答えて、男はちらりと腕時計に目をやります。

 それからロスした時間を取り返そうとするように、凄まじい勢いで走り去っていきました。

 

「すごくいい人ですね」

 

 彼の背中を見つめながらるしあが呟きます。

 スバルが「シュバ」(ああ)と頷きます。

 

「やったあ! ぺこら社長に会えマス!」

 

 その隣でキアラが飛び跳ねて喜びました。

 

 三人は男に教えてもらった、ぺこらタウンで一番背の高いビル・ぺこらビルまでやってきます。

 ぺこらビルの玄関ドアの上には「ぺこら開発本社」と書かれたプレートが張り付けられていました。

 

「チ、チャイム、押しマスね」

 

 キアラがごくりと唾をのんでから、ドアの横にあるチャイムボタンを押します。

 するとすぐに『はいペコ』と女の子の声がしました。

 

「あ、あの、このビルに兎田ぺこら社長がいらっしゃると聞いてきたのデスが」

 

『あー、用件は何ペコ?』

 

「こ、この近くにあるというエルフの館の場所を聞きたくて」

 

『ふーん』

 

「あ、あと、その! できれば、なのデスが! わたし、小鳥遊キアラと申しマス! ウサダ開発社長の兎田ぺこら社長のファンでして、もし可能であれば、色紙にサインしていただきたく!」

 

『え? ぺこらのサイン?』

 

「はい、ぺこら社長のサインを」

 

『ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ、いいペコいいペコ。ちょっとそこで待ってるペコー』

 

 ブツンと通話が切れてから少しして、目前のドアが開きます。

 

「こんペコこんペコこんペコー、ウサダ開発社長の、兎田ぁぺこーらペコお! どぉーもどぉーもどぉーも!」

 

 出てきたのは頭にウサ耳カチューシャを付けた女の子、兎田ぺこらでした。

 水色の長い髪を二本のお下げに結んでいて、その左右のお下げそれぞれに編み込みの隙間からニンジンを一本挟み込んでいます。

 彼女はマロ眉の下の茶色い大きめを上機嫌に細めながら、スバルたちを見回しました。

 

「きゃあああ! ぺこら社長オ! アーモンドアーモンドアーモンド!」

 

 ぺこらを見たキアラが叫びだします。

 そんなキアラに「コラあ!」とぺこらが怒鳴りました。

 

「アーモンドじゃねえペコだよ! どうもって言ってるんだペコ!」

 

 そう言ってからぺこらはハッと冷静になり、ごほんごほん! と咳払いします。

 

「えー皆さん、我がウサダ開発へようこそだペコー。それで、ぺこらのサインが欲しいっていう感心なキアラちゃんという子はどなたペコか?」

 

「わ、わたしデス……」

 

 ぺこらに怒鳴られてしまった直後だからでしょう、キアラはびくつきながら恐る恐る手を上げました。

 

「あー君ね、うんうん、そんなに怯えなくてもいいペコよ。いやいや、なかなかかわいい子じゃないですかペコ。キアラちゃん、ペンと色紙は持ってるペコか?」

 

「あ、はい!」

 

 キアラはすぐさまフェニックスに持たせているバッグの中身をひっくり返し、ペンと色紙を持って戻ってきます。

 

「どうかお願いしマス!」

 

 そして色紙にペンを添えてぺこらに差し出しました。

 

「うんうん、ちょっと待つペコな」

 

 ぺこらはくるりと建物の方へ振り返ります。

 それから「へいムーナ!」と呼びかけました。

 

「はいシャチョー」

 

 すると白衣を着た女性がぺこらビルから出てきます。

 

「紹介するペコ。彼女の名前はムーナ・ホシノヴァ、我が社で開発部長を務める有能な社員、言わばぺこらの右腕ペコ」

 

「はいシャチョー」

 

 ムーナと紹介された女性はスバルたちにぺこりとお辞儀しました。

 

 彼女は腰より下まで伸ばした明るい紫色の髪をカールさせており、やや眠たげに目を開けています。

 そのためか一見ボーっとした人物のような印象を与えるものの、ぺこらに呼ばれてここまでやってくる道中にも、ウサ耳カチューシャを付けた白衣の男たちから「ムーナ開発部長、この件なのですが」「ムーナ開発部長、例の企画で気になる点が」など質問攻めされながら「こうしテ」「ああしテ」と即座に指示を出していくのですから、並外れて有能であることは疑う余地もありません。

 

「シャチョー、どうかなさいましたカ?」

 

 頭を上げたムーナがぺこらに尋ねます。

 

「ムーナ、よくぞ聞いてくれたペコ!」

 

 ぺこらは顔をニヤつかせながら答えました。

 

「この子がぺこらのサインを欲しいんだって! ぺこらのサインを!」

 

「おめでとうございますシャチョー」

 

「そういうわけでムーナ、この色紙にぺこらのサインを書いてあげてペコ」

 

「はいシャチョー」

 

 ムーナはぺこらから色紙とペンを受け取り、さらさらとペン先を走らせます。

 そして達筆な字で「兎田ぺこら」と書き終えてからキアラに色紙を返しました。

 

「ムーナは書道の有段者でもあるんだペコ」

 

 自慢げにぺこらが言います。

 

「あ、はい、どうも、ありがとう、デス……」

 

 一方キアラは死んだ魚のような目で受け取った色紙を見下ろしました。

 

「シュバルバシュバルバ!」

(おまえが書けよ!)

 

 見ていられなくなったスバルが怒鳴ります。

 

「あの、こういうサインって本人が書いて渡さなくちゃ意味ないと思うのですが」

 

 るしあも憤りを込めてぺこらに詰め寄りました。

 

「ご、ごめんペコ」

 

 するとぺこらは素直に謝りました。

 

「実はサイン頼まれたのこれがはじめてペコでさ、いざ書くとなると照れくさくなっちゃって、ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ! じゃあムーナの隣にぺこらも書くペコな」

 

 言いながらぺこらも書き足します。

 女の子らしい丸字なのですが、ムーナの書いた「兎田」のちょうど右隣に納まってしまうくらい小さいため、まるでルビのような見栄えです。

 

「シュッバ!」

(ちっさ!)

 

「もう少し大きく書いたらどうですか?」

 

 ふたたび非難するるしあに「ううう」とぺこらは項垂れます。

 

「まさにおっしゃる通りペコだけど、今回はこれで勘弁してほしいペコ。次回までにはもっと堂々と書けるようにしておくペコだから」

 

 そしてぺこらは本当に申し訳なさそうに謝りはじめました。

 一方スバルとるしあは、そんな彼女をこれ以上責めるのもかわいそうになり、ちらりとキアラの様子をうかがいます。

 キアラはぺこらの直筆サインが加わった色紙を受け取って上機嫌になっていました。

 

「シュバ、シュバルバシュバルルシュバルシュバルバシュバルバシュバルババシュバ」

(まあ、こっちもいきなりサインなんかせがんで悪かったシュバ)

 

「こちらこそ忙しいところサインを頼んでしまいすいませんでした、ぺこら社長」

 

 キアラの嬉しそうな様子を認めてホッとしたスバルとるしあは、さきほどまでの高圧的な態度から一転して殊勝に頭を下げました。

 

「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ、いいペコいいペコ。お互い様だからペコ」

 

 ぺこらは二人に顔を上げるよう言ってから「それで、まあ」と続けます。

 

「失礼なことをしてしまったお詫びと言ってはなんだペコだけれど、この研究所を見学させてあげるペコ」

 

 ぺこらは「へいムーナ!」とまたムーナに呼びかけました。

 するとぺこらたちから少し離れたところでウサ耳カチューシャの男に指示を出していたムーナが「じゃあ頼んだカラ」と彼に言い置いてから、ぱたぱたと走ってぺこらの元へやってきます。

 

「はいシャチョー」

 

「ムーナ、見学者だペコ。見せれる範囲内で我が社の誇る技術力を見学させてあげてペコ。そんで終わったら社長室まで連れてきてもろて」

 

「はいシャチョー」

 

 ムーナがぺこらの指示に頷きます。

 しかしその直後にまた「ムーナ開発部長」とウサ耳カチューシャ白衣の男がやってきます。

 

「すいませんムーナ開発部長、現在改良中のソーセージに不具合があるようなのですが、我原因の特定がなかなかできず」

 

「じゃあこうしてみテ。何かわかったラすぐ知らせテ」

 

「はい、わかりました開発部長」

 

 ムーナに頭を下げてから、彼は出てきたビルの中に戻っていきました。

 

「あの、ぺこら社長」

 

 そんなムーナを見て、るしあがぺこらに話しかけます。

 

「るしあたちは別に見学までさせてもらわなくてもいいですよ」

 

 するとぺこらは「え」と呟いてから、痛々しいほど悲しげな顔になりました。

 

「どうしてペコ? そんなこと言われるとショックなんですがペコ」

 

「いえ、見学したくないという意味じゃないんです。ただ、開発部長さん人一倍忙しそうにしてるのに、るしあたちの見学案内までしていただくのが申し訳なくて」

 

「あー、そのことなら心配しなくていいペコよ」

 

 ぺこらは笑います。

 

「ムーナはマルチタスクが得意ペコだから、七つのことまでなら差し障りなく同時にこなすことができるんだペコ」

 

「シュバ、シュバルバシュバルルバシュバルルシュババシュバ」

(おい、それもう得意ってレベルじゃねえだろ)

 

「とりまゆっくり楽しんでいくペコ。ムーナ、頼んだペコよ」

 

「はいシャチョー」

 

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。

 登場人物ムーナ・ホシノヴァの喋り言葉にカタカナが混じっているのは誤字ではありません。
 キアラ同様、喋りが片言であることを表現するための仕様です。

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